ケイの読書日記

個人が書く書評

首藤瓜於 「脳男」 講談社文庫

2019-12-13 15:55:04 | その他
 第46回江戸川乱歩賞受賞作品という肩書につられ読んでみる。ケータイもスマホも全く出てこず、主要登場人物の一人・女性医師が公衆電話をかける場面があり、かなり前の作品だと分かる。

 一種のターミネーターモノなのかな? ダークヒーローにしては、主人公・鈴木一郎に花が無さすぎる。

 緑川という連続爆弾魔のアジトで、鈴木一郎という男が見つかる。彼は爆弾魔の共犯ではないかと逮捕される。男の精神鑑定を担当する女性医師は、彼が素晴らしい頭脳を持っているが、心が無いというか感情が無いので驚く。彼はどうも学習することによって、感情があるようにふるまっているらしい。元々の喜怒哀楽がないのだ。

 例えば、他人が怒って彼を怒鳴りつける。その人の顔の表情や大きな声によって、相手が怒っている事を理解し、こういう場合、普通の人は、自分も怒った表情をし大きな声をあげるか、黙ってしおらしい表情をするか、瞬時に判断し実行する。そこにちょっとしたタイムラグができる。
 だから、周囲がチグハグな印象を受ける。
 そうだよね。大喧嘩してるとき、相手の罵声を最後まで聞いて、それからこちらも怒り出すだろうか?相手の表情や雰囲気で、わめきだす前に、こちらも相手の胸ぐらを掴んで大声を出しているだろう。

 相手の感情を読み取ろうとしない、読み取る必要を感じない。つまり重度の発達障害? うーーーん、ちょっと違うような。
 10代後半の鈴木一郎は、両親が交通事故で無くなり、祖父と暮らしていた。ある夜、泥棒が屋敷に侵入し、彼の部屋で金品を物色する。そこに祖父が現れ、泥棒ともみ合い格闘している最中、一郎の枕元にあったロウソクが倒れ、火事になる。
 一郎は祖父が泥棒と格闘している最中も、ロウソクの火がシーツやカーテンや衣類に燃え移っている間も、意識はあるのに横になったまま。大やけどを負う。だって誰も彼に「爺さんに加勢しろ」「逃げろ!」と言わなかったから。

 どうにも感情移入しにくい主人公なのだ。それに比べ、アジトから逃げた爆弾魔の緑川の方が、まだ歪みが人間的で魅力的にみえるね。資産家の婆さんからどんな教育を受けたんだろう?と想像させる余地がある。
 後半、緑川が一郎を引き渡せと要求するが、その時に、どんな話をするか楽しみだったが、その場面が無く残念。

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