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●奇妙な相関図 中国を敵視して得るものなき日米韓の経済
本日は多忙につき、軍事評論家田岡氏の南シナ海・米中対立の行方に関するコラムを紹介しておく。以前紹介し、糞味噌に貶した長谷川幸洋の米中対立構図で、徹底的に中国蔑視、隷米を貫いた“アンポンタン・コラム”に比べれば千倍まともな解釈なので、ここにお口直しと云う意味で掲載する。
正直、田岡氏が指摘するように、中国海軍や軍隊全体の近代化は、緒に就いたばかり、軍事力は実際問題、月とスッポンなのだろう。ただ、安心できない点は、中国には、そこそこの命中率のあるミサイルはあるわけで、日本の米軍基地は格好の標的になるし、ヤケクソになれば、核をアメリカ本土に闇雲に撃つだけの一応の核も保有している。
しかし、中国がアメリカの日本軍事基地を攻撃する可能性はゼロだろうし、現実に核を使うと云うことは、北半球人類の破滅に等しいわけだから、自分たちの国や国民がいなくなる判断をするはずもない。また、米中の経済的相互依存関係は半端ではなく、習近平が訪米の中で、最終的にオバマを怒らせた等とまことしやかに解説している記事もあったが、軍事行動を嫌がるオバマだと云う言説自体が眉唾なわけで、飽食を貪る1%の人間に支配されているホワイトハウスが、単独で行動できるはずもない。
まあ、出来レースという程、茶番ではないとしても、阿吽の呼吸があるのは事実だろう。日本人には、米中が21世紀の大国と云う図式で対峙すると思っている。そして、中国は木っ端微塵になるのだろうと予測と云うか願望を持つ人が多いらしい。おそらく、近接した地域における諍いや紛争の類を、マスメディアが喧伝し過ぎるために、地球上の中心に日中が位置した地球をいつも何時も眺めているために起きる、思考停止なのだと思う。世界の火種の多くは、EU独り勝ちのドイツの抬頭であり、ロシアを魔女化している事だろう。中国が本当に世界のプレーヤになるには、底上げとあらゆるものの近代化の時間が必要だ。そこまで、中国共産党が持てばの話だが。中国大国論はかなりの部分で作られているように思える。今夜はこの辺で……。
≪ 南シナ海の米中対立は「出来レース」だ!
横須賀を母港としている米海軍のイージス対空ミサイル搭載駆逐艦「ラッセン」(9425t)は10月26日夜、南シナ海の南沙諸島で中国が埋め立て、滑走 路を造っているスビ礁付近の12海里(22km)以内を航行した。この行動は米国がこれらの人工島を中国領と認めず、その周囲12海里は中国領海ではない ことを示すためだ。
米海軍が今後あまりに頻繁にこうした行動を取り、もし中国側と武力衝突になれば、がんじがらめの相互依存が成立している米中の経済関係は断絶し、双方の経済は多分麻痺する。昨年の日本の輸出の23.8%は中国向け(香港を含む)、18.7%は米国向けだから、日本にとって2大市場の混乱は致命的な打撃だ。しかもそれは欧州、アジア地域、そして全世界に波及するだろう。
だが、実際には武力衝突に発展する公算は低い。中国は米国がこのような行動に出ても武力行使をしないことを事前に示唆しており、暗黙の了解があった、と考えられるのだ。
■「領土問題でも武力行使を軽々しく 言わない」と中国上将が表明
北京西部の紅葉の名所、香山で10月16日から18日にかけて開かれたアジア・太平洋地域の安全保障協力を目指す討論会「第6回香山フォーラム」 には、南沙諸島問題で中国と対立するベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイや、インド、インドネシア、シンガポールなど16ヵ国の国防大臣が出席し、米、英、仏、独なども公式代表を参加させた。
昨年招待されたが断った日本も今年は防衛研究所の大西裕文副所長を派遣した。参加国は計49ヵ国と5国際機関、出席者は約500人に達した。このフォーラムが2006年に始まった当時は「中国軍事科学学会」など、研究機関の主催で、参加者も研究者がほとんどだったが、いまでは中国政府の「軍事科学 院」が後援する半官半民の国際会議になっている。
今回基調講演を行った中国の中央軍事委員会副主席(委員会の主席は習近平氏)範長龍・陸軍上将はその中で「たとえ領土主権に関る問題であっても、 中国は決して武力行使を軽言(軽々しく言う)しない」と述べた。こうした発言は中国国内のタカ派の反発も招きかねないから、範長龍上将の一存で言えることではなく、習近平主席の意を受けた発言だろう。
