環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

治療よりも予防を

2007-06-03 22:27:02 | Weblog


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1月5日のブログでスウェーデンが「予防志向の国」(政策の国)であるのに対し、日本は「治療志向の国」(対策の国)であると,私の観察結果を紹介しました。この相違をもう少し、具体的な事例で検証してみようと思います。

皆さんも薄々おわかりのように、日本は「何か目に見えるような問題が起こってから対応を考える、つまり、病気になってから治療する」というパターンを繰り返してきた国です。一方、スウェーデンは人間に被害が出てから行動を起こしたのでは「福祉国家」として社会全体のコストが非常に高くなるという認識から、「予防できることは予防しよう」という考えで行動してきた国です。

高福祉・高負担に支えられたスウェーデンでは、失業者や健康障害者ができるかぎり存在しないほうが望ましいのです。失業者や健康障害者を社会の一方でつくりだし、他方で一生懸命治療するような社会は、GDPの成長には貢献するかもしれませんが、非常にコスト高な社会となります。「治療」という考え方は「社会全体のコスト」を押し上げる原因となるので、スウェーデンにとっては望ましくありません。

ここに大きな相違、つまり、「治療志向の国」と「予防志向の国」の相違があるのです。言い換えれば、「対策の国」と「政策の国」の相違と言ってもよいでしょう。これまでに公表された様々な資料をながめてみますと、明らかに「治療よりも予防のほうが安上がりである」と言えると思います。

水俣病の話からもわかるように、水俣病という公害病は60年以上前に発生し、50年前の1956年に公式に認められた公害病です。しかし、患者の方々は今なお、この病気で苦しんでおられますし、裁判で一応の決着が着くまでに長い時間をようしました。判決後被害者に支払われたお金は大変な額にのぼったでしょうが、それでも、一度失われた健康は修復不可能です。

●NGO国際水銀シンポジウムの記録 水俣から学ぶ-50年の歴史から原田正純先生(元熊本学園大学教授)

こうしたことを考えますと、 「治療より予防のほうが社会全体のコストは安くなる」というのは事実だと思います。このように日本は、金銭と時間と、そして何よりもかけがえのない健康において、莫大なコストを支払う羽目になったのです。

直近の例では、5月31日に東京大気汚染訴訟で「国、和解へ60億円拠出」という報道がありました。

この記事によれば、「これまで政府は、国の政策とぜんそくとの因果関係が明らかでないとの立場から、都が患者との和解のため提案していた医療費助成制度への財源拠出を拒んでいた」そうです(上の記事の赤枠の部分)。さらに、この記事は96年5月の東京大気汚染訴訟から今回の和解に向けた60億円の国の拠出決定までの間に、原告計633人のうち121人がすでに死亡した、と報じています。

20世紀の日本では、目の前のコストが高くなることを大変気にしましたが、社会全体のコストがどうかということにはあまり関心がなかったように思います。一方、スウェーデンは公的な力により「福祉社会」を作り上げた国ですので、福祉社会の維持のために社会全体のコストがどのくらいかかるのかに常に関心があり、福祉サービスを低下させないで、社会全体のコストをいかに低くできるかが政治の大きな目標の一つとなっていました。

このように、20世紀後半のスウェーデンでは「治療より予防」という考えが社会の隅々まで定着していったと言ってよいでしょう。

21世紀に入り7年目に入った今、私たちが直面している「環境問題」と「その解決策としての持続可能な社会の構築」は治療志向の国では対応できない問題ですので、日本を「治療志向の国」から「予防志向の国」へ転換していかなければなりません。
 


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緑の福祉国家63(最終回)  あらためて、緑の福祉国家の概念を

2007-06-02 08:22:30 | 市民連続講座:緑の福祉国家


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今年1月11日から始めた市民連続講座「スウェーデンの挑戦:緑の福祉国家」が昨日で62回目を迎えました。日本も戦後62年目を迎えました。「62」という数字は単なる偶然の一致にすぎませんが、この連続講座は昨日でひとまず終了しました。

世界は急速に動き始めました。6月6日からドイツのハイリゲンダムで開催されるG8サミットでは「温暖化」が主要テーマになり、日本の首相も日本発の提案をするようです。また、来年6月の洞爺湖サミットの主題のテーマは「環境」だそうです。

