第三話
『届かない想い・・・彼女の一途な恋のために』
「やっぱりお前に負ける訳にはいかねえんだよ。」
「待ちくたびれましたよ、恭之助さん。
では、参りましょうか。」
鉄棒で懸垂させられる恭之助。
「つ~かさ、こんなの踊りに必要あんのかよ?」
「勿論です。 『棒しばり』は腕を固定されるから
豊かな表現のためには上半身の筋力が不可欠です。
あなたの貧弱な筋力では芝居として成立しません。」
一弥は小学生の頃からやっていると聞き驚く恭之助。
他にも歌舞伎に必要なことはなんでもやって来たと。
「一番の歌舞伎役者になるためなら
僕はどんなことだってしますよ。
では、今日はこの辺で。」
「ちょっと待った。
俺だって絶対あやめのこと諦めねえから。」
「真っ直ぐですね、恭之助さんは。」
「はあ?」
「では。」
一弥は帰って行く。
あやめは千晶から水族館のチケットをもらう。
「ヒロくんを誘ってみたら?」と。
そこへ一弥が現れ、土曜に水族館に誘うあやめ。
一弥は了承する。
「稽古の方は順調?」
「まだ仕上がりには程遠いな。」
「そっか。
でも今回は河村くんと二人で主役だもんね。 すっごい楽しみ。」
「僕も楽しみだよ。
ここで実力を認められればまた夢に一歩近づける。」
そして忘れてたと言い、
あやめの手になでしこのブレスレットを巻く一弥。
あやめは嬉しそう。
その頃、ひとりで稽古をしていた恭之助は、
一弥の言葉を思い出す。
『10年前、あやめちゃんとした約束を果たすためなら・・・』
「10年って・・・俺、ホントにあいつに勝てんのか?」
朝のジョギングから帰って来た一弥は優奈とバッタリ会う。
優奈から土曜に買い物行くから付き合ってと言われるが、
あやめと約束していたため断る一弥。
学校の図書館で優奈を見かけたあやめは声をかけた。
元気がなさそうな優奈に話を聞くよと言うあやめだが、
千晶から土曜に着て行く洋服を選ぶんでしょと言われ、
また今度と帰ろうとした時、荷物を落としてしまう。
そこには一弥との写真もあり、
それを優奈が拾って見てしまった。
優奈は一弥が持っていた写真と一緒だと気づく。
あやめは大切な人だと、この前会いに来てくれたと話す。
優奈は一弥とあやめがデートすることを知ってしまった。
恭之助と一弥は『棒しばり』の稽古中。
だが二人の呼吸が合わずに怒られてばっかり。
「『棒しばり』の最も大事なところは
お互いの息の合ったコンビネーションなんだ!
こんなバラッバラな芝居をお客様に お見せするつもりか?
特に一弥!! 滅多にない機会なんだ。 もっと しゃんとしなさい!!」
「はい。」
一弥と恭之助。
「恭之助さん。
プロなんですからせめて踊りはちゃんとやって下さい。」
「そっちこそ一人芝居やってんじゃねえんだぞ。
このドSメガネ!!」
そこへ一弥に優奈から電話がかかって来たが一弥は出ない。
「お前んとこのお嬢さんだろ? 出れば?」
「いいんです。」
「お前さ、その子とどうなってんだよ?」
「どう・・・とは?」
「結婚して轟屋継ぐとかなんとか・・・」
「誰がそんなことを? 僕にはあやめちゃんがいます。」
「そうだけど・・・」
「今度の土曜日も水族館に行きますし。」
「デート・・・ってこと?」
恭之助はショックを受ける。
一弥と優奈。
主役のことを父親に頼んで良かったと優奈。
一弥に抱きつき、またお願いしてあげると言うが、
言葉を濁す一弥。
「大丈夫だよ。
パパは絶対自分の名跡を弘樹に継がせたいって思ってるんだから。
だから・・・私から離れないで。」
一弥も優奈を抱き締めた。
その頃、あやめはデートの服選びでてんやわんや。
一方、恭之助は二人のことが気になって仕方がない。
翌日、登校中の恭之助に声をかけるあやめ。
「どうしたの? ボ~ッとして。」
「いや、お前デート・・・いや、なんでもない。
なんなんだよ、お前こそ大声出しやがって。」
「だってちっとも気づいてくれないから。」
「はは~ん。 さてはお前明日デートだから浮かれてるな。」
「えっ!? なんで知ってんの?」
「水族館行くってヒロくんが言ってました。」
「そっか。 実はね、私水族館行ったことないんだ。」
「マジで?」
「うん。 ほら、うち貧乏だったしさ。
でもきっと神様が楽しみを取っといてくれたんだね。」
「そうかもな。」
「明日晴れるかな?」
「晴れんじゃね。」
稽古中、相変わらず息の合わない二人は怒られ、
恭之助と一弥が言い合いになってしまう。
「いい加減にしろっ!!
