ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

宇宙よりも遠い場所・論 31 友達ってこれですね。ね? 03

2019-01-02 | 宇宙よりも遠い場所
 Bパートは翌朝。作業まえ、向かい合って相互の安全確認をする男性隊員たちのようすからスタート。
 キマリたちは弓子の手伝いで、食糧庫から冷凍チキン、シーフードなどの箱を運び出す。そのあと、キマリ・日向はチキンの解凍を頼まれ、適当な場所を探して基地内やら周辺をうろうろ。


このツーショットは久しぶり


 報瀬・結月はひきつづき弓子を補佐してケーキづくり。クリスマスの時季なのだ。「基地での暮らしで重要なのは食事とイベント。限られた空間で、単調な生活が続くからね」と弓子。できあがったのち、外ではたらく隊員たちに差し入れにいく。

このツーショットは珍しい……というより初めてだ。結月はここでも浮かぬ顔。「これって、いうなれば誕生日のお祝いですよね……不公平じゃないですか……誕生日は等しく訪れるのに、お祝いしてもらえる人として貰えない人がいるなんて……」 そんな結月を気遣わしげに見つめる報瀬


 そのとき、結月の歌う「フォローバックが止まらない」が聴こえてくる。結月のファンである氷見(敏夫と仲のいい人)がCDをかけているのだ。ようやく結月の顔が明るくなる。
 夕刻。管理棟にて、4人そろったところで結月が、ドラマの仕事を受けることにした、という。「楽しみにしてくれてる人もいるはずだって思って……」 そりゃそうだ、と喜ぶキマリたち。
 ここからがモンダイである。おもむろに結月が「友達誓約書」なるものを差し出す。「これ、書いてくれませんか? これがあれば、この旅が終って、一緒にいない時間のほうが増えても、大丈夫かなって」


 友達誓約書。

 文面は以下のとおり。

1 私、白石結月とあなたは、友達である、ということを約束してください
2 この旅が終わったとしても、私たちの友情は絶対に終わらない、と約束してください
3 どんなに距離が離れていても、私たちは友達であり続けると約束してください
4 どれだけの時間私と会えなくても、私と友達であり続けると約束してください
5 もしも時間を合わせることができたなら、何があっても必ず会う、と約束してください


 日向はオトナだから、ふつうに困惑する。「あのなあ……」
 報瀬は純粋なので、ひたすら真面目に応対する。「こんなの意味ない。私、一人きりだったからわかる。こんなことしても……」

 そして、並外れて共感能力の高いこの人は……
 報瀬のことばを遮って、


う……うう……

ごめん、ごめんね

わかんないんだよね


わかんないんだもんね……。あーんあん。あーんあんあん


 じぶんがぼんやり想像してたより、けっこうマジでこの子はやばかった。そうか、「生まれてから一度も友達がいなかった」というのは、こういうことなんだ。こういうものを書いてしまうということなんだ。
 そこをわかっていなかった、そこまでわかってあげられなかったことが悲しくて、そういうものを書いてしまう結月が悲しくて、泣きながら「ごめんね」と詫びるキマリはどこまでも優しい。第3話、出会って初めて4人ファミレスで言葉を交わしたとき以来2度めの抱擁である。



宇宙よりも遠い場所・論 30 友達ってこれですね。ね? 02

2019-01-02 | 宇宙よりも遠い場所
 3年ぶりの基地はとにかく忙しい。
 雪上車の手入れをする敏夫。施設の雪かきをする隊員たち(迎船長も、研究者の夢さんたちもふくむ)。調理室の電源を入れて「さっ、大掃除大掃除」と自分に気合をかける弓子……。もちろんほかの人たちも、各々の持ち場で立ち働いている。
 キマリたち4人も、荷降ろしの手伝いに精を出したようだ。上背のある報瀬が中心になって働いたのだろうか、「大丈夫?」と労うかなえに、「はい。引っ越しのバイトやっていたので」と答える姿が頼もしい。
 10分間の休憩。結月がスマホを取り出し、「あれ? メールが来てる」という。「さっき基地にいたとき届いたのかもね。管理棟の近くは電波が届くから」と、かなえ。「へー、南極でもスマホ使えるんだな」と日向。短いカットだが、報瀬が「メール」の一語に反応し、さっと結月のほうを見る。

「メール」に鋭く反応する報瀬


 ここでキマリがペンギン発見。「5メートル以内に近づいちゃだめだからね」と念を押すかなえに「わかってまーす」と答えながらカメラを向ける日向。ペンギン君、なぜかこっちに近づいてくる。4人の中でもとくにペンギン好きの報瀬は、一転してこのありさま。

「待て待て待てバカ、5メートル、5メートルだっ」

 いつもながら、「陰」と「陽」とのさじ加減が絶品。
 なお、ここでの撮影は、キマリの「南極4大目標」(私が勝手に命名しました。07 名づけてコンパサー 参照)のひとつ「ペンギンと記念写真撮る」にはカウントされない。
 結月へのメールはマネージャーを兼ねる母からのもので、出発前に受けたオーディションの結果を伝えるものだった。「朝ドラの主人公の親友役」に決定したという。

荷降ろしが終れば雪かき。次から次へと仕事はある。オーディションに受かったのに、結月は浮かない顔……といってもマスクしてるので見えないが
ちなみに一人だけマスクを取ってるのはキマリ。息苦しくて苦手らしい。のちの「タヌキマリ」の前兆である


 棟の中に入って掃除しているとき、結月がオーディションの件を話す。祝いを述べる3人に結月は、「でも、撮影に入ったらこんなふうに一緒にいられないんですよ」という。そこでキマリが、「いいじゃない。もうみんな親友なんだから」と答え、結月に「え? そうなんですか?」と返されて、前の記事に貼らせて頂いたあの画像となる次第。
 「友達」にかんする結月の思考回路は独特で(それこそがこの10話の眼目なのだが)、はっきりと「約束」の形で明示されねばその関係にはならないってことらしい。物心ついた頃から子役として契約社会で過ごしてきたゆえか。
「私が北海道にいるあいだに、3人だけでそういう話になったんですね」と、ここから結月がいじけまくる。

いじけ001

いじけ002

いじけ003


 しかしまあ、こうやって改めて見ると、それまでの「しっかりした子」の仮面を外して、3人に甘えてるだけとも思えるなあ……。
 とはいえ、内なる感情がしぜんに流れてはいないってことは確かなので、お姉さん方(1歳……というか、事実上は数ヶ月上なだけだろうが)としては、やっぱり放っておくわけにはいかない。
 日向「とにかく、ゆづに隠して私たちが何かしたことは一つもない」
 キマリ「あ、1コだけ隠してることあるかも。でも、友達であることは確かだよ。私たちみんな」
 結月「でも私、いちども言われてません。友達になろうって」
 うーん、と、当惑する3人。
 ここでいったんシーンチェンジして、夜。
 報瀬は日向の部屋で相談。
「言えばいいんじゃない? 友達になろうって」
「ダメだろう。(結月のマネをして)そんなの、私が言わせてるみたいじゃないですかあぁぁぁ」
「やらなくていい。キマリは?」
「さあ。なんか、大丈夫とか言ってたけど」
 調理室で、にこにこしながら、弓子から薄力粉を分けてもらうキマリ。ケーキをつくるつもりなのだ。第8話で、じゃが芋の皮むきを手伝った際に交わした「あ。デザート作れるんですね」「ありあわせの材料でだけどね」というやり取りが、この伏線になっていた。