夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

国文学研究資料館

2012-08-10 23:21:42 | 日記
今日は国文学研究資料館で資料集め。一昨日、国会図書館に行ったときには、閲覧できない雑誌などがあったのだ。国会図書館では現在、所蔵図書のデジタル化を進めているため、閲覧を希望しても「作業中」と表示が出て、「マジかよ…。」ということが往々にしてある。

国文研なら、自分の専門分野に関する書籍はほとんど揃っているし(雑誌はそうでないこともあるが)、やはり開架式なので、自分の目指す本以外にもいろいろ手にとって確かめることができるのが嬉しい。

ただし、場所が立川からさらに多摩モノレールに乗って高松まで行くため、やや遠いのが難点。また、近くに飲食店がないのも不便といえるが、お昼時には複数の業者がロビーに弁当を売りに来てくれる。カレー弁当もあったが、なかなかおいしそうだ。国文研は写真の建物の中に、国立極地研究所や統計数理研究所などと共にあるので、その職員・来館者を対象にすれば、それなりに儲かるのだろう。

今日は、書籍の閲覧・複写の他に、通常展示「和書のさまざま―書誌学入門―」を見た。装丁・表紙・綴じ・書型など、古典籍を取り扱う上での基礎知識について、一つ一つ実物を示し、簡潔にして要を得た説明が施され、初心者にもわかりやすい展示になっていた。展示品もすばらしいものが多く、自分の専門ではないが、大学生の頃、岩波大系本で読んだ「春色梅児誉美(しゅんしょくうめごよみ)」や「偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)」の多色刷版本があったのには、特に夢中になって見入ってしまった。

9月7日までやっているそうなので、写本や古筆に興味をお持ちの方は、ご一見あれ。

フェルメール「真珠の耳飾りの少女」その2

2012-08-10 07:59:31 | 日記
一息いれた後で、東京都美術館に移動し、「マウリッツハイス美術館展」を鑑賞。

美術館の入口のところに、「入場 待ち時間20分」と表示があり、しまったと思う。来館する順番を逆にしておけばよかった。こちらの「真珠の耳飾りの少女」の方が人気が高いのだ。来館は人出が比較的少ない午前の早い時間帯にしておくべきだった。

気を取り直して列に並び、待つこと20分、ようやく入場。レンブラント、ヴァン・ダイク、ルーベンスなど、特筆すべき絵画は数多く、絵画や展示の趣旨の説明に教えられたことも多い。特に静物画は、以前はさっぱりその意義を見いだせなかったのだが、画家にとっては、同じような題材で他の画家と競い合い腕を磨く場になっていたこと、また、商人や富裕な町人など新たな「市民」階級の台頭を背景としている事情を理解でき、「芸術は時代の子」と言われるのはやはりその通りなのだと思った。

一方で、芸術は、時代や国境を越えて、人々に理解され愛されるものでもある。絵画でいえば、「真珠の耳飾りの少女」はその代表的な例であろう。高度な技法を用いてはいるが、上半身のみを切り取り、肩越しにこちらを見つめる少女のまなざしと直接我々が向かい合うことになるこの絵はとても分かりやすく、万人を魅了する。

今回は、この絵のためだけに一室が設けられ、この絵を見るためだけに、さらにロープで仕切られた順路を、列になって並ぶよう指示される。この時は約20分待ちだったが、人の後ろから見るのでも構わない人は、別の順路を行けばすぐ見られる。

絵が近づくにつれ、緊張が高まってくる。時々列の隙間から、展示された絵が見える。「びっくりするくらい小さいよ」とは聞いていたが、その通りだ。LPレコードのジャケットくらいの大きさだろうか。(その後確認したら、この絵の大きさは44.5×39㎝。LPは31.3×31.5㎝なので、だいぶ違う(汗)。A3よりもやや大きいサイズだ)。

列が最後の折り返しに入り、3mほどの距離に近づいたところから絵が見えたとき、全身鳥肌が立った。寒気とも興奮とも緊張ともつかない感覚に襲われる。ここからはもう、何も見ないようにして、静かに気持ちを整え、自分を無にして、絵の前に立つ。

一生一度。

そう自分に言い聞かせながら。

……ほんの1分ほどしか見られなかった。思わず足を止めていたら、無情な係員に「歩きながらの鑑賞にご協力お願いしまーす」と促され、後ろ髪ひかれる思いでその場をあとにした。返り見しながら立ち去るとき、もう一度彼女と視線が合った。

半開きの口もと、口びるにさした紅、耳もとに大きな真珠、そして、せつなげに何かを訴えかけるようなまなざし。……目と目が合って、まるで生きた女性の瞳にとらえられたように、目が離せない。説話で、物語の絵の美女に恋してしまう男の話があったが、本当にありうることなのだと思った。

今も、係員に促され、しり目に絵を見おこしながらその場をあとにしたときの、少女の表情や面ざしが目にやきついて離れない…。