夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

入試問題作成覚書 その1「素材となる文章の選択」

2012-08-01 23:38:39 | 教育
毎年、夏休みの時期に、入試問題の作成がある。一人何題作成というのが決まっているだけで、素材となる文章を自分で選び、自力でオリジナルの問題とその模範解答を作らなければならない。

これから数回に分けて、入試問題を作る上での技術面や、心がけていることなどを書いておきたい。

今回は、「素材となる文章の選択」について。

1.出題傾向の把握
他校(主に県内の)と出題がかぶらないように、過去問を数年分チェックしておき、同時に受験国語界(こういう言葉があるかどうかはおくとして)の近年の出題の傾向を把握しておく。これは、学校にお願いして、県公立高校と、県内の主要な私立高校の入試問題の過去問がパックになったものを毎年、買ってもらっている。以前、他教科で、過去問のチェックを怠ったために、入試問題の校正段階で、よく似た問題が前年に近隣の高校で出題されたことがわかり、慌てて修正したことがあった。
また、全体的な出題傾向を把握するためには、『全国高校入試問題正解』(旺文社)が至便で、個人で毎年購入している。

2.ボリューム
本校の場合、問題のボリュームは、大問4問で文章題3問、条件付き作文が1問。試験時間は45分なので、1問につき10分少々で受験生が解けるような問題を作成する。訓練された受験生は、1分あたり500~600字程度のスピードで読むというが、文章題はそれぞれ、8~12の設問で構成され、そのうちの1問は40~60字程度の記述問題がある。受験生が解答できるのに十分な時間を残してやらなければならないことを考えると、出題できる文章の分量は、評論(説明的文章)で2000~2800字、小説で2400~3000字といったところか。小説の場合は、文章の前に解説のためのリード文もつけることを計算に入れておかなければならない。

3.出題する文章のジャンル・レベル
料理における食材のように、国語の入試問題は、素材文でほぼ成否が決まってしまう。どの作家・評論家のどんな文章のどの部分を取ってくるか。そこに、教師としての見識や力量が表れるだけでなく、その学校の教育姿勢や方針、受験生へのメッセージも発信されることになるので、細心の注意を払いつつ、「志」が感じられるような文章を選ばなければならない。
また、高校受験国語では、どうしても中学校の教科書に出てくるような作者・作品とは傾向を変えざるをえないところがある。中学校の授業では、教科書の平易で長めの文章を、何時間もかけて学習するが、高校入試の場合は短い時間で、作品の一部分だけを読まされ、内容をどれだけ正確に理解したかを、設問の指示に従って表現することになる。
高校入試の場合、説明的文章の著者としては、内田樹、齋藤孝、長谷川眞理子、村上陽一郎、茂木健一郎など、物語文の作家としては、あさのあつこ、石田衣良、小川洋子、重松清、瀬尾まいこなどが常連だろうか。教科書に出てくる重松清以外は、ふだん中学生が手にとって読むような本の作者ではないだろう。

4.その他
現代文の場合(現古融合文も含む)は、ここ1年以内に出た本から選ぶと、他校の過去問とかぶることを気にしなくてよいので、私の場合は、なるべく新しい作品を選ぶようにしている。(その代わり、評価が全く定まっていないものを自分の責任で取り扱うことへのリスクはある)。
ここで、言うまでもないことだが、取り上げる文章はもともと、その評論家や作家がみずからの思想・意見・美意識・人生観・世界観などを具現化したり、世に問うために書かれたものであって、入試問題のために書いたものではない。批評や小説の世界の専門家が、自分のテーマや芸術を極めるべく、言葉で格闘した知的労働の成果であり、中には命がけで書いている人もあるだろう。そうした方々への理解と感謝を抜きにして、入試問題は作れないと考えている。