ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

トトとふたりの姉

2017-04-24 23:37:28 | た行

これ、ホントに
ドキュメンタリー?!


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「トトとふたりの姉」80点★★★★


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ルーマニア・ブカレスト郊外で
劣悪な環境から人生を立て直そうとする姉妹と
10歳のトトを写した作品。

これ、ホントに
ドキュメンタリーとは信じられないドラマチックな映画なんです。
「よく撮ったな」と思うしかない。

そして

「エリザのために」
でも明らかになった
ルーマニアという国の疲弊、治安の悪さも重く感じます。


主人公のトトと17歳のアナ、14歳のアンドレア姉弟は
貧しい都営団地のようなアパート群で暮らしている。
そこはロマのコミュニティで
社会からうち捨てられたような場所。

部屋には水道もガスもなく
若者たちはドラッグをやり、仕事もない。

トトたちの母親は麻薬売買で刑務所にいるので
姉弟は子どもたちだけで暮らしている。


映画は
ゴミやら衣類やらが散乱したアパートの一室を
姉たちが片付けているシーンで始まるんですね。

「もうこんな生活はいや!ちゃんとしたいの!」と言いながら掃除をする長女アナの
だらしない生活と決別したい
いまの暮らしをなんとかしたい
とりあえず、部屋を片付ける!って気持ち、とってもよくわかる。

無力な彼女たちにできる、精一杯の決意と抵抗。


でも、少しきれいになった部屋に
あっと言う間にドラッグ中毒の男たちが集まってくるんだわー・・・。

そして「もうドラッグはやらない!」という姉も
結局、手を出してしまう・・・。


この姉弟はまさに
か細い一本のくもの糸の上を歩いているようで
わずかなことで、
下へ下へと落ちてしまうんですよ。

でも映画は決して
“悲惨な状況”を写すことが、目的じゃない。

悪い状況のなかで
「子どもたちが、一瞬見せる輝き」
大人が「助けられたかもしれない」
その瞬間を見事に捉えていて
それが我々に「何か」をギフトしてくれるんです。


例えば、トトが課外授業で
ヒップホップダンスに出合った、その瞬間。

その顔の輝きといったらもう!

その瞬間を写せただけでも
この映画にはものすごい価値があると思う。


反面、せっかくドラッグから抜け出して、仕事をする気になったのに
「ある理由」で元の木阿弥に落ちてしまう姉アナの
「その瞬間」も非常に貴重です。

そして美しかったアナが落ちていく顛末が・・・(泣)


トトたちの未来は、決して明るくないけれど
でも、彼らはいまも、生き続けている。


貧困やドラッグ中毒、育児遺棄や虐待・・・
子どもをめぐる問題が、
なぜ起こり、どうして、こうなってしまうのか。

手を差し伸べるとすれば
それは「どこ」なのか。

ここに写るリアルから、
あらゆることが学べると思います。

観るべし!


★4/29(土・祝)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。


「トトとふたりの姉」公式サイト

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