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『週刊東洋経済』3月21日号 -「公費が投入されている医療には透明性や公共性が絶対に必要」天野篤教授

2015-03-20 | 『週刊 東洋経済』より
今週の『週刊東洋経済』の医師特集(医療特集ではない)はかなり売れているようだが、
医療界への切り込みが甘く、弊害が大きいと見ている。

「いつもの傾向から言えば取材先に肩入れし過ぎて情報操作に加担している可能性もある」
と当ウェブログは懸念していたが、残念ながら予想通りの結果と言える。

○女性医師の増加で、産休育休による他の勤務医の負担が増える問題を無視
(就業期間の短い医師の育成に投入した公費を強制部分返納させるか、勤務医全員の社会保険料の引き上げが必要)
○医療事故調設立の議論での、医療者側からの保身的な抵抗の強烈さを書いていない
(国民は医師を訴えたいのではなく、真実を知りたいだけなのである)
○医療扶助にたかっている一部医療者の問題を無視している
○例えば精神科における医薬の「もたれ合い」による過剰医療の疑惑を無視している
○「リピーター医師」は群馬大だけの問題ではないことを書いていない
○日本の医師免許は他先進国に比べ、より保護されている(医師不足時代のまま)
○開業医と勤務医の差別的な待遇問題を目立たないように小細工している
○欧州で開業医への規制が厳しい(開業、診療科、休日、夜間)のをはっきり書いてない
○勤務医の厳しい労働環境ばかり強調し、日本の医師の賃金が低いような印象を植え付けている

また、 「私立医大の学生には異常なほど「医師家系」が多い」(=世襲社会への退歩)
「子供に同じ職業を望む医師が非常に多く、内心では自らの職業への満足度も極めて高い」

という半ば公然の事実も書かれていない。

国民には医師の大変さを強調し、家庭では子供を医師にしようと図る。
場合によってはより楽な診療科へと誘導さえしようとする二重基準は、
自分にはどうしても理解できない。誰かその理由を教えて欲しい。

……それに対し、天野教授へのインタビューは本当に素晴らしい。
教授は医療における公費の無駄を批判されているだけでなく
医師の中でも自分の意見が少数派だとしている。
今の医療界に公共性や透明性が担保されているかどうか疑問を投げかけているのだ。
(多くの人はそこを読まずに「どうしたら医学部に子供を入れられるか」しか見ないのだが。。)

『週刊東洋経済』2015年3/21号医学部 医者 ウラとオモテ/過熱化する医学部受験/どうする医師のキャリア/[図解]最新診療科マップ/天野篤 順天堂大学医学部教授インタビュー/[緊急特集]ファミマ ユニー統合で始まるコンビニ大淘汰/[ひと烈風録]谷垣禎一自民党幹事長/[創業家の乱]雪国まいたけ 大王製紙


男女平等を貫けば、これからも女性医師は増え続けると予想されるが、
P92を見ると問題の深刻化も容易に予想できる。
女性医師は働き盛りで10%以上も就業率が下がるから、
投入した公費がその分だけ無駄になるのは明らかである。(特に膨大な税金を使う国公立大学出身者)
就業していない期間は医師確保のために相応の公費投入分を強制返還させるか、
全ての勤務医で社会保険料を引き上げて医師不足対策に投入しなければ更に酷い状況になろう。

また、P94「医師の国際比較」はインサイダーに行わせるべきではない。
外部の第三者に委託しなければ客観性は担保されない。

日本の医師の賃金や労働時間は勤務医だけに限定して意図的に悪く見せている可能性があり、
先進国として理解不能な「自由標榜」の問題と「休日・夜間の偏在」も丸ごと抜け落ちている。
(地域間偏在に問題を矮小化させている)

官庁で医療需給を毎年分析し、医師不足の分野には自動的に診療報酬を引き上げ、
医師充足度の高い分野では自動的に診療報酬を下げるようにすれば良いではないか。
また、開業には夜間・休日の輪番を義務付け(欧州に実例あり)、
どうしてもそれが不可能な場合は診療報酬を引き下げて
そうした負担の重い医療を担う医療者に所得移転すべきである。

