ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

宇宙よりも遠い場所・論 29 友達ってこれですね。ね? 01

2019-01-01 | 宇宙よりも遠い場所
 「15 ロケーション・ハンティング」で述べたとおり、このアニメには、国立極地研究所、海上自衛隊をはじめとする「強力な協力」が付いているので、基地のようすや、その中での生活などといったディテールはきっちり再現されている。それだけ見てても面白いし、ためになる。
 とはいえ、これはドキュメンタリードラマではない。「物語」なのだ。だから、「南極」とは、キマリ、報瀬、日向、結月、ひとりひとりが、自らの課題をはたすための「象徴」としての場所でもある。
 第10話、第11話、第12話は、4人がそれぞれの課題を順にはたしていく回だ。そのためにこそ、4人ははるばる波濤を越えて、この地にまでやってきたといっていいくらいだ。はっきりとそう意識してるのは、報瀬だけだけど。
 中でもっとも重い課題を担っているのは、もちろん、「喪の仕事」を控えるその報瀬で、だから報瀬が課題をはたすのは、3回のうちのラストの12話だ。これは彼女の課題がそれほど重いってことでもあるし、キマリ、日向、結月の3人が、そんな報瀬を支えるため、あるいは手助けするために、先に自分たちの課題をはたしておかなきゃならなかったってことでもある。
 それぞれの課題をはたし、その分だけ成長して、さらに4人の絆を強めたからこそ、それぞれが、報瀬に力を貸すことができた。
 むろん、彼女たちそれぞれも、報瀬を含めたほかの3人に支えられ、手助けされたからこそ、それぞれの課題をはたせたわけだ。
 「課題をはたす」「それぞれ」という語句がやたらと出てきてややっこしいが、それくらい、ややっこしい事が起こってるんである。
 ひとことでいえば、4人が4人を、絶妙のバランスで支え合い、助け合ってるってことなんだけど。
 わちゃわちゃしたり、すっとこどっこいな真似をしながら、4人が4人を支え合うこの精妙なメカニズムは本当に比類ないもので、その点において、「自分がこれまで見てきたドラマ、アニメ、なんなら映画も含めて、あらゆる中でのベストワン」というぼくの評価は、年を越しても揺らいでいない。


 第10話「パーシャル友情」で自らの課題をはたすのは結月である。軽い課題から順に解決されていく。結月のばあい、軽いというか、課題はすでに解決ずみで、それに気づいてないだけともいえる。
 しかし、「それに気づかない」ってこと自体がモンダイで、それこそを課題とみるならば、じつはそんなに軽くもない。
 友達のことだ。
 結月は「友達が欲しい」と切望しており、だからこそ3人と共に南極に行くことを決意した。準備を重ね、訓練もこなし、飛行機でシンガポールに行き、フリーマントルに行き、船に乗り込み、船酔いを乗り越えてここまで来た。深夜の甲板で波をかぶってみんなで笑ったりもした。南極の地を4人一緒に踏み、その歓びを分かち合った。
 毒舌だってさんざんふるった。
 それなのに、「私たち……親友なんですか?」てなことを、この期に及んで、結月という子は言い出すのである。「いつそんな話になったんですか?」
 それを聞いたこの人が、こんな顔になるのも致し方ないところだ。

キマリ「うう……」
日向「泣くな……」


 一方ではあんなにしっかりしてるのに、半面で、そんなにも幼い部分を持ち合わせる。
 第10話「パーシャル友情」は、そんな「一つ年下のちょっと困った子」を、あとの3人がわちゃわちゃしながら包んであげる回である。


 冒頭は、視界いっぱいに広がる氷原のカット。それを見つめる4人。
 日向「南極かあ」
 キマリ「南極だねえ」
 結月「南極ですねえ」
 報瀬「うん……」



 あんなに感情を激発させた報瀬、あきらかに虚脱のていである。じっさい、「ざまあみろ!」と叫んだこと自体を報瀬は忘れてしまっていた。まあ、この時点では覚えてるのかもしれないが、後では完全に忘れていた。そのことは第12話でわかる。そもそもこのキョトンとした表情そのものが、12話のための伏線なのだ。


 昭和基地まではヘリで移動。重量制限は、体重+荷物でひとり100キロまで。


 キマリと日向は空からの眺望を楽しむが、高所恐怖症の報瀬(軽度)、結月(重度)は奥に引っ込んでいる。この件は、ギャグとしてOPでもやっている。
 ヘリポートに降り立ち、いよいよ南極生活のはじまり。ヘリのプロペラが巻き起こす風は身を切るように冷たいが、それが収まったあとはさほどでもない。
「12月は夏だから、あたたかい日は、氷点下いかない時もある」と報瀬。
 かなえの案内で、ついに昭和基地へ。

管理棟。「家でいえば、みんなが集まるリビング」と、かなえ

発電棟

居住棟

倉庫

そして、4人が暮らす夏隊用の宿舎。通称「レイクサイドホテル」



特別待遇で、個室があてがわれる。「これでようやくキマリさんの謎の寝言から解放される」と結月(ここで回想されるキマリの壮大な寝言も爆笑ポイントめちゃ高し)


 床暖房だし、窓からの眺望もよく、思った以上に快適そうだ。
 ここでまた、荷降ろしの手伝いのためにヘリポートに戻る。3年のあいだ放置されていた基地にまた息を吹き込むわけだから、猫の手も借りたい忙しさなのだ。