本と旅とやきもの

内外の近代小説、個人海外旅行、陶磁器の鑑賞について触れていき、ブログ・コミュニティを広げたい。

芥川賞作品

2011-03-05 11:13:52 | Weblog
 先に芥川賞を受賞した『苦役列車』を読んでいる。この作者の略歴に「中学卒業後、各種アルバイトに従事」とある。その日雇い労務者の体験が場面、場面の血や肉となってなかなかの迫力ではあるが、生硬な表現も多い。

 学歴コンプレックスの裏返しなのか、やたらとむずかしい言葉や漢字を使いすぎるのだ。慊い(あきたりない)や顰め(ひそめ)や些か(いささか)などルビを振ってまで漢字を用いる必要はないだろう。鱈腹は「たらふく」と、襤褸は「ぼろ」とこれも平仮名にしたほうが日雇い風だろうし、にっこりと笑うサマをいう莞爾は、労働者の雰囲気に合わない。閉所は便所の美化語だ。三畳住まいのアパートの共同便所に美化語はいただけない。黽勉(びんべん)なんぞルビなしでは読めなかった。

 和語の漢字化や難解な語彙にいささか閉口する。地べたをはうようなその日暮らしが物語の中核だが、これらの表現はその底辺の生活感にそぐわない。

 ただ、野間文芸新人賞を受賞し、過去2回も芥川賞候補になっている。相当な才能の持ち主であろう。また、今の小説家にはマネのできない異色の作家であることは確かだ。