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安倍内閣は検事長の定年延長で本当に「解釈を変更」したのか

2020-05-14 12:55:18 | 現代日本政治
 昨日の話を続ける。
 今、安倍内閣が批判を浴びている検察庁法改正のきっかけとなった、黒川検事長の定年延長は、本当にそれほどの大問題なのか。
 昨日は国会での発言を確認するため会議録を見てみたが、今日は法律の条文を見てみよう。

 一般の国家公務員の定年は、国家公務員法に次のように規定されている(太字は引用者による。以下同じ)。
 
(定年による退職)
第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
○2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。
一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年
二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年
三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢
○3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。

(定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。


 この国家公務員の定年は1981年の法改正によって設けられたものだが、検察官については、それ以前から、検察庁法第32条で定年が設けられていた。

第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。


 そして、検察庁法には、次のような条文もある。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。


 国家公務員法附則第13条を見てみると、

第十三条 一般職に属する職員〔引用者註:これには検察官も含まれる〕に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。


とある。
 ちなみに、国家公務員法第1条とは、

第一条 この法律は、国家公務員たる職員について適用すべき各般の根本基準(職員の福祉及び利益を保護するための適切な措置を含む。)を確立し、職員がその職務の遂行に当り、最大の能率を発揮し得るように、民主的な方法で、選択され、且つ、指導さるべきことを定め、以て国民に対し、公務の民主的且つ能率的な運営を保障することを目的とする。
○2 この法律は、もつぱら日本国憲法第七十三条にいう官吏に関する事務を掌理する基準を定めるものである。
○3 何人も、故意に、この法律又はこの法律に基づく命令に違反し、又は違反を企て若しくは共謀してはならない。又、何人も、故意に、この法律又はこの法律に基づく命令の施行に関し、虚偽行為をなし、若しくはなそうと企て、又はその施行を妨げてはならない。
〔後略〕


といったものである。

 さて、このたびの黒川検事長の定年延長を違法だと主張する人々は、検察庁法第32条の2により、国家公務員法の定年に関する規定よりも検察庁法第22条が優先すると説く。
 しかし、検察庁法第22条が定めているのは、検察官の定年についてのみである。定年延長については言及していない
 一般の国家公務員の定年を定めているのは国家公務員法第81条の2である。一般の国家公務員の定年は60だが、検察庁法第32条によって、検事総長は65、その他の検察官は63とする検察庁法の定年の規定が特例として優先する。これはわかる。
 しかし、定年延長について定めているのは国家公務員法第81条の3であり、81条の2とは別の条文である。これをも検察庁法第32条による特例に含まれると言い切れるのか。

 仮に検察菅には国家公務員法第81条の3の定年延長は適用されないと考えるなら、1981年の国家公務員法改正の際に、検察庁法にそのような条文が盛り込まれるべきではなかったのか。
 そうなっていないということは、立法者はそのような事態を想定していなかったということではないのか。
 ならば、検察官の定年については検察庁法が適用されるが、定年延長については国家公務員法が適用されるという政府答弁は、必ずしも誤っていないのではないか。
 もちろん、定年延長については認めるべきではないという見解も有り得るだろう。だが、政府の法解釈をするのは、検察庁法については法務省、国家公務員法については人事院であり、それを調整するのは内閣である。

 この問題で、政府はこれまでの法の解釈を変更したと広く伝えられ、批判されている。
 例えば。朝日新聞デジタルの2月13日付の記事は、こう報じている。

首相、検察官の定年延長巡り「法の解釈変更」 批判必至

 東京高検検事長の定年延長問題をめぐり、安倍晋三首相は13日の衆院本会議で、国家公務員法に定める延長規定が検察官には「適用されない」とした政府の従来解釈の存在を認めたうえで、安倍内閣として解釈を変更したことを明言した。時の内閣の都合で立法時の解釈を自由に変更できるとなれば法的安定性が損なわれる恐れがあり、批判が出ることは必至だ。
 立憲民主党の高井崇志氏への答弁。定年延長を含む定年制を盛り込んだ国家公務員法改正案を審議した1981年の国会での政府答弁と、東京高検の黒川弘務検事長の定年延長の整合性について認識を問われ、首相は「当時、(検察官の定年を定めた)検察庁法により除外されると理解していたと承知している」と認めた。一方で、「検察官も国家公務員で、今般、検察庁法に定められた特例以外には国家公務員法が適用される関係にあり、検察官の勤務(定年)延長に国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」と述べた。
 検察庁法は検察官の定年は63歳と定める。黒川氏は63歳の誕生日前日の今月7日に退官予定だったというが、政府は先月末、国家公務員法の規定を根拠に延長を閣議決定した。(永田大)


 しかし、解釈を変更したのではなく、検察官の定年延長について初めて解釈を示したのではないか。
 この時の発言について、国会会議録検索システムでは何故か見当たらなかったが、「衆議院インターネット審議中継」に動画があったので見てみると、安倍首相はこう答弁している(1:35:34あたりから)。

検察官については、昭和56年当時、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知しております。
他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。


 やはり、朝日が書いている「国家公務員法に定める延長規定が検察官には「適用されない」とした政府の従来解釈の存在を認めた」りはしていない。

 この答弁を「解釈を変更したことを明言した」と断じるのは、昨日の記事でも述べたのと同様、一種のフェイクニュースではないだろうか。

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