2012年1月6日(金) 事故原発との長~い闘い
昨年の正月には予想だにしなかったが、重苦しい状況の中で迎えた平成24年(2012年)である。言うまでも無く、東日本大震災が起こったことであり、原発事故に伴う放射能災害も加わって、終戦以来の大惨事となっている、と言えよう。
原発事故に関しては、自らを鼓舞しながら、本ブログで何度も取り上げてきたテーマだが、昨年12月の記事
ステップ2達成と事故全体の収束 (2011/12/22)
以来、宿題になっていた事項の中で、今回は先ず、中長期ロードマップについて、触れることとし、事故原因関連は、次回に取り上げる事としたい。
○中長期ロードマップ
事故原発に関わる今後の作業工程が、中長期ロードマップとして、昨年暮れ、中長期対策会議で承認され、公開された。

今後の作業工程は、大きく、3つのステージに分けられている。
第1期 「使用済み燃料プール内の燃料取り出しが開始されるまでの期間」
ステップ2完了(20011/12)から2013年度末まで(2年以内)
第2期 「燃料デブリ取り出しが開始されるまでの期間」
プール内燃料取り出し開始(2014年度)から2021年度末頃まで
(10年後以内)
第3期 「廃止措置終了までの期間」
燃料デブリ取り出し開始(2022年度頃)から
~燃料デブリ取り出し終了まで(20~25年後)
~廃止措置終了まで(30~40年後)
(各ステージの名称が、「 」で示したように、次のステージでの作業が開始されるまでの期間 となっているので、いささか、呑みこみにくい)
今後の具体的な作業内容としては
①燃料プールから燃料棒を取り出し、安全な場所に保管する作業
②原子炉内の燃料デブリを取り出し、安全な場所に保管する作業
③原子炉を廃炉にし、建屋を撤去する作業
があり、これらを可能にするための、長い時間をかけた、膨大な量の、計画・準備作業がある。
第1期は、一言でいえば、第2期以降に向けた準備期間である。ステップ2の達成で、曲がりなりにも、事故原発は、制御下に置けるようになったので、いよいよ、収束に向けた、本格的な準備が開始できる。
1つは、燃料棒を格納している燃料プールから、燃料棒を取り出す作業の準備期間で、建屋内外を除染し作業環境を整え、燃料棒移動用の機器の開発や整備が行われる。この関連は、大きな困難は無いと思われる。
もう1つは、この期間の最大の任務だが、メルトダウンにより、炉底などに溜っている溶融物(燃料デブリ)を取り出す作業のための準備である。このために必要な機器類や、破損個所の調査・修理技術の確立に向けて、本格的な調査・研究開発が行われる。最も困難が予想される工程だ。これまでの全世界の知見を集める必要があろう。
第2期は、具体的な作業としては、①の、燃料プール内の燃料棒の取り出しが行われる。被害の最も少なかった4号機から初めて、だるま落としの様に、順繰りに移し替えていき、全号機について措置する予定だ。
燃料プール内の水中にあった燃料棒を取り出した後は、何処にどのように保管するのだろうか。そもそも、燃料棒の安定的な保存方法は、どのように行うのだろうか。損傷していない燃料棒は、他の原子炉で使うことができるのだろうか。
一方、この期間は、圧力容器や格納容器の破損個所の診断や補修を行うための調査や、作業に必要な機器の研究開発が行われ、これらの成果を駆使して、格納容器全体に水を満たし、水棺状態にするようだ。
又、炉内の燃料デブリを取りだすための、ロボットなどの機材を開発、整備する事となる。
これらの作業は、最も危険性が高く厄介な作業であることから、安全性の確保が最重要となる。
この期間では、何度か判断ポイント(HP)を設け、状況変化に応じて、その後の工程の見直しと方向づけを行って行くようだ。
第3期は、大きく
②の、厄介な溶融物を、原子炉から取り出し、安全な場所に移動・保管する作業
が行われ、その後
③の、原子炉自体や建屋の撤去作業
が行われる。
取り出した損傷溶融物である燃料デブリや、原子炉・建屋等の瓦礫等、高濃度の放射性廃棄物を、何処にどんな方法で、安全に、恒久的に保存するかは、極めて大きな問題である。この保存場所については、資料内に明記されているか否かは、確認は出来なかったのだが、少なくとも、事故原発自身に関わる各種廃棄物は、原発の現在の敷地内に、収納場所を確保する他には無いと思われる。この場合、原発敷地の所有権とも関係するが、原発が立地している、大熊町の了解は、必要なのだろうか。
