環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

空調と人工の香り①

2007-06-17 09:32:31 | 巨大構造物/都市/住環境


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この事例も、20年近く前の1990年前後の話です。

日本では、数年前から「アロマコロジー」などという言葉と共に、大手の建設会社と化粧品関連会社などが「香りビジネス」を展開しつつあります。森林欲の気分にひたれる家庭用空気清浄機、森の匂いをまく目覚し時計、フロラール調の香りつき布団乾燥機、ラベンダーの香る足袋、パンストなどそれぞれの製品の基本的な部分はほぼ必要十分なレベルまできているために、いかに付加価値を付けていくかが商品開発の焦点になってきたとメーカーの担当者は言っているそうです。

この様な製品を「エコ・ビジネス」の一つにあげるようなマスメディアや“環境問題の評論家”もでてきました。環境問題をこの様な薄っぺらな発想でとらえたり、おもしろおかしく次から次へとこの種の製品を供給していく企業の風潮には警告を発せざるをえません。

1989年の秋頃からは「人工の香りで能率アップ」、「空調から香りが出る、ぼけ防止になるかも」、「香りをつける空調」などのタイトルをつけた記事が目につきはじめました。最近になりますと、香りを空調を通じて流すことは快適なオフィスの条件の一つであるかのような記事が出始めました。

ここで問題視したいのは「低濃度とはいえ、人工の化学物質を空調施設を通じて流すというアイデア」です。私たちは嫌な匂い、まずい物には比較的注意が働き、拒否する能力が備わっていますが、いい香りや、おいしい物には弱いという弱点があります。最近のオフィス、特に、最近の建設ブームにのって次々と建設される高層のいわゆる「インテリジェント・ビル」では気密性が非常に高まっています。

日本のある大手の化学会社と大手の建設会社は共同で建物の中に香料を流して気分転換や心身の沈静などに役立てる「環境フレグランス(香料)システム」を開発しました。そうして、水仙、桜、ユズ、はまなす、ハーブなど九種類の植物の芳香を人工的に再現しました。いずれも、エアゾール状にして容量千ミリリットルのボトルに詰め、これを30分に1秒の割合で建物の空調ダクト内に噴霧すると、空気に乗って香りが流れるという仕掛けです。

会議が半ばともなれば必ず眠気をもよおす人が出てきます。そのような場合に、空調を使って会議室に流す香りの濃度を高くしたり、あるいは眠気を払う効果のある香りを流すなど様々な応用が可能だとしています。
 
スウェーデン労働安全衛生庁の空調の専門家は、日本のこの様な流行の兆しに対する私の懸念に対して、「スウェーデンでは、そのような空調の利用は許可されないであろう。スウェーデンをはじめヨーロッパでは空調を通して新鮮な空気を供給する以外は許されない。例外として、希に新鮮な空気に水蒸気を添加して供給する場合がある」とテレックスで回答してきました。

「空調施設を通じて供給される空気は可能な限り新鮮なもの(フレッシュ・エア)であるべきだ」というのが住環境や室内環境の改善に多くの研究をしてきたスウェーデンの基本的な考えです。

20年近く前の話です。



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住環境② 高層ビル

2007-06-16 08:12:06 | 巨大構造物/都市/住環境


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20年近くタイムスリップしたついでに、私が1990年前後に抱いていた「住環境に関する懸念」を今日から数回にわたって紹介します。あれから20年近く経った今、事態は改善されているのかどうか、はなはだ疑問です。

ビルに入ると中央が最上部まで100メートル以上も吹き抜けになっているビルが増えてきました。1990年5月19日付けの朝日新聞は「高層ビルの巨大吹き抜け、大災害防げと基準」と題して、東京都消防庁が報告書をまとめ、この報告書を基に、建設省など関係省庁とも検討を重ね、防災上の指針となる初のガイドラインを6月初めにも作成すると報じています。

「アトリウム空間の防災上の特性を踏まえた安全基準は現行の消防法や建築基準法にはなく、特別扱いとなっているのが実情。報告書ではアトリウム空間を持つ建物では、火災が起きたとき、空間そのものが煙突状態となって建物全体に火や煙が一気に広がる危険を指摘」といっていますが、日本では、なぜ、この様な素人でも想像できそうなことを建設前にはっきりとさせておかないのでしょうか? 

