トラッシュボックス

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尖閣で騒ぐな 尖閣を騒ぐな

2012-08-22 01:07:13 | 領土問題
 北方領土、竹島、そして尖閣諸島。
 この3箇所の問題を同じように捉えている人が多いように思う。

 しかし、北方領土及び竹島と、尖閣諸島では、2点異なることがある。
 一つは、尖閣諸島はわが国が実効支配しているということ。
 そしてもう一つは、北方領土に上陸したのはロシアの大統領及び首相、竹島に上陸したのも韓国の大統領であるのに対し、尖閣諸島に上陸したのは中国(今回は香港)の民間人にすぎないということ。
 この違いはとてつもなく大きい。

 今回、尖閣諸島に上陸した香港の活動家を強制送還で済ませたことに批判の声が上がった。
 石破茂はオフィシャルブログの「竹島、尖閣など」という記事で、

 尖閣に不法上陸した香港の活動家を強制退去させる、という政府の今回の対応も、明らかに誤りです。
 「小泉政権時の対応に倣った」とあたかも自民党と同じことをして何が悪いのだと言わんばかりの姿勢ですが、あの時と今とでは状況が全く異なります。その後中国船が再三にわたり領海侵犯を行い、漁船が海上保安庁巡視船に体当たりするなど、中国側の行動はさらにエスカレートしているにもかかわらず、同じ対応でよいという思考法は一体何なのでしょう。


とし、さらに

 今回の不法上陸に同行した香港のテレビは中国政府寄りの報道で知られている局であり、今回の行動の背後に間接的に中国政府がいたと考えるのが普通でしょう。


と彼にしてはやや危なっかしいことを書いている。

 BLOGOSを見てみると、佐藤優は、記事「尖閣に不法上陸した5人と不法入国した9人の扱いを区別すべきである」で、

 日本国家の領域は、領土、領海、領空に分かれる。領土・領空と領海は、国際法的な取り扱いが異なる。外国の船舶が日本の領海を航行しても、無害通航ならば領海侵犯にはならない。今回の抗議船の場合、尖閣諸島に不法上陸する意図があるのだから、無害通航とはいえない。いずれにせよ、領海に侵入するだけの不法入国と、わが国の領土に不法上陸することの間では、後者の方がはるかに悪質である。

 中国人は、今後も尖閣諸島への上陸を試みる。このことを考慮に入れ、今回、魚釣島に不法上陸した5人に関しては、送検し、背後事情、中国の公権力の関与などを徹底的に調査する必要がある。この機会に、「尖閣諸島に上陸すると送検され、長期勾留される」という「ゲームのルール」を定着させることが重要と思う。


と、今回上陸しなかった者はともかく上陸犯は送検し勾留せよと説いている。

 元検察幹部の郷原信郎は、記事「尖閣不法上陸への弱腰対応も、「検察崩壊」の病弊」で、

 今回のような確信犯的な不法上陸事案は、刑事事件としての評価・判断からすれば、極めて悪質な刑事事件として、当然、逮捕・勾留して起訴すべきだ。それを行わなわず、入管引渡しの上、国外退去という措置をとるとすれば、日中関係を考慮した「外交上の判断」によるものとしか考えられない。
 憂慮すべきことは、今回の措置が、入管難民法の規定に基づく「刑事事件としての当然の措置」のように説明されていることだ。もし、この種の主権、領土の侵害事件に対して厳正な刑事処分を行わないという判断が、「法律上、司法上の当然の判断」とされるのであれが、もはや、我が国は、国家としての体をなしていないと言わざるを得ない。


と、送検し起訴すべきだと説いており、塩崎恭久も「確信犯には裁判しかあり得ないだろう 」と述べている。

 一方、「日本は断固自重すべき」とか「いちいちウロタエルな」という指摘もあった。
 私はこちらに同意する。
 そして、以下の理由で、今回の強制送還は極めて妥当だったと考える。

1.実刑は無理

 16日の朝日新聞夕刊1面トップの「尖閣 あすにも強制送還 逮捕の14人那覇移送」という見出しの記事は、次のような「政府高官」の発言を伝えている。

 政府高官は16日、「容疑が出入国管理法違反だけなら過去に何度も違反していない限り起訴猶予になり、結局強制送還になるだろう。それなら送検せずに強制送還しても同じだ」と述べ、混乱の長期化を避けるため、早期に強制送還した方が望ましいとの考えを示した。