福島第一原発に近く、警戒区域内にある双葉郡双葉町の町長は、避難先での、先日の新年の挨拶で、双葉郡内では初めて、町内への中間貯蔵施設の建設には反対だ、と公言している。
原発敷地外での除染で発生する、膨大な量の放射性廃棄物の保管(暫定、中間、恒久)をどうするかも、原発被災地福島での、極めて大きな、避けられない問題なのである。
ここで、用語のことで触れておきたい。メルトダウンして原子炉の圧力容器内や、メルトスルーで格納容器の底に溜って固まった溶融物は、報告では、燃料デブリ:燃料と被覆管等が溶融し再固化したもの と、聞き慣れぬ用語が使われている。英語の、debri(破片 残骸)の様だ。 米国のスリーマイル島の原発事故の時は、炉心溶融物は、コリウム(corium)とも呼ばれたようで、下記の記事で触れている。
原発事故 避難区域の見直し (2011/4/11)
両者の違いを云々する積りは無く、国際的に通用する用語であれば問題は無い。
○今回公にされた資料を見て、その精密な出来栄え(見た目で)に驚かされた。事故原発の収束に向けた実際の作業をこなす中で、先を見た計画を纏めることも行われていたのには、素直に敬意を表したい。事故原発自身を、どのように安定させ、収束に向けて取り組んでいくかが、先ずもって肝要であることは、論を俟たないところだ。
前回のブログでは、原発事故による放射能災害全般に関する、今後の課題・要措置事項を、自分なりに整理して、以下のようにリストアップしている。
Ⅰ事故原発自体の措置
a冷温停止状態の実現(ステップ2)
b周辺に対する各種環境対策(海も)
c廃炉に向けた処理(中長期的課題)
Ⅱ放出された放射性物質関連の処理
a地域の除染と放射性廃棄物の処理・焼却灰や汚泥の処理(一時、恒久)
b警戒区域等の解除と住民の帰還
c東日本一帯の放射能汚染問題(食の安全・住の安全等)の解決
d周辺住民の健康管理と追跡調査
e被災者・被害者の賠償問題
これらの中で、Ⅰに関しては、今回のロードマップで、かなり明確になったのは、大きな前進といえよう。先のブログの喩を借りれば、生け捕りに出来た恐ろしいライオンを、静かに眠らせるまでの、道のりが示されたのである。
然るに、Ⅱについては、問題解決の見通しや作業計画について、個別には、遅々として進められてはいるのだが、全体的な展望が、今回の資料内だけでなく、国内、どこにも、殆ど示されていない。今回の資料が立派であればある程、物足りなく、不満と失望が大きいのだ。
今回の、今後に向けた方向づけは、基本的な必要条件ではあるのだが、原発事故被災者や国民の目から見て、当面、明確にされるべき多くの事項(Ⅱa、Ⅱb、Ⅱc、Ⅱd、Ⅱe)については、殆ど触れられていないのだ。
例えば、昨5日のニュースにあったが、ある自治体(千葉県柏市)では、焼却灰中の放射能が、基準値超のため埋め立てできず、現在の保管場所が満杯になってしまって、先の見通しがないまま、焼却炉一基の運転を止めざるを得なかった、と言う。
これなどは、Ⅱaの一部の問題だが、生活のゴミは確実に出る物だけに、多くの自治体の抱える緊急の問題なのである。
原発事故担当の細野大臣の奮闘は立派なものだが、このⅡに関する、ロードマップの様なものの取りまとめが、急務のように思われ、リーダーシップを発揮して欲しいものである。
前述の、Ⅰ、Ⅱは、必須の課題なのだが、問題処理的な作業で、どちらかと言うと、後ろ向きである。でも、それに終わることなく、今回の原発事故を契機にして、福島を、放射線の研究等に関する、国際的なセンターに育てていくことが、重要と考える。
例えば、Ⅲの課題として、放射線に関する
・各種人材の育成
・防護方法に関する研究開発、
・医療分野での研究開発と知見の集積
などを目標に、地元は勿論、国全体として、前向きに取り組んで欲しいものである。
この場合、今回示された、事故原発に関わる中長期の工程を通じて、当事者間で蓄積される、多様な経験や成果が、大いに生かされるであろうことは、言うまでも無い。