ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

希望の国

2012-10-14 21:08:24 | か行

ワシ的には「ヒミズ」より断然いいかと。

「希望の国」70点★★★★

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20XX年。原発を有する“長島”県。

酪農家の泰彦(夏八木勲)は、認知症の妻(大谷直子)を抱えながらも
息子(村上淳)と嫁(神楽坂恵)に支えられ
平穏に稼業を営んでいる。

が、その日。
いつもと同じく牛舎にいた泰彦を大地震が襲う。

「原発、大丈夫だよな?」――

泰彦の不安は果たして現実となり、
周囲は警戒区域に指定され、住民たちは避難させられる。

杭1本でギリギリ警戒区域外になった泰彦の家だが、
しかし妊娠中の嫁は
放射能への不安を募らせていく――。

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1年に2本、いや2.5本くらい撮ってるんじゃなかろうかという
ハイペースな園子温監督の馬力と
このテーマにいち早く、果敢に取り組んだことに
まず敬意を表したいです。


芝居がかったセリフは“園流”だし
微妙にシラケるところもあるんだけど、

とにかくドキュメンタリーではなく劇映画として、
これをやったことがすごい。

当然かもしれないけど、
映像にも刺激的なところはなく、
表現はソフトに、非常に配慮されている。


それでもリアリティはいやというほどあって、
いつもの風景のなかに飼い犬や牛たちがいるのを見るだけで
胸が苦しくなってしまう。


つまり観客のほうが
映っている以上のものを想像してしまってるわけで

そんな観る人の想像力と、それをさせている現実のほうが
よほど凄惨で暴力的かもしれない。


見ていくうちに
これが「福島原発事故より後の世界」の設定だとわかってくるんですが、

そうなると避難の方法など、
もう少し経験からスキルも上がっているのでは?とか
若干のちぐはぐさもあることにはあって。

ただ
妊娠をきっかけに異常なまでに放射線に神経を尖らせる嫁など、
ホラーみたいだけど、これ真実だよな、とか。

あくまでも「そこにまだある現実」を見せて
「あなたたち、もう忘れてませんか?」という警報にしてるのだと思います。

だって、その場所にはいまも
ミイラ化した動物たちが放置され、
野良牛や犬、猫らが、道を横切っているのだから。


それに
ソフトでマイルドなまま表現のまま終わっていたらイマイチだったけど
ラストが思いっきり苦いのがよかった。


圧倒的な現実のなかで、フィクションの持てる力とは何か。
考えさせられる1本です。


★10/20(土)から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「希望の国」公式サイト
コメント (2)
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