 単なる不法上陸なら、実刑はおろか、起訴にすらならない。
 石破や郷原が触れている出入国管理法65条に従って、送検されずに即入管に引き渡されることもしばしばある。

 2010年9月の中国漁船衝突事件の船長は、公務執行妨害で逮捕され送検された。私は、あの事件は、当初仙谷官房長官が述べていたように、国内法にのっとって粛々と処理すべき、具体的に言えば起訴すべきだったと考えている。当時の中国側の猛反発、そして在中国日本人の拘束という事態を考慮しても(だからといって、それらを考慮した上での釈放という政治判断を批判するつもりはないが)。

 しかし、今回は、公務執行妨害も器物損壊も成立しないという。
 ならば、送検されずに、入管に引き渡されて即国外退去となってもおかしくない。
 現に、石破も書いているように、小泉政権もそのように対処したのだ。

 石破が言うように、あのころとは中国側の動きが違うという見方もあるだろう。
 そもそも強制送還という対応がおかしいのであり、このような確信犯による領土の侵害に対しては、厳正に対処すべきだという考え方もあるだろう。
 しかし、刑事罰をもって応じる段階ではまだないように思う。

 彼らを送り込んだ香港の「保釣行動委員会」の幹部は、10月に再び上陸を目指し抗議船を出す意向を表明したという。
 そのような行動が度重なれば、刑事罰を科さなければならないという事態も有り得るだろう。
 あるいは彼らが海保や警察に対して武力攻撃に及ぶとか、日本の漁船を拿捕するといったことがあれば、断固とした対処が必要だろう。

 佐藤は、尖閣への上陸は長期勾留を招くというルールを定着させよと説くが、確信犯に対して長期勾留は必ずしも抑止力にならないのではないか。
 ましてや受刑などさせたら、それこそ帰国時には英雄扱いされるだろう。
 それに、獄死でもされたら、殉教者を生むことになってしまう。

 それよりは、押しかけたけど、いなされて相手にされずに送還されたというかたちをとった方が、今のところはいいのではないか。
 生ぬるい対応では彼らは何度でも来るという主張もあるが、そうだろうか。
 例の中国人船長に続く者は中国本土からは来ていない。彼は中国政府により軟禁状態に置かれていると昨年報じられた。
 香港には本土ほどの統制力は及ばないのかもしれないが。

 石破は、

 公務執行妨害罪や器物損壊罪、あるいは傷害罪の嫌疑すら全くないと誰がどのようにして判断したのか、刑事手続を進めない方がいかなる国益に合致すると誰が判断したのか、ビデオの公開とともにそれを明らかにしない限り「法に従って厳正に対処した」などと言えるはずはありません。


とも主張しているが、それは捜査機関が判断すべきことである。現場の捜査員の判断抜きに、現場の一部を切り取ったに過ぎないビデオの映像だけを見て、国会議員や、ましてや個々の国民が、○○罪が成立するだの国益に合致するのしないのと議論して判断すべきことではない。

2.中国政府を動かすべきではない

 今回の逮捕に対して、中国の多数の都市で、激しい反日デモが起きたと報じられている。
 仮に今回の上陸犯が送還されなければ、その矛先は中国政府に向かうだろう。
 するとどういう事態になるのか。
 例の中国人船長の時には、どういう事態になったのか。

 今回の反日デモは、中国国内ではほとんど報じられていないそうだ。
 中国政府としても、自らのコントロールの及ばない大衆運動など望むところではないのである。
 それでも、わが国が勾留を続け、起訴し、処罰するならば、中国政府としても動かざるを得なくなることだろう。
 果たして、両国の全面対決が、わが国にとって望ましいのか。
 今回の上陸犯を処罰することにそれだけの価値があると思うなら、やってみるがいいだろう。しかし、私にはそうは思えない。

3.領土問題をアピールする機会を与えてしまう

 何より、今回の上陸者の問題を長引かせることは、尖閣諸島が日中間の係争地であることを他国にアピールしてしまう。
 それは避けるべきだ。

 別にアピールされてもいいじゃないか、歴史的に尖閣諸島がわが国固有の領土であることは明らかなのだから、と思われる方もおられるかもしれない。
 しかし、他国はいちいちどちらが正しいかといった細かい検証などしてくれない。係争があるという事実をます報じ、せいぜい双方の言い分を紹介するだけだ。
 竹島についても、最近ウォール・ストリート・ジャーナルが、「両国の歴史書によると、この島は長く韓国に帰属していた」と報じたそうだ。わが国にはそんな歴史書はないのに。