習主席は9月25日、ワシントンでオバマ米大統領と会談し、南シナ海での埋め立て問題は主要議題の一つだった。オバマ大統領は、それまで米海軍やタ カ派議員達が主張していた「12海里以内での艦艇、航空機の航行」に対し、中国との関係の悪化を案じて慎重だったが、この会談後その実施を許可した。おそらく習近平主席から、間接的表現ではあっても、中国は武力行使はしない、との感触を得たと考えられる。
現に「ラッセン」が人工島周辺を航行した際、中国海軍は「中国版イージス艦」とも言われるミサイル駆逐艦「蘭州」(7112t)と、フリゲート艦 「台州」(1729t)を出したが、相当距離を置いて後方から「追跡、警告をした」だけで並走はせず「ラッセン」の航行を妨害しなかった。
一方米国も「中国敵視」と言われないよう「ベトナム、フィリピンなどが領有を主張している岩礁から12海里以内を航行した」とも発表して、公平さ を示そうとした。また米国務省のカービー報道官は27日の記者会見で米中関係への影響を問われ「世界のいかなる国との関係にも悪影響を与える理由はない」と答えた。これも事前に中国と暗黙の了解があったことをうかがわせる。
中国が埋め立て、飛行場建設を行っているスビ礁、ミスチーフ礁は満潮時には水面下に没する「干出岩」だから海底の一部とみなされる。その上に構造物を造ったり、周囲を埋め立てても、海底油田の櫓と同様の「人工物」で領土ではなく、その周囲は領海にはならない。
沖ノ鳥島のように満潮時にも一部がなんとか水面上に出ている場合には、それを補強して保存すれば周囲は領海になりうるが、スビ礁などはそうではない。
南沙諸島には島と言えそうなものは12あるが、ベトナム、フィリピンが5島ずつ、マレーシア、台湾が1島ずつを抑え、それぞれ飛行場一ヵ所を造った。出遅れた中国は他国が目を向けなかった岩礁しか確保できず、飛行場を造るには大規模な埋め立てをするしかなかったのだ。
中国の弾道ミサイル原潜は、かつては対立したソ連に近い黄海の最奥部の遼東湾を基地にしていたが、遼東湾の水深は25m程度、黄海北部も浅いか ら、船底から司令塔の上端まで20m余ある大型の原潜は延々と浮上航走しないと出動できず、丸見えになる。このため中国海軍は深い南シナ海に面した海南島の三亜付近に潜水艦基地を造り、潜水艦が隠れるトンネルも掘っている。
米海軍は中国海軍との交流にも熱心で、中国との戦争が迫っているとは考えていないが、将来の万が一の事態に備え、原潜や哨戒機で中国潜水艦を追尾 し、プロペラ音や原子力機関のタービン音、減速ギア音、ポンプ類の音など「音紋」を採取して貯え、識別の資料としたり、季節、時間ごとの水温、潮流など、水中の音波伝播状況のデータを収集して潜水艦探知に役立てようとしている。
中国海軍は当然それを嫌がり、哨戒機や海洋調査船の行動を妨害しようとする。2001年4月には米海軍の電子偵察機EP3が中国海軍のF8IIと海南島沖で空中衝突し、戦闘機が墜落、EP3は海南島の中国軍航空基地に不時着する事故も起きた。
■米国が唱える「航海の自由」は 実は「情報収集の自由」だ
米国は今回の「ラッセン」等の行動を「航海の自由の確保」のため、と言うが、領海を外国商船が通過したり、漁船が操業せずに通る「無害通航」は自 由で、中国もそれを妨げようとはしていない。世界最大の貿易国、漁業国、造船国である中国にとって世界的な「航海の自由」の確保はまさに「中核的利益」だろう。軍艦にも無害通航権はあるが、沿岸国の防衛、安全を害するような情報収集は許されない。米国などの商船が南シナ海を通ることには何の支障もないことを考えれば、米国の言う「航海の自由」はもっぱら「情報収集の自由」を意味する。
公海とその上空ならば哨戒・情報活動は自由に行えるが、中国が南沙諸島海域に人工島を築き、それを領土だと主張して、その周辺での米軍艦や哨戒機 の行動を規制すると米海軍の情報収集が妨げられる。国連海洋法条約でも人工島は領土とは認められないのは明らかだから、米海軍としてはその周辺海域を航行し、情報収集を行う実績を作っておこうとする。
中国も人工島自体を「領土」とし、領海の根拠にするのは難しいことを承知しているから、南シナ海のほぼ全域を囲む9本の断続的な線、牛の舌のような形の「九段線」を示し、「それが歴史的な中国領海だ」と主張している。だが、その明確な根拠は示していない。
