【先手も飛車を2八→4八→2八と往復しているので、実際は6手得でした】
羽生ファンからすると、「8手も損をして……」という昼過ぎの局面は、絶望感に覆われていたはずである。
竜王戦での2度の敗北、王座戦の20連覇を阻まれた昨年、そして今期の第1局と、タイトル戦では負けたイメージしかない。その上、本局の大作戦負けである。
戦形は後手の羽生二冠が角換わり四間飛車を採用。王位戦で藤井九段とまみえた戦形で、何かを掴みそれを渡辺竜王にぶつけたと思われた。
注目点は4筋の歩を突いていること。ひと昔前なら、角交換はしているものの、4四の歩の位置は振り飛車の定番であった。しかし、現代将棋においては奇異に当たるらしい。『将棋世界』の10月号の勝又六段の『突き抜ける現代将棋』によると、角の打ち込みを消す4三歩型が基本形だそうだ(反面、手作りの難易度は高くなる)。
さらに、同講座において「角交換四間飛車はマイナスの手を指さないことが重要」という藤井九段の思想を述べている。この思想は、本局に如実に現れることとなった。
さて、4四歩型の羽生二冠の工夫は、何か誤算があったらしく、一人千日手を繰り返さなければならない羽目になってしまった。
第1図(再掲載)と第2図を比べてみると、先手陣は▲8八銀、▲7九金、▲6八銀と穴熊の強化ができ、更に▲4六歩と仕掛けの準備も進めている。
しかし、後手は全く手が進んでいない。△9二玉~△8二玉を3回繰り返しただけである。
「やる手がないですね」
という羽生二冠の局後の感想だが、着々と整っていく先手陣を見ているだけというのは、相当つらいものだったはずだが、許容範囲(逆転の射程圏内)と見ていたのかもしれない。とは言え、相手は渡辺竜王………
更に第2図より、▲4八飛△1二香▲2八飛△9二玉と進み、ついに▲2四歩と動いたのが第3図。
▲4八飛~▲2八飛と間合いを計ったのが巧妙。単なる手待ちではなく、隙があれば▲4五歩と仕掛ける手を見ている。なので羽生二冠は△9二玉と形を崩せず、△1二香と待つしかなかった。
そうして▲2八飛と戻す(▲4五歩と仕掛ける手もあった)。ここで、羽生二冠は困る。
「何かやると▲4八飛で手がない。△9二玉はすごく損だと分かっていた。パスしたいけど、パスがない」
と羽生二冠の感想。
損な手(△9二玉)を指させて、満を持しての開戦だった。
渡辺竜王の仕掛けに対し、羽生二冠は角を投入して持ちこたえようとした。
「プロ棋士が10人居たら、10人とも先手を持ちたいと言うでしょう」(飯島七段)
「つらい手」(羽生二冠)
だったが、
「しょうがなくなって攻めたんですけど」
と渡辺竜王は慎重。
いろいろな攻め筋を含みにして、一旦、飛車を浮いて桂頭を桂頭をカバー。それらをすべて封じる手や、先手の攻めを上回る後手からの攻めも見当たらない。どうする?
△8二玉! ついに4往復。8手損だ。
しかも、既に仕掛けられている状態で、玉型を整えなければならないとは……つらい。
……と思ったが、この局面で一番価値の高い手である。それに、単なる守りの手ではなかったのだ。
「その2」、「補足・疑問」
羽生ファンからすると、「8手も損をして……」という昼過ぎの局面は、絶望感に覆われていたはずである。
竜王戦での2度の敗北、王座戦の20連覇を阻まれた昨年、そして今期の第1局と、タイトル戦では負けたイメージしかない。その上、本局の大作戦負けである。
戦形は後手の羽生二冠が角換わり四間飛車を採用。王位戦で藤井九段とまみえた戦形で、何かを掴みそれを渡辺竜王にぶつけたと思われた。
注目点は4筋の歩を突いていること。ひと昔前なら、角交換はしているものの、4四の歩の位置は振り飛車の定番であった。しかし、現代将棋においては奇異に当たるらしい。『将棋世界』の10月号の勝又六段の『突き抜ける現代将棋』によると、角の打ち込みを消す4三歩型が基本形だそうだ(反面、手作りの難易度は高くなる)。
さらに、同講座において「角交換四間飛車はマイナスの手を指さないことが重要」という藤井九段の思想を述べている。この思想は、本局に如実に現れることとなった。
さて、4四歩型の羽生二冠の工夫は、何か誤算があったらしく、一人千日手を繰り返さなければならない羽目になってしまった。
第1図(再掲載)と第2図を比べてみると、先手陣は▲8八銀、▲7九金、▲6八銀と穴熊の強化ができ、更に▲4六歩と仕掛けの準備も進めている。
しかし、後手は全く手が進んでいない。△9二玉~△8二玉を3回繰り返しただけである。
「やる手がないですね」
という羽生二冠の局後の感想だが、着々と整っていく先手陣を見ているだけというのは、相当つらいものだったはずだが、許容範囲(逆転の射程圏内)と見ていたのかもしれない。とは言え、相手は渡辺竜王………
更に第2図より、▲4八飛△1二香▲2八飛△9二玉と進み、ついに▲2四歩と動いたのが第3図。
▲4八飛~▲2八飛と間合いを計ったのが巧妙。単なる手待ちではなく、隙があれば▲4五歩と仕掛ける手を見ている。なので羽生二冠は△9二玉と形を崩せず、△1二香と待つしかなかった。
そうして▲2八飛と戻す(▲4五歩と仕掛ける手もあった)。ここで、羽生二冠は困る。
「何かやると▲4八飛で手がない。△9二玉はすごく損だと分かっていた。パスしたいけど、パスがない」
と羽生二冠の感想。
損な手(△9二玉)を指させて、満を持しての開戦だった。
渡辺竜王の仕掛けに対し、羽生二冠は角を投入して持ちこたえようとした。
「プロ棋士が10人居たら、10人とも先手を持ちたいと言うでしょう」(飯島七段)
「つらい手」(羽生二冠)
だったが、
「しょうがなくなって攻めたんですけど」
と渡辺竜王は慎重。
いろいろな攻め筋を含みにして、一旦、飛車を浮いて桂頭を桂頭をカバー。それらをすべて封じる手や、先手の攻めを上回る後手からの攻めも見当たらない。どうする?
△8二玉! ついに4往復。8手損だ。
しかも、既に仕掛けられている状態で、玉型を整えなければならないとは……つらい。
……と思ったが、この局面で一番価値の高い手である。それに、単なる守りの手ではなかったのだ。
「その2」、「補足・疑問」