ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

行き止まりの世界に生まれて

2020-09-04 21:07:51 | あ行

スケボーって、ホントに手段であり

「居場所」だったんだなあと。

 

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「行き止まりの世界に生まれて」74点★★★★

 

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昨年の第91回アカデミー賞

長編ドキュメンタリー賞ノミネート作。

 

米イリノイ州・ロックフォード。

 

トランプ政権誕生に大きく影響した

「ラストベルト=錆びついた工業地帯」と呼ばれる見放された街で

スケートボードを通じて出会う若者たち。

 

その仲間の一人だったビン・リュー監督が

彼らの12年間の軌跡をまとめたドキュメンタリーです。

 

中心になるのは黒人少年キアーと

若くして父親になろうとしているザック。

 

はじまりこそ、光溢れる楽しそうなホームビデオ風なのですが

キアーのある告白で、トーンが変わっていく。

 

キアー、ザック、そしてビン・リュー監督自身も

一様に家族の問題を抱えていたこと――

特に父親から暴力を受けていた、ということがわかるんですね。

 

国からも見放された街で、貧しさや家庭内暴力の連鎖から

なかなか抜け出せない若者たち。

彼らはどう大人になっていくのか。

 

その課程が、鮮明に鮮烈に記録されていて

すごく貴重だと感じました。

 

 

いつの時代も表現の奥に、若者の不満や鬱屈はあった。

でもここにあるのは、新たな潮流だと感じるんです。

 

というのは

ロックフォードの街って、まあ確かにさびれてはいるんだけど

キアーの家も、ザックも、ビン監督の家も

見た感じはごく普通の住宅街の、普通の一軒家。

若者たちも楽しそうに、スケボーパークに集まってる。

 

そこに問題があるとは、一見わかりにくいんですよね。

 

でも、

よどんだ街の未来のない閉塞のなかで、

大人たち(特に男たち)がその「出口なし」な状況の鬱屈を

家庭内で、弱い立場の存在――妻や子どもたちに向けてしまう。

 

そんな環境で育つ子どもたちが背負う

「負の荷物」を表出させた、ということでも

この映画は大きな意味があると感じます。

 

そんな「負の荷物」を彼らは下ろすことができるのか?

差別や貧困や暴力といった負の連鎖を、断ち切ることができるのか?

これはこの街に限らず、世界で、そして日本にもある

難しい問題ではあります。

 

でも、そのひとつの答えを

監督自身が、示している。

 

発売中の『キネマ旬報』9月下旬号で

ビン・リュー監督にインタビューさせていただいてます。

20代で本作を完成させた、聡明な監督の来た道こそが希望だ、と

感じずにいられませんでした。

ぜひ映画と併せてご一読ください!

 

★9/4(金)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「行き止まりの世界に生まれて」公式サイト

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