1月7日のブログで紹介した安倍首相の「所信表明演説」(2006年9月29日)

1月27日のブログで紹介した安倍首相の「施政方針演説」(2007年1月26日)

で示された「首相の環境問題に対する認識」と半年後の6月6日のサミットに臨む「首相の環境問題に対する認識」のあまりの落差の大きさに、私は戸惑いを感じざるを得ません。

スウェーデンはG8のメンバーではないので、日本のマスコミに登場する機会はメンバー国である英国、ドイツ、フランス、米国に比べて極端に少ないのですが、すでにこのブログで紹介しましたように、スウェーデンは2001年の時点で京都議定書の目標値をクリアーした最初の国となりました。現在では、スウェーデン、英国、ロシアおよびウクライナの4カ国が京都議定書の目標値を達成したことになっています。

また、国連開発計画(UNDP)の「人間開発報告書 2004」の207ページ(Energy and the Environment)によれば、スウェーデンは先進工業国の中で、一人当たりのCO2排出量(2000年)が最も少ない国(1980年:8.6トン、2000年:5.3トン)でもあります。日本は1980年:7.9トン、2000年:9.3トンだそうです。ちなみに、今年1月7日に公表されたスウェーデン政府の報告書によれば、スウェーデンのCO2の排出量は京都議定書の基準年の90年と2005年を比較する7%減(日本は約8%増)で、この間、36%の経済成長を達成しました

これまで述べてきたように、スウェーデンは単に「地球温暖化」だけに目標を絞っているのではありません。スウェーデン政府は21世紀前半に向けて「緑の福祉国家」を実現するという壮大なビジョンを掲げています。目標年次は2025~2030年ごろです。「地球温暖化防止」への対応は、ビジョンを実現する行動計画の一部に過ぎません。

緑の福祉国家12 「気候変動」への対応 ①(1/23) 

緑の福祉国家13 「気候変動」への対応 ②(1/23) 

緑の福祉国家14 「気候変動」への対応 ③(1/24) 

緑の福祉国家15 「気候変動」への対応 ④(1/26)

緑の福祉国家16 「気候変動」への対応 ⑤(2/3) 


緑の福祉国家17 「気候変動」への対応 ⑥(2/4)   
 


この連続講座を終わるにあたって、初回の1月11日のブログに掲げた持続可能な開発省のホームページのトップページを飾る「緑の福祉国家」の要旨を再掲します。

この概要から、緑の福祉国家(生態学的に持続可能な社会)の構築は、江戸時代へ戻ることでも、現在の生活レベルを落とすことでもなく、人間の英知を発揮し、「希望のある安心と安全な国づくり」であることがおわかりいただけたでしょう。

すでに1月9日のブログでも報告しましたように、スウェーデンでは、昨年9月17日に12年ぶりで政権交代が行われました。昨年10月6日に発足したラインフェルト連立内閣(4党)の下で、今年1月1日から3つの新しい省が発足しました。

これに合わせて、「緑の福祉国家」のという実現というビジョンを加速する目的で2005年1月1日に発足した「持続可能な開発省」は今年1月1日から再び「環境省」に名称変更することが明らかになりました。持続可能な開発省が所管としていた「エネルギー分野」は企業・エネルギー・通信省へ>、「住宅分野」は財務省へ移管されました。

新政権誕生直後に公表された、首相の施政方針演説を見る限り、行政組織の衣替えや微調整はあるでしょうが、大きな変化はなさそうです。大きな変化があるとすれば、4年後、2010年の総選挙で現政権が大勝利(今回は議席数で7議席、得票数で2%程度の僅少さ)したときでしょう。

今後のスウェーデンの動きを皆さんとともにウオッチしていきましょう。



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緑の福祉国家62 「政策評価」のためのチェック項目

2007-06-01 14:08:40 | 市民連続講座:緑の福祉国家


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スウェーデンはさまざまな転換政策を実施して、20世紀に築き上げた「福祉国家」を21世紀の「緑の福祉国家(生態学的に持続可能な社会)」へ向けて着実に歩を進めているように見えます。しかし、こうした転換政策が本当に「持続可能な開発」に向かっているのか、あるいは「環境問題を改善する方向」に向っているのかどうかを、どのように判断したらよいのでしょうか。
 
