「せんべいこわい」 元ネタ 「新編 日本の民話 47 佐渡」浜口 一夫編 語り 松本スエ(71)
おらが ちっちゃい頃、ばあちゃんから 聞いたハナシだ。
ほんとかうそか わかんねぇハナシだけど、ほんとのことだと思って 聞かなきゃなんねぇ。
むかしの ことだそうだ。
ある村に くるくる よく働く 器量よしの 娘が いたと。
ところが、この娘、たったひとつ 欠点が あってな、
それは なにかってぇと、この娘、朝から晩まで 屁(へ)ばっかり こいていたと。
そんで、村のもんは その娘のことを「ありゃ、一日に 百回は 屁をこいているな」てんで、
『百屁(ひゃくべ)こき』って、(陰で)言ってたと。
親は「これじゃ、一生 嫁に行けねぇな」って、嘆き 悲しんでいたと。
ところが、村をあげての 夏祭りが 終わった ある日、
となり村から 娘を嫁にほしい って、話がきてな、
親は「嫁にもらってくれるんなら どんな男だっていいや」って、調べもせずに 嫁にやることにしたと。
だけど、やっぱり 親だ、・・・娘の 屁のことが 心配でな、
「おめぇ、嫁に行ったら けっして 屁をこくんじゃねぇぞ。
屁なんか こいたら 追い出されちまうぞ。」くり返し 言い聞かせていたと。
嫁に行った先は 婿(むこ)さんと ばさまの 二人暮らし だったと。
婿さんは 働きモンだし、ばさまは 嫁いびりなんかしねぇ いい ばさまでな、
娘は いいとこに 嫁にきたって、喜んでいたと。
娘は 親の言いつけを守って 屁をこくのを ずっと ガマンしていたと。
ところが、だんだん(娘の)顔色が 青くなっていくんで、
ばさまが 心配そうに 聞いたと。
「おめぇー、顔色が青くなってきてるが どっか 悪いんじゃねぇのか?」
娘は(恥ずかしそうに)もぞもぞしていたが、ばさまに心配かけちゃいけねぇと、口を開いたと。
「実は おらは生まれつき 屁が出る性分で、嫁に来る前は 一日に 百回も 屁をこいていただ。
それが、親に「嫁に行ったら 屁をこくんじゃねぇ」って、言われて、今まで ずっとガマンしてきただ。
そしたら こんなからだに なっちまっただ。」
ばさまは それを聞いて、腹を抱えて 笑ったと。
「なんだ、そんなことだったんか。・・・そんな気兼ねなんか すっことねぇ。
今日は せがれもいねぇし、ひとつ 思いっきり やってみろ。
ほれ、遠慮なんか すっことねぇ、やってみろ。」
娘は ほっとして ケツをまくると、
「ほんじゃ お言葉に甘えて やらせてもらいます。
ばさま、柱に つかまって くんなんしょ。」って、言うが早いか、
「ぶっ!」って、屁をこいたと。
さぁ、一発こいたら もう 止まんねぇ。
「ぶっ!」って、やっちゃ、前につんのめり、「ぶっ!」って、やっちゃ、前につんのめり、
部屋ん中を まわりだしたと。
屁の風の 勢いも だんだん 強くなっていってな、
初めは ニヤニヤ笑ってた ばさまも ふっ飛ばされそうになって、
あわてて 柱に がっしり しがみついたと。
ところが、屁の勢いは 止まらねぇ。
ばさまは 柱にしがみついたまんま、
(五月の節句の)吹流しみてぇに からだが 宙に 浮きあがっちまったと。
屁の勢いは 増すばかり、
「屁ぇ 止めてくれぇー。・・・おら ふっ飛ばされっちまう。」
ばさまは 必死で叫んだが、もう 止めようとしたって 止めらんねぇ。
「ぶぁーーー!!!」って、地響きのような 音が して、
ばさまは キリキリ舞いして、戸口から(わらくずのように)飛んでいっちまったと。
そうして、山ん中の お寺の境内まで 飛んでいくと、でっかいケヤキの木に ぶつかってな、
(パチンコの玉みてぇに)枝から枝を伝って ドッスンと 地べたに 落っこちたと。
その音を聞いて、「あれっ、どうしたんだんべ」って、境内で遊んでいた子供たちが 集まってきて、
「ばさま、大丈夫け?」
「どっから来ただ?」
みんなで 心配そうに のぞきこんだと。
そのうち、そんなかのひとりが、
「腹 へってねぇけ?・・・このせんべい 食うけ?」
って、食っていたせんべいを あげようとしたと。
すると、ばさまは あわてて、
「せんべい!?・・・とんでもねぇ。
百屁(ひゃくべ)くらって、こんなに 飛ばされちまっただ。
千屁(せんべ)くらったら、どんだけ飛ばされっか わかったもんじゃねぇ。
おー、やだ、やだ。・・・もう こりごりだ。」
