ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

さようなら

2015-11-16 23:47:35 | さ行

世界が、憎しみや哀しみで覆われる前に
こういう映画が、何かを伝えてくれるのではと思う。思いたい。


「さようなら」74点★★★★


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近未来の日本。

土地は放射能に汚染され
住むことができなくなってしまった。

国民はみな
海外脱出の順番を待っている。

そんななか
ターニャ(ブライアリー・ロング)は
アンドロイドのレオナ(ジェミノイドF)と
二人で静かに暮らしていた。

病弱で在日外国人のターニャには
なかなか避難の順番が回ってこない――。


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平田オリザ氏とアンドロイド研究で知られる石黒浩氏(“マツコロイド”を作った人ね)が
2007年から共同で進めている
人間とアンドロイドが共演する演劇プロジェクト。

その戯曲に触発された「ほとりの朔子」(13年)の深田晃司監督が
ストーリーを膨らませて
映画化した作品です。


終わる世界、という王道SF要素を
原発事故後の日本に重ね合わせ、
ゾッとするリアルさがある。

同時に
生き続けるアンドロイド(ロボット)と死に行く人間というモチーフに
時間の流れや哀しみ、孤独といった
良質SFの要素がふんだんにあるという
とてもいいミックス。

正直、最初は所々
演劇っぽさが気になったりもした。

でも
後半で、完全にやられました。
「ここで終わるかな?」というところから先が
すんばらしかった。


そして
どんどん、どんどん
余韻が心のなかで大きくなっていくんですコレが。

なんといっても
深田監督の絵作りは、
光の使い方が、とにかく美しい!

このプレスの表紙、そのまんまのイメージです。


ススキや枯れ木が茂る、終わりゆく世界の風景、
そこにいる線の細いターニャの姿は

本当にワイエスの絵のようで、
乾いていて、荒涼としていて、
でも美しい。

ターニャ役のブライアリー・ロングさんは
マース・カニングハムのダンスプログラムでも訓練を受けたダンサーだそう。

なるほど“佇まい”の
表現力の素がわかったような。

命とは、死とは、いまを生きるとは、時間とは、なんなのか。

じんわり、しみじみと
思い返して浸っております。


★11/21(土)から新宿武蔵野館ほか全国で公開。

「さようなら」公式サイト

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