ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

新しい街 ヴィル・ヌーヴ

2020-09-15 23:26:42 | あ行

奇妙なほどずっと、頭から消えないんです。

 

「新しい街 ヴィル・ヌーヴ」71点★★★★

 

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1995年、カナダのケベック州モントリオール。

 

英仏二語が公用語であるカナダにおいて

フランス語圏であるケベック州は、カナダからの独立がこれまでに何度も盛り上がってきた。

 

実際、15年前の1980年にも独立投票があったが

そのときは、反対票が多かった。

 

主人公ジョゼフは、そんな1980年の敗北を引きずり

アルコールに溺れ、妻エマや息子と別れていた。

 

そしていま、

再び独立のための投票が行われることに。

賛成票が50%を超えれば、カナダからの独立を果たせる。

 

しかし、ジョゼフは独立運動が盛り上がる都会を離れ、

海辺の街ヴィル・ヌーヴで家を借りる。

 

そこは元妻エマとの想い出の地でもあった。

 

エマに電話をし「こっちへこないか」と誘うジョゼフ。

最初は相手にしなかったエマだが、

やがてヴィル・ヌーヴへと車を走らせる――。

 

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カナダ発、全編モノクロームの墨絵で描かれたアニメーション。

 

1995年、カナダのケベック州モントリオールを舞台に

ケベック独立運動の挫折を抱えた中年男と、その元妻の物語で

 

独特の淡い線で

砂のようにサラサラと消えていく人物や風景が描かれます。

 

そこにあるのは

社会変革を目指すも道遠く、挫折から立ち直れず

現実や妻子から逃避した中年男のグズグズ。

 

それを詩的に、叙情的に描き

「虚無」の感覚が、

絵とマッチして、アートに昇華されているなあと思った。

 

でも、最初観たときは、正直そんなに「うお!」という感じではなかったんです。

しかし、観たその夜に

この絵で、夢を見たんですよね。

 

で、それからずっと頭から

この寄せては返す波のように、もろく、うつろな感覚が、消えない。

 

この映画、ワシにとって

いま、この日本で感じているもどかしさや虚無感に

ものすごくマッチしてしまったのかもしれない・・・と思うのでした。

 

ちなみに本作のインスピレーションのもとになっているのは

レイモンド・カーヴァーの短編「シェフの家」だそう。

レイモンド・カーヴァーといえば、村上春樹氏の訳でけっこう読んだなあ。

 

★9/12(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「新しい街 ヴィル・ヌーヴ」公式サイト

コメント
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