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函館市とどほっけ村

法華宗の日持上人にまつわる伝説のムラ・椴法華。
目の前の太平洋からのメッセージです。

幸せの定義 (漁師見習8)

2008年12月15日 09時03分10秒 | えいこう語る
今年最初のウニ漁は、採取時間が45分の短期決戦だった。
漁場に着き水中メガネで海の底を覗くと、岩肌が白くなったところにムラサキウニがたくさん見える。まるで宝石の原石が散らばっているようだ。
岩肌が白いのは磯焼けという現象だろう。日本海側ばかりではなく、太平洋側も海の環境が悪化しているようだ。
初出漁祝いと言うことで、船頭さんからたくさんウニをいただいた。
家に帰って中身を見ると、成熟度が足りない。これでは寿司屋には提供できないだろう。1kg5百円台と漁組の放送があった。最低の値段だ。
ムキ殻は庭の植木の根元に、落ち葉を集めていた中に置いた。肥料としては最高なので、来年の花や実のつき具合が楽しみだ。
身体全体に痛みを感じるが、全神経を集中し肉体労働をしたという、海の男の自負心が、痛みを勝る。
「おとうさん、海の匂いがしてステキ!」なんてうれしいこといってくれる。妻は大好物のウニを食べることができるから、異常とも思われる笑顔である。
妻は函館の駅前で生まれた。戦後、北洋漁業が再開され、その景気で賑わった通称「函館大門」と呼ばれる繁華街で育った。
「百万ドルの夜景」その真っ只中で生まれた娘が、ネオンがきらめく頃には、外には人っ子一人、いや、犬や猫さえ歩いていない、裸電球の電信柱がぼんやりかすむ様な漁村に、縁あって嫁いで来た。
その頃はウニの値段が安く、妻は大好物のウニを食べるたび「私はこのウニがあるから、この村で生きていける」と、笑っていた。
昨夜、妻のご飯の上には『てんこ盛り』のウニが乗っかっていた。
「あなたには失礼だと思うけど、幸せってウニを食べる時のことだわ」
結婚して30年が過ぎた。
妻の幸せの定義は、一貫して変わっていないのを、昨夜しみじみ感じた。
夕食前に一風呂浴びていたが、食事後もう一度湯船に浸かった。
初出漁の反省をしながら、妻の幸せそうな顔を思い出していたら、湯船のお湯が、かすかにうねっているような気がした。