ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

パリ3区の遺産相続人

2015-11-11 23:50:15 | は行

“ヴィアジェ”というフランスの不動産システム、
なかなかおもしろいね。


「パリ3区の遺産相続人」62点★★★


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パリ・マレ区にやってきた
ニューヨーク在住のマティアス(ケヴィン・クライン)。

彼は疎遠だった父親の遺産で
パリの一等地にあるアパルトマンを相続したのだ。

負け犬的人生を送るマティアスは
「ラッキー!高く売れるじゃん!」と
ウキウキだったが

しかし誰もいないはずのアパルトマンには
老婦人(マギー・スミス)が住んでいて――?!


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人気の舞台劇の映画化だそうです。


もうちょっとウィットに富んだ
人間ドラマを想像していたんだけど、

うーん、意外とヘビーな方面に重心が傾きすぎていたかな。

ただ
“ヴィアジェ”というネタは実におもしろい。


フランスに200年以上前から存在するという不動産売買方法で
いわば老人付き(?)物件。

相場より安い物件だけど
ただし、持ち主が売買後も
亡くなるまで住み続けられるというもので

持ち主の寿命によって損得が出てくる、という
まあフランスらしい?シャレにならないシステム。

実際に映画中にも出てくる
仰天ニュースとかもあるようで、
たぶん、原作者もそうしたネタをおもしろがって
話を書き始めたんだろうなと想像できる。

ただ
ネタはおもしろかったのに
そこに作者自身の親へのトラウマかなにかが
どんどん膨れ上がってこうなったのでは――?と思ってしまうほど
ヘビーになってくんですよ(笑)。


人生うまくいかない中年男が
「億ションを相続できる♪」と
ウッキウキでパリにやってきたものの、

“ヴィアジェ”によって、
そこに住む権利を持つ老婦人を知り

さらに
自分の親父の不倫を知ってゆく。

そして主人公は
「愛されない子供時代を送ったせいで
オレの人生うまくいかなんだあぁ」と
恨みつらみを老婦人にぶつける……って

よく映画になったよなあ、と思うくらい重っ(苦笑)

で、「これ、どう収束させるの?」と思ったら
これ?という唐突さで(苦笑)


ただ80歳のマギー・スミスが(撮影時は79歳)
ノーメイクで、あるいはメイクダウンもして90歳越えの老婆を演じている。
その風格や“粋”は伝わります。

牡蠣にはシャブリを合わせ、
戸棚にはジゴンダスをストックする
サラリと日常なワイン趣味も、さっすがあ~。


★11/14(土)からBunkamuraル・シネマほか全国順次公開。

「パリ3区の遺産相続人」公式サイト
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恋人たち

2015-11-09 22:53:41 | か行

「ぐるりのこと。」から7年かあ。


「恋人たち」72点★★★★


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高速道路の橋梁点検の仕事をしている
アツシ(篠原篤)は
3年前に、ある事件で妻を亡くした。

弁当屋でパートをする瞳子(成嶋瞳子)は
姑と夫に囲まれ、空虚な日々を送っている。

エリート弁護士の四ノ宮(池田良)は
学生時代からの親友の態度が、
微妙に変化していることに気づく。

3人のやるせない日々の
その先には、なにがあるのか――。


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「ハッシュ!」「ぐるりのこと。」の橋口亮輔監督、
7年ぶりの長編。


美男美女は出てこない。
彼らの暮らしも、状況も苦しい。

その状況が劇的に好転することなんてなく
どうにもならない。

やるせない。

だからこそ、心に響く。
これが現実だ、と。


「ぐるりのこと。」もそうだったけど
橋口監督の映画は

苦しんだ経験のある人間に
むちゃくちゃ刺さるんですよねー。


登場人物たちの
のたうちまわるほどの痛みや悲しみ
もがきやうめき、小さな喜びの感情までも

すべて、その生身の肉体から出てると
それも、監督の体を通じて、出ているんじゃないかと
リアルに感じられるのが
橋口作品の特徴だと思います。


今回刺さったのは
「本当に助けてくれる人は誰か」ということ。

特に奥さんを亡くして苦しむ
アツシのエピソードがキタ。

彼が頼りにしている
リリー・フランキー演じる先輩の
その「うわべだけ」っぷりと言ったら
ま~あ笑っちゃうほどリアルで(笑)

