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JR福知山線脱線事故をめぐる最近の報道について

2009-10-01 00:34:50 | 事件・犯罪・裁判・司法
 2005年のJR福知山線の脱線事故について、ただ1人起訴された山崎正夫前社長をはじめとするJR側の失態を示す報道が相次いでいる。
 第一報はこれだった(以下、記事の引用は全て「アサヒ・コム」より。青字は引用者による)。


宝塚線脱線、事故調委員が情報漏らす JR西前社長に

 05年のJR宝塚線(福知山線)の脱線事故で、原因を調べていた国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現運輸安全委員会)の委員が守秘義務に反し、最終報告書の公表前に、調査内容を当事者であるJR西日本の山崎正夫前社長(66)に知らせていたことがわかった。前原誠司国交相が25日、記者会見で明らかにした。

 前原国交相は会見で「言語道断。許し難い行為。ご遺族らにおわびします」と謝罪した。同委の守秘義務規定には罰則がないことから、重大な違反について新たに罰則を設けるよう検討を指示した。

 情報を漏らしていたのは、元委員の山口浩一氏(71)。山口氏は旧国鉄出身で、山崎前社長とは先輩・後輩の関係だった。01年10月~07年9月に同委の委員を務め、脱線事故の原因究明にも携わっていた。

 安全委によると、山口氏は調査報告書の作成過程だった06年5月以降、JR西日本の山崎氏からの働きかけを受け、5回ほどホテルの喫茶室などで面会して、調査委の調査状況や内容を伝え、原案の文書の一部を渡していた。その際、山崎氏からは、事故で問題となったカーブに新型の自動列車停止装置(ATS)が未整備で、装置があれば事故を防ぐことができた、とする報告書案の文面について、「後出しじゃんけん(のような評価)だ」として、削除や修正を求められたという。

 これを受けて山口氏は07年6月、委員会の懇談会の場で、文面の削除を求める発言をしていた。だが認められず、結果として報告書には反映されなかった。

 山口氏はこの間、山崎氏側から食事の接待を受けたり、鉄道模型やお菓子などを受け取ったりしていたという。

 山崎氏は、問題のカーブに新型ATSを優先的に設置しなかったことなどについて責任を問われ、業務上過失致死傷の罪で在宅起訴され、8月31日付で社長を辞任している。今回の情報漏洩(ろうえい)は、山崎氏に対する警察・検察の捜査の過程で発覚したとみられる。

 航空・鉄道事故調査委員会設置法(当時)には、職務で知った秘密を漏らしてはいけないとの規定があるが、罰則規定はなかった。運輸安全委は再発を防止するため、「原因と関係する当事者と密接な関係にある委員を調査に参加させない」とするルールを作成。事故調査中の関係者と飲食やゴルフをしない▽事業者から5千円以上の接待などを受けた場合は委員長に報告する――との規範も作成し、各委員に徹底を求めた。

 後藤昇弘委員長は25日会見し、「報告書に不信を与えたことは残念」と謝罪した。

 最終の調査報告書は07年6月28日に公表され、運転士(当時23)がカーブでブレーキをかけるのが遅れたことが、直接の原因と結論づけた。(佐々木学)


 この記事を1面トップで報じた9月25日の朝日新聞夕刊は、社会面では、
「事故調は遺族に対し『中立な組織』と繰り返してきたのに、自らそれを崩した。遺族への背信行為だ」
「ほかにも裏で事故調に対する働きかけをしていたのでは、という不信を抱いてしまうような話だ」
「JR西と事故調は根底は一緒で、報告内容がねじ曲げられたと思わざるをえない」
といった遺族や負傷者の声を紹介している。

 29日の朝日新聞朝刊は、ある遺族が前原国交相宛にメールで、事故調の報告書について、事故の最大の原因はATS未設置だったと書き直すことなどを求める要望書を送ったとの記事が載っていた。

 しかし、ちょっと待ってほしい。
 情報漏洩は確かに許されない行為だ。
 だが、記事にも、山崎の意向を受けた山口の発言は、「結果として報告書には反映されなかった」とある。
 いたずらに報告書の信用性を問題にするのはいかがなものだろうか。