お前たちのくだらん意地などどうでもいい!!
お客様に最高の舞台を楽しんでいただくために努力する。
そんな当たり前のことも出来ない役者に
舞台に上がる資格はない!!
出て行け、目障りだ。 早く出て行け!!」
稽古場を追い出された二人。
あんなもの見せるくらいなら公演は中止だと話す松吉。
「どうすんだよっ!!
お前が自分のことしか考えてねえからだぞ!!」
「僕はやるべきことはやってます。
御曹司であるあなたと違って、
僕には簡単にもらえるチャンスじゃないんだ。
邪魔しないで下さい!!」
「知るか! テメ~の顔なんか二度と見たくねえ!!」
恭之助は去って行き、一弥は拳を握り締める。
松吉に謝る世左衛門。
「倅がまたご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。」
「いえ。 ただ彼らをあの状態で舞台に上げても、
無様な結果に終わるのは目に見えてますから。」
「いや、全く仰るとおりです。」
「我々が初めて共演したのも『棒しばり』でしたね。」
「はい。」
「板の上の鬼、世左衛門さんに追いつこうと、
そりゃもう死にもの狂いでしたよ。」
「いやいや・・・」
「あの頃にお客様からいただいた拍手と歓声が、
何十年経った今も忘れられません。」
「ええ。」
「芸の道にゴールはないが、
あの頃にしか味わえない熱を体感したからこそ、
今があるんだと私は思います。
しかし・・・あの二人にはそこが全く分かってない。」
稽古をしていてもイライラして身に入らない一弥。
そこへあやめから電話がかかって来て、
デートの待ち合わせの確認をする。
その電話のやり取りを優奈が聞いていた。
翌日、一弥を送り出す優奈。
あやめも待ち合わせ場所へ。
優奈がワイングラスを見つめグラスを落とす。
そしてガラスの破片を手に取り・・・
待ち合わせに急ぐ一弥に優奈から電話が。
グラスで手を切って血が止まらないと一弥に助けを求める優奈。
その頃、ご飯をヤケ食いしていた恭之助は、
出された鯵の開きを見て妄想の世界へ・・・
「あの変態野郎!!」
「坊ちゃん、何処行くんですか?」
「水族館!!」
飛び出して行く恭之助。
「我が息子ながらアホすぎる。」
優奈を病院へ連れて行った一弥。
傷は大したことなかったよう。
そこへあやめから電話がかかって来て、
急な用事で行けなくなったと告げる一弥。
恭之助はタクシーに乗ってる優奈を目撃。
そこに一弥の姿も・・・
恭之助はあやめのアパートへ。
そこへあやめが帰って来た。
偶々近くに用があってその帰りだと誤魔化す恭之助。
「お前こそデートじゃねえのかよ。」
「ヒロくんね、急用が出来ちゃったんだって。」
「そっか。」
「あっ、そうだ。 河村くん、これ良かったら行って来て。
勿体無いし。 じゃあね。」
水族館のチケットを恭之助に渡すあやめ。
「シーパラか。 俺にとっちゃ庭も同然だな。
今なら歌舞伎界のプリンス河村恭之助様が
スペシャルガイドしてやるけど?」
恭之助とあやめは一緒に水族館へ。
恭之助の案内で楽しんでいるあやめ。
「水族館ってこんなにいいところだったんだね。」
「俺様のガイドが完璧だからな。」
「ありがとう。 私だけ楽しんじゃって
ヒロくんにはちょっと申し訳ないけど。」
「家の事情ならしょうがねえよな。」
「うん、そうだね。 あっ!」
「どした?」
「ブレスレットがない。 嘘、どうしよう・・・」
「あいつにもらったの?」
「うん。 河村くん、ごめん。
私捜しに行くから先帰ってて。
ホントにホントにごめんね。」
「おい。 俺も捜すよ。」
「いや、けど・・・」
「大事なもんなんだろ。 俺様に任せなさい。」
二人で探し回るがなかなか見つからない。
そろそろ閉館だと係員に言われるあやめ。
そこへ恭之助があったと戻って来て、あやめに渡す。
夜、あやめのアパートへやって来た一弥。
しかしあやめはおらず・・・
帰ろうとした時、あやめと恭之助を目撃。
「今日はホントに楽しかった。 ありがとう。」
「おう。」
「熱出した時も助けてもらったし、
河村くんには感謝することばっかり。」
「漸く俺様のありがたみが分かったか。」
「その俺様キャラって照れ隠しなんだね。」
「えっ?」
「河村くんってホントはすごく温かい人。
それがお客さんにも伝わるから人気あるんだろうな~。」
「まあな。」
「『棒しばり』もきっといい舞台になるね。」
「おう。」
