ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

メイキング・オブ・モータウン

2020-09-19 01:43:36 | ま行

観れば、自然と体が動き出す!

いやー、やっぱ音楽は、いいわ!

 

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「メイキング・オブ・モータウン」72点★★★★

 

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1959年、米ミシガン州デトロイトの一軒家で

レコードレーベルをスタートさせた

モータウン創設者ベリー・ゴーディ氏(90歳)が

初めて密着取材をOKし、語り尽くしたドキュメンタリー。

 

ご隠居の手柄話、といえばそうなんですが

これは自慢するのも無理はない(笑)

 

テンプテーションズ、ダイアナ・ロス&スプリームス、

スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、ジャクソン5といったスターを生み出した

世紀のレーベルですからね。

 

子ども時代から「目端の利く子だった」と自身を語るゴーディー氏。

自動車工場での勤務経験から、歌手育成システムを思いついたとか

とにかく、その「経営術」もおもしろい。

もちろん商売っ気だけでなく、

音楽センス、何より人を見抜く目があったわけで。

 

なにより、

どれも曲を聴けば「ああ!この曲ね!」と体が動き出してしまう

その偉大さに、感服するのであります。

 

特に感銘したのが、1960年代、

貧しい出自の黒人歌手たちが多かった時代に

「品格と尊厳ある人間」であると、周囲に理解させるべく

まず、彼らの言葉使いや振る舞いを徹底的に教育した、ってところ。

 

「女王陛下の前に出ても、恥ずかしくないように」とマナー教育を受けた彼らは

結果、その音楽性を正当に評価され

「カッコイイ黒人!」として、あらゆる人種、また同じ黒人たちの憧れにもなり、

全体の意識のボトムアップにもなった、という点に

感銘いたしました。

 

南部では、まだ白人と黒人がトイレも別だった時代。

「ツアーに出ると命がけだった」と語る、当時を知るミュージシャンたちの証言は

それが大昔でなく、ほんの少し前のことだったとわかる。

 

そんななか、多くの「目標となる」黒人を生み出した

モータウンの業績は称えきれないですね。

 

それでもまだ

「歌手は政治や戦争など、主義主張を歌うな」という時代だった。

 

そのなかで、かのマーヴィン・ゲイの名曲

「What’s Going On」が出来た経緯もつまびらかになる。

 

そして、いま時代は2020年。

#BLM運動に見られるように、さて、世界はどうなっているのか?

 

今こそ、「What’s Going On」の曲が必要だ、に激しく同意します!

 

★9/18(金)から全国で公開。

「メイキング・オブ・モータウン」公式サイト

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セノーテ

2020-09-18 23:46:59 | さ行

タル・ベーラを師匠に持つ小田香監督の新作。

 

「セノーテ」71点★★★★

 

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メキシコ、ユカタン半島北部に点在する

セノーテと呼ばれる洞窟の泉。

 

そこはかつて、マヤ文明の時代に

雨乞いの儀式のために、少女たちが生け贄として

投げ込まれた場所でもあった。

 

その場所を巡って交錯する

人々の過去といまの記憶とは――?!

 

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「サタンタンゴ」「ニーチェの馬」タル・ベーラを師匠に持つ小田香監督の最新作です。

 

メキシコにある、美しい泉、セノーテ。

神聖な泉として古代から生け贄が投げ落とされてきた

その場所にスポットを当て

 

その忌まわしく悲しい歴史を

泉に潜るカメラや、水や光や音で表現した映像と

現在の村の祭りや生け贄の動物たち――などから構成し

イメージの氾濫で描く75分。

 

基本はドキュメンタリーですが、

それを超える感覚的表現は、ジャンル分けできない魔力を持っています。

 

 

神秘的で深い青色をたたえた洞窟と泉。

そこに閉じ込められ、水に溶けてしまった少女たち。

 

詩の朗読と、現地の人々の泉にまつわる証言、そして

断末魔の叫びを上げる獣の引き裂かれるような悲鳴――などが

鮮烈に

泉に投げ落とされ、犠牲となった少女の魂を映し出している。

 

伝説や因習を前に、ありえない非道も行ってしまう

人間の残酷さが、ヒタヒタと足もとに迫ってきて

その冷たさに、思わず足をひっこめるほどの、

生々しい感覚がありました。

 

世界にはばたく若い才能のために

2020年に設立された、第1回大島渚賞を受賞。

めでたい!です!

