トラッシュボックス

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「友のごときもの」すらなき者でも

2008-11-24 23:04:48 | 事件・犯罪・裁判・司法
小泉容疑者の父、「私の命をささげたいくらい」と謝罪(読売新聞) - goo ニュース

「小泉毅」近所でトラブル 「みんな怖がっていた」(朝日新聞) - goo ニュース

 小泉毅が出頭前に10年ぶりに父親に電話をしていたという報道、また同じく出頭前に、それほど親しいわけでもない階下の住人に「いらないものがあるから」とアダルトDVDを渡していたとの報道に接して、昔、山本夏彦が梅川昭美について次のように述べていたことを思い出した。


 彼は流行の本を小脇にかかえて、このマンションの一階にあるスナックに出没しました。これも私たちがよくすることです。彼のいわゆる友人はこのスナックのマスターと、ここで知り合った何人かで、彼らは麻雀友だちだったようです。そして二十七日、犯人は机のかげでひそかにダイヤルを回して彼らに、また金を借りた相手に電話をかけています。してみると彼は手帳を持っていたことが分ります。犯人は死ぬ覚悟で、だれかに別れを告げたくて電話をかけたのです。
 お察しのとおり私はこの男を哀れに思っています。電話をかける友だちを持たぬ彼に現代人を見ています。むかしから船の中の友は友でないと言います。船の中で知合になっても、船を降りたらもう友でないこと、汽車の中の友が友でないがごとしです。以前はバーやキャバレで知合になった人とは名刺を交換しませんでした。談笑してもそれはバーやキャバレのなかだけのことで、その人を白昼訪ねませんでした。〔中略〕
 スナックのマスターやそこで知り合った麻雀友だちは、やはり友ではありません。思いがけず梅川から電話をもらったマスターは声をのんだことでしょう。「ま、がんばってしっかりやれや」と犯人に言われて、返す言葉がなかったことでしょう。
 梅川はこの期に及んで、借金を返そうとしています。ドロボーや人殺しをして奪った金で借金を返すなんて前代未聞のことで、ドロボーの風上におけないと、本もののドロボーなら笑うでしょう。
 これによってみると、彼は借りたものは返さなければならぬと思っているようです。親孝行もしなければならぬと思っているようです。四国の母親を訪ねると、マスターに土産を持って帰ったと言います。旅すれば必ず土産を持参するという習慣――ずいぶん多くの習慣が滅びましたが、これだけは滅びない習慣――梅川はこの土産を持参する相手がなくて、スナックのマスターに持参したのです。
 彼は人質の中の片親の子と子連れの客をいたわっています。律儀で親切なところがあると言わなければなりません。ただ頭の一個所がこわれているだけです。
(山本夏彦「友のごときもの」――『つかぬことを言う』(中公文庫、1987)より)


 彼は、麻雀仲間的な存在すらも持たなかったのだろうか。

 それでも、人は何らかのかたちで自分を社会に認知させたいと思うものらしい。



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