ダ・ビンチ発明展/自転車
ベチネアで、映画「旅情」の撮影場所を探し当てた日、このサン・バルナバ教会で「ダ・ビンチの発明展」が開かれていました。レオナルド・ダ・ビンチといえば、真っ先に浮かぶのが、名画「モナ・リザ」。十数年前に、ルーブル美術館に見に行きましたが、思いの外小さな絵で、そこに人だかりが出来ていなければ見落としていたかも知れないほどでした。しかし、筆の線が一切見えないぼかし画法(専門用語でスフマートというらしい)で、ポプラ板に描かれた微笑む女性のこの油絵こそが、完璧な構成と計算し尽くされた遠近技法で世界中の人々を何百年にも渡って魅了してきた名画なのだと、ただただ感動の思いで見入ったのを思い出します。
ダ・ピンチ発明展/カメラ
又、現在見るのが最も難しいとされるミラノのサンタ・マリア・デレ・グラツィエ聖堂の「最後の晩餐」もダ・ビンチ作。私が見学した当時は、まだイタリアの通貨がリラの時代で、観覧するのに予約の必要もなく、ツアーであっさりと見てあっさりと聖堂から出てきましたが(笑)、後世、キリストにまつわる様々な謎を巡り、この壁画も今たいへん脚光を浴びています。時は、まさにルネッサンスの全盛期。ダ・ビンチが、それまでの宗教画とは一線を画し、キリストはじめ12人の使徒一人一人に複雑な心理描写を与えた為に、私達は大いなる興味をそそられ、様々な推測や憶測をすることになりました。
レオナルド・ダ・ビンチ/「最後の晩餐」
そんな天才的な絵の才能を持つ彼が、一体どんなものを発明したのかと、入館料7ユーロを支払いぶらりと入ってみましたが、もう目がまん丸くなって驚きました。
ダ・ビンチ発明展/大砲
ダ・ビンチが描いた制作図によって作られた模型が沢山展示されていましたが、自転車やカメラやハングライダーや印刷機や機織り機や大砲までetc。それは、彼が芸術のみならず、科学や物理や数学や建築や、はたまた軍事技術にまで通じていた証しで、この世に考えられるありとあらゆる“道具”を生み出す頭脳を有していたことを物語っていました。特にこの大砲は、当時彼のパトロンだったミラノの君主、ルドヴィーコ・スフォルツァ公に、「敵をコテンパンにやっつける為の機械の製作を致します」と自らを売り込んでいて、戦車や機関銃なども考案していたと言うから、その才能には驚嘆します。
ダ・ビンチ発明展/ハングライダー
又、人体や動物を正確に描くのに解剖までしたという彼のこだわりは、それまでの絵画の手法を超越して、見る物にまるで映画か劇を観ているようなリアリティを与えます。「最後の晩餐」も、イエスの「この中に私を殺そうとしている者がいる」との衝撃的な発言を皮切りに、12使徒の動揺やどよめきが、ざわざわと聞こえてきそうです。「モナ・リザ」も「最後の晩餐」も彼の持てる全ての専門知識の集大成だと考えると、そのうち、これらの名作は、実はダ・ビンチの発明したこの“道具”から生まれた技法だった!とか新たな発見が出てくるかも知れません(^^)。
発明展のあったサン・バルナバ教会内部
余談ですが、同じ時期、ダ・ビンチに最大のライバルが出現しています。フィレンツェのアカデミア美術館にある彫刻「ダビデ像」の作者、あのミケランジェロです。もっともミケランジェロは、ダ・ビンチよりも20歳以上年下ですが、二人はお互いを少しばかり意識していたようで、それぞれの言い分が面白いです。
レオ:「ヤツの作品は筋肉がやたら隆々として肉々しく、でくの坊だ。真の肉体とは何かを分かっとらん」
ミケ:「ヤツのはテレテレ時間ばかり掛けて下手くそだ。あんな絵なら私の下男だって描ける」
ふーむ…成る程な~ミケランジェロの彫刻は男性像も女性像もそういえばマッチョで肉々しい。
ふーむ…成る程な~ダ・ビンチは素描ばかりがめったやたら多くて、その割に残した作品は数少ない。
1500年の初め、奇しくもこの二人は、フィレンツェのベッキオ宮殿のそれぞれ真反対の壁に絵を描くことになります。ダ・ビンチは、『アンギアーリの戦い』で馬同士が激しくぶつかり合う戦闘シーンをとてもリアルに。そしてミケランジェは、『カスチーナの戦い』を題材に、水浴びをしていた兵士たちが敵に不意を喰らう様を描写しましたが、共に未完のままこの壁画は消滅したとされました。
ルーベンスが模写したダ・ビンチの『アンギアーリの戦い』
しかししかし、なんとタイムリーなことに、先日2012年3月13日、ダ・ビンチの壁画が見つかったというニュースが飛び込んできました。現在描かれているジョルジオ・ヴァザーリの壁画の裏に、この『アンギアーリの戦い』が隠されているというのです。もっとも、ヴァザーリの壁画に「探せ、さすれば見つかる」という謎のような「暗号」が書かれていて、長い間、この壁画の裏にはダ・ビンチが隠されていると研究者たちは主張していたようですが、それがやっと現実味を帯びてきたのです。
残念なことに、ミケランジェロの壁画の方は、壊されているのが分かっているので、ダ・ビンチの壁画が見つかっても二人の絵を並べて見ることは出来ませんが、もし彼らの壁画を比較することが叶ったら、又世界はかまびすしい論争を沸き上がらせることでしょう。それにしても天才は、どんなに時を隔てても話題に事欠かないのですね。そしてイタリアという国は、一体どこまで芸術の宝庫なのかと今更ながら思うのです(^^)。