スウェーデンでは、1969年の「環境保護法」20世紀の環境アセスメントの根拠法となっていましたが、この法律もほかの環境関連法と同様、99年1月1日施行の「環境法典」に統合されました。
 
環境アセスメントは現在の「持続不可能な社会」を積極的に変えることなく既存の法体系が求める要件の範囲で 「相対的に環境負荷の少ない建設計画や都市開発計画」などを行なうために、20世紀後半から用いられてきた方法です。
 
スウェーデンの環境諮問委員会が90年代の初めから提唱している政策評価のチェック項目は、次の6つです。



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2007年5月掲載のブログ記事

2007-06-01 09:14:44 | 月別記事一覧


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緑の福祉国家31 「福祉国家」から「緑の福祉国家」への転換政策の検証(5/1)
        
緑の福祉国家32 新しい化学物質政策の策定① 2つの判断基準(5/2)

            技術に対する考え方に大きな落差(5/2)

緑の福祉国家33 新しい化学物質政策の策定② 有害物質のない環境(5/3)

緑の福祉国家34 新しい化学物質政策の策定③ 化学物資政策ガイドライン(5/4)  

緑の福祉国家35 新しい化学物質政策の策定④ 化学物質政策ガイドライン(5/5) 

緑の福祉国家36 新しい化学物質政策の策定⑤ スウェーデン発の政策がEUを通して日本へ(5/6)

緑の福祉国家37 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入① 今日の製品は明日の廃棄物(5/7)

緑の福祉国家38 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入② 1990年代の廃棄物政策(5/8)

緑の福祉国家39 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入③ 1990年代の廃棄物政策の概要など(5/9)

緑の福祉国家40 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入④ 使い捨てペットボトルの主要中止など(5/10)

緑の福祉国家41 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入⑤ 発生源での分別(5/11)

緑の福祉国家42 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入⑥ 政府の購買、法の改正、循環政策など(5/12)

3月の景気動向指数(5/12)

緑の福祉国家43 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入⑦ 導入までの流れのまとめ、基本的な考え方(5/13)

緑の福祉国家44 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入⑧ まずは、包装、古紙、そしてタイヤから(5/14)

緑の福祉国家45 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入⑨ 包装に対する製造者責任制度の成果(5/15)

緑の福祉国家46 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入⑩ アルミ缶のリサイクル(5/16)

緑の福祉国家47 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入⑪ 自動車に対する製造者責任制度(5/17)

緑の福祉国家48 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入⑫ 電気・電子機器に対する製造者責任制度①(5/18)

緑の福祉国家49 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入⑬ 電気・電子機器に対する製造者責任制度②(5/19)

緑の福祉国家50 廃棄物に対する「製造者責任制度」の導入⑭ 電気・電子機器に対する製造者責任制度③(5/20)

緑の福祉国家51 持続可能な林業・農業① スウェーデンの食料自給率(5/21)

緑の福祉国家52 持続可能な林業・農業② 抗生物質の使用禁止、家畜の飼養管理(5/22)

緑の福祉国家53 持続可能な林業・農業③ フード・チェーンすべてをカバーする研究(5/23)

緑の福祉国家54 持続可能な林業・農業④ BSE(牛海綿状脳症)への対応(5/24)      

緑の福祉国家55 持続可能な林業・農業⑤ 十分な国際競争力を持つスウェーデンの林業(5/25)

緑の福祉国家56 都市再生(都市再開発)① 日本人観光客の最初の印象(5/26) 

緑の福祉国家57 都市再生(都市再開発)② 都市景観の保全(5/27)

緑の福祉国家58 都市再生(都市再開発)③ 自然享受権 健全な環境は基本的人権(5/28)

緑の福祉国家59 都市再生(都市再開発)④ ストックホルム最大の再開発プロジェクト(5/29)

緑の福祉国家60 都市再生(都市再開発)⑤ アイドリング禁止(5/30)

緑の福祉国家61 都市再生(都市再開発)⑥ ディーゼル燃料、バイオ燃料(5/31) 



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