福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

コンポストの微生物生態学

2010-06-22 16:00:50 | 大学院時代をどう過ごすか
家庭などから廃棄される生ゴミを微生物によって分解させ、堆肥化させることをコンポストと呼んでいます。すでに戦前から知られている方法で、良質な肥料を得るために様々な工夫がなされてきており、それは経験的でした。

コンポストの過程で働く微生物を解明しようとした研究は数多く、すでに1940年代の後半になされました。

コンポストの過程は大まかに4つのフェーズに分けることができます:1)室温から40度くらいまでのフェーズ、2)60度まで上昇するフェーズ、3)ゆっくりと冷えていくフェーズ、そして、4)肥料化するフェーズ。

それぞれのフェーズでの微生物群集の変動に関して、40年代では培養法によって、90年代は菌体脂肪酸組成法で解明しようと試みられました。しかし、いずれの方法も一部の微生物しか捉えることができず、不完全なものでした。

そこで、立ち上がったのが石井浩介さん(当時修士課程の学生)。それぞれのフェーズの生ゴミから核酸(DNA)を抽出し、バクテリアプライマーを用いてPCR増幅。その増幅産物を変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)で解析。その結果、コンポスト過程で微生物群集はドラスティックに遷移するが明らかになりました。優占種の系統解析を行い、種類を特定。この方法には限界があるのですが、微生物群集の遷移を簡便に捉える上で、有効な方法です。詳細は下記論文をご覧下さい。

K. Ishii, M. Fukui and S.Takii. Microbial succession during a composting process as evaluated by denaturing gradient gel electrophoresis analysis. Journal of Applied Microbiology 2000, 89, 768-777.

石井浩介, 中川達功, 福井 学. 微生物生態学への変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法の応用. Microbes and Environments 2000, 15, 59-73.

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上記の研究もパイオニア研究であったため、当該分野の一里塚になり、90を越える被引用数になっています。

コンポスト研究を行っていた頃は、狭い実験室で培養実験を行っていました。そのため、生ゴミの発酵臭が室内に広がり、堪え難かったことを覚えています。また、低コストで実験を行っており、コンポスト実験槽に使用済のカップラーメン容器を用いていましたね。実験用の容器を確保するため、連日のようにカップラーメンを啜っている石井さんの姿を、今でも鮮明に思い出されます。

お茶飲み場で、カップラーメンを啜っている石井さんとの雑談で思いついた小研究。ささっと実験して、論文を書き上げて、最速で公表した論文が下記です。

K. Ishii and M. Fukui. Optimization of annealing temperature to reduce bias by a primer mismatch in multitemplate PCR. Applied and Environmental Microbiology 2001, 67, 3753-3755.

この論文も80回程度引用されており、驚きです。どんな研究がインパクトを与えるのか、わかりません。

ちなみに、MuyzerらのDGGE法に関する論文(Applied and Environmental
Microbiology 1993, 59 695-700)は、被引用数が3600を越えており、お化けのようですね。


Muyzer1994



(1994年当時のMuyzer。デンマークにて)