車が陸前高田市に入ると、道路を迂回させられることが目立って増えてきた。
地図では市内を流れる川を越えた目と鼻の先が高田病院なのに、橋が落ちているため、
延々と遠回りしなければならなかった。
それでも何とか市の中心部に入ることができた。瓦礫だらけになった無人の市街地に入った瞬間、言葉を失った。
そこはさながら、爆風で何もかも吹き飛んだ広島の爆心地を数百倍に拡大したような死の街だった。
その被害状況は、阪神淡路大震災に直撃された神戸や、同時多発テロに襲われたニューヨークの比ではなかった。
あえていうなら、神戸やニューヨークにはまだ人間の体温のぬくもりがあった。
しかし、千年に一度といわれる三陸大災害を象徴する陸前高田の被災現場には、
熱もなければ声もなかった。津波がすべてを攫っていった後には、
人間の生きる気力を萎えさせ、言葉を無力化させる瓦礫の山しかなかった。
ここには人間が生きたという痕跡さえなかった。
「津波と原発/佐野眞一著」
GWに歩いたこの土地は7ヶ月たったクリスマスの日も
瓦礫が堆く積まれたままの「熱もなければ声もな」い、
「人間の生きたという痕跡さえ」喪われたままの状態だった。
佐野眞一さんの「津波と原発」は、目からウロコの視点の逆転があり、ページをめくりながらなんども唸ってしまったのだが、
「竜宮伝説」の浦島太郎の話が、実は津波にあった漁師の話が元になっている…という仮説には大きく頷くほか無かった。
世に知られている浦島太郎の話は、
漁師の浦島太郎は、子供が亀をいじめているところに遭遇する。太郎が亀を助けると、亀は礼として太郎を竜宮城に連れて行く。
竜宮城では乙姫が太郎を歓待する。しばらくして太郎が帰る意思を伝えると、乙姫は「決して開けてはならない」としつつ玉手箱を渡す。
太郎が亀に連れられ浜に帰ると、太郎が知っている人は誰もいない。
太郎が玉手箱を開けると、中から煙が発生し、煙を浴びた太郎は老人の姿に変化する。
浦島太郎が竜宮城で過ごした日々は数日だったが、地上ではずいぶん長い年月が経っていた。…といったものだが、
これを津波の視点から見てみると、
沖合に船を出した漁師は、地震発生後の大津波を船の上で体感するのだけど、海の上では陸地を襲うほどの波の高さを感じない。
しかし海岸線では黒々とした海の壁が村を呑み込み、衣の裾をたぐり寄せるように沿岸の家々を根元から引き寄せ、村全体を消滅させていた。
漁から帰った漁師の目には忽然と消えたかつての村があった。その信じられない光景を見てたちまち白髪になり、発狂するのだった。
人間の体温はおろか声さえ根こそぎ奪い「人間の生きたという痕跡さえ」消失させてしまう「大海嘯」。
その恐ろしさを伝承したのが「竜宮伝説」ではないか…という新たな視点。
街全体が消失したここ陸前高田の被災地に再来して、その漁師が白髪になった感慨を思い知るのだった。
このことは決して忘れない。2012は、ここからはじめるのだ。
地図では市内を流れる川を越えた目と鼻の先が高田病院なのに、橋が落ちているため、
延々と遠回りしなければならなかった。
それでも何とか市の中心部に入ることができた。瓦礫だらけになった無人の市街地に入った瞬間、言葉を失った。
そこはさながら、爆風で何もかも吹き飛んだ広島の爆心地を数百倍に拡大したような死の街だった。
その被害状況は、阪神淡路大震災に直撃された神戸や、同時多発テロに襲われたニューヨークの比ではなかった。
あえていうなら、神戸やニューヨークにはまだ人間の体温のぬくもりがあった。
しかし、千年に一度といわれる三陸大災害を象徴する陸前高田の被災現場には、
熱もなければ声もなかった。津波がすべてを攫っていった後には、
人間の生きる気力を萎えさせ、言葉を無力化させる瓦礫の山しかなかった。
ここには人間が生きたという痕跡さえなかった。
「津波と原発/佐野眞一著」
GWに歩いたこの土地は7ヶ月たったクリスマスの日も
瓦礫が堆く積まれたままの「熱もなければ声もな」い、
「人間の生きたという痕跡さえ」喪われたままの状態だった。
佐野眞一さんの「津波と原発」は、目からウロコの視点の逆転があり、ページをめくりながらなんども唸ってしまったのだが、
「竜宮伝説」の浦島太郎の話が、実は津波にあった漁師の話が元になっている…という仮説には大きく頷くほか無かった。
世に知られている浦島太郎の話は、
漁師の浦島太郎は、子供が亀をいじめているところに遭遇する。太郎が亀を助けると、亀は礼として太郎を竜宮城に連れて行く。
竜宮城では乙姫が太郎を歓待する。しばらくして太郎が帰る意思を伝えると、乙姫は「決して開けてはならない」としつつ玉手箱を渡す。
太郎が亀に連れられ浜に帰ると、太郎が知っている人は誰もいない。
太郎が玉手箱を開けると、中から煙が発生し、煙を浴びた太郎は老人の姿に変化する。
浦島太郎が竜宮城で過ごした日々は数日だったが、地上ではずいぶん長い年月が経っていた。…といったものだが、
これを津波の視点から見てみると、
沖合に船を出した漁師は、地震発生後の大津波を船の上で体感するのだけど、海の上では陸地を襲うほどの波の高さを感じない。
しかし海岸線では黒々とした海の壁が村を呑み込み、衣の裾をたぐり寄せるように沿岸の家々を根元から引き寄せ、村全体を消滅させていた。
漁から帰った漁師の目には忽然と消えたかつての村があった。その信じられない光景を見てたちまち白髪になり、発狂するのだった。
人間の体温はおろか声さえ根こそぎ奪い「人間の生きたという痕跡さえ」消失させてしまう「大海嘯」。
その恐ろしさを伝承したのが「竜宮伝説」ではないか…という新たな視点。
街全体が消失したここ陸前高田の被災地に再来して、その漁師が白髪になった感慨を思い知るのだった。
このことは決して忘れない。2012は、ここからはじめるのだ。