 事故調の最終報告書では、運転士が「カーブでブレーキをかけるのが遅れたことが、直接の原因と結論づけた」という。
 それはそうだろう。普通に考えればそうなるだろう。

 たしかに、新型ATSがあれば、事故は防げたかもしれない。
 しかし、それは結果論だろう。
 事故地点のカーブが急カーブに付け替えられたのは1996年12月のことである。事故は、2005年4月に発生した。その間の8年4か月の間、無数の電車が事故地点を通過したが、事故は発生しなかった。
 運転士の行動が事故の直接の原因だとする事故調の結論は、しごくもっともだ。
 「後出しじゃんけん(のような評価)だ」という山崎の言い分も理解できる。
 私は、山崎に同情する。

 この情報漏洩をめぐる報道がしばらく続いた後、今日の朝日の朝刊の1面トップには、次の記事が載っていた。

JR西、脱線事故資料隠蔽か 類似2例を提出せず

JR西日本が、宝塚線(福知山線)脱線事故の調査、捜査をしていた国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)と兵庫県警に対し、97年1月に開かれた同社安全対策委員会の会議資料のうち、カーブでの速度超過による脱線事故として宝塚線事故の類似事故とされる96年のJR函館線事故に関する資料を提出していなかったことがわかった。

 同社はこの1カ月前の会議の資料でも、函館線事故をめぐって自動列車停止装置(ATS)の必要性を指摘する資料を提出していなかったことがすでに判明している。神戸地検は、抜け落ちていたこれらの資料は、当時、鉄道本部長だった山崎正夫前社長(66)=業務上過失致死傷罪で在宅起訴=が宝塚線の事故現場にATSを設置する必要性を認識していたことを裏付ける重要な物証とみており、類似事故の資料が連続して提出されなかったことから、JR西が意図的に隠蔽(いんぺい)しようとした疑いが出てきた。

 抜け落ちていた資料はいずれも、神戸地検が去年10月に同社本社などを家宅捜索した際に押収。事故調から提出された資料とも照合した結果、足りない部分があることが発覚した。JR西は取材に対し未提出の事実を認めたが、いずれも「膨大な資料を要請から提出まで1カ月あまりで準備したため、単純なコピーミスや提出前の確認不足が原因で資料が欠落した。意図的に隠したわけではない」と説明している。

 関係者によると、欠落が新たに判明した資料は、97年1月14日に開かれた同社安全対策委員会の会議資料の一部。96年12月分の列車事故などを検証する会議で議題となった10項目のうちの1項目分で、同月4日未明に起きたJR函館線脱線事故の調査報告に関する資料4枚分だった。この資料には、カーブで制限速度を約40キロオーバーして脱線した事故の概要や、事故2日前からの運転士の乗務記録、事故原因、現場の詳細な見取り図などが記載されていたという。事故調には06年4月、兵庫県警には同年12月に、それぞれ4枚分が抜け落ちた状態で提出した。

 JR西は函館線事故直後の96年12月25日、安全対策を統括する鉄道本部が会議を開き、その会議用資料(計9枚)の付録資料2枚を事故調と県警に提出していなかったことが明らかになっている。この付録資料の中では、「ATSがあれば防げた事故例」として函館線事故が取り上げられていた。山崎氏はいずれの会議にも出席していたという。

 函館線事故は、カーブでの速度超過という状況が共通している点から、宝塚線事故の類似事故に位置づけられている。また、JR西は函館線事故の16日後に、宝塚線事故の現場カーブを半径600メートルから函館線事故とほぼ同じ304メートルに付け替えていた。


 さらに、夕刊の社会面には、次の記事が。

JR西、検察提出資料も欠落 隠蔽の疑い強まる
 JR西日本が宝塚線(福知山線)脱線事故の類似例資料を国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)と兵庫県警に提出しなかった問題で、同じ資料を神戸地検に対しても提出していなかったことがJR西への取材でわかった。JR西は「意図的に隠したわけではない」と説明しているが、同じ資料を連続して欠落させており、隠蔽(いんぺい)を図ろうとした疑いがさらに強まった。

 この資料は、宝塚線事故の類似事故とされる96年12月のJR函館線事故に関する資料。97年1月に開かれた同社の安全対策委員会の会議資料の一部で、制限時速を大幅に超えてカーブを走行、脱線した函館線事故の概要などがまとめられている。会議には当時鉄道本部長だった山崎正夫前社長(66)が出席しており、捜査当局はこの資料について、山崎氏が宝塚線事故の現場カーブに対する危険性を事前に予測していた重要な証拠とみている。