 

★9/19(土)から新宿K's cinemaほか全国順次公開。

「セノーテ」公式サイト

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TENET テネット

2020-09-17 23:52:38 | た行

ネタバレ?大丈夫です。

ネタもなにも、全然、わかってませんから!(開き直り!笑)

 

「TENET テネット」71点★★★★

 

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ウクライナ。

満員のオペラハウスで大規模テロが発生する。

 

人々を救うため、特殊部隊に参加していた

主人公の名もなき男(ジョン・デイビッド・ワシントン)は

銃の弾が逆回転して、発射前に戻る、という謎の一瞬を目にする。

 

が、結局、敵に捕まってしまった彼は

拷問の末、自決した――はずだった。

 

が、なぜか目を覚ました彼に、新たなミッションが与えられる。

それは「未来からやってくる敵から、第三次大戦を防げ」というもの。

未来の世界では「時間の逆行」という装置が開発され、

それによって過去への行き来ができるようになっていたのだ。

 

その仕組みは???な彼だが、

キーとなる「テネット」という言葉と

ニール(ロバート・パティンソン)という相棒を得て、行動をはじめる。

 

そして彼は

すべての鍵を握る武器商人セイター(ケネス・ブラナー)と、

彼のかごの鳥となっている妻

キャット(エリザベス・デビッキ)に出会うのだが――。

 

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薄々予想はしてましたが、すみません。

本当に世界のルールが真に理解できず

ついていけませんでした(泣)

描かれてるのは「時間の逆行」で

何をしてるかは、なんとなくわかるんですが

映像でも

「何が起こってるか」を、すごくわかりやすく、未体験の映像として見せてくれているんですが

 

仕組みが、やはり難しい。

「エントロピーの法則」とか、ボンボンくるですもん(苦笑)。

 

 

「インセプション」(10年)「インターステラー」(14年)

一番難しいところがずっと、みたいな。

「ああ、あそこはもにゃもにゃもにゃ・・・・・・」でなんとかやりすごしてきた

そのレベルを超えられてしまった。

 

ノーラン監督の頭のなかって、ホントどうなってるんでしょうね???

 

でもね、いいんです。

わからずとも、この映像を体験し、頭をフル回転させながら謎解きをする楽しさは十二分。

 

それにね映画って、期待して観るまでが、まず一番楽しいの。

で、この映画は鑑賞後も

2時間半前の、まったくまっさらの同じ期待値で

また観たい!と思える。

 

これこそが、ノーラン監督が仕掛けた“時間の罠”なんだとワシは思いました。

 

 

この物語とルールは

ノーラン監督の中では、完璧に構築されてるんだと思うんですが

この世界の設計図にスタッフも、役者もついていって完成させたんだよな・・・・・・と考えるとめちゃくちゃすごい。

全員への共通認識用のマニュアル、解説書とかないの?!とか

本気で思いました。

 

で、鑑賞後しばらくして

プレス資料=プロダクションノートをいただいてみると

少なくとも俳優たちは「???」のままで、この世界に飛び込んだよう。

そうなのか。それもすごいぞ。。

 

観ながら感心したのは「トワイライト」シリーズでおなじみのロバート・パティンソン、

観ていてもしばらく「ハテ、これ、誰?」と思わせるほど

かっこよかったですよ。

あと身長190センチとか言われるパーフェクトなエリザベス・デビッキも美しい!

 

 

ワシは映画をみたその夜、

そのまま大好きな「インターステラ-」(14年)を見直しました。

うん、なんか少し、ほどけたような。

「メメント」(00年)も見直したほうがいいですね。

監督がループしている「箇所」がすごくよくわかる。

「インセプション」(10年)ももちろん、つながっているでしょう。

 

個人的にはこの世界の感覚、これも大好きで4回は観てる

トム・クルーズ主演の「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(14年)にも通じる気がしました。

 

まずは体験してみてください!

そして、物理学方面などの専門家の助けを借りながら

語り合いましょう!

 

★9/18(金)から全国で公開。

「TENET テネット」公式サイト

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新しい街 ヴィル・ヌーヴ

2020-09-15 23:26:42 | あ行

奇妙なほどずっと、頭から消えないんです。

 

「新しい街 ヴィル・ヌーヴ」71点★★★★

 

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1995年、カナダのケベック州モントリオール。

 

英仏二語が公用語であるカナダにおいて

フランス語圏であるケベック州は、カナダからの独立がこれまでに何度も盛り上がってきた。

 

実際、15年前の1980年にも独立投票があったが

そのときは、反対票が多かった。

 

主人公ジョゼフは、そんな1980年の敗北を引きずり

アルコールに溺れ、妻エマや息子と別れていた。

 

そしていま、

再び独立のための投票が行われることに。

賛成票が50%を超えれば、カナダからの独立を果たせる。

 

しかし、ジョゼフは独立運動が盛り上がる都会を離れ、

海辺の街ヴィル・ヌーヴで家を借りる。

 

そこは元妻エマとの想い出の地でもあった。

 

エマに電話をし「こっちへこないか」と誘うジョゼフ。

最初は相手にしなかったエマだが、

やがてヴィル・ヌーヴへと車を走らせる――。

 

