ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

声をかくす人

2012-10-24 22:57:29 | か行

この映画を観たことが
後に役立ちました。

何にって「リンカーン/秘密の書」(11/1公開)観たときとか・・・(笑)


「声をかくす人」69点★★★☆


******************************

1895年。

南北戦争の終結直後、
新しい国の象徴だったリンカーン大統領が
南軍の残党に暗殺された。

主犯格は射殺され、
共犯者も次々と逮捕される。

そのなかに
下宿屋の女主人メアリー・サラット(ロビン・ライト)がいた。

彼女は自分の下宿屋を
犯人たちのアジトとして使用させていた罪で
共犯として死罪になる可能性があった。

だが「私は無罪です」――と言い切るメアリー。

そして
若き弁護士フレデリック(ジェームズ・マカヴォイ)が
彼女の弁護を引き受けることになるが――。

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ロバート・レッドフォードが監督し、
アメリカで初めて死刑囚として裁かれた女性の
実話をもとに描いた作品です。


リンカーン暗殺事件に共謀した罪に問われた女性。
国中の反感と復讐心で始まった歪んだ裁判に
若い弁護士が頼りなくも立ち向かう――という話で

国民全員が、リンカーン死去を悼み、
弁護士自身も
「なんでこんな人物を弁護しなきゃいけないのか?」というのが本音(苦笑)。

そこに先輩弁護士が
「どんな人にも公正な裁判を受ける権利があるのだ」という。

まさに1800年代の「死刑弁護人」ですね。


知らなかった歴史の話だし、
内容は大事だし、
誠実に作ってあって、悪くない。

悪くないんですが、
ちょっとスケール感がないんだよね。


テレビドラマかな~、という感じ。

弁護士役のジェームズ・マカヴォイもちょっと甘すぎ。

でもホントに中身は悪くないんですよ。

特に裁判が始まってからは
どうにかして下宿屋のおかみを死刑にして
スケープゴートにしようとする権力との闘いにハラハラ。

勝っても負けても四面楚歌になっていくジェームズ・マカヴォイの
状況もおもんばかれるし、

また下宿屋のおかみの息子が
逃亡中の実行犯だったりするので、

そこで母親ならではの“犠牲的精神”が発生し
真実をさらにややこしくもするし。

どちらにしろ
現代の民主的な裁判制度になる前の
“黎明期”のシーンとして
知っておくべきことだと思います。

さらに主人公の弁護士が、
この裁判後に
ワシントンポスト紙の初代社会部部長になったというオチには
パチン!と指をならしたくなる感じでした。


★10/27(土)から銀座テアトルシネマほか全国で公開。

「声をかくす人」公式サイト
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終の信託

2012-10-22 19:41:04 | た行

うっ。尊厳死って簡単じゃないんだ・・・と
ショックを受けて

観たあと、親にこの映画の話をして
「どうすんべか?!」と大盛り上がりしてしまった(苦笑)


「終(つい)の信託」64点★★★

*****************************

1997年。

呼吸器内科のエリート医師・折井(草刈民代)は、
同僚の高井(浅野忠信)と不倫をしていた。

だが、折井は高井にフラれてしまう。

折井をなぐさめたのは
ぜんそくで長年、入退院を繰り返している
患者の江木(役所広司)の優しさだった。

ぜんそくの症状が悪化し、苦しむ江木は
折井に頼む。

「最期のときは楽にして欲しい――」

そして折井はある決断をするのだが――。

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周防正行監督、草刈民代×役所広司が
「Shall weダンス?」以来16年ぶりに共演した作品です。

すごい内容なんですよ。
でもすごく評価が難しい。

というのは、
2時間24分のうち1時間半は退屈だから。

残り50分くらいからの盛り上がりはすごいんですけどね。


前半は
医師役の草刈民代があまりに無機質だったり、
医局内での不倫とか、
失恋して荒波の海を見るとか(失笑)
あまりに紋切り型な描写に、相当げんなりさせられます。


しかし後半、
彼女がある決断をし、そのことが刑事事件に発展し、
検事(大沢たかお)との対決に及ぶと
「草刈民代でなければ出来なかったか」と、ようやく納得させられるんですね。


「チューブだらけで生き続けたくない」という患者の最期の場面なんて
「キレイごとじゃないんだ」という現実を
壮絶に突きつけられてショックだし

「苦しむ人を本当の意味で助けたい」
「殺人」になるむなしさも、とことん感じます。


番長は延命治療拒否派ですが、
しかし「尊厳死」なんて、現実には無理なんじゃないか?というくらい
どずーん、と考えさせられました。

また
威圧的でとことんイヤな検事役の大沢たかお氏が迫力にリアルで
後半は「それでもボクはやってない」を思い出させますね。


“周防流ラブストーリー”という売りだけど
完全に社会派に重心をおいてもらったほうが
見やすかったかな、と感じました。


★10/27から全国で公開。

「終の信託」公式サイト
コメント (2)
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伏 鉄砲娘の捕物帳

