ケイの読書日記

個人が書く書評

太宰治 「畜犬談」

2020-10-23 14:00:58 | 太宰治
 現代の感覚からすれば、とんでもない飼い主。動物虐待で逮捕されるかもしれない。
 でも、この昭和10年ごろの日本(この作品は昭和14年1939年に発表された)では、こういった扱いは普通の事だったんだろう。

 甲府に住んでいる犬嫌いの男は、ある日、散歩の途中で一匹のみすぼらしい黒い子犬を拾う。いや、拾ったのではない。勝手に家までついてきて居すわったのだ。男は犬が大嫌いだが、噛みつかれても困るので、しかたなしに縁の下へ寝床をこしらえ、食べ物を与え、蚤取粉をふりかけてやった。そのせいか、毛並みも整い、なんとか見られる風貌になった。

 当時、飼い犬でもリードをつけないのが一般的で、野良ちゃんも飼い犬も街中をウロウロと歩き回り、相手を見つけては犬同士でケンカしていた。(去勢するのは可哀そうという考え方で、荒っぽい犬たちのケンカは日常茶飯事だったのだ)

 そうしているうちに、男は妻と一緒に東京近郊に引っ越すことが決まった。もちろん犬は置き去りにされる。連れていくつもりは全くない。早く引っ越したいのだが、新築の借家がなかなか出来上がらず、イライラしているところに犬が皮膚病になった。醜いだけでなく悪臭を放つ。妻は男に犬を殺すように言う。犬は大嫌いだが、さすがに殺すのは気が引けてためらっていたが、自分の寝巻に犬のノミが付いているのを見つけ、殺すことを決意。
 牛肉と毒薬をふところにねじ込み、男は犬を連れだし…。

 ああ、彼らを鬼夫婦というのは容易い。でも、こういう事って、すごく多かったんだよ。置き去りにされたら、保健所に連れていかれ殺されるのが分かっていても置き去りにする。飼い主の責任うんぬんと言われだしたのは、最近の事。ほとんどの人が、仕方のない事だと見て見ぬふりをしていたのだ。私もその一人。まあ、私は猫しか飼った事、ないけど。

 でもね、皆さん、安心してください。これは太宰治の精神が安定していた中期の作品。悲惨な終わり方ではないです。ちょっとユーモラス。

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