でも、アツシは思ってもみなかった人に
支えられるんですね。


自分の経験が、まったく同じでなくても
絶望や失望のなかで見える光って
本当にこんなものなんだよ、と思える。

グッときました。


ゲイの弁護士のキャラクターは
ちょっと中途半端かなとも思ったけど
主演の3人はいずれも
橋口監督のワークショップ出身。

特にアツシ役と瞳子役の二人は
ほとんどアマチュアだったそう。
……リアルっす。


「恋人たち」というタイトルも
考えさせて、いいなあ。


★11/14(土)からテアトル新宿ほか全国で公開。

「恋人たち」公式サイト
コメント (2)
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エベレスト3D

2015-11-05 13:01:37 | あ行

運命を分けるのは
やっぱり「判断」なんだよねえ。


「エベレスト3D」69点★★★★


*************************


1996年。

ニュージーランドで登山ガイド会社を運営する
ロブ(ジェイソン・クラーク)は
エベレスト商業登山の道を切り開いたパイオニアだ。

この年の登頂ツアーには世界各国から
アメリカ人医師のベック(ジョシュ・ブローリン)や
著名登山家の難波(森尚子)ら8人の顧客が集まった。

ロブは妊娠中の妻(キーラ・ナイトレイ)を家に残し、
エベレストへと出発するが――。


*************************


1996年5月に起きた
実際の出来事が基。

「ビヨンド・ザ・エッジ」を見たし
登山家・田部井さんにもお話を伺っていただけに
初登頂から43年後の状況の変化が、実に興味深かった。

国を背負った時代から変化し、
観光ビジネスとなったエベレスト登山の実態が
描かれているんですね。

5000メートル超の高所にあるキャンプの大混雑(うげー)
クレバスにかかったハシゴを渡るための順番待ち(うげげー)

そして「初の」や「国家」を競った時代とは違う
安全性や登頂成功率で、客を獲得するための競争……

もちろん自然の怖さは圧倒的なんだけど
それとはまた別の“危険”が潜む感じが、怖いんです。


この映画に出てくるツアー客は
何百万も払って参加し、しかも選ばれた人々のようで

この時代からさらに20年たったいまは
また違うんだろうなあ、と。

でも
「命を賭してでも登りたい」という登山家の思いは
いつの時代も変わらないんだな、とも感じました。

そして、少しのアクシデントやトラブル、
我を通す誰かのわがままや、
しっかり者の正義感
進むか否かの一瞬の判断が、生死を分ける、ということもつくづく。

3Dで見るエベレストは
ものすごく美しく、リアルな高さを感じて怖いけど

しかし
これほど冷たさや、痛さ、辛さを感じない
雪山映画も珍しい気がする。

映像が綺麗すぎるのか?
それとも、雪山映画に、慣れてきちゃったのだろうか。

その恐怖と凍え度と、悲惨さが目に焼き付いている
ワシのベストはやはり
「アイガー北壁」だなあ。


★11/6(金)から全国で公開。

「エベレスト3D」公式サイト
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ミケランジェロ・プロジェクト

2015-11-03 23:38:41 | ま行

公開見送りに負けず、
いよいよ公開!


「ミケランジェロ・プロジェクト」67点★★★☆


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第二次世界大戦末期。

ドイツ軍はヒトラーの命令で
侵略した国々の美術品や重要文化財を
次々と略奪していた。

状況を見かねた
ハーバード大付属美術館の館長(ジョージ・クルーニー)は
米政府にかけあって
ナチスに奪われた美術品を奪回するミッションを実行することに。

学芸員のジェームズ(マット・デイモン)など
美術に通じたメンバーを集めるが
しかし彼らはいずれも、戦闘経験はゼロだった――。


*******************************


ジョージ・クルーニー監督。
マット・デイモン、ビル・マーレイ、ケイト・ブランシェットが出演・・・・・・と
超・豪華メンバーなのに

全米でも公開が3ヶ月延期されたり
日本でも昨年、いったん公開が決まったものの中止となって
払い戻しまでされ
ようやく1年半以上経って、めでたく公開の運びとなった作品。

