
ロシアのモナリザと呼ばれる
イワン・クラムスコイ作:「忘れえぬ人」
■2014年3月28日

ロシアの画家たちだけの作品を集めたトレチャコフ国立美術館入り口
この日は、ロシアの旅行の最終日でした。午後にはモスクワの空港に移動して帰国の途に着くのですが、午前中は、トレチャコフ国立美術館へ行きました。1856年に開設されたこの美術館には、約5000枚のイコン(聖図)を始め、11世紀から現代に至るまで総計10万点にものぼる絵画が所蔵されています。それも、他国の画家による作品は一つも無く、全てロシアの芸術家たちの手で描かれた絵画ばかりだというから驚きました。実は、ホテルを出発してこの美術館に来るまで、私は大失敗を犯して、下手をすると観覧できない可能性もあったので、こうして無事にロシアのモナリザに会えたことは、生涯それこそ“忘れえぬ”思い出になったのです。

モデルは誰なのか、全く分かっていない
別名「見知らぬ女」ともいう
1800年代、当初この作品は、町で媚びを売る底意地の悪いふしだらな女性を描いたと、酷評を受けたのだそうですが、時代が変遷すると人の目も変わるでしょうか。やがてこの女性の持つ物憂げな瞳や濃く描かれた眉毛にみられる意志の強さや、眉間にしわを寄せた中に漂う高慢な雰囲気さえにも、人々は魅了されるようになっていきました。ロシアの文豪トルストイの描いた、あの「アンナ・カレーニナ」にも重ね合わせて、今ではロシアで最も有名な絵画の一つになっています。何年か前、私の住む町にも、この絵画がやってきたことがあるのですが、見に行けないままだったので感無量の思いがありました。

ガイドさんが大いに自慢した、ガイドさん好みの「ロシアのもう一つのモナリザ」
但し、これはガイドさんが勝手にそう思っているだけ
トロピーニン作:「刺繍をする人」
ガイドさんの名前が分からなくて、私は勝手にイワンと呼んでいたのですが、そのイワンさんは、愛国心のとても強い人で、ルーブルにあるモナリザよりも、このロシアのモナリザの方が数段美しく、気品があると言い張ります。特にこの「刺繍をする人」は、本場のモナリザよりも肌も綺麗だし若いし可愛いしと・・・「ハイハイ、イワン~分かったよ(^^)」と私は心の中で相づちを打っていましたが、自国の画家による作品をこんなにも愛し、熱く語れるのはなんと羨ましいことかと思います。

ワシリー・ペローフ作:「トロイカ-水を運ぶ子供たち」
この美術館には前述したように、膨大な数の絵画が所狭しと飾られていて、ガイドさん無しでは、とてもとても見切れませんでした。その中には、当時の世相や人々の暮らしが覗える作品も沢山あって、ロシアの歴史そのものが分かるなぁと私は簡単の思いでした。そんな中の一つ、「トロイカ-水を運ぶ子供たち」という絵を見た時、胸が詰まりました。実は、トロイカで、思い出したことがあったのです。
小学生の頃、音楽の授業で習った「走れトロイカ」。「雪の白樺並木、夕陽がはえる~」、この曲を音楽会で歌うとき、先生は、馬車が勢いよく、そして楽しく走っている様子を思い浮かべて、元気よく歌いましょう、と言いました。ところが、この歌は、そんな曲調で奏でるものではないことを随分後になって知ったのです。
ロシアでは、トロイカというのは、三頭立の馬車のことを言います。イタリア語で、数字の3は「トレ(tre)」といいますが、ロシアでもтри(トリー)と発音して、3でひとそろいのものをトロイカというのです。で、その三頭立ての馬車を引いていた貧しい青年が、ある日恋をしたのですが、相手の女性は金持ちの男を選んで青年から去ってしまいます。まっ早い話が、その女性は青年を捨てて玉の輿に乗った訳ですが、その時の彼の、悲しくてやりきれない切ない心情を吐露したのが「走れトロイカ」の歌なのでした。なので、原曲はゆっくりとしたテンポで、哀愁を漂わせて青年の悲しみを歌う曲調になっています。
少し話が横にそれましたが、イワンさんは、このトロイカと題された絵を、当時の貧しい人々の生活が垣間見えます、とだけしか説明はしなかったけれど、私は、馬車が描かれていない・・・トロイカって、この幼い子供たちのこと?と、胸が締め付けられました。どの国もどの時代にも底辺で生きる人々が居るのは事実だし、分かってはいるのだけれど、幼い子たちがこうした過酷な生活を強いられているのを絵画の中に見るのはなんと辛いことかと思います。もっとも、作者の貧しい生い立ちをからすると、これは、子供達を馬車のように扱う当時の悪政への抗議なのでしょう。

アンドレー・ルブリョフ 作:《至聖三者》
さて、上記の「至聖三者」は、この美術館の中でも特筆すべきイコン(イコンとは、イエス・キリストはじめ、聖人や天使や聖書における重要な出来事やたとえ話、教会史上の出来事を画いた画像のことで、ロシア正教では聖像として崇める)なのだそうで、イワンさんは、是非とも写真を撮っておくようにと言いました。何でも、画家ルブリョフは、ロシア正教から聖人とされていて、このルブリョフの図像は三位一体の唯一正当な聖像とされているのだとか。美術館には5000枚ものイコンがあるということですが、その中の頂点にあり、ロシア芸術の最高峰というのですから、皆、懸命にシャッターを押しましたが、いかんせん、窓から入る光でガラスケースは反射するし、上手く撮れませんでした。そして、正直な話、豚に真珠と言いますか、値打ちが今ひとつ分かっていないというのがこの時の私の悲しさでした^^;。(帰国後、イワンさんが言った通り、この作品は国宝級の大変貴重なイコンだと知り、ひれ伏しましたm(_ _)m)

ロシアが誇る文豪トルストイさんと記念写真
イリヤ・レーピン作:《文豪レフ・トルストイの肖像》
続く






