 1982年のフォークランド紛争で、イギリスとアルゼンチンのどちらに理があるか、わが国で誰か気にしただろうか。

 わが国の立場は「尖閣諸島における領土問題は存在しない」というものである。問題が存在するという主張が広く知られることはわが国益にならない。

 そんな尖閣諸島に今度は日本人が上陸したという。
 政府は上陸を許可せず、彼らも上陸しない方針だったが、一部の人間が海に飛び込んで上陸したのだという。
 朝日新聞デジタルより。

尖閣上陸、5人は地方議員 沖縄県警が10人任意聴取へ

 尖閣諸島(沖縄県石垣市)の魚釣島沖で戦没者の慰霊に参加した日本人のうち10人が19日午前8時前、船から泳いで魚釣島に上陸した。灯台付近で日の丸を掲げたり、灯台の骨組みに日の丸を張りつけたりした。海上保安庁の呼びかけで、午前10時までに10人全員が島を離れた。慰霊には国会議員も参加したが、上陸しなかったという。

 関係者によると、上陸者のうち5人は東京都と荒川・杉並両区、兵庫県、茨城県取手市の各議員。残る5人は民間人。

 海上保安庁は上陸者が戻った船を立ち入り調査したが、法令違反はなかった。政府は島を借り上げて立ち入り禁止にしており、沖縄県警は許可なく上陸したとして、軽犯罪法違反の疑いで20日に10人から任意で事情を聴く方針。

 今回の慰霊の一行は、18日夜に船で石垣島を出発した自民、民主、きづなの超党派の国会議員8人らと、宮古島や与那国島を出たグループを含む総勢約150人。21隻の船団で尖閣沖を目指した。

 19日午前5時すぎに魚釣島沖に到着。船上で午前6時40分ごろからの慰霊祭を終えた後、メンバーが船から海へ飛び込んで上陸した。

 乗船した自民党の山谷えり子参院議員は19日夕、石垣島に戻って会見し、「上陸は正当化できるものではないが、気持ちは分かる」と述べた。山谷氏らは今月初め、慰霊祭のため上陸許可を政府に求めたが、政府は尖閣諸島の平穏かつ安定的な維持管理の観点から、認めていなかった。


 毎日新聞によると、10人の内訳は次のとおり。

上陸したのは鈴木章浩都議、和田有一朗兵庫県議、茨城県取手市の小嶋吉浩市議、東京都荒川区の小坂英二区議、同杉並区の田中裕太郎区議の地方議員5人と、「頑張れ日本!」の水島総幹事長やネットメディア「チャンネル桜」のキャスターやカメラマンら一般人5人。


 朝日新聞の20日朝刊社会面の記事より。

 関係者によると、上陸した10人は数隻に分乗していた。魚釣島沖で慰霊祭を終え、自由解散になった直後。慰霊祭を共催した政治団体「頑張れ日本!全国行動委員会」(田母神俊雄会長)の水島総幹事長(63)を皮切りに次々と海へ飛び込んだ。

 海上保安庁の巡視船が拡声機で「島から離れなさい」と伝えたが、泳ぎ着いた。上陸後は、第2次大戦の犠牲者を弔う島の慰霊碑に手を合わせ、4枚の日の丸を島の灯台などに掲げたという。

 帰港後、沖縄県石垣市のホテルで会見した水島氏は、上陸は「計画的ではない」と強調。ともに上陸した東京都の小坂英二・荒川区議は「政府が日本領だと示す行動をしてこなかったから、こういう手段をとらざるを得なかった。当たり前のことをしただけだ」。

 慰霊祭の船団に加わった前横浜市長の中田宏・大阪市特別顧問は上陸行動について「気持ちはよくわかるが、外交のカードがないまま、こういった形で物事が進むのは感心しない」と話した。


 BLOGOSで「騒ぐ島を間違えている」という論評があったが、全く同感だ。

 山谷や中田が上陸者を否定的に評しているのが救いか。

 新華社通信はこの上陸を批判する社説で、彼らを「右翼分子」と評したそうだ。
 つまり、彼らが代表的日本人であるとはしていない。
 日本の軍国主義勢力が悪かったのであって、人民全体が悪いのではないという、相変わらずの彼らの論理である。
 しかし、これはまだ、彼らが全面的にわが国と対決するつもりがないことを示している。

 中国が警戒を要すべき国であるのは当然だ。だが今は、敢えて対抗して尖閣諸島に上陸すべき時期でも、中国人の上陸犯を長期にわたって拘束すべき時期でもないと私は考える。



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