 JR西によると、06年3月下旬、事故調から同社に資料の提出要請があり、社内組織「福知山線列車事故対策審議室」の室員が、95~96年度にあった安全対策委員会の資料を約1カ月かけて2部コピーし、1部を同年4月下旬に提出、もう1部を手元に残した。この時のコピーで、函館線関連の資料が抜け落ちたという。さらに同年12月、県警から、事故調に提出したものと同じ資料の任意提出の要請を受け、事故調に提出した分を再びコピーした際も、同じ資料が抜け落ちたままだった。

 一方、神戸地検には08年10月1日に、要請を受けて提出。事故調、県警のケースとは異なり、資料の原本を集めてコピーし直した。しかし、ここでも同じ函館線関連の資料のうち主要な部分が欠落した。

 神戸地検は同年10月7日にJR西の本社などを家宅捜索し、資料を押収。その中に、完全な形の資料が含まれていた。地検の問い合わせに対しJR西が同年11月に社内調査を実施したところ、欠落した部分を発見。短期間に膨大な量の資料を集めてコピーしたためにミスが出たのと、提出前の確認を十分にしなかったことが原因と説明したという。朝日新聞の取材に対しても、「保管状態の悪さや単純なコピーミスなどが原因で、意図的に隠したわけではない」と話している。

 函館線事故をめぐっては、自動列車停止装置(ATS)の必要性を指摘する別の資料についても、JR西が事故調と県警に提出していなかったことが明らかになっている。


 これが、意図的な隠蔽なのか、そうでないのかの判断は保留したい。ただ、意図的な隠蔽であったとしても、それは十分有り得ることだろう。
 ただ、仮に隠蔽があったとしても、それが事故調や県警の結論に強く影響したと言えるのだろうか。
 こちらのブログの記事によると、書類送検時に、兵庫県警は、運転士の行動を事故の直接原因としながらも、山崎らのATS未設置の責任を問うていたようだ。

 また、言うまでもないことだが、犯罪者には黙秘権がある。自分の都合の悪いことは明らかにしなくてもよい権利がある。

 今回の一連の報道は、上記引用の青字部分から考えて、神戸地検によるリークによるものだと思われる。
 神戸地検はこの事故でただ1人山崎を起訴したが、その裁判はまだ始まっていない。
 本来、捜査上知り得た情報は、公開されている法廷の場で明らかにすればいいはずである。
 起訴後、まだ裁判が始まっていないこの時期にこれだけの情報を神戸地検がリークする理由は何だろうか。

 一連の報道によって、山崎とJR西日本のイメージはかなり傷ついたことだろう。
 情報を漏洩させ、さらに隠蔽工作まで行った汚い奴らとのイメージを作り上げたことだろう。
 裁判が開かれる前に、既に山崎=悪、JR=悪との筋書きを作り上げてしまうわけである。
 と同時に、そんな悪い奴らを懲らそうとするという神戸地検に対するイメージアップも期待できるのかもしれない。

 いったん、被告人=悪とのイメージを作り上げてしまえば、検察は相対的に善となる。
 私はこの山崎の刑事責任を問うのは、かなり難しいのではないかと思っている。
 山崎の起訴については、負傷者や遺族、それに世論に押される面が強かったのではないかと思える。
 そんな事件であっても、山崎はこんなに悪い奴だというイメージを世間に広めておけば、仮に事件自体が難しくて山崎が無罪になったとしても、世論の反発は検察ではなく裁判所に向くだろう。
 そんな計算もはたらいているのではないかと感じる。

 あと、政権交代の影響もあるかもしれない。
 政権交代によって、こうしたJR側の工作が明らかになったのだというセールスポイントになる。
 実態はそうなのかどうか疑わしいものだと思うが。

 いずれにしろ、この一連の報道が、官公庁サイドから、何らかの意図をもって流されているものであることは間違いないだろう。
 そうした世論操縦者の意のままに流されたくはないものだ。

 裁判所には、こうした報道に惑わされない、法に基づいた冷静な判断を期待したい。



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