ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

美術館を手玉にとった男

2015-11-19 22:59:44 | は行

「世にも奇妙な実話」というものは
なぜこうも、おもしろいのか……。


*****************************


「美術館を手玉にとった男」72点★★★★


*****************************


全米46の美術館に、
30年にわたってピカソやマグリット、ディズニーなどの贋作を持ち込み
「本物だ」と騙し続けていた男、マーク・ランディス氏の
ドキュメンタリーです。


2011年に全米で大ニュースになった事件らしいですが
日本で知ってる人は、ほとんどいなさそう。
ワシもまったく知らなかった。


だってこれ、本当に実に世にも奇妙な事件なんですもん。


まず、ランディス氏は自分の贋作をすべて
「寄贈」しているんですよ。
お金儲けの贋作っていうのは聞いたことがあるけれど
寄贈なんて、意図がまったくわからない!(笑)


「なぜ、彼はそんなことをするのか?」
「そんな絵の腕前があるなら、自分の作品を描けばいいじゃん?」
って、誰もが思うでしょ?

映画はその謎を紐解こうと、進んでいきます。


ランディス氏は
まずまず裕福な家の生まれで
幼いころから美術館へ連れて行かれ、カタログを買ってもらい
退屈しのぎに“模写”を始めたそうな。

しかしその後、精神を病み
唯一の特技だった模写をして、世界とつながろうとした。

それがお金目的ではなく
「贋作」を譲る、という行為になり

そんな彼に
全米の美術館が騙されたわけです。


ホームセンターで画材を買い、
まあ上手に模写をしていく彼の様子は単純に見ていておもしろく

観ながら、つくづく
人間というものは、奇妙で捉えどころのない出来事や人物に、
ものすごく心惹かれるんだなあ、と思いました。


実際、映画にも登場する
ランディス氏の贋作を最初に見抜いた元・美術館員をはじめ、
「なんでこんなことをするのか?」の謎を追いながら
完全に
ランディス氏に執着しすぎている人物もいるわけで。

こうなると
追うもの、追われる彼、どちらが病んでいるのか……?!
って感じになるんですねえ。

美術の価値って、いったいなんなのか?
いろいろ考えさせられました。

そして
これだけ“贋作者“として知られてしまったランディス氏。
最近はどうしてるのか?と思いますが
映画会社によると最近は
「似顔絵を描いて!」という世界中からのリクエストに
応えたりして忙しいらしい。

うーむ、この人やっぱり潜在的な商才があるのかもしれません。


★11/21(土)からユーロスペースほか全国順次公開。

「美術館を手玉にとった男」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Re:LIFE~リライフ~

2015-11-18 23:59:49 | ら行

J・K・シモンズが先生役?
って、それだけでビビっちゃいけませんね、はい(笑)


「Re:LIFE~リライフ~」70点★★★★


********************************


キース(ヒュー・グラント)は
かつてアカデミー賞脚本賞に輝いたこともある脚本家。

しかし、15年間まったくヒット作に恵まれず、
仕方なく田舎町の大学でシナリオの講師をすることに。

やる気もモラルもない彼は
個性的な学生たちや

働きながら大学に通い、やる気満々の
シングルマザーのホリー(マリサ・トメイ)と出会う。

果たしてダメ脚本家は、人生を書き直すことができるのか――?


********************************



「噂のモーガン夫妻」(09年)
など(これ、けっこうおもしろかった)
ヒュー・グラントを主演にした作品で知られる
マーク・ローレンス監督の新作です。

正直、脚本も演出も飛び切り洗練されている、というわけではなく、
余分も目につくんですが

でも素朴で、好感が持てるのがいい。

ダメ教師と生徒たちの成長物語でもあり

なんたって
「ハリウッドから見放され、落ちぶれた脚本家」という役柄が
ヒュー・グラント本人にだぶるしね。

パニック障害であることを告白したり、
そのほか私生活でも大変そうな人なので

主人公の背負う「栄光のあとの、しょっぱい感」を
自身とうまくリンクさせている感じしました。


人良さげな隣人教師(クリス・エリオット)の
ほのぼの感もいいし。

そして「セッション」のJ・K・シモンズが
元海兵隊(!)の学科長役。

一瞬ビビるけど、これも人の良い役です(ホッ。笑)


★11/20(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「Re:LIFE~リライフ~」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

さようなら

2015-11-16 23:47:35 | さ行

世界が、憎しみや哀しみで覆われる前に
こういう映画が、何かを伝えてくれるのではと思う。思いたい。


「さようなら」74点★★★★


*****************************


近未来の日本。

土地は放射能に汚染され
住むことができなくなってしまった。

国民はみな
海外脱出の順番を待っている。

そんななか
ターニャ(ブライアリー・ロング)は
アンドロイドのレオナ(ジェミノイドF)と
二人で静かに暮らしていた。

病弱で在日外国人のターニャには
なかなか避難の順番が回ってこない――。


*****************************



平田オリザ氏とアンドロイド研究で知られる石黒浩氏(“マツコロイド”を作った人ね)が
2007年から共同で進めている
人間とアンドロイドが共演する演劇プロジェクト。

その戯曲に触発された「ほとりの朔子」(13年)の深田晃司監督が
ストーリーを膨らませて
映画化した作品です。


終わる世界、という王道SF要素を
原発事故後の日本に重ね合わせ、
ゾッとするリアルさがある。

同時に
生き続けるアンドロイド(ロボット)と死に行く人間というモチーフに
時間の流れや哀しみ、孤独といった
良質SFの要素がふんだんにあるという
とてもいいミックス。

正直、最初は所々
演劇っぽさが気になったりもした。

でも
後半で、完全にやられました。
「ここで終わるかな?」というところから先が
すんばらしかった。


そして
どんどん、どんどん
余韻が心のなかで大きくなっていくんですコレが。

なんといっても
深田監督の絵作りは、
光の使い方が、とにかく美しい!

