経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知財屋の仕事の再構築

2011-03-18 | 知財一般
 一週間前の今頃にはとても考えられないような日本になってしまいました。大地震の被災者の皆様にお見舞いを申し上げるとともに、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。
 
 私自身は翌日の大阪パテントセミナーの講師を務めるため、羽田で飛行機に乗ろうとしたまさにその時、ボーディングブリッジの上で大きな揺れにあいました。大阪便は全て欠航になったため岡山経由で何とか大阪入りしたのですが、講演の最初にその話をしたところ、何方からともなくいただいた拍手が会場全体に広がり、初めに拍手をいただくなんて勿論全く経験のないことで少々戸惑いましたが、関西の方々にとって地震は本当に他人事ではない、その事を強く感じて何とも言えない気持ちになりました。
 東京では、毎日の揺れや報道に不安を感じるとともに、エレベーターに乗っている間は気持ちが落ち着かないし、うす暗く人気の減った都心の光景は何とも異様で、知らず知らずのうちに疲れが溜まっていきます。それでも被災地とは比較にならない恵まれた環境なのですが、こんな状況にあって知財屋って何の意味があるのだろうか、何ができるのだろうか、何をしたらいいのだろうか、ということを思わずにはいられません。

 そうした中で、知財ではなく金融の話ですが、さわかみファンドのメールマガジンに書かれていたことが目に留まりました。「こんな時こそ、さわかみファンドは買います」という宣言です。少しでも経済が悪くならないように、買って応援しようということの他に、こんなことが書いてありました。「買った」ということは、その向こうには必ず「売れた」人がいる。その売れた人には売らなければならない理由、お金が必要な理由があるはずで、そのお金がどこかで使われて何かの助けになればよい。そうやって「買う」ことが、どこかで必要とされているお金を供給することになり、社会の力になるということです。実際はそんな美しい話ではなく、売った人は日本からお金を引き上げようとしている海外のヘッジファンドだったりするかもしれない。でも、そんなことを理由に立ちすくんでしまっては、本当にお金が必要で売らなければならない人にお金が届かない。だから、売ったり買ったりする金融のプロは、この状況で「買う」ことこそが、仕事を通じて社会に対してできる一番のことなのだろうと思います。

 友人のブログに「立ちすくまない。」という記事がありました。もちろん、募金もボランティアも立派な被災地支援なのですが、私達ビジネスパーソンにはもっと大事な役割がある。今あるお金を募金という形で動かしもどうしても限界があるはずで、このままではどんどん縮んでいってしまいかねない経済を元気にすること、お金をもっと回るようにすること、稼いで税金を納めることこそが、社会がビジネスパーソンに求めていること、ビジネスパーソンのビジネスパーソンたる所以です。自分の立場から、どうやったら売上を作り、お金を回し、経済を元気にすることに貢献できるのか。今こそ、ビジネスパーソンとしての力量が試されているのだと思います。

 では、知財屋はどうやって経済を元気にできるのか。知財を囲い込む、それで囲い込んだ企業が儲けられることもあるかもしれないけれども、社会全体でお金を回すためには、お金が動くネタ、すなわち顧客が欲しくなるような知財を作っていくことが何よりも重要です。少し前のエントリに、知財の保有と成長性や倒産確率の関係のことを書きました。知財を保有する企業(ここでは特許や商標などを出願している企業という意味)は保有しない企業に比べて、成長率が高く、倒産確率が低い。これはデータにより証明されている事実だそうですが、そこから単純に「知財を保有すれば儲かる、倒産しにくい」と言ってしまってよいのだろうか。いや、それは違う、儲かっている企業、倒産しにくい企業はお金があるから知財を保有できるというだけのことだ、という人もいる。しかしその説も「お金のある企業がどうして知財を保有するのか?」ということの説明になっていない。この点について私が考えている仮説は、「成長する企業というのは、社員が元気で、受け身ではなく仕事に前向きで、新しいことにチャレンジし、創意工夫をする風土がある。倒産しにくい企業というのは、時代や環境の変化に敏感で、絶えず自らを変革しようと試みるものである。こうした企業であれば、新しい工夫、変革から独自のアイデア、商品、サービスが生まれやすい、つまり知財を保有する機会が多くなる。」というものです。だから、サポートしようとする企業に対しては、「知財をとって儲けましょう」ではなく、「知財がたくさん出てくるような元気な企業になりましょう」というスタンスでのぞむべきなのではないか。「お金を回し、経済を元気にする」という視点から考えても、おそらく結論は同じことになると思います。
 これまでの権利化を中心にした知財屋の枠組みだと、どうやって知財を囲い込むか、ということが主要なテーマになるけれども、そもそもネタになる知財の中味が出てこないことには売上を作れない。「7つの知財力」の最後のほうにも書きましたが、知財活動というものは、企業と顧客の結びつきを強めること、すなわち売上を作ることに様々な形で貢献できるはずであって、‘知財’を囲い込むのではなく‘顧客’を囲い込む。そしてお金の回りを良くして、企業を、経済を、社会を元気にする。知財屋の仕事も、そういう視点から再構築すべきタイミングがやってきたのではないか。新年度からの自分の動き方を、今一度考えていきたいと思っています。

 本日の最後になりますが、プロフェッショナルとして仕事をするとはどういうことか。この記事は読まれた方も多いようですが、忘れないようにリンクを貼っておきたいと思います。
「使命感持って行く」=電力会社社員、福島へ―定年前に自ら志願

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