トラッシュボックス

日々の思いをたまに綴るブログ。

古田博司『新しい神の国』(ちくま新書、2007)

2007-12-08 23:58:30 | その他の本・雑誌の感想
 何だか森元首相の「神の国」発言を思い起こさせるような挑発的なタイトルだが、内容は、中国や朝鮮とわが国との文化の違いの指摘や、わが国は歴史的に東アジアではなかったとする、脱亜論ならぬ別亜論のすすめ。
 別亜論には大いに共感する。東アジア共同体なんてものを本気で支持しているような人は、少しはこういう本で頭を冷やした方がいいのではないだろうか。

 ただ、一点、どうにも気になった記述がある。

《日本人が選んだ道は、天皇を核とする立憲君主制であったが、それは国学や水戸学、ドイツ渡来の有機体国家論などにより、後に思想的にどんどん補強されて、国体思想が形成され、やがて大和民族の神聖国家のような有様になってしまった。
 そこで日本には今でも、「天皇制」の過去がどうしても許せないという人々がいる。日本共産党の三二年テーゼから始まり、「天皇制」を打倒してこそ日本人は絶対主義から解放され、個人になり得るのだと説く人々。戦時中に、天皇の名の下に徴兵され、軍隊で酷使されたことを未だ怨む人々もいる。明治以降、天皇を現人神にしてしまった国家神道を嫌悪し、靖国神社はその末裔であるからいけない、そう思っている人たちがたくさんいる。
 しかし、筆者はそのような議論にはいずれも与しない。そのような人々は、かつて朝鮮戦争は米韓軍の北進だと主張して北朝鮮を正当化し、単独講和反対や安保反対を唱えて日本を共産主義勢力に包摂しようと企て、戦争反対・文革万歳を叫んで中共の侵略的本性を糊塗し、北朝鮮の拉致は存在しない、核実験しない、ミサイル飛ばないと大合唱をした進歩的文化人や、良心的知識人に連なるのであり、筆者が青壮年期を送った冷戦という時代を振り返れば、それらの人々の責任の方が大いにあると考えられるからである。》

 これは、事態をあまりに単純化しすぎるものではないか。これでは、天皇制批判、旧日本軍批判、靖国参拝批判をしてきた者たちは、皆中国や北朝鮮の支持者であったかのようである。そう簡単に決めつけられるものではないだろう。

 タイトルの「新しい神の国」というのは、現代日本を指している。著者はわが国の現状に肯定的である。著者が結論部で示しているその点については私もおおむね同意するのだが、ただそれを何故「神の国」という言葉で表現しなければならないのかが、今ひとつ納得できない。

 しかし、興味深い記述(藤原正彦批判は痛快)も多々あり、わが国と東アジア諸国の歴史的関係に少しでも関心がある方には、面白く読めるのではないかと思われる。


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
投票へのご協力をお願いします (大絶画)
2014-01-20 21:19:44
管理人様

復刊ドットコムに古田博司著『新しい神の国』をリクエストしました。管理人様をはじめブログをご覧のみなさまの投票次第で復刊される可能性があります。
URLから投票ページにアクセスできます。主旨に賛同していただけるようでしたら投票へのご協力をお願いします。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。