ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

宇宙よりも遠い場所・論 35 訣別すべき過去もある。01

2019-01-05 | 宇宙よりも遠い場所
 気づけばもう35回目。しかし、いかに言葉を費やそうと、画像を貼らせて頂こうと、本編のもたらす感動は、万分の一も伝えられはしない。当たり前のことである。
 ディスクは発売中だし、プライムビデオでも放映してるから、少しでも宣伝になればと思って続けてるんだけど、いってみればこれは、壮大な交響楽を耳コピして勝手に譜面に起こしてるようなものだ。未見の方は、このブログを読んで「あーふむふむ。そういう話ね。大体わかった」って気分になられぬよう、くれぐれもお願いいたします。
 もちろん全話そうなのだが、ことに第12話と、この11話にかんしては、どう逆立ちしてもその感動を再現するなど不可能だ。繰り返しになるが、採録した譜面(それも耳コピの)で交響楽の真価を知ることはできない。本編をご覧くださいとしか言いようがない。
 ここまで見てきた10話まででも、十分に「アニメ史」に残る名作といっていい。けれど、この11話と12話によって、『宇宙よりも遠い場所』は、名作を超えた何かになった。


 第11話のサブタイトルは「ドラム缶でぶっ飛ばせ!」。ナントカでぶっ飛ばせ!という題にはけっこう先例がある。爽快な感じだ。いっぽう、ナントカをぶっ飛ばせ!という題の映画などもあり、こちらはもうちょい物騒なのが多いようだ。助詞ひとつでニュアンスが変わる。
 日向が自らの課題をはたす回である。ただ、ほかの3人と違うのは、日向にはそんなつもりは(少なくとも意識の表面では)まったくなかったってことだ。前面にぐいぐい押し出てくるのは報瀬で、むしろ報瀬が日向に「課題をはたさせる」というべきか。
 「背中を押す」というよりも、「手を引っ張る」という感じ。強引といえば強引だ。第6話、シンガポールでの一件の再演ともいえるし、色んな面であの回が下敷きになっている。
 キマリは今回、サングラスで保護した目の周り以外こんがりと焼けた狸顔、いわゆる「タヌキマリ」状態。この「タヌキマリ」は絶品で、これをやりたいがためにスタッフは彼女たちの郷里を舘林(タヌキの置物で有名)に設定したんじゃなかろうか。
 タヌキマリは今回あまり目立たない。もしも今回だけ見たら、たぶん主役だとはわからないだろう。そのことにも意味があると思うので、あとできちんと考えたい。ただし、「ここ一番」という時に、俄然、なくてはならないコンパサーぶりを発揮し、報瀬に進むべき方向を示す。


 冒頭のカットは強風の吹きすさぶ屋外。
 wikiによれば、「ブリザード」という用語には厳密な定義があって、「南極の昭和基地においては視程1km未満、風速10m/s以上の状態が6時間以上続く状態」だそうだ。だからブリザードと呼んでいいかどうかは不明だが、かなりの荒天には違いない。
 その情景にかぶせて、「嫌だ! 死にたくない」「うるさい!」「離せ。だから私はこんな所に来たくなかったんだ」と、穏やかならざるやり取りが流れる。ただし、内容は剣呑だけど口調は完全にふざけている。
 カメラが切り替わって基地の中。覆面をした謎の人物が、日向に後ろからヘッドロックをかけ、水鉄砲(8話の浴室シーンで出てきた)を突き付けている。「キマリさん……」と、結月。「黙れ。こいつの命が惜しければ、さっさとカネを出せ」「残念ですが、うちは臨時なので銀行業務のほうは……」
 すぐにわかるが、南極と日本とを結んで中継する大晦日の企画のリハーサル前なのだ。部屋にはカメラやマイクが置かれている(前話のEDあとのエンドカットでかなえや敏夫が準備していた)。
 報瀬が「ふざけてる場合じゃないでしょ」といって覆面を脱がせ、バキューン、という効果音と共にタヌキマリ出現。

「まだ笑うの!」と言ってるので、これまでさんざん笑い倒されたようだ。報瀬までが笑っている。結月だけはしれっとしているが、このあとで堪えかねたように「ぷくく」と吹き出し、キマリはマンガ泣きをしながら「結月ちゃん、そういうのがいちばん傷つく……」という



 タヌキマリネタはまだつづく。中継が繋がるや、キマリの母と妹のリンが、「ばはは」と爆笑するのだ。「何その顔ー? 写真写真」「大晦日の中継その顔でできるのー?」。感動の再会もへちまもない。まことに明るいご家族である。
 「あーおなか痛い」と目をこする日向に、カメラの向うのアナウンサーが、「あと、三宅さん。この中継テストの話を聞いて、三宅さんの友達が来てるの」という。
 「友達? ……私の?」と訝りながらカメラの前にいく日向。モニターにこの3人が映る。


「三宅さん久しぶり。あれからずっと連絡取れなくて、心配してたんだよ」

日向、いきなりカメラのレンズを抑え、そのままじっと動かない。モニターの向こうで「あれ? 故障かなあ」と訝る声がする。こちらでは報瀬(中継が繋がったとたんに飛んで逃げた)だけが異変をおぼえて「日向?」という。キマリと結月は何も気づかない




 しばらく俯いていた日向、「痛(い)ったー。足つったー。報瀬ーごめんあとよろしくー」と言って部屋から出ていく。心配と当惑の入り混じった顔で「え、ちょっと、日向?」という報瀬。
 「日本から隊員へのメッセージ 羽生第三高校陸上部一同より 三宅日向宛」と書かれたタイムスケジュール表が映って、ここまでがアヴァン。