って、言ったと。
おしまい
おらが ちっちゃい頃、ばあちゃんから 聞いたハナシだ。
ほんとかうそか わかんねぇハナシだけど、ほんとのことだと思って 聞かなきゃなんねぇ。
むかしの ことだそうだ。
ある村に くるくる よく働く 器量よしの 娘が いたと。
ところが、この娘、たったひとつ 欠点が あってな、
それは なにかってぇと、この娘、朝から晩まで 屁(へ)ばっかり こいていたと。
そんで、村のもんは その娘のことを「ありゃ、一日に 百回は 屁をこいているな」てんで、
『百屁(ひゃくべ)こき』って、(陰で)言ってたと。
親は「これじゃ、一生 嫁に行けねぇな」って、嘆き 悲しんでいたと。
ところが、村をあげての 夏祭りが 終わった ある日、
となり村から 娘を嫁にほしい って、話がきてな、
親は「嫁にもらってくれるんなら どんな男だっていいや」って、調べもせずに 嫁にやることにしたと。
だけど、やっぱり 親だ、・・・娘の 屁のことが 心配でな、
「おめぇ、嫁に行ったら けっして 屁をこくんじゃねぇぞ。
屁なんか こいたら 追い出されちまうぞ。」くり返し 言い聞かせていたと。
嫁に行った先は 婿(むこ)さんと ばさまの 二人暮らし だったと。
婿さんは 働きモンだし、ばさまは 嫁いびりなんかしねぇ いい ばさまでな、
娘は いいとこに 嫁にきたって、喜んでいたと。
娘は 親の言いつけを守って 屁をこくのを ずっと ガマンしていたと。
ところが、だんだん(娘の)顔色が 青くなっていくんで、
ばさまが 心配そうに 聞いたと。
「おめぇー、顔色が青くなってきてるが どっか 悪いんじゃねぇのか?」
娘は(恥ずかしそうに)もぞもぞしていたが、ばさまに心配かけちゃいけねぇと、口を開いたと。
「実は おらは生まれつき 屁が出る性分で、嫁に来る前は 一日に 百回も 屁をこいていただ。
それが、親に「嫁に行ったら 屁をこくんじゃねぇ」って、言われて、今まで ずっとガマンしてきただ。
そしたら こんなからだに なっちまっただ。」
ばさまは それを聞いて、腹を抱えて 笑ったと。
「なんだ、そんなことだったんか。・・・そんな気兼ねなんか すっことねぇ。
今日は せがれもいねぇし、ひとつ 思いっきり やってみろ。
ほれ、遠慮なんか すっことねぇ、やってみろ。」
娘は ほっとして ケツをまくると、
「ほんじゃ お言葉に甘えて やらせてもらいます。
ばさま、柱に つかまって くんなんしょ。」って、言うが早いか、
「ぶっ!」って、屁をこいたと。
さぁ、一発こいたら もう 止まんねぇ。
「ぶっ!」って、やっちゃ、前につんのめり、「ぶっ!」って、やっちゃ、前につんのめり、
部屋ん中を まわりだしたと。
屁の風の 勢いも だんだん 強くなっていってな、
初めは ニヤニヤ笑ってた ばさまも ふっ飛ばされそうになって、
あわてて 柱に がっしり しがみついたと。
ところが、屁の勢いは 止まらねぇ。
ばさまは 柱にしがみついたまんま、
(五月の節句の)吹流しみてぇに からだが 宙に 浮きあがっちまったと。
屁の勢いは 増すばかり、
「屁ぇ 止めてくれぇー。・・・おら ふっ飛ばされっちまう。」
ばさまは 必死で叫んだが、もう 止めようとしたって 止めらんねぇ。
「ぶぁーーー!!!」って、地響きのような 音が して、
ばさまは キリキリ舞いして、戸口から(わらくずのように)飛んでいっちまったと。
そうして、山ん中の お寺の境内まで 飛んでいくと、でっかいケヤキの木に ぶつかってな、
(パチンコの玉みてぇに)枝から枝を伝って ドッスンと 地べたに 落っこちたと。
その音を聞いて、「あれっ、どうしたんだんべ」って、境内で遊んでいた子供たちが 集まってきて、
「ばさま、大丈夫け?」
「どっから来ただ?」
みんなで 心配そうに のぞきこんだと。
そのうち、そんなかのひとりが、
「腹 へってねぇけ?・・・このせんべい 食うけ?」
って、食っていたせんべいを あげようとしたと。
すると、ばさまは あわてて、
「せんべい!?・・・とんでもねぇ。
百屁(ひゃくべ)くらって、こんなに 飛ばされちまっただ。
千屁(せんべ)くらったら、どんだけ飛ばされっか わかったもんじゃねぇ。
おー、やだ、やだ。・・・もう こりごりだ。」
って、言ったと。
おしまい