大手建設会社は「160階、高さ800メートルの超々高層ビル」、「地上480メートル、100階建て」、「800メートル、200階建て」、「600メートル、一五〇階建て」などの空中都市構想を競っています。そして、「容積率」が緩和されれば明日にもという状況だそうです。このことについては、4月5日のブログ「①90年代の建設業界の環境意識」から4回にわたって紹介しました。

一方、高層住宅に住む幼児の発育に関する懸念や超高層ビルで働く人々の中には眩暈や耳鳴りを訴える「超高層ビル症候群」などと呼ばれる問題点が指摘され始めました。いずれにしても、高層ビルを建てれば、必ずその中で人が生活したり、あるいは仕事をしたりするわけでしょうから、この様な技術競争を競うよりも、もう少し、そこで仕事をしたり、住む人の健康への配慮をしたほうがよいと思います。高層住宅と健康については、4月7日のブログ「③技術者の恐ろしい単純思考」 で触れました。

最近、建てられる高層住宅は非常に気密性が高まっていますから、従来にも増して室内環境に注意を払わなければならないのですが、日本の建築家は建築デザインや機能性については熱心なのに、建材についてはあまり関心がないようです。新建材の多くがプラスチック系であり、多くの家具類にもプラスチックが使用されている現実を考えますと、気密性の高いビルの室内環境の問題は今後ますます重要になってくると思います。



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住環境① 住環境の充実こそが福祉の基本

2007-06-15 06:02:20 | 巨大構造物/都市/住環境


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昨日は携帯電話の話から、一気に20年前の剣持さんの電磁波への警告へ話が飛びましたが、今日もタイムスリップして20年近く前の「住環境」に関連した話を2つ紹介しましょう。ここでも、「予防志向の国」と「治療志向の国」の発想の違いを垣間見ることができます。


★スウェーデン王立工科大学のティーベィ教授の話

朝日新聞社の週刊誌『アエラ』(1989年1月17日号)は「スウェーデンは世界一の住環境を築くのに約60年の歳月をかけた。戦後の住宅政策に関与してきた重要人物の一人、王立工科大学のティーベィ教授はこんなふうに話す」という書き出しで、「住環境の充実こそ福祉の基本。住宅造りは利潤追求のタネにさせない政策が大切」という同教授の考えを次のように紹介しています。
    
●1920年代までのスウェーデンは気候の厳しさを考えたらヨーロッパでも最 も貧しい国。人々は貧弱な住宅で飢え、寒さ、病気などの脅威に悩みました。当時、貧農が中心の社民党が政治の主導権をとったのですが、党第一世代といわれる人々は「国民住宅」運動を起こしました。全国民が十分な住宅を持って心身健やかに生きなければ国の存立はあり得ないという考えです。

●国民は強く支持しましたが45年までは目覚ましい進展はなし。でも、戦火が国土に及ばなかったのは幸いでした。50~60年の経済大成長時代の時に政策は一気に花開きました。住宅こそ健康維持に最も欠かせないものという考えの正しさは国の調査でも証明されました。結論からいえば、収入、健康、教育の条件の悪い人ほど、良質の住環境を与えないとさらにだめになるのです。

●ある条件が整えばハンディはハンディでなくなる。子供は高いところに手が届かないが、踏み台が一つあれば、ことは解決します。ハンディは環境との関係の問題です。この思想がスウェーデンの哲学として定着してきたのです。 


★スウェーデン在住の建築家、田中 久さんの話

スウェーデン在住の建築家、田中 久さんは20年ぐらい前に読売新聞(日付不明)の「論点」へ「スウェーデンの住宅政策に学べ」と題した記事を投稿しています。この記事を要約すると次のようになります。
     
●スウェーデンの住宅政策は社会福祉政策の中の重要な部分であり、建築基準法はすべての国民に文化的生活の最低線を保障するため、住宅の質を規制する目的で作られている。

●わが国の基準法が主として家屋の構造、安全性や衛生など技術面に重点を置いているのに対し、スウェーデンでは、住宅の平面計画から、暖房、換気などの設備や台所の機能に至るまで総合的な居住性に関する基準を示している。したがって、これらの基準を満足させない計画の場合には建築許可が下りないことになる。

●例えば、設計計画の図面に流しとガス台が書き入れられていても、それだけでは台所とはみなされない(実験室かも知れない)。冷凍、冷蔵庫や食品の収納庫(戸棚)はもちろん、調理用の機器と住宅の広さに相当するダイニングテーブルとイスが置ける場所がなければ、台所の定義には当てはまらない。
      
●スウェーデンで、住宅地開発の主導権を握っているのは地主や開発業者ではなく、地方自治体である。自治体の都市計画家や建築家が民間の計画家と協力して、住宅地の基本計画からマンションや一戸建て住宅の設計図も製作する。開発に当たって地主の権限は、日本流に解釈すれば、全然考慮されないのと同じである。 
 