実話基の
「知らなかった!なるほど!」物語で
そこそこ普通のクオリティなのですが

うーむ、どうも気の抜けたサイダーというか
全体にぼんやりしていることは否めない。

公開がもたついた理由は別かもしれないけど
うーむ、まあ、ね……という感じではある(苦笑)。


おもしろい題材ではあるんですよ。

でも、まず戦争が終わる直前の
どこかぼんやりした空気感が前提にあったり
(だからこそのハラハラはあるんですけどね)

さらに戦争中に
「美術品の救出」なんて案件が
まったく重要視されていなかった事実が
この話を明快な「ヒーロー」話にしずらい
背景になってるんだとは思います。

まあ、最後までくれば
このプロジェクトがいかに大事なことだったか
わかるんですけどね。

ヘレン・ミレン主演の話題作
「黄金のアデ―レ 名画の帰還」(11/27公開)
この話とめちゃくちゃつながるので
見ておくと絶対におもしろいですよ。

それにしても。

美術品のみならず
ナチスがユダヤ人たちから略奪した
膨大な品々が積み上げられた部屋、
ドラム缶にギッシリ詰まった金歯などを見るにつけ

その強欲さが
あまりにも馬鹿馬鹿しく、
心底悲しい気持ちになりました。


★11/6(金)から全国で公開。

「ミケランジェロ・プロジェクト」公式サイト
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グラスホッパー

2015-11-02 23:58:54 | か行

もっとミステリーかと思ったので
その相違ですかね。


「グラスホッパー」32点★★☆


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東京・渋谷。ハロウィンの夜。
仮装した人々でごった返すスクランブル交差点に
一台の車が突っ込んでくる。

中学教師だった鈴木(生田斗真)は
婚約者(波留)をその事件で失った。

車の運転手は現行犯逮捕されるが
鈴木は「犯人は別にいる」というメッセージを受け取る。

彼はそこから
闇社会に生きる殺し屋・鯨(浅野忠信)、蝉(山田涼介)、
その裏に存在するドン(石橋蓮司)の存在を
知ることになるが――?!


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伊坂幸太郎氏原作。

原作未読なんで、勝手にもっとミステリーっぽい話を期待したのだけど
どちらかというと、バイオレンス寄りだった。


冒頭の事件発端シーンは
「ハロウィンに盛り上がる渋谷のスクランブル交差点に
暴走車が突っ込む」――という話なんですよ。

うわあ、リアル(苦笑)。


イヤな感じが「イヤ」をしっかり保ちつつ、リアルだと
超えて「嫌悪」になるなあ、と思ったほどです。


滝本監督って
「犯人に告ぐ」(07年)とかけっこうおもしろかったんだけど
「脳男」(13年)は未見なので

主人公のひとり殺し屋の蝉(山田涼介)が日常的に苦しむ耳鳴り音や
彼が人をあやめるときの血しぶきなどが
かなり、ワザと増幅され、
不快に描かれているのがしんどかったんですが

これは監督の意図なのかなあと、考え込んだ。


なにより
吉岡秀隆氏演じる「押屋」の存在感が
その登場ボリュームよりも、かなり秀でて高いので
もっと、彼にクローズアップすればいいのになあとも思った。

実際、原作読者によると
「押屋」が、けっこうクローズアップされてるんですって?
そっちをもっと見たかったわあ←単なる、吉岡ファン(笑)
惜しい。

グラスホッパー=トノサマバッタの群生が、
スクランブル交差点を行く人々の早回し映像とダブるシーンなど
映画ならではだなあと思ったんですが

ただ、話はどこに流れ着くわけでもなく、
「闇が闇を成敗した」ということになっちゃうのかなあというのが
消化不良ではありました。


★11/7(土)から全国で公開。

「グラスホッパー」公式サイト
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