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「尖閣衝突の船長に起訴議決」の記事を読んで

2011-07-24 00:16:03 | ブログ見聞録
 BLOGOSで、昨年9月の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で、中国人船長が強制起訴されることになったとの記事を読んだ。
 この記事中で2人のBLOGOS参加ブロガーの意見が紹介されているが、その内容が解せない(以下、引用文注の太字は全て引用者による)。

 今回の事件にBLOGOSの参加ブロガーからも意見が寄せられている。まず、元公務員で尖閣問題のエキスパートである「あさってのジョー」氏は、「検察審査会二度目の起訴相当」という記事で、こう書いている。
「このまま行くと強制起訴の可能性が高いのですが、また超法規的措置の可能性もあります」

と、これまでも中国に対して弱腰だった民主党政権の動きに注目している。


 強制起訴の「可能性が高い」とはどういうことだろうか。検察審査会の2度目の起訴議決に対しては、被疑者死亡や刑の廃止などを除き、強制起訴以外の選択肢は存在しない。
 この強制起訴は、検察審査会からの議決書謄本の送付に基づき、裁判所が指定する弁護士によって行われるもので、検察庁すなわち行政府が関与する余地はない。
 検察審査会法をご覧いただきたい。

第四十一条の六  検察審査会は、第四十一条の二の規定による審査〔引用者注・一度目の起訴相当議決に対して検察庁が再び不起訴処分とした場合の審査〕を行つた場合において、起訴を相当と認めるときは、第三十九条の五第一項第一号の規定にかかわらず、起訴をすべき旨の議決(以下「起訴議決」という。)をするものとする。起訴議決をするには、第二十七条の規定にかかわらず、検察審査員八人以上の多数によらなければならない。
〔○2、○3略〕

第四十一条の七  検察審査会は、起訴議決をしたときは、議決書に、その認定した犯罪事実を記載しなければならない。この場合において、検察審査会は、できる限り日時、場所及び方法をもつて犯罪を構成する事実を特定しなければならない。
〔○2略〕
○3  検察審査会は、第一項の議決書を作成したときは、第四十条に規定する措置をとるほか、その議決書の謄本を当該検察審査会の所在地を管轄する地方裁判所に送付しなければならない。ただし、適当と認めるときは、起訴議決に係る事件の犯罪地又は被疑者の住所、居所若しくは現在地を管轄するその他の地方裁判所に送付することができる。

第四十一条の九  第四十一条の七第三項の規定による議決書の謄本の送付があつたときは、裁判所は、起訴議決に係る事件について公訴の提起及びその維持に当たる者を弁護士の中から指定しなければならない。
〔○2略〕
○3  指定弁護士(第一項の指定を受けた弁護士及び第四十一条の十一第二項の指定を受けた弁護士をいう。以下同じ。)は、起訴議決に係る事件について、次条の規定により公訴を提起し、及びその公訴の維持をするため、検察官の職務を行う。ただし、検察事務官及び司法警察職員に対する捜査の指揮は、検察官に嘱託してこれをしなければならない。
〔○4、○5、○6略〕

第四十一条の十  指定弁護士は、速やかに、起訴議決に係る事件について公訴を提起しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一  被疑者が死亡し、又は被疑者たる法人が存続しなくなつたとき。
二  当該事件について、既に公訴が提起されその被告事件が裁判所に係属するとき、確定判決(刑事訴訟法第三百二十九条 及び第三百三十八条 の判決を除く。)を経たとき、刑が廃止されたとき又はその罪について大赦があつたとき。
三  起訴議決後に生じた事由により、当該事件について公訴を提起したときは刑事訴訟法第三百三十七条第四号 又は第三百三十八条第一号 若しくは第四号 に掲げる場合に該当することとなることが明らかであるとき。
〔○2、○3略〕


 そして、「また超法規的措置の可能性もあ」るとはどういうことだろうか。この事件についてはこれまでにも「超法規的措置」がとられたと、この「あさってのジョー」氏は考えているのだろうか。
 容疑者の釈放や不起訴処分は検察官の判断で行うことが法令上当然認められており、那覇地検の措置は「超法規的」でも何でもない。

 それに、仮にこの強制起訴が「超法規的措置」によってつぶされるとすれば、それは裁判所、すなわち司法機関の手によって行われるということになり、そんな事態は考えられない。

 報道各社も、中国人船長は強制起訴されるが2か月以内に起訴状が送達されなければ公訴棄却となり、仮に送達できても出廷しなければ未済事件となるだけだと報じている。
 アサヒ・コムの記事から。

 那覇地裁が指定した弁護士によって船長が起訴されると、地裁は起訴状を船長に送達しなければならない。那覇地裁などによると、送達は、日中間の捜査協力を定めた「刑事共助条約」にもとづいて中国側に頼むのが一般的。ただし衝突事件について、中国側は非を認めておらず、協力を拒む公算が大きい。2カ月以内に送達できなければ、刑事訴訟法によって、起訴状の効力が失われ、公訴棄却となる。