最後の「スウェーデンでの住宅地開発の主導権」については、私のブログでも前に少々触れたことがあります。次の2つをご覧ください。

5月28日のブログ:土地の公共利用権
http://blog.goo.ne.jp/backcast2007/e/278b63892928e5a90693eca9c51108ac

5月29日のブログ:伊藤 滋(都市政策の専門家)さんと幸田シャーミン(ジャーナリスト)の対話
http://blog.goo.ne.jp/backcast2007/e/e1400467db0ea318264b3cdc84761cb2



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電磁波対策の最も進んだ国② 携帯電話

2007-06-14 06:58:45 | IT(情報技術)


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携帯電話はスウェーデンでもたいへんポピュラーです。携帯電話からの電磁波については、EUの勧告があります。スウェーデンで使用されている携帯電話のSAR値(比吸収率。簡単にいえば、携帯電話と直接接触する人間の側頭部が吸収する電磁波のエネルギー量)は0.1~1.7ワット/キログラムの範囲にあります。無線電話のSAR値はすべて0.1ワット/キログラム以下です。
 
しかし、いま、スウェーデンの市民や研究者が懸念しているのは、携帯電話から出る電磁波よりも、国内の通信状態を整備するために建てられる多くのアンテナからのさらに強い電磁波です。

日本でも1999年に、WHOの基準値を超えないこと、という民間のガイドラインが設けられ、2002年からはこの基準値が法制化されています。

しかし、日本で、電磁波についてまず問題になったのは、人の健康への影響ではなくて、漏洩電磁波による電子機器の誤作動の問題でした。日本が「技術立国」を掲げ、科学技術をもって世界に貢献しようとするとき、開発した機器を使うのは、多くの場合、私たち人間であるという事実をはっきり認識する必要があります。

ここで、話を一気に20年前に戻してみましょう。技術評論家の剣持一巳さんが1986年に(株)日本評論社から出された著書『ハイテク災害』の「第三章:電磁波にさらされる人体」で、当時の日本のこの問題を詳しく論述しておられます。
     
●「日本はアメリカに次ぐ工業国であり、高度情報化社会を唱えているにもかかわらず、電磁波の医学的な利用の研究がある程度で、労働災害や環境汚染についての研究は皆無に等しい。最近流行のOA化されたビル(インテリジェント・ビル)では、職場そのものが漏洩電磁波で囲まれることになる。それに都会では、ラジオやテレビ放送、各種の通信システム、レーダーからの電磁波が加わる。事務労働者はこうして電磁波的な環境で日常、働くことになる。

●日本では、電離作用を持つガンマ線、X線などの電磁波は、労働安全衛生法にもとづく電離放射線障害防止規則、放射線障害防止法などによって厳しい規制が設けられている。ところが、電磁波のうち非電離放射線であるラジオ波とマイクロ波について、労働災害、環境汚染の立場から被曝許容量や環境基準などを法的に規制する措置はまったくとられていない

●日本の電磁波に対するこのような状況は、国際的に見るとまったく異常なことであり、孤立しているのである。すでに、世界保健機構(WHO)は1981年に『ラジオ波とマイクロ波の環境保健基準(以下、環境保健基準と略記)』を定めて、加盟各国に勧告している。

●WHOの『環境保健基準』は、7年間の準備を経て、加盟各国の意見を聞いたうえでまとめられており、国際的に権威ある基準になっているのである。だが、日本では、WHOの窓口である厚生省の一部を除いては、この『環境保健基準』の存在すら知られていない。

●環境庁にたずねても、労働省労働衛生課にたずねても、その存在すら知らなかった。しかし、ここで犠牲になるのは一般の人びとの健康であり、子孫への影響である。このまま高度情報化社会が進めば、その社会の電磁波的な環境は、人びとを巨大な電子レンジの中に閉じ込めてゆっくり焼きあげるようなものになっていくであろう。

剣持さんが書いたこの状況は、20年後の今、どのくらい改善されているのでしょうか。ここにはまだ、携帯電話は登場していません。剣持さんの「このまま高度情報化社会が進めば、その社会の電磁波的な環境は、人びとを巨大な電子レンジの中に閉じ込めてゆっくり焼きあげるようなものになっていくであろう」という記述が妙に気になっていました。

2002年6月3日の朝日新聞に次のような記事が出ていました。記事のリード部分には「通勤客は日々、強い電磁波にさらされている――。列車内では多くの乗客が持つ携帯電話の電磁波が重なって反射し合い、その電磁波密度は国際的な安全基準を大幅に超えうることが、東北大の研究でわかった」とあります。続報はあったのでしょうか。





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電磁波対策の最も進んだ国① VDT作業の世界標準

2007-06-13 05:35:23 | IT(情報技術)