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カナダ発、全編モノクロームの墨絵で描かれたアニメーション。

 

1995年、カナダのケベック州モントリオールを舞台に

ケベック独立運動の挫折を抱えた中年男と、その元妻の物語で

 

独特の淡い線で

砂のようにサラサラと消えていく人物や風景が描かれます。

 

そこにあるのは

社会変革を目指すも道遠く、挫折から立ち直れず

現実や妻子から逃避した中年男のグズグズ。

 

それを詩的に、叙情的に描き

「虚無」の感覚が、

絵とマッチして、アートに昇華されているなあと思った。

 

でも、最初観たときは、正直そんなに「うお!」という感じではなかったんです。

しかし、観たその夜に

この絵で、夢を見たんですよね。

 

で、それからずっと頭から

この寄せては返す波のように、もろく、うつろな感覚が、消えない。

 

この映画、ワシにとって

いま、この日本で感じているもどかしさや虚無感に

ものすごくマッチしてしまったのかもしれない・・・と思うのでした。

 

ちなみに本作のインスピレーションのもとになっているのは

レイモンド・カーヴァーの短編「シェフの家」だそう。

レイモンド・カーヴァーといえば、村上春樹氏の訳でけっこう読んだなあ。

 

★9/12(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「新しい街 ヴィル・ヌーヴ」公式サイト

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スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~

2020-09-13 18:02:52 | さ行

自分さえよければいい、ではない世界に

先に踏み出している人がいる。

リスペクト!

 

「スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~」72点★★★★

 

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自閉症の子どもたちをケアする

民間団体「正義の声」を運営するブリュノ(ヴァンサン・カッセル)は

今日も朝から駆けずり回っていた。

 

支援する青年の一人ジョゼフが

電車の非常ベルを押し、鉄道警察に取り押さえられたのだ。

ジョゼフは電車に乗るとどうしてもベルを押したい衝動に駆られ、それを押さえられない。

 

なんとか納めて、彼を家に送り届けると

次は医療センターへ。

重度の症状がある少年ヴァランタンの一時外出につきそうのだ。

 

一人で立ち上がることもできず、誰もに見放された少年をみても

ブリュノは、決して投げだそうとしない。

「何とかする」――それが彼の口癖だった。

 

ブリュノには、志を同じくする仲間マリク(レダ・カテブ)がいる。

マリクは社会からドロップアウトした若者たちを

社会復帰させる団体を運営している。

 

マリクは遅刻ばかりでヤル気のない青年ディランを

ヴァランタンの介助人にする。

最初は戸惑うディランだが、次第にヴァランタンと付き合うコツをつかみ

二人はなかなかの相棒になっていくのだった。

 

そんななか

ブリュノの団体に監査局の調査が入ることになる。

もし、不適切とされれば施設は閉鎖。

子どもたちはどうなる?!

 

ブリュノとマリクは、なんとか施設を守ろうと奮闘するのだが――

 

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「最強のふたり」(11年)のコンビ監督が、

自閉症の子どもたちを支援する施設を運営する

実在人物を描いた作品です。

 

監督コンビは1994年、20歳のときに

モデルとなった人物に出会い

「いつか、映画にする!」と誓ったのだそう。

 

それから26年。「最強のふたり」もだけど、監督たちはずっとこうした

社会が置き去りにしがちな人々や、それを支援する人に目を向け

どんな人も平等だ、というテーマを

手放さずにきたのだと思います。

 

自閉症を持つ人々は

適切なサポートがあれば、社会で生きていける。

ただ、一人一人の症状に目を配り、最適なサポートをするには膨大な人力が必要で

やっぱり社会は彼らを置き去りにしがち。

政府も見て見ぬふり。

 

そのなかで

ただただ、彼らのために奔走し、伴走しようとする人がいる。

その事実に敬意と、深い学びを得ました。

 

しかも、やっぱり「最強の~」コンビだけあって

もちろん、お涙!や感動!ではなく、

笑いもあって、痛快。

 

「預言者」のレダ・カテブもいいけど

ヴァンサン・カッセルが、今回実にいい役です。

 

登場する自閉症の若者たちや介護者も本物が多く

電車の非常ベルを押してしまうジョゼフもその一人。

洗濯機に超詳しい彼は、実際とてもチャーミング。

重度の障害を持つヴァランタンは

弟が重度の障害を持っていて

「この役を演じることで、弟に少しでも寄り添えるかも」とオーディションを受けたそう。

 

う。いい兄貴じゃありませんか。

 

社会は「自分だけよければいい」では済まされない。

しかし、他人のためにここまでできるだろか?――なかなかできないですよね。

だけど、実際、こうしてやっている人たちがいるんだと

その事実が、暗い世界の現実を超えて、その先へと飛翔させてくれる気がしました。

 

★9/11(金)TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開。

「スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~」公式サイト

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