医療界にはあれほど秀才が多いのに、自分の利害が絡んでくるとまともな議論ができなくなる。
北原茂実氏が何年も前に警告した、日本の人口動態の破壊的な影響も見ずに。
(北原氏は日本の医療が利害関係者のいがみ合いで動きが取れなくなっていることも指摘している)

    ◇     ◇     ◇     ◇

今週の『週刊ダイヤモンド』の特集「都市対決」は悪くないが、枝葉末節感が強い。
日本の地方自治は基本的には横並びで団栗の背比べでしかない。
(地方自治体の側にも中央官庁の側にもその原因がある)

P94の「知事力ランキング」は興味深いものの
それほど大きな差があるかと言えば疑問符が付く。
(個人的には熊谷俊人・千葉市長が最も注目すべき存在と見ている)

『週刊ダイヤモンド』2015年3/21号特集1 いざ都市対決!/日本全国 永遠のライバルが激突/勝ち負け判定付き30番勝負!/


サブ特集の「歪んだ観光立国」の方が素晴らしい。
東京・大阪のホテルが足りないそうだが、
民泊より稼働率の低い宿泊施設をマッチングさせた方が遥かに効率が良かろう。

急増するアジア言語のガイドが足りないのだから、
公募して大学に委託しガイドを養成すれば良い。
(これは定年後の仕事にも向いており、雇用創造になる)

文科省が大学に実学教育を担わせようとしているようだが、
こうした「実需」のある分野こそ実学に相応しい。
(しかし官庁は縦割りだし、大臣は我が強く目立ちたがりだから前途多難だ)

    ◇     ◇     ◇     ◇

『エコノミスト』の中東特集もなかなか良い。
漁父の利で着々と勢力を拡大するイランについてもう少し触れて欲しいが、
結局はテロや内戦も冷酷なパワーゲームの一環でしかない中東の難しさが分かる。

この地域を概観するにはP41「ほとんどが独裁国家、石油が潤す経済」
(日本エネルギー経済研究所の保坂修司氏の執筆)を強く薦めたい。
人口増加率が高く、若年失業率も高いのだから、
日本の学生運動の時代と同じく暴力と反体制運動の高揚は避けられないと言える。

『エコノミスト』2015年 3/24号


他方、P78の阿部彩女史の寄稿は日本のリベラルもしくは反貧困派の非力さを印象づけるものだった。
日本で最も豊かな生活をしている層のひとつは、著者のように共稼ぎで
しかも女性の方が安定収入をほぼ保証された正規公務員である場合だ。
(産休も育休も有給も退職金も共済年金も民間企業より総じて恵まれている)
「恵まれた自分達が拠出する」とどうして表明できないのだろうか。

結婚せずに年老いる女性への合理的な対策は著者の主張するような「カネを恵む」ことではない。
(それではアフリカの貧困支援と同じ失敗を繰り返すことになる)
就労を支援し自立して暮らしていけるようにすることだ。
結婚しない女性を放置しておけば、生活保護予備軍が増えるのは火を見るよりも明らかだ。

そもそも学歴や職業による所得格差は男性よりも女性の方が大きい。
著者のような高学歴・高所得女性が「応能負担」を受け入れ、
学歴に恵まれない低所得女性への支援を自ら申し出るのが理の当然であろう。

    ◇     ◇     ◇     ◇

次週はまた「売りサイン」を出している東洋経済に注目、12月の派手な株式特集は明らかな「売り」だったから。
  
▽ ど素人を株式市場に誘い込む特集、今回も大幅下落を迎えたら「逆指標」決定だろう

『週刊東洋経済』2015年 3/28号


▽ なぜ表紙がペンギンなのか不思議なダイヤモンド特集、タイトルは「叱る力」にした方が……

『週刊ダイヤモンド』2015年3/28号特集1 叱れない上司 叱られたい部下/「叱り方」を学べば関係が劇的に変わる!/特集2 新日鐵住金「失地回復計画」


▽ エコノミストはまた水素特集だが、まだ揺籃期なので具体的な市場成長の話はないと思われる

『エコノミスト』2015年 3/31号

ベネズエラ危機のレポートには目を通しておきたいが、左程の大事にはならないのだろう。
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早春の注目新刊 -『人間ドックの9割は間違い』『中間層消滅』『東京劣化』『ブラック企業2』etc

