▼ 「おとひめ昆布」の収穫が始まった。おとひめ昆布とは、養殖昆布を間引いたものだ。他の地域では「早出し昆布」とか「早煮昆布」という名で出荷されるが、私の村で生産するものを「おとひめ昆布」という。漁師のおじさんが名付けたもので、ネーミング勝ちしている。美容・栄養・健康の三要素を持ち、食した人は乙姫様のように美しくなると言われている。そう「人」が「言」うので「信」じて欲しい。
▼ 3月に入ると、私の村は芳しい昆布の匂いに包まれる。皆さんのまちの匂いは、どんな匂いですか。「歴史と文化と観光の街函館」といえば、素敵な匂いがすると思うが、40年ほど前の私の感覚は、飛行機から降りると、海岸に打ち寄せられた昆布が腐敗しているような匂いを感じた。それは、北洋漁業の衰退で、すっかり元気を失った港街の風景が、そんな匂いを私に感じさせたのだ。今の私は、感性も鈍り、そんな匂いに麻痺してしまったようだ。
▼ 松谷みよこさんの絵本。「ぼうさまになったからす」から。
戦争になり村の男たちは出征し戦死した。村民はある日たくさんいたからすがいないことに気付く。現地に出向けない遺族のために、坊さまになって供養しているという。戦争が終ってやっともどってきた。
▼ 私の村では、カラスが人家に群れると誰かが死ぬといわれた。私の実体験からもそれは確信している。「カラス泣ぎが悪いな。誰か死ぬんだべが。そういえば00家のばあさん、病気が悪化してるって聞いたけど」というような会話をしていた。カラスは死臭を感じるのだろうか。
▼ 戦後70年。カラスが日本各地から一斉にいなくなった。その行く先は、国会議事堂だった。国会を覆いつくすようにカラスが真っ黒に群がっている。まさしく「黒会擬似堂」だ。中では、安全保障法制の骨格原案が出来上がり、集団的自衛権の行使容認の「存立危機事態(仮称)」ができていた。カラスの鳴き声が変んだ。よく聞くと「せんししゃをだすな。きゅうじょう・きゅうじょう」と鳴いているのだ。カラスはアベ政権が、もうすぐ死に体になることを察知しているのだ。
かわぐちえいこう著「こっかいからす」より。