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電磁波というのは光や電波の仲間で、レントゲン撮影に使われるX線は、なかでもエネルギーの高いものです。X線ががんを誘発したり遺伝子を損傷する可能性のあることは知られていますが、日常生活で大量のX線を浴びることは、まずありません。

しかし、ずっとエネルギーの低い電波は、さまざまな電子機器から発せられて、そこら中を飛び回っています。こんなに大量の電波にさらされて、健康に害はないのだろうかと懸念する声は、かねてよりありました。
 
電磁波対策が世界で最も進んでいる国は、おそらくスウェーデンでしょう。1992年、カロリンスカ研究所は、電力会社の全面的協力を得て、電磁波の人体への影響についての大規模な疫学的調査を行ないました。過去25年間のデータを調べ、サンプル数は25万世帯にものぼりました。その結果、電磁波が子どもの白血病とかかわりがあることがわかりました。 

スウェーデン政府はこの成果を踏まえ、高圧の送電線を学校などの生活ゾーンから引き離したり、VDT(テレビの画面やコンピュータのディスプレイのような端末機)からの電磁波の規制を世界に先駆けて行ないました。
  
VDTの作業者が、眼の疲れや視力低下、頭痛、吐き気などの症状を訴えることは、いまではよく知られています。これを防止するためにはどうしたらよいのか、具体的にはどのくらい休憩時間が必要なのかの基準策定のもとになったデータの多くは、北欧や欧米で蓄積されたものでした。スウェーデンの労働組合TCOが決めたVDTの作業基準は、いまでは世界標準となっていることを、ご存じの方がおられるかもしれません。




このシステムは1992年に開始されました。上のラベルは初期の段階(1995年)のもので、現在の最新のラベルは2006年のものがあります。このラベルにご関心のある方は次のウエブサイトが参考になるでしょう。
http://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/world/sweden2.html
http://www.tcodevelopment.com/index.html

この例にかぎらずスウェーデンでは、「疫学」(人間集団を観察することで得られるデータから、原因と病気の因果関係を定量的に明らかにする方法論)と呼ばれる学問が環境分野で応用され、その成果が行政担当部局と労働組合、企業など利害を異にする組織の間で共有され、行政的な対応に活かされています。このことは後日で紹介する「アスベスト問題」で有効性を発揮します。



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「治療的視点」と「予防的視点」:摩擦の少ない適正技術を

2007-06-12 06:43:23 | Weblog


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ここで、「治療的視点」と「予防的視点」の決定的な相違を検証しておきましょう。

日本では1967年に「公害対策基本法」ができました。2年後の69年に、スウェーデンでは「環境保護法」ができました。今から考えると、この2つの法律はほとんど同じ時期に生まれた環境分野の基本法ですが、法律の名前からしても前者は治療的視点で、後者は予防的視点でつくられていることが明らかです。視点の相違により、法律の対象となる項目の範囲に相違が出てきます。日本の法律は一般に対象を狭くしておいて、何か新しい問題が起こるたびに対象項目を追加するリスト方式ですが、スウェーデンの法律は日本とは対照的に最初から大きな網をかぶせておきます。

今日は、労働環境の分野で「治療的視点」と「予防的視点」を考えてみます。スウェーデンは予防を重視してきた国ですので、新しい生産技術が登場したときにはまず、それを生産部門や事務部門に導入したら作業者と機械の接点でさまざまな摩擦が起こらないだろうか、と考えます。このような考え方の繰り返しを通して「スウェーデン社会に適した技術」が選ばれ、社会に定着してきたのです。
 
30数年前にマイクロ・エレクトロニクス(いまでいうIT機器)の雇用への影響が、ILOなどの国際機関で議論されたとき、日本をはじめ多くの先進工業国の関心は、コンピュータやロボットが雇用の機会を奪うかどうか、という点でした。そんななかで、スウェーデンの主な関心は、これらの技術が作業の身体や心理にどのような影響を及ぼすか、という点であったことは、特筆に値します。
 
日本の産業界ではこれまでつねに、「競争」とか「効率化」という価値観を優先してきましたので、競争力があり効率化が図れると考えられる生産技術、たとえば、コンピュータとか、ロボットとか、あるいはそれらに支援された生産システムが開発され、市場に登場すると、ほとんど迷うことなく、それらの新鋭機器を生産現場に導入し、生産性の向上、効率化を図ろうとしてきました。事務部門も同様です。
 
また、私たち日本の消費者の行動様式も似たりよったりで、「便利さ」だとか「目新しさ」という価値観でつぎつぎに市場に投入される商品を購入し、廃棄し、さらに、新しいものを求めてきたのです。

その結果、「資源」「エネルギー」「廃棄物」に象徴される環境分野で新たな問題を引き起こしてきました。そしてまた、労働環境分野では、コンピュータやコンピュータに支援された生産システムやオフィス部門で、作業者との接点でさまざまな「医学的・心理的な摩擦(テクノストレス)」を生じています。 
 
このような状況が明らかになると、治療の必要性が生じて、医学の分野では治療医学、技術の分野では対策技術が、そして、両方の分野で診断技術、そのもとになる測定技術の研究開発の必要が生じ、それらの技術が発達することになります。

そして、癒し系ビジネス、スピリチュアルなビジネスが流行することになりますが、いずれも“治療的視点による対症療法”にすぎませんから、事態が好転するわけではありません。これが日本の現状でしょう。



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4月の景気動向指数

2007-06-11 07:49:41 | 経済



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内閣府は6月6日に、4月の景気動向指数(速報値)を発表しました。


私はかねてより、この経済指標を変えるべきだと考えてきました。私の環境論の根底にある基本認識は「経済と環境は切り離せない」、つまり、「経済と環境とは一体だ」と考えているからです。

1月23日のブログ「環境と経済は切り離せない」と、2月19日のブログ「景気動向指数と長期間労働時間」 で、この指標の問題点を取り上げました。この高度成長期に創設された現在の指数11項目を変えない限りエコノミストや経済評論家には環境問題の本質や恐ろしさが見えないからです。

経済指標を21世紀の社会に向けて新しくすることにより、今まで見えてこなかった新しい局面がエコノミストや経済評論家にも見えてくるはずです。

奇しくも6月6日からドイツ・ハイリゲンダムで開かれていた主要国首脳会議(G8サミット)は、「世界の温室効果ガスの排出量を2050年までに半減することについて真剣に検討する」という文書で合意をもって終了したそうです。

このことは日本政府の方針でもありますし、また、日本が環境立国をめざし、現在の持続不可能な社会を「持続可能な社会」に変えていく必要がある というのであれば、この機会にこの指標の見直しを早急に開始する必要があるのではないでしょうか。




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CO2の増税を首相に陳情するスウェーデンの業界

2007-06-11 06:11:11 | 温暖化/オゾン層


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6月6日のブログ「国際社会への提案が多い国と国際社会からの勧告を受けることが多い国」の説明の最終回として、米国の著名な環境コンサルタントであるポール・ホーケンさんが、日本で行なわれたシンポジウムで語ったエピソードをご紹介し、ひとまず「スウェーデン発のCO2税の話」を締めくくることにしましょう。

このシンポジウムは、2001年9月29日/30日の両日、国立京都国際会館で開催された第6回環境経済・政策学会大会における市民公開シンポジウムで、その詳細な内容が「環境保全と企業経営」(環境経済・政策学会編 東洋経済新報社 2002年10月10日 p1~56)に収録されています。


テーマは「環境経営の革新-新産業革命とナチュラル・キャピタリズム-」です。ホーケンさんの発言の当該部分(p45から46にかけて)を引用します。

7年くらい前、スウェーデン最大手の石油精製会社のCEOが、20人ぐらいの他の会社のCEOとともに首相を訪問し、政府にガソリンや燃料に対する二酸化炭素税の増税を陳情した。ビジネス界の要望としては、きわめて珍しいことだった。
 
首相がその理由を尋ねると、イケア、アレックス、トラック会社、スーパーマーケットのチェーンなどさまざまな業種の代表からなるそのグループは、「我々のビジネスは将来にかかっている、廃棄物に関しては、細心の努力を払っていかなくてはならない。炭素に対する課税は我々が企業として、アメリカのようにエネルギーを大量に消費するような馬鹿な会社に比べて、競争面で優位に立つことができる」と答えた。
 
後日、炭素の含有量が最も少ないクリーンな燃料を開発したのが、やはりこのグループのメンバーだったスウェーデンの会社であった。

ここにも、「スウェーデン企業」「日本経団連」のスタンスの相違を見ることができます。



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スウェーデン発のCO2税 企業のインセンティブを高めるのが目的

2007-06-10 08:00:17 | 温暖化/オゾン層


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日本では、2004年5月24日、経済産業省の合同会議(議長・奥田碩日本経団連会長)が、CO2税の早期導入にあらためて反対する方針を決めました。


合同会議は、総合資源エネルギー調査会と産業構造審議会で構成されており、反対の主な理由として、 「効果に疑問がある」「産業部門の国際競争や国民生活に悪影響を与えかねない」 などを挙げています。このような発言が出てくるのは、直接的な規制効果を期待するからでしょう。



上の2つの記事は、京都議定書の発効が半年後に迫った時点(京都議定書は2005年2月16日に発効した)でもまだ、政府内部(経産省と環境省)で基本的な共通認識が共有されていないことを示しています。

また、下の図は10年以上前の省エネルギーセンター発行の雑誌「省エネルギー」(1996年1月号)に掲載された欧州視察ツアー参加者の座談会で示された企業技術者の「省エネ」と「環境保全」に対する認識をまとめたものです。すでに、10年前に日本の企業と欧州の企業の間に、そして、日本と欧州の政府の間も意識の大きな相違があることを示唆しています。この意識の落差は現在では当時よりも大きくなっています。


しかし、スウェーデンのCO2税の導入がめざすのは、「炭素を燃やさないですむようなエネルギー体系」をつくることに向けての、国民や企業のインセンティブを高めることです。
3月26日のブログ「環境政策における経済的手法①」で紹介したように、スウェーデンをはじめとする北欧諸国は環境問題に対してこのような「経済的手法」を活用することに慣れています。

6月6日のブログ「国際機関への提案が多い国と国際機関からの勧告を受けることが多い国」で提起したスウェーデンと日本の国際社会における振る舞い、そして「予防志向の国」から「治療志向の国」への情報の流れとそれに基づく行動の相違をおわかりいただけたでしょうか。



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スウェーデン発のCO2税に、EUの大国の反応は

2007-06-09 06:34:45 | 温暖化/オゾン層


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1990年から92年にかけて北欧諸国で導入された「環境税(CO2税)」は、97年の京都議定書以後、形を変えて、99年にイタリア、ドイツで、そして2001年にはフランス、イギリスで導入されました。



上の2つの図を比べてみて、気がつくことは環境税先発国の税収と後発国の税収の使途が異なることです。先発国の税収は一般財源となり、所得税や法人税の減税に使われています。その結果、4月21日のブログ「税制の改革② バッズ課税・グッズ減税の原則」で紹介しましたようにスウェーデンの法人税は先進工業国の中では最も低く、日本は最も高くなっています。

石光弘・前政府税制調査会会長は、環境税のベストは北欧型だとおっしゃっておられます。


およそ15年前に環境税を導入した北欧の国々は、EUの大国であるドイツ、フランス、イギリス、イタリアなどの環境税導入後発国よりも経済状況は好調ですし、グローバル化した国際経済のなかでも高い国際競争力を維持していることを、国際機関のさまざまな報告から容易に知ることができます。たとえば、世界経済フォーラムの「06年版 国際競争力ランキング」もその一例です。




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スウェーデン発のCO2税に、日本の対応は

2007-06-08 07:16:07 | 温暖化/オゾン層


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スウェーデンは、国民の合意を踏まえて、1991年1月1日からCO2税の導入に踏み切りました。

この種の規制を世界に先駆けて導入したわけですから、当然のことながら、スウェーデンの産業界は「国際競争に不利だ」と主張します。そこで、スウェーデン政府は国民の声を背景に、OECDのような国際機関に、CO2税の導入を提案しました。
 
提案を受けた国際機関は専門家を集めて独自にこの提案を検討し、「提案が妥当なものである」と判断すれば、加盟国にこの提案に基づいた勧告を出します。勧告を受けた加盟国政府は、この提案の是非を国内で検討し、態度を決めるということになります。

それでは、一昨日のブログに掲載した「環境・エネルギー分野の外圧」という図に沿って、CO2税に関するスウェーデンの議論が日本に到達し、日本でどうなっているかを「情報の流れ」として把握おきましょう。


1.スウェーデン国内での議論を経て、1991年1月1日に「CO2税」が導入。

昨日、当然起こる市民の反応を報じる記事を紹介しました。


2.「国際競争に不利だ」という産業界の要請に答えて、スウェーデン政府はOECDに「CO2税導入」提案。

次の記事をご覧ください。


3.提案を受けたOECDは

次の記事をご覧ください。


そして、世界の環境税の現状を調査・分析したOECDはその結果を本にまとめました。


「4.日本の産業界では」で紹介する日本経団連と経済広報センターは、2006年11月のHPを立ち上げるに当たって、この本を参照したのでしょうか。


4.日本の産業界は

この意見広告の枠内のメッセージをリライトします。

今必要なのは一人一人の「参画」です。「環境税」を支払うことではありません。
○地球温暖化問題に、産業界は自ら目標を定め自主的かつ積極的に取り組み成果を挙げていま す。
○今後も目標達成のため全力をあげて取り組みます。
○産業界は、省エネ製品の開発や自動車燃費の向上などを通じて国民生活にも貢献していきま す。
○使途も効果も不明確な環境税の創設は、産業の空洞化、地域経済・中小企業・雇用への悪影 響が避けられません。
○産業界は、環境税や経済統制的な施策には、断固反対です。


2006年11月、(社団法人)日本経済団体連合会(日本経団連)と(財団法人)経済広報センターは、協力して「環境税では地球は守れません! 私たち産業界は、地球温暖化防止に真剣に取り組んでいます」というHPを立ち上げました。そして、このHPで、次のような疑問を呈しています。

Ⅰ 「環境税」には本当に効果があるのでしょうか?
  「環境税」の導入によって、「CO2削減効果」「財源効果」「アナウンス効果」という3つの効果が期待できるとされています。これは本当でしょうか。

疑問1:「CO2削減効果」?
疑問2:「財源効果」?
疑問3:「アナウンス効果」?

Ⅱ 「環境税」は国民生活・企業活動に悪影響を与えます。導入するべきではありません。
  「環境税」は国民生活と企業活動にダメージを及ぼし、わが国経済に打撃を与えます。しかも、「環境税」はかえって温室効果ガスの増大につながるおそれすらあります。「環境税」を導入することによって、以下の3つの悪影響が考えられます。

悪影響1:家庭と企業のダメージ
悪影響2:企業の自主的な取り組みの基盤を阻害
悪影響3:地球規模での温室効果ガスが増大


このように、スウェーデン発の「CO2税導入」の提案は、早い時期にOECD加盟国である日本に届き、政府の導入方針も決まっていました。提案を受けたOECDは、「環境税は国内的、国際的な環境問題の解決により効果的に貢献する」として、国際機関として初めて環境税導入の有効性を打ち出しました。そして、世界の環境税の現状を調査・分析し、その結果を本にまとめました。それにもかかわらず、その後の経過は皆さんご承知のとおりで、日本ではいまだにCO2税の導入は実現していません。



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予防志向の国・治療志向の国 16年前に「CO2税」導入

2007-06-07 07:14:44 | 温暖化/オゾン層


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6月6日からドイツのハイリゲンダムで「気候変動」を主テーマにG8のサミットが開催されています。ちょうどよい機会ですので、今日から数回にわたって、地球温暖化防止政策の重要な柱の一つである「CO2税の導入」を例に、国際社会からの日本に対する“環境・エネルギー分野の外圧”を考えてみましょう。

余談ですが、「経済分野の外圧」は米国から、「環境分野の外圧」はEUからという傾向がすでに定着してしまったようです。

1月23日のブログで触れましたように、CO2は、炭素が燃えて発生するものです。そこで、化石燃料に含まれる炭素の量に応じた課税をして価格を引き上げれば、相対的に炭素の少ない天然ガスへのシフトや、自然エネルギーへの転換が起こるでしょう。こうしてCO2の排出量を減らそうというのが、CO2税の目論見です。

これは長期的には、「資源・エネルギーの消費をできるだけ抑える」という、21世紀の経済成長のめざす方向と一致しています。企業にとっては当面のコスト増ですが、行政が先回りして手を打っておけば、結局は社会全体のコストを低減することになる、というのがスウェーデンの判断なのです。

スウェーデンは、国民の合意を踏まえて、1991年1月1日からCO2税の導入に踏み切りました。この種の規制を世界に先駆けて導入したわけですから、当然のことながら、市民からの当然の反射的な反応起こり、スウェーデンだけのCO2増税では、スウェーデンの産業界は「国際競争に不利だ」と主張します。

当時の新聞記事がその様子を伝えています。 





偶然か,必然かはわかりませんが、上の記事の前半は英国、後半はスウェーデンの当時の状況を伝えています。ともに、現時点で京都議定書の目標を達成できそうな国です。16年経っていまだ日本で実現されていないことがスウェーデンで始まったことが読み取れるでしょう。一言で言えば、民主主義の成熟の相違ということでしよう。

この記事の中に、「政府は検討段階から、80年の伝統と約20万人の会員数を誇る自然保護協会の協力を仰いできた」とあります。 
国民共通のこの課題に対して、日本ではいまだに、政府と環境NGOの協力体制ができているようには思えません。



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「国際機関への提案が多い国」と「国際機関からの勧告をうけることが多い国」

2007-06-06 21:03:48 | 社会/合意形成/アクター


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これまで、スウェーデンと日本は、通貨・言語・文化・政治・軍事などの基軸国家である米国とは違う立場で、国際社会からそれぞれ異なった役割を期待され、世界に貢献してきました。しかし、両国の国際社会における振る舞いは、きわめて対照的です。
 
さまざまな事例が明らかにしていることは、スウェーデンは予防の視点から議論を展開するため、国際機関への提案が多く、国際機関から受ける勧告は少ないのですが、日本は治療の視点から行動を起こす傾向が強い国なので、国際機関へ提案を出すよりも、国際機関からの勧告を受けて、そこから国内の議論が始まる、というケースが多くなります。



これまで、日本の行政も有識者もしばしば、国連やその専門機関――世界保健機関(WHO)、国際労働機関(ILO)、国連環境計画(UNEP)、国際原子力機関(IAEA)など――、経済協力開発機構(OECD)、国際エネルギー機関(IEA)、世界貿易機関(WTO)などの国際機関の勧告を、「金科玉条」としてきました。

明日から、地球温暖化防止政策の重要な柱の一つであるCO2税の導入を例に考えてみましょう。



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環境分野の情報公開の決定的な相違

2007-06-05 05:49:49 | 社会/合意形成/アクター


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日本とスウェーデンの間には、環境分野の情報公開に決定的な相違があります。たとえば、国際的に「環境に有害な物質」とされているダイオキシンが初めて環境から検出された場合を考えてみましょう。


「住民が不安を感じないように」という行政の配慮は両国でほとんど同じようなのですが、次の一歩が異なること がおわかりいただけたでしょうか。

「迅速な、そして適切な対応が国民の不安感を解消する」ということです。長年のこのような対応の相違の積み重ねが、両国の間に、「次のような社会的な心理構造を築いた」と私は考えています。




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 「治療志向の国」の21世紀環境立国戦略

2007-06-04 08:31:01 | 政治/行政/地方分権


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昨日のブログの最後に、私は次のように書きました。
21世紀に入り7年目に入った今、私たちが直面している「環境問題」と「その解決策としての持続可能な社会の構築」は治療志向の国では対応できない問題ですので、日本を「治療志向の国」から「予防志向の国」へ転換していかなければなりません。

「予防志向の国」スウェーデンの“21世紀環境戦略”については、今年1月11日から6月1日まで、市民連続講座「スウェーデンの挑戦 緑の福祉国家」シリーズで62回にわたって紹介してきました。偶然にも、「治療志向の国」日本の「21世紀環境立国戦略」の議論がこれから始まろうとしています。

21世紀環境立国戦略は、安倍首相が、2007年1月26日の施政方針演説で、その策定を約束していたものです。

次のニュースをご覧ください。

原案では、「地球温暖化」「資源の浪費」「生態系」の三つの分野で、地球規模の環境問題が深刻化していると指摘し、将来の世代に受け渡していける「持続可能な社会」に変えていく必要があるとしたとあります。この文言は、これまで私が、ブログの「市民連続講座 環境問題」(52回)と「市民連続講座 スウェーデンの挑戦 緑の福祉国家」(63回)で述べてきたこととほとんど同じです。

しかし、この記事には「今後1、2年で重点的に着手すべき8つの戦略を挙げた」とありますが、ここには明示されておりません。ネットを検索すると、 「21世紀環境立国戦略」(平成19年6月1日)と題する政府のPDF文書(24ページ) がありました。そこに掲げられている「8つの戦略」なるもののタイトルを紹介しましょう。

戦略1 気候変動問題の克服に向けた国際的リーダーシップ........ 7
戦略2 生物多様性の保全による自然の恵みの享受と継承......... 12
戦略3 3R を通じた持続可能な資源循環........................ 14
戦略4 公害克服の経験と智慧を活かした国際力................. 16
戦略5 環境・エネルギー技術を中核とした経済成長............. 17
戦略6 自然の恵みを活かした活力溢れる地域づくり............. 19
戦略7 環境を感じ、考え、行動する人づくり................... 22
戦略8 環境立国を支える仕組みづくり......................... 23

30年近くスウェーデンと日本の環境政策を同時進行でウオッチしてきた私にとって、なんとも拍子抜けの記述です。これまでの政策の羅列を超えるものではなく、まるで、環境白書を読んでいるような気分になります。

1993年5月13日の「環境基本法案等に関する衆議院環境委員会中央公聴会」 に出席を求められた私は、「日本とスウェーデンの環境問題に対する現在の認識の相違と対応の相違は、21世紀初頭には決定的な相違となってあらわれてくるであろう」という言葉で私の意見を結びました。
安部首相が就任以来力強く主張してきたこの「21世紀環境立国戦略」と題する文書を読みますと、まさにそのとおりになってしまったように思います。

私の基本的な疑問は、それでは、この「21世紀環境立国戦略」と2005年4月19日に政府の経済財政諮問会議が公表した「日本21世紀ビジョン」との整合性はあるのかということです。


詳細は政府の経済諮問会議のHPをご覧ください。


 
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