ケイの読書日記

個人が書く書評

東野圭吾 「虚ろな十字架」 光文社文庫

2019-08-07 15:10:37 | 東野圭吾
 被告の弁護人は言う。「死刑制度は無意味だ」と。そんなこと誰でも分かっている。死刑が犯罪を抑止することはないだろう。でも、理不尽な理由で何人もの命を奪っても、犯人の命は保証しますというのなら、あまりにも人命を軽視している事になるんじゃないかな?

 光市で、未成年の男が若い母親と赤ちゃんを殺した事件にしても、通常のケースだと7年くらいで出所できるらしい。でも被害者の夫が、あまりにも妻子が可哀想だと強く死刑を望んで運動したので、最終的に、犯行当時未成年だった被告に死刑判決が出た。
 これなども、死刑判決が出て初めて、被告は命の重さを考えることができるようになったんじゃないかな。それまでは、弁護士も親も宗教家も、誰も彼の心を改心させることはできなかった。死刑が目の前にぶら下がって初めて、自分のやった事の罪深さを自覚するようになった。


 この『虚ろな十字架』では、犯罪被害者遺族が、死刑廃止反対を訴える場面が出てくる。
 中原道正・小夜子夫妻のひとり娘が殺された。捕まった男には殺人の前科があった。服役し刑務所から出所したが、仕事が長続きせず金に困って空き巣に入った先で、女の子と鉢合わせし殺してしまう。
 犯行を認めているので、問題は量刑。男は殺すつもりはなかったと訴える。裁判は何年も続き、結局、死刑判決が出た。夫婦はその後、離婚している。死刑判決が出るまでは一致団結して頑張っていたが、判決が出た後は抜け殻のようになってしまい、お互いを見るのが辛くなったのだ。
 数年後、今度は小夜子が刺殺される。すぐに犯人は出頭してきて事件は解決するが、どうも犯人の動機がハッキリしない。
 中原は、離婚後の小夜子の仕事を調べていくと、30代半ばの美しいがどこか投げやりな雰囲気の、窃盗壁のある女性と出会う。小夜子はライターとして、万引き依存症の女性たちを取材していたのだ。
 その女性は、小夜子を殺した犯人の娘婿と同郷だった。単なる偶然か?それとも…。

 どうするのが一番いい方法なのか、分からないね。たぶん誰にも。

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