陰暦の如月の頃は、桜の季節。これはもちろん内地、特に京都や東京などの地域でのこと。札幌に住む人にとっては、羨望の感がある。
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桜が咲きほころぶ季節は、やはり、和の心に帰り、雪解けの加茂川の流れを想いながら、京懐石を楽しみたいもの。
さて、3段の重箱をほどくと、春の彩りが展開する。
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まずは、付出し。桜の花とグリンピース・ズワイ蟹の寄せ物。桜の香りほのかに漂う、品の良さ。そして、鮪のお造り。
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雪解けの食菜を惜しみなく用いた八寸。蕗のきゃら炊、蕗と菜の花の八方地漬、桜ふ、茗荷の酢漬け、はりはりじゃがいも、サーモンの蕗味噌焼、ゴーヤの山椒炊、そして出巻玉子。彩りも良く、春そのもの。ゴーヤの山椒炊きは、ゴーヤ独特の臭みを消し、まろやかな味に仕上がっている。菜の花の八方地漬を口に含むと、一瞬にして菜の花畑を徘徊する幻想に襲われる。
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焚き合せは、なすと玉子豆腐の重ね揚げ。最初は、なすの存在に気がつかず、しばらく考え込む。なす特有の毒気が柔らかな薬味として働いているが、玉子豆腐と一緒に重ね上げることにより、絶妙は組み合わせとなっている。あんかけだしとうまく調和し、これまた、春の勢いを感じさせる。
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これは参りました。蒸し物として、椎茸の南禅寺蒸。味のしみ込んだ椎茸と茶碗蒸しの美味さを表現する、語彙を持ち合わせていないことを残念に思う。
香の物、ごはん、そしてお味噌汁。お味噌汁は、八丁味噌の赤出しで、三つ葉入り。思わず、ごはんをおかわりしてしまった。味噌汁を8分目程飲むと、柔らかくなった味噌大豆が漂い、イノシン酸リッチの深み。香の物も、手間をかけているのが容易に解せる。
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香の物を平らげると、これまた、驚く。三日月夜にウサギが跳ねている、皿の絵柄。食べ終わったあとも客人を楽しませようと言う趣向が良い。
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これでおしまいかと思いきや、デザートとしてキャラメルムースとコーヒー。
桜が散ることの「詫び寂び」が何となく理解できるようになった歳の身には、たまにはこうした贅沢も許されるだろう。
〆て、1260円と言うのだから、またまた、驚く。
ミヤコドリの姿に、内地の春の到来をうらやむ、一日かな。
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