ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

万引き家族

2018-06-03 10:43:31 | ま行

 

見るべき映画。当然でしょう!

 

「万引き家族」77点★★★★

 

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東京の、ある街。寒い季節。

スーパーで父・治(リリー・フランキー)は息子の祥太(城桧吏)と

連携プレーで万引きをしている。

 

その帰り道、二人は母親に家から閉め出され

寒さに震えている女の子(佐々木みゆ)を見つけ

家に連れて帰る。

 

ボロい家では義母(樹木希林)と、妻(安藤サクラ)、その妹(松岡茉優)が待っていた。

 

「どうすんの?」とボヤきながらも少女の面倒を見る家族に

少女も次第に心を開いていく。

 

だが、しばらくして

「荒川区で5歳の女の子が行方不明」というニュースが流れ――?!

 

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是枝裕和監督の新作にして

祝・カンヌ国際映画祭パルムドール受賞!となった作品。

 

 

社会のすぐ脇にあって、しかし見ないふりをされている人々に焦点をあてた

社会的意味を持ちつつも

それを声高とせず、あくまでも「映画」としてのリリックさを保っている。

 

まさに「誰も知らない」から流れる、是枝映画の集大成と感じました。

 

 

なにより、一番響いたのは

一家が暮らす、一軒家の「ゴミ屋敷」加減!(苦笑)

あらゆる「捨てられない」ものが積まれた内部の、玄関の、カオス加減のリアルさよ!

 

誰もが、おばあちゃんち、あるいは実家など

どこかでこういう景色に逢っているのでは?と思います。

でも、そこに、底知れぬ「安心」や「しあわせ」がある。

この確かな感覚を再現したことが素晴らしいですね。

 

 

子どもに万引きをさせるという設定はリスキーだったと思う。

でも、この映画が描くのは

そんな次元を超えてる「心」だと、見れば誰もがわかるはずです。

 

しかも、この一家は万引きだけで生計を立てているわけじゃなく

決して怠惰な悪人ではない。

 

父(リリー・フランキー)は建設現場の日雇い労働、

母(安藤サクラ)はクリーニング屋勤務。

 

しかし、どちらも不安定な就業形態で

働けど働けどの日々。

 

そんな一人では耐えきれない無力感を、

彼らは“集まる”ことでやり過ごしている。

 

 

年金暮らしの初枝(樹木希林)の家に集まることは、彼らの生存本能なのでしょう。

 

で、その様子はとても自然で、しあわせそうにみえる。

でも

凸凹家族は、それがつかの間と何処かでわかっているのです。

 

 

モラルとは?正義とは何か?などあらゆる問いが掲げられますが

究極、この映画が提示するのは

「子どもとは、本当に与えられた環境に逆らえないのだろうか?」ということだとワシは思った。

 

親の貧しさや教育格差が、次世代にまで踏襲されてしまう。

その、負のスパイラルを、人は本当に抜け出せないのだろうか。

 

 

自ら、巣を飛び立とうとする少年の勇気を、育てたのは誰だろうか。

虐待されていた少女に、人を思いやる心を教えたのは誰だろうか。

 

子どもの持つ可能性と、その芽を、

監督はいまの世に伝えたかったのだ、と思うのです。

 

 

そして

この映画を一番みてほしいのは

「社会から少しはみ出してしまった」人たち。

 

映画を見る余裕なんてないかもしれないけど、

でも、見ることで、きっと喜びや誇りを感じられると思う。

 

ワシ自身も見たあと

「貧しい我が家にもそれなりのしあわせがあるかも」と

ちょっと輝いてみえましたから。ホントに。

 

★6月2、3日から先行公開、6月8日(金)から全国で公開。

「万引き家族」公式サイト

コメント (2)
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