中国は宋の時代(960~1279年)に磁石が発明されるなど、造船、航海術が著しく発達して巨大海洋国となり、南シナ海を多数の中国の大型帆船が往来し南海貿易が盛えたが、中国がその海域を「領海」として支配していた訳ではない。仮にその当時南シナ海で支配的地位にあったとしても、故に今日も中 国の領海だ、との論は「ローマ帝国が地中海を支配していたから、今日も地中海はイタリアの領海だ」と主張するような無理な説だろう。
ただ、「九段線」は中華人民共和国が唱え出したのではなく、蒋介石の中華民国政府が1947年に南シナ海に11本の線を引いた地図を発行し、それが中国の権威が及ぶ範囲、としたのが始まり、とされる。1953年に中国はそのうち2本を削除した地図を発行し「九段線」となった。
蒋介石が残した負の遺産とも言える「九段線」を中国が撤回すれば良いのだが、一度「自国領だ」と主張すると、その根拠が不明確であり、主張を続けるのは対外政策上不得策であっても、それを取り下げるのはどの国でも国内で非難の的になるから、難しい。
南沙諸島の岩礁の大規模な埋め立て、飛行場建設は相当な準備期間を要するから、おそらく習近平氏が2013年3月に国家主席に就任する以前に計画が決定していたと考えられる。前任の胡錦濤主席といえども、軍が「自国領の防衛を固めるため」と言えば、それを抑えにくかったのではないだろうか。
中国としてはこの問題で米国との関係を悪化させたくはない一方、中国が主張してきた領有権を否定する米国の行動を座視していれば国内の“愛国者” 達が騒ぎ立て、それに乗じて習氏の失脚を狙う者が出かねない。だから一応米国に抗議し、軍艦2隻で「ラッセン」を追尾させ「追跡、警告を行った」と発表 し、実際には妨害はしない、という手緩い対応を取るしかなかったのだろう。
また中国は「建造中の飛行場に軍用機は常駐させない。海難救助の拠点にもなる」と表明して米国、近隣諸国の非難をかわそうと努めている。幸い、中国では今回の米艦の行動に対して反米感情が高まった様子はなく、デモなども起きていない。
■経済的に依存しあう米中は 衝突をなんとか避けたい
尖閣諸島については2014年11月、日中首脳会談を前に、双方が「異なる見解を有している」ことを認め「不測の事態の発生を回避する」ことで合意した。両者は従来どおりの主張は続けるが、現状は変えず、衝突は避ける、という事実上の棚上げで当面はおさまった。南沙の岩礁問題でもこれに似た玉虫色 の状況になる可能性が高いのではないか。
以前にも本欄で述べたが、米国にとり中国は、
(1)米国債1兆2000億円ドル余を保有し、危機にある米国財政を支えている。
(2)3兆7000億ドル(ドイツのGDPに匹敵)の外貨準備の大半をウォール街で運用し、米国の金融、証券の最大の海外顧客
(3)米国製旅客機を毎年約150機輸入し、米国の航空・軍需産業の最大の海外顧客(今後20年間の中国の旅客機需要は6300機以上)
(4)GMの車が年間約200万台(中国全体では2300万台)売れ、中産階層が爆発的に増加する巨大市場で米企業2万社が進出
などの要素から、中国への依存は決定的に大きい。
中国にとっても米国は最大の輸出市場であり、最大の融資・投資先だから、米国との友好関係と米国経済の成功を願わざるをえない。
中国海軍の増強、海洋進出が喧伝されるが、中国の空母は1隻、その搭載戦闘機は約20機であるのに対し、米海軍は戦闘・攻撃機55機を搭載可能な原子力空母10隻(近く11隻に戻る)を保有し、搭載戦闘機数は550対20だし、技術の差は極めて大きい。
実用になる中国の原潜は5隻、米原潜は71隻で、中国の対潜水艦能力(探知技術など)は無きに等しい、などを考えれば、中国海軍が米海軍に対抗して、全世界に伸びた長大な海上通商路を守ることは将来も不可能に近い。
中国は海外市場、輸入資源への依存度が高まれば高まる程、世界的制海権を握る米国との対立を避けざるをえない立場にある。
また中国は今日の世界秩序、経済システムの第一の受益者であり、それを覆すことは経団連が体制転覆をはかるに等しく、世界の体制護持のために大局的には米国と協調せざるをない。
もちろん日本にとっても、米中の武力衝突による経済関係の断絶、両国経済の破綻は致命的だ。反中国感情を抱く日本人の中には、米中が岩礁埋め立て問題で対立することを喜ぶ気配も感じられるが、それは大津波の襲来を期待する程の浅慮と言うしかない。 ≫(ダイアモンドONLINE:経済・時事――田岡俊二の目からウロコ)
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