 仮に送達されても、船長が出廷しなければ裁判は開かれず、未済事件として休眠状態になる。日本の司法当局が、船長の身柄を中国国内から強制的に移すことは出来ない。


 この「あさってのジョー」氏は、そのブログを見るところ、例のビデオを流出させた元海上保安官であるようだが、BLOGOSが言うように「尖閣問題のエキスパート」なのかどうかはともかく、刑事手続については必ずしも詳しくないらしい(海上保安官は捜査機関であり刑事手続と無縁ではないはずだが)。

 BLOGOSの記事ではもう1人、

また、ソフトウェア・エンジニアのuncorrelated氏は「尖閣沖中国漁船衝突事件は、検察官適格審査会で決着をつけるべき」という記事を書いた。「(裁判が不可能なら)検察官の適格を直接問うしかない」として、
検察官適格審査会を開くべきだと思う。菅内閣から暗黙の圧力があったのかも知れないが、その場合は司法の独立性を脅かしたわけで、やはり検察官としての適格が疑われる。国際紛争に発展しかねない決断を避けたのだと思うが、外交判断を下す立場に無い以上は責任は回避できない。

と、厳しい言い方で検察の対応を批判している。今回の起訴議決を受けて、中国漁船への政府と検察の対応が改めて問われている。


との見解を紹介しているが、検察官適格審査会というのは、法務省のホームページによると「検察官が心身の故障,職務上の非能率その他の事由に因りその職務を執るに適しないかどうかを審査」するものであり、不起訴処分の妥当性を問うものとしては筋が違うのではないか。
 それはまるで、世論の大勢に反する判決を下した裁判官を、それ故に弾劾裁判所にかけよと主張するようなものではないだろうか。

 また、仮に審査会が開かれ、この検察官が不適格とされて罷免されたら、それでこの事件は決着したと言えるのだろうか。それはいわゆるトカゲのシッポ切りでしかないのではないか。

 この人のブログの記事全文を読むと、

尖閣沖中国漁船衝突事件で、那覇検察審査会が茶番を行っている。起訴相当とする2度目の議決を出したため船長が強制起訴される事が確定したが、船長は既に釈放・帰国しており現実的には意味が無い


とあるが、仮に公判が実際に開かれることがないとしても、検察審査会が「市民感覚」の発現として2度にわたって起訴相当と議決したことは十分意味があるのではないだろうか。
 強制起訴することとなった公判を現実的にどうやって実現するかは裁判所が考えるべきことで、検察審査会の役割は検察官の不起訴処分が妥当かどうかを判断することでしかないのだから。そして、申立てがあれば審査するのが審査員の義務であり、彼らが恣意的に事案をもてあそんでいるのではない。それを「審査会が茶番を行っている」とはどういう言い草だろうか。
 検察官を検察官適格審査会にかけよと言うのだから、uncorrelated氏は検察官の不起訴処分を妥当だとは考えてはいないのだろう。ならば那覇検察審査会の議決を素直に支持すべきではないのか。仮に検察審査会が不起訴を妥当だと判断していれば、検察官適格審査会が検察官を不適格とすることなどますます有り得ない話ではないのか。

明らかに違法性がある行為を『独断』で起訴猶予としたのであれば、検事の責任は免れない。そして那覇地検の鈴木亨次席検事は『独断』だと記者会見で述べた。


ともあるが、よく言われるようにわが国は起訴便宜主義をとっており(検察審査会による強制起訴はこの例外)、「明らかに違法性がある行為」であっても起訴猶予とされることは多々ある。


 私は、この事件は、当初仙谷官房長官(当時)が述べていたように、国内法にのっとって粛々と処理すべきだったと思うし、具体的に言えば起訴してもらいたかったと考えている。当然有罪となっただろう。
 しかし、当時の中国側の猛反発、さらに在中国日本人が拘留されるという事態の発生を受けて、船長を釈放した検察の判断は理解できるし、それを非難すべきだとは思わない。

 ちなみに、当の船長は、5月24日に香港紙「明報」が、ほぼ自宅軟禁状態にあると報じている。
 起訴議決を報じた今月22日の朝日新聞朝刊も、未だ同様の状態にあるとしている。

 船長の母親(62)は21日、朝日新聞の取材に対し「息子はほぼ毎日、家にいる。政府関係者が毎日のように見回りに来る」と語った。村の外に出ることや、人が家に訪ねてくることも「政府が許してくれない」という。


 「英雄」代はずいぶんと高くついたようだ。

 とはいえ政府には、刑事共助条約に基づいて、粛々と起訴状の送達への協力を要請してもらいたい。
 協力するしないは中国が決めることだが、わが政府としてなすべきことはなしていただきたい。



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