経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

‘クールジャパン’の‘クール’とは何か

2011-09-11 | 知財一般
 先週末のある会合で、日経電子版のコラム‘マーケット反射鏡’等を執筆されている前田昌孝氏の「クールジャパンへの期待」と題したご講演を拝聴しました。6月14日付の同コラムでも「日本再生のカギ握るクールジャパン」と題してこのテーマが取り上げられていたのですが、「クールジャパン」というと何かアニメなどのコンテンツに矮小化された話が多い中で、このコラムの「・・・商品やサービスを高く売って日本に大きな付加価値をもたらすためには、大きな前提がある。日本人のライフスタイルが世界中のあこがれの的であり続けることだ。」「・・・女性が美しさを保つためには心と体を常に磨き続けなければならないように、『クールな状態』を維持するために、相当の努力を続けなければならないのではないか。『日本人の生活なんて取るに足らない』と思われたとたんに、日本の文化は安売りされる恐れがある。」という指摘には、まさにその通りと感じました。少し前の話なので細かいところまでは覚えていないのですが、日経ビジネスのクールジャパンに関する特集に外国人の覆面座談会みたいな企画があり、その中で「日本のオタク文化のどこがクールなんだ。それを支持しているのは本当に少数派で、それを国をあげて『クール』って売り込もうとしているというのは、普通の人間から見るとほとんどお笑いだ。」といった発言を目にした際に少々ショックを受けたことがあるのですが、何が日本の「クールさ」であるのかを発信する側もよく理解しておかないと、こういった誤解(?)を招くことになってしまいかねません。
 講演の中では、日本製品の「かっこいい・センスがある」というイメージが特にアジアでは韓国製品に押されてしまっている一方で、まだ「高品質」というイメージでは圧倒しているというデータとあわせて、日本のどこがクールかという点について「『日本物語』は日々の私たちの生活から」(日本における様々なサービスの正確さや丁寧さ、安全性など)とご指摘されていたことが印象的でした。
 私見ですが、Appleのようなデザインのセンスや、韓国のような意識的・計画的なイメージ戦略をそのまま真似ようとしても、それは「日本人のライフスタイル」から生まれたものではないし、「日本ならではのクールさ」にはつながらないのではないかと思います。やはり、色々な分野での「丁寧な仕事」の積み上げこそが、「日本人のライフスタイル」から生まれる「日本ならではのクールさ」の本質なのではないでしょうか。そして、その裏づけとなっているのが「技術」なのではないか。以前に特許庁のプロジェクトで、漆喰をタイル化した‘LIMIX’を開発販売されている田川産業さんを訪問した際に、同社の行平社長から「デザインについてもいろいろ試行錯誤しているが、技術を追求するうちに必然的なデザインが生まれ、必然的なデザインこそが最も美しい」というお話を伺ったことが、今でも印象に残っています(「ココがポイント!知財戦略コンサルティング」36-37p.)。ウォシュレットの心地よさも然り。寿司の美味さや美しさも然り。日本庭園の美しさも然り。イチローのバッティングフォームの美しさも、そのイチローが「最も美しい野球選手」と称した元阪急ブレーブスのエース・山田久志の流れるような下手投げのフォーム然り。科学技術のみに止まらず、技能やサービステクノロジーまで含めた「広義の技術」を追求した先に、日本ならではの「クールさ」が生まれるのではないでしょうか。そうやって考えてみると、「クールジャパン」として括られるべきものは、コンテンツ、ファッション、食といったアウトプットの形ではなく、それらを創り出す極められた技術に裏付けられたプロセスにあるのではないか。コンテンツはコンテンツでも、綿密な研究と優れた技術、さらに強い意志のものと生み出された手塚治虫や水木しげるの作品は、コンテンツという切り口で共通するアキバのオタク文化よりも、むしろバンパーの裏まで磨くといわれる日本の自動車産業と共通する部分のほうが多いのではないか。日本人が各々の持ち場で、丁寧に、考えながら仕事をして、技術を磨き上げる。それこそが「クールジャパン」を推進することにつながるのではないか、なんて思う次第です。


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2 コメント

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道を究めるという事だと思います (久野敦司)
2011-09-14 04:29:16
利益や楽を求めるのではなく、道を究めようという精神がクールさをもたらすと思います。
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Unknown (土生)
2011-09-19 16:10:44
久野様
コメントありがとうございます。
仰る通り、道を究めるという姿勢がクールさを生み出すのだと思います。
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