このプレスの表紙、そのまんまのイメージです。


ススキや枯れ木が茂る、終わりゆく世界の風景、
そこにいる線の細いターニャの姿は

本当にワイエスの絵のようで、
乾いていて、荒涼としていて、
でも美しい。

ターニャ役のブライアリー・ロングさんは
マース・カニングハムのダンスプログラムでも訓練を受けたダンサーだそう。

なるほど“佇まい”の
表現力の素がわかったような。

命とは、死とは、いまを生きるとは、時間とは、なんなのか。

じんわり、しみじみと
思い返して浸っております。


★11/21(土)から新宿武蔵野館ほか全国で公開。

「さようなら」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ローマに消えた男

2015-11-13 20:50:41 | ら行

これは極上!


「ローマに消えた男」79点★★★★


******************************


イタリア最大の野党を率いる
書記長エンリコ(トニ・セルヴィッロ)は人気低迷中。

疲労しきった彼は
「ひとりになりたい」と置き手紙をして
姿を消してしまう。

困った側近(ヴォレリオ・マスタンドレア)は
エンリコの行き先を訪ねるべく、彼の兄を捜し出す。

現れた兄ジョヴァンニ(トニ・セルヴィッロの二役)は
なんと、エンリコにそっくりで――?!


******************************

タイトルと宣伝ビジュアルから
完全にミステリー系かと思ったら

“入れ替わり”という古典素材を
見事に料理した作品でした。


「湖のほとりで」(07年)「ゴモラ」(08年)
そして
「グレート・ビューティー/追憶のローマ」(2013年)の
俳優トニ・セルヴィッロが
一人二役を巧みに演じ分け、
その妙技に心酔。

「映画だからこそできる、おもしろさ」を
堪能いたしました。


顔は同じなのに
いかにも不景気~不人気~なエンリコと
抜群のキャラクターを持つジョヴァンニ。

ジョヴァンニは
遁走した弟の身代に政治家のふりをすることになり
独特の人身掌握術に長けた才能で、
周囲の人々と国民を魅了していく。

いっぽう、ある場所へ逃げ込んだ弟エンリコもまた
そこで、別の顔を生き生きと見せ始める。

この決着は、どう着くのか――?と思うと
ほう!という展開になっていくんですねえ。


にしても
トニ・セルヴィッロ、
危うさをはらんだ笑みが、誰かを思わせるなあと思ったら
あ、堺雅人氏かも!(歳、全然違うけど!笑)

あと、ひょうひょうとした立ち振る舞いは
「相棒」の水谷豊氏のようでもあった。

謎が煙のように残るラストもいいですよう。


★11/14(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「ローマに消えた男」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

料理人ガストン・アクリオ 美食を超えたおいしい革命

2015-11-12 23:35:48 | ら行

もっと“料理”そのものについて
知りたくなった。

****************************


「料理人ガストン・アクリオ 美食を超えたおいしい革命」63点★★★


****************************


フランスのル・コルドン・ブルーで修業し、
故郷ペルーに帰って成功した
料理人ガストン・アクリオ氏のドキュメンタリーです。

彼は料理界では相当に知られた“スゴイ人”で
ペルーでは国民的英雄らしい。


映画でも
シェフとしての顔だけでなく
貧しい子供たちのために料理学校を作ったり
生産者の地位向上を目指したり、

国のために尽力する素晴らしい人間像が描かれます。


父親が有名政治家だったそうで
なるほど
そのカリスマ性や、国家レベルで物事を考えるところ、
向上・貢献の精神はそこから来ているのかもしれない。

と、非常に興味深いんですが
ただ料理ドキュメンタリーとしては、
料理の映像は多くとも、味が伝わってこないのが惜しい。

ガストンさんの人間性はよくわかったけど
単純に
「ペルー料理ってどんなものなのか」
そして
「彼の料理がなぜ、それほど素晴らしいのか」を
もっと知りたかったんですよねー。

そこで
おなじみ『週刊朝日』(現在発売中)の「ツウの一見」で
ペルー料理レストラン「荒井商店」(東京・新橋)の
荒井隆宏シェフにお話を伺いまして

ペルー料理がなんなのか、
なぜ彼の料理がスゴイのかを教わり、
すごーく「補完」されました。

あの「エル・ブリ」のオーナーも
閉店後に、ガストン氏のアテンドでペルーに来て
食材探しをしているそうです。

ご興味ある方はぜひご一読を。

しっかしペルー料理って、おもしろそう!
「荒井商店」絶対、行きたいと思っておりマス。


★11/14(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「料理人ガストン・アクリオ 美食を超えたおいしい革命」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする