「表裏者ととられませぬか」
「表裏者ととるか、とらぬか…。それは相手の器量次第。小国の駆け引きの辛さ、口惜しさがわからねならば語るにたりぬ」
「わかりました…」
広良は、改めて一礼し、思った。
(俺より二十歳も若いといいながら、かなわぬな…)
志道広良の手紙で、休戦のための和議を結ぶと知らされて、陶興房は、
「しぶとい男よ。若いのに大ずる者めが…」
と、舌打ちするようにいったが、顔は笑っていた。
「それも結構。しぶとくなければ、この乱世に家は保てぬ。小ずるであろうと大ずるであろうと、必至で家を守ろうとする人間でなければ信用できぬ。小ずるい男は目先の利に惑わされやすいが、大ずるは十年先二十年先を見ておろう。当方が誠意を尽くせば、元就はそれに応える男よ」
尼子方の謀報機関は、志道広良と陶興房、すなわち毛利と大内の接触をただちに掴んだ。掴んだということを、元就も孫助の報告で掴んだ。
「久幸よ…」
尼子経久は、最も信頼する弟の尼子久幸にだけ心をゆるして嘆いた。
「元就はなかなかの男とは思っていたが、いま手元から離れかかってみて、得難い男とわかった。相合元綱の一件、わしの生涯でも大きな失態となりおった…」
安芸の国で、尼子の与党一色の中で、ぽつりと毛利が色を変えようとしている。それは枯れ野に灯火を置いたように、経久しには思えた。油ぎれして消えるかもしれない。油ぎれのまえに枯れ草に火がつくかもしれない。
経久は、火がつきそうな気がしてならなかった。『元綱、病死いたし候』といってよこした元就のそのときの心中を、経久は改めて思いやるのであった。
表裏者と取るか取らぬかは相手の器量次第、ほんにまぁそういうこと。
「損得のポリシー」や「守りのポリシー」が一致する者同士は、巧みに裏読みしながら、人を計算ずくで謀らずに、つかず離れず関係は続くものですや。
「表裏者ととるか、とらぬか…。それは相手の器量次第。小国の駆け引きの辛さ、口惜しさがわからねならば語るにたりぬ」
「わかりました…」
広良は、改めて一礼し、思った。
(俺より二十歳も若いといいながら、かなわぬな…)
志道広良の手紙で、休戦のための和議を結ぶと知らされて、陶興房は、
「しぶとい男よ。若いのに大ずる者めが…」
と、舌打ちするようにいったが、顔は笑っていた。
「それも結構。しぶとくなければ、この乱世に家は保てぬ。小ずるであろうと大ずるであろうと、必至で家を守ろうとする人間でなければ信用できぬ。小ずるい男は目先の利に惑わされやすいが、大ずるは十年先二十年先を見ておろう。当方が誠意を尽くせば、元就はそれに応える男よ」
尼子方の謀報機関は、志道広良と陶興房、すなわち毛利と大内の接触をただちに掴んだ。掴んだということを、元就も孫助の報告で掴んだ。
「久幸よ…」
尼子経久は、最も信頼する弟の尼子久幸にだけ心をゆるして嘆いた。
「元就はなかなかの男とは思っていたが、いま手元から離れかかってみて、得難い男とわかった。相合元綱の一件、わしの生涯でも大きな失態となりおった…」
安芸の国で、尼子の与党一色の中で、ぽつりと毛利が色を変えようとしている。それは枯れ野に灯火を置いたように、経久しには思えた。油ぎれして消えるかもしれない。油ぎれのまえに枯れ草に火がつくかもしれない。
経久は、火がつきそうな気がしてならなかった。『元綱、病死いたし候』といってよこした元就のそのときの心中を、経久は改めて思いやるのであった。
表裏者と取るか取らぬかは相手の器量次第、ほんにまぁそういうこと。
「損得のポリシー」や「守りのポリシー」が一致する者同士は、巧みに裏読みしながら、人を計算ずくで謀らずに、つかず離れず関係は続くものですや。