2012-10-21 14:25:40 | は行

贋作「里見八犬伝」とはなるほど。


「伏 鉄砲娘の捕物帳」54点★★☆

*************************

江戸時代。

山育ちの少女・浜路(声・寿美菜子)は
獣を捕って生きる猟師。

祖父の死で浜路は山を下り、
兄(声・小西克幸)の住む江戸にやってくる。

江戸で浜路は
人と犬の血を引き、
人間に化けて暮らす“伏(ふせ)”の噂を聞く。

そして浜路は犬の面をつけた
白髪の青年・信乃(声・宮野真守)に出会い――。

*************************

桜庭一樹氏の小説をアニメーションにした作品。


「猟師と獲物の間には、見えない糸があるという」

――このフレーズにピンと来て
見てみようと思いました。


舞台は江戸、なんですが
美術にはかなりオリジナリティがあって

極彩色の、悪く言えばけばけばしい町並みや
バベルの塔のようにそびえ立つ江戸城など

世界感の表現に、創意工夫はあります。

ただ
犬と人間、異世界の者の出会いと運命(さだめ)って
めちゃくちゃ切なさ煽るんだけど

そこのところの刹那や因果には
まだまだ深みが足りない。

後半もかなり崩壊気味だし(苦笑)
絵も大味な感じだったな。

冒頭の犬狩りや、
犬のさらし首など残酷さを我慢しただけに、
もう少し心揺さぶられたかった。

途中に「八犬伝」の芝居シーンを挟んだのはわかりやすく、
ゆらりと佇む信乃のキャラクターには
けっこう魅力があるんで、もうちょいでしたね。


★10/20(土)から全国で公開。

「伏 鉄砲娘の捕物帳」公式サイト
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思秋期

2012-10-20 23:25:22 | さ行

「イン・アメリカ 三つの小さな願い事」や
「ホット・ファズ!」の俳優
パティ・コンシダインが監督。

まあ、渋いテーマを選んだのはいいんですけどね。


「思秋期」57点★★★


*************************

中年男ジョセフ(ピーター・ミュラン)は
失業中で飲んだくれ。

キレやすく怒りの感情を抑えられない彼は

その夜も酒を飲んで
可愛がっている愛犬に当たり散らし
あろうことか蹴り殺してしまう。

翌朝、後悔しても、もう遅い。

そんな彼はあるとき
女性ハンナ(オリヴィア・コールマン)に出会う。

明るく、信仰心に溢れる彼女に
ジョセフは徐々に心を開いていくが、

しかしハンナもまた
ある心の闇を抱えていた――。

*************************

あらすじを読んで、
「う」と思った方も多いと思います。

あえて、書いておきました。

この冒頭の
愛犬へのしうちがどうしても尾を引いて、

その後の展開も、
なんかダメでした。

それを凌駕する、何かがあるわけじゃなかったというか。


主人公は、実は奥さんを介護の末に亡くしたという
苦労経験を持っていて、

まあ根っから酷い人物ではないんです。

ただ、
社会にも微笑まれず
神も助けてくれず

飲んだくれてやさぐれまくる。


そんな彼にフッと平穏が訪れそうに見えても、
そこに安易な救いなどあるわけはない。

そもそも主人公の怒りの発作には
かなり器質的な要因がある気もするし。


隣人が虐待する別の犬の話が出てくるのも
果てしなくつらいし、腹立たしい。

こうしたケースで犬を救うのは確かに難しいから
腹立たしさも募るけど、
人間ハンナを救う術は、なんかあるんじゃないか?とか
思えてしまってやるせない。


世の中「いい話」ばかりが必要なわけじゃなく、
別にそんなこと望んじゃいません。

けど、
じゃあこの映画は
それを推しても見たいかといえば
ワシはそうは思わなかった、ということです。


★10/20(土)から新宿武蔵野館で公開。ほか全国順次公開。

「思秋期」公式サイト
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菖蒲

2012-10-19 20:49:17 | さ行

「カティンの森」アンジェイ・ワイダ監督の新作です。

「菖蒲」62点★★★


*********************

この映画は三重構造で、

映画「菖蒲」の主演女優クリスティナ・ヤンダの独白と
「菖蒲」のドラマ、
そして撮影現場のドキュメントが三層になっています。


まず映画はヤンダの独白で始まる。

「実はこの映画を撮るのは無理だと言った。
なぜならば
この映画の撮影をするはずだったカメラマンの夫が
亡くなったから」――と彼女は語り、

そして場面は映画「菖蒲」へと移る。

ポーランドの医師(ヤン・エングレルト)は
妻のマルタ(クリスティナ・ヤンダ)が
病に冒されていることを言えずにいる。

あるときマルタは町で出会った若い青年に
失った息子たちをみる。

そして、その映画の撮影中に
女優ヤンダに起こった出来事がドキュメントで映し出され――。

*********************


ちょっと簡単にはいかない映画でした。

主演女優の夫が、現実で病に倒れている。

愛する夫の最期を語る彼女の苦悩は
ひたすらに悲しく、
そんな彼女は「菖蒲」のなかで、
似た病に侵される役を演じなければならない。

「菖蒲」のドラマが始まると
スイッと引き込まれるのだけど、

しかし
それがまたブツッと切れて
今度は撮影中のある出来事がドキュメントで写され、

そして
再び役を離れた彼女の独白になる。

三重構造に共通するのは
「死」の足音と悲しみであり、
この作品の伝えんとする、深みや空気はわかる。

わかるんですが
単純にこの構造って
ドラマに入り込んでいた我々の気をそぐ弊害もあるんですね。


原作『菖蒲』は有名な小説だそうで
この話を知っていればまた違うかもしれないし、

この深みをホントに理解できれば
カッコイイと思うんですが
浅くてスミマセン、という感じですハイ。

実際のところ
冒頭の独白部分などは
試写室でも寝息やいびきが盛大で(苦笑)

間違いなく8割は睡魔に襲われていたと思う。
ワシももれなく・・・スー・・・。

この映画が「静かなヒット」になったら
日本人の映画力はかなりのレベルだと思いますマジで。


★10/20(土)から岩波ホールで公開。

「菖蒲」公式サイト
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