「成功して欲しいな。 ヒロくんのためにも。
ヒロくんの夢は、私の夢でもあるから。」
「そっか。 心配すんな。
今度の舞台、絶対成功させる。 一弥のためにも。
だから、楽しみにしてろ。」
「ありがとう。 じゃあここで。」
「じゃあな。」
二人が帰って行く。
「舞台はもう中止じゃないか。」
そう呟く一弥。
一弥が稽古場に行くと、恭之助が松吉に頭を下げていた。
「どうか、一弥と一緒に舞台に上がらせて下さい。」
驚いた一弥が入って行く。
「恭之助さん!」
「バカ!! 早く座れ。」
「はい。」
二人並んで正座。
「くだらない意地の張り合いは二度としません。
必ず舞台を成功させるために精一杯稽古致します。
ですから、どうか中止にはしないで下さい。
どうしても、どうしても成功させなきゃならないんです。
どうかお願いします!!」
「お願いします!!」
「容赦はしないぞ。」
「ありがとうございます!!」
二人が出て行った後、世左衛門が姿を現す。
「帰りましたよ。」
「どうやら気を回しすぎたようです。」
「板の上の鬼、河村世左衛門も、
親となればただの人ですな~。」
「いや、お恥ずかしい。
しかしどうしてもこの『棒しばり』は経験させてやりたかったので。」
「あの子たちの未来のために全力を尽くします。 お父上。」
その後、稽古は順調に進む。
個人稽古も徹夜で頑張る二人。
が、一弥は個人稽古の最中に足に痛みを感じた。
そこへ咲五郎が現れる。
「プレッシャーがあるのは分かるが、
万全の体調で舞台に上がるのもプロの仕事だぞ。」
「はい。」
「今まで努力してきたんだ。 自信を持ってやりなさい。」
「はい。」
「恭之助も今回頑張ってるらしいな。 楽しみだねえ。
ああいうタイプは本番でハネるからね。」
「ハネる?」
「分かるさ。 その時になれば。」
足が痛そうな一弥。
恭之助はキレイに扇を開けるようになった。
指先からは血が・・・
公演の日。
順調に芝居が進んで行く。
二人の息もピッタリ合っていた。
『恭之助さんの踊り、完璧だ。
それになんだ?
何故本番でこんなに楽しそうにしていられるんだ?』
芝居が続く中、一弥が足の痛みを感じ、
体のバランスが崩れそうになったところを恭之助がフォローした。
「最後まで気を抜くな。」
恭之助が一弥に声をかけた。
キレイに回ってポーズを決める。
客席の目線が恭之助の方へ。
『みんな・・・恭之助さんを見てる?
会場全体が、恭之助さんに引き付けられている。』
扇を見事にキャッチした恭之助。
『苦手だった扇渡しも
指をボロボロにしてまで完璧に仕上げた。
全部あやめちゃんのためだって言うのか?』
客席にいるあやめを見つけた一弥。
しかしあやめは恭之助を見ていた。
『あやめちゃんまで恭之助さんを・・・』
舞台は無事に終了。
恭之助の楽屋にいる一弥。
「途中ふらついてすみませんでした。」
「全く素直じゃねえな~。
足が痛いなら痛いって言えっつうんだよ。」
「気づいてたんですか?」
「あったりめえだろ! 俺を誰だと思ってんだよ。」
そこへご贔屓さんが案内されて来た。
「じゃあ、あやめによろしくな。 お疲れ。」
一弥は楽屋から出て行く。
客席に座って待っていたあやめのところへ行く一弥。
「ヒロくん!! 凄かったよ。 感動しちゃった。
今まで観た中で一番楽しかった。
いい舞台観してくれてホントありがとう。
ヒロくん、どうかした?」
「僕の力なんかじゃない。」
「えっ?」
「今日の舞台は・・・恭之助さんだけのものだよ。」
「でも二人共ホントに素敵だったよ。
息もピッタリだったし。」
「僕は・・・彼には勝てないのかもしれない。」
「ごめん、よく聞こえな―」
一弥があやめにキス。
恭之助の優しさに涙が出て来るよね(>ω<。)
恭之助の想い、報われて欲しい!!
稽古も頑張ってたけど、やっぱり才能もあるよね。
恭之助はもっと大きな役者になるよ。
しかしお嬢様やってくれたよね(-_-;)
何か仕出かすと思ってたけど、あそこまでするかね。
これからもっと色んなことするんだろうな~(o¬ω¬o)
一弥もさ、お嬢様の力がなければ上に行けないなら、
あやめのことはすっぱり諦めないと!!
ってか、付き合うの無理だと思う。
お嬢様とのドロドロ、もう見たくない。
その分、恭之助に時間を割いて欲しい!!
恭之助の成長を見るのが楽しいわ♪
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