2015-03-20 | こんな本を読んでいます
三月の祝日に新刊紹介です。
やや小粒な印象はあるものの面白いものが出ています。

『人間ドックの9割は間違い』(牧田善二,幻冬舎)


 → 人間ドックについては余りにもビジネスの側面が見え透いているので
   恐らく誰かがこうした内容を書くだろうと思っていましたが、案の定。
   関係者が青筋たてて怒号し反論してくると予想されますが、
   それは一番痛い所を衝かれた条件反射のようなものです。
   自分の利害が絡んでくると途端にエヴィデンスを出さなくなる医療関係者が多い日本の現状。。


『中間層消滅』(駒村康平,KADOKAWA/角川マガジンズ)


 → 駒村教授は本当に信頼できる方で、こちらも良作。
   アベノミクスをヨイショしている太鼓持ち学者とは誠実さが違います。
   日本経済がどんどん劣化している実態が如実に理解できる一冊。


『「日本でいちばん大切にしたい会社」がわかる100の指標』(坂本光司,朝日新聞出版)


 → 例のシリーズで余りにも有名になってしまった著者が、
   企業紹介ではなく珍しく具体的な経営指標について書いています。
   どれだけ良い企業を紹介しても日本経済が良くなるかどうかとは別と思いますが、
   (軍事において「戦術で戦略の誤りを挽回できない」のと同じ)
   非常に参考になります。


『マクドナルド 失敗の本質: 賞味期限切れのビジネスモデル』(小川孔輔,東洋経済新報社)


 → こちらは以前より紹介しています。
   企業経営分析の一つのお手本として良書。
   経営層・コンサルだけでなく、大学で経営学を学ぶ学生にも勧めたい。


『ブラック企業2 「虐待型管理」の真相』(今野晴貴,文藝春秋)


 → 「ブラック企業」の名称とともに一躍有名になった今野氏の続作。
   本当に、過労死を起こした企業は例外なく名前を公表すべきと思います。
   (加えて精神疾患や労基法違反が極端に多い企業も公表すべきでは)
   但し前作の時からそうではあるものの、作中の処方箋は企業経営の実態と余りに乖離しており
   マクロの雇用改善策も書かれていません。


『東京劣化』(松谷明彦,PHP研究所)


 → 現状分析としてはかなり評価でき、人口動態劣化の重大性が分かります。
   但し著者は依然からそうですが、出生率のV字回復に成功した北欧の人口政策を無視。。
   官庁エコノミストの立場から失政を隠蔽して責任転嫁しているように見えてしまいます。

   現下の日本の出生率低迷には、無策の政治家とキャリアの責任はどう見ても重大です。
   何一つとして有効な対策を取っていない彼らの退職金・年金の大幅カットは当然でしょうに。


『日本の大課題 子どもの貧困: 社会的養護の現場から考える』(池上彰,筑摩書房)


 → 「子供の貧困」でも池上本が出ました!
   細かな点にも目配りしているものの、子供の貧困率の低い欧州国は
   例外なく税率が高く、国民負担が重いことを指摘すべきかと。
   また、高齢層向けに歪んでいる日本の社会保障の現状にも触れていません。


『本社はわかってくれない 東南アジア駐在員はつらいよ』(下川裕治,講談社)


 → 読んでみると非常に興味深く、
   前々から噂されていた「日本人を騙す日本人」は矢張り多いようです。
   同じ立場のサラリーマンだけでなく、「本社」の方々も読んで欲しい本。


『死ぬまでに行きたい! 世界の絶景 日本編』(詩歩,三才ブックス)


 → 最後に、観光シーズン前にこちらをお薦め。
   昨年出版でかなり売れたので知っている人が多いかも。
   「世界篇」が先ですが、こちらの方が内容は良いと思います。

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