ケイの読書日記

個人が書く書評

皆川博子 「倒立する塔の殺人」 理論社

2018-06-24 12:41:48 | 皆川博子
 戦時中の都立高等女学校と、それに隣接するミッションスクールが舞台。 戦時中でもミッションスクールって開校してたんだ。驚き!! でも、キリスト教会も、戦争中、潰されなかったようだから当然か! 
 もちろん、明治の開校時にはいただろう外国人宣教師も外国人教師も、開戦前には皆、帰国させられていたし、軍部のしめつけも強くなる一方。ミッションスクールの生徒といっても、クリスチャンはほとんどいなかったようだ。
 仏教徒だが、お金があって良家の親が、娘のハクをつけるために、ミッションスクールに入学させたらしい。

 そのミッションスクールの図書館の本棚の中に、美しいノートが紛れ込んでいた。誰かが小説を書くことを願ってか、真っ白い紙面のノートのタイトルは『倒立する塔の殺人』。偶然手に取った少女が、小説を書き始め…。

 作中小説の中にまた作中小説があって…と複雑な構成。そもそも『倒立する塔の殺人』というタイトルのノートは、誰が何の目的で図書館に置いたのか、そしてチャペルで空襲にあって死んだ上級生は、なぜ防空壕でなくチャペルにいたのか、という謎を解くミステリ小説でもある。

 意外かもしれないが、皆川博子は1984年に『壁 旅芝居殺人事件』で日本推理作家協会賞を受賞している。ヘタな推理作家よりよほどキチンとしたトリックを考えるんだ。
 でも、この小説の素晴らしい所は、トリックよりも戦時中の女学生たちの美しさ…かな。戦局はどんどん悪くなり、物資もますます手に入らなくなる。密かに慕っていた相手も学徒出陣で出征していった。学校に行っても授業はなく、軍需工場で作業に追われる日々。質素すぎる食事。
 でも女学生たちは、休み時間に「美しき青きドナウ」を合唱し、ワルツを踊る。古い日本映画を見ているようです。


 皆川博子は1930年生まれなので、この小説の女学生たちと同世代。この本が出版された時は2007年で77歳。創作意欲が全く衰えないよね。驚くばかりです。デビューが遅いせいかなぁ。
 
 朝の連続TV小説『半分、青い』で、すずめやユーコがアイデアが浮かばずスランプに陥ってるけど、彼女らはマンガを職業にするのが早すぎたのかもしれない。18歳で売れっ子漫画家に弟子入りして、ひたすら描いてきた。そりゃ、マンガの技術は上達するだろうが、どうしても実体験が乏しくなる。インプットが無ければアウトプットはできない。
 昔、ジョージ秋山が「僕が政治家になったら、25歳まで創作してはならないという法律を作りたい」といったそうだが、そういう意味もあるのかな?
 でも、少女マンガの場合、年齢が高くなると感覚が古くなるというデメリットもあるしねえ。難しいなぁ。

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