ケイの読書日記

個人が書く書評

太宰治 「ヴィヨンの妻」

2022-04-03 15:44:23 | 太宰治
 ヴィヨンって誰だろうと思ったが、どうも15世紀フランスの詩人フランシス・ヴィヨンという人のことらしい。この人は、フランス近代詩の祖といわれるほど高名な人らしいが、買春、詐欺、窃盗、強盗、殺人、なんでもござれの無頼の徒だったようだ。

 この「ヴィヨンの妻」の主人公・大谷も自称詩人で、さすがに殺人までは犯してないが正真正銘のろくでなし。あちこちの酒場に顔を出しては大酒を飲み代金を払わず、亭主の目をかすめては女将とねんごろになる。
 終戦後の昭和21年22年ごろの話で、食糧事情も悪く、酒類も出回っているはずないけど、質は悪くてもある所にはあって、大谷はそれを嗅ぎつけ浴びるほど飲むのだ。代金は情婦に払わせて。

 この自称詩人の大谷は、なんでも旧男爵家の次男坊で、学習院から一高帝大と進んだ秀才で、詩人としても有名。なので周りの女がみんなのぼせ上って貢ぐから、ますますロクデナシになっていく。そうだよねぇ、身を持ち崩した高貴な男って本当に魅力的。こういう男は遠くから眺めているに限る。近づいたら身の破滅。

 大谷の妻は、妻と言っても籍は入っておらず、3歳の坊やを抱え苦労している様子。彼女はもともと父親とおでん屋をやっていたので、接客業には向いていて、大谷が金を盗んだ店で働くことになった。そこに大谷が再び現れて、奥さんのツケでまたタダ酒を飲んで…。
 でもまあ、お互い、好きでやってるんだから、周囲がとやかくいう事じゃないか。

 太宰が疎開先の津軽から東京の家に帰ってきたのが昭和21年。彼が情死したのが昭和23年6月。その間にこの「ヴィヨンの妻」のような短編をどっさり書いて、その上代表作の長編「斜陽」「人間失格」を書いたんだから、凄いよね。神がかってる。小説家にはそういうときがあるんだね。
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