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ごまめの歯ぎしり・まぐろのおなら

サンナシ小屋&京都から世界の愛する人たちへ

微笑みと憎悪

2010-08-15 | 読書
微笑
                    峠 三吉

あのとき あなたは 微笑した
あの朝以来 敵も味方も 空襲も火も
かかわりを失い
あれほど欲した 砂糖も米も
もう用がなく
人々の ひしめく群の 戦争の囲みの中から爆じけ出された あなた

終戦のしらせを
のこされた唯一の薬のように かけつけて囁いた
わたしにむかい
あなたは 確かに 微笑した
呻くこともやめた 蛆まみれの体の
睫毛もない 瞼のすきに
人間のわたしを 遠く置き
いとしむように湛えた
ほほえみの かげ

むせぶようにたちこめた膿のにおいのなかで
憎むこと 怒ることをも奪われはてた あなたの
にんげんにおくった 最後の微笑

そのしずかな微笑は
わたしの内部に切なく装填され
三年 五年 圧力を増し
再びおし返してきた戦争への力と
抵抗を失ってゆく人々にむかい
いま 爆発しそうだ

あなたのくれた
その微笑をまで憎悪しそうな 烈しさで
おお いま
爆発しそうだ!


原爆症で死んだ峠三吉の残した言葉の数々は、いまも鋭く私たちを刺す。戦争への力はいまも強く、抵抗を失う人はいまも増え続ける。 今日、敗戦の日。そして解放の日。