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イタリアより

滞在日記

「カナレットとベネチアの輝き」2 .

2025年06月12日 | ベネチア

「昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ」/カナレット作

「昇天祭」は、キリストが天に昇ったことを祝うキリスト教のお祭りで、ベネチアでは特別な儀式が行われます。右奥に描かれている豪華なキンピカの船「ブチントーロ」にドージェ(元首)が乗り、アドリア海に金の指輪を投げ入れる、名付けて「海とベネチアの結婚」が執り行われました。水の都らしい壮麗な祝祭を描いたこの作品は、展示室の入り口すぐに掲げられ、強い印象を受けました。

入口に入る手前から撮りましたが

これ以降

展示室内は撮影不可

けれど、どこか違和感があって、見れば見るほど「ふわ~り」とした感覚に陥いるのです。この絵の風景も写真では絶対に撮ることができないと、一人ふつふつ思いながら観覧しましたが、解説を読んで、やっとその違和感の正体が腑に落ちました。この作品に限らず、ベネチア生まれのカナレットが描くこの町の風景画は、事前に用意した下書きやデッサンなどを、土地かんを生かして組み合わせ、「観る者の見たいもの」を作り上げた風景なのでした。

2016年12月

リド島へ向かうヴァポレットから撮影
※画素数の低い写真を引き伸ばした💦

どんなに頑張っても
人の目線はこれ以上は上がらい

 

例えば、対岸のジュッデッカ島の鐘楼に上って撮っても、目線の高さも角度も全く違ってしまうし、船上からではあんなに平らに広く、しかも奥行き深く感じる眺めは撮れない…。まるで空中に「ふわ〜り」と浮かびながら、理想の角度でカメラを向けたような…孫悟空のきんとん雲か、アラジンの魔法の絨毯にでも乗らない限り、目にすることはできない光景です。

つまり、カナレットは「実際には存在しない」高所の視点から、画面奥の「消失点」に向かって構図を完璧に設計したのです。この「消失点」とは、絵の中の線が奥へと収束する一点で、遠近感や立体感を生み出すための技法。カナレットの絵では、右端にあるドゥカーレ宮殿と牢獄をつなぐ、あの有名な「ため息橋」のあたりにその消失点が設定され、そこに向かって空間が自然に吸い込まれていく…。

「遠近法の消失点」は「ため息橋」周辺に置かれている

では、このお祭りの中心になる「サン・マルコ広場」に何故、カナレット(canaletto)は消失点を置かなかったのか。妄想ストーリ

kazu
素晴らしい風景画ですね。感動しました。ブチントーロの豪華さは見事です。
cana

分かってもらえたか。ブチントーロを主役として引き立てるために苦労したんだ。
kazu
でも有名なサン・マルコ広場でなくて、なんで端っこのため息橋を消失点にしたの?
cana
ふーむそこな。広場では横長で奥行が生まれないだろ。絵に奥行を与え視線の流れを強調し、ブチントーロが戻って来る光景をドラマチックにしたかったんだ。ベネチアは水の都とはいえ、広々と視界が開け、かつ建築的な奥行きを表現できる場所は意外と限られていてね。
kazu
成程!じゃ、ため息橋より美しくインスタ映えするような小運河があれば、そこを消失点にした?
cana
ん?インスタ映え??いやっ勿論だ!あんな暗~い死のにおい漂う牢獄にかかる橋は、きんきらブチントーロにふさわしくない。

と言ったかどうか。

ため息橋

2015年12月28日撮影

なんにしても、この場面の主役、モーロ河岸に戻って来るブチントーロを最も美しく引き立てるには、観る者の視線をどこに導き、構図をどう仕立てるか、空ゃ光、運河や建物、そうして「消失点」、それらすべてを計算し尽くして、ひとつの壮麗な場面を生み出したカナレット。あのため息橋の一角は、彼にとって、まさに“構図の魔法”が宿る場所だったのかもしれません。

-続く-

 

 

コメント (2)
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