世相を斬る あいば達也

民主主義や資本主義及びグローバル経済や金融資本主義の異様さについて
定常で質実な国家像を考える

●“作られた中国脅威論”への過大評価、気がつけばドイツの抬頭

2015年11月02日 | 日記
ドイツリスク 「夢見る政治」が引き起こす混乱 (光文社新書)
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光文社


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●“作られた中国脅威論”への過大評価、気がつけばドイツの抬頭 

最近、時間の合間にエマニュエル・トッドの『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』をポツポツと読んでいる。トッドの人口学から導かれる、EU、とりわけドイツの一人勝ちのメカニズムを分析、その危険性を唱えている。現在のヨーロッパは最終の危機に瀕している。彼がフランス人であることから、フランス民主主義の崩壊、ドイツのヨーロッパ圏全体を網羅する覇権。ウクライナ危機などは、明らかにドイツの仕掛けによってなされた。

昨日の拙コラムで長谷川幸洋が、アメリカ絶対神な論調で持論を展開していたが、筆者も含め、アメリカが一方の雄になるであろうが、一国主義で覇権は唯一無比だと断言できる時代は終わっているのだ。トッドの予測によると、アメリカと明確に対峙できるのはドイツになると云う仮説である。トッドは、なぜか中国の抬頭をあまり重要視していない。おそらく、ユーラシアと云う勢力の括りに入れているだけと云う見方が出来る。

トッドは、ドイツ人の有能さを認めつつも、その有能さゆえに、権力意欲も旺盛になる面を強く意識している。日本人にも、その傾向あると指摘するが、筆者的に観察する限り、思考停止からの脱皮に悶絶寸前なわけで、精々、アメリカ覇権のユーラシアにおけるATMメッセンジャーとして組み込まれてゆくだけの傾向が一層強くなっている。安倍がイスラエル外交やロシア外交に一定の舵を切るのも、アメリカ覇権の対ユーラシア覇権(ドイツ覇権)への楔の一環の一つと捉えておいて良いのだろう。

トッドの見立てだと、世界の真のプレーヤーは米・露・独の三ヶ国に限定される。英仏中、そして日本は含まれない。この割り切った考えは、多くの人々の夢を打ち砕くだろうが、それなりに納得可能な予測である。オバマのリーダーシップ云々は別にして、(オバマ)・メルケル・プーチンによる世界観が、現状の地球の表面を覆っているのだろう。だからと言って、属人的パワーバランスではなく、その国の経済軍事地政、その他の哲学から導き出される見通しと云うことになる。最近、問題になっているVWディーゼル排気ガス偽装問題の露呈も、政治的タイミングの一つとして利用されたフシがある。この辺の現象は、トッドの危惧に対するアメリカの反撃の表れかもしれない。

筆者が、なぜアメリカ一国主義に異を唱えているかと言えば、グローバル世界を提供した故に出てきた、地域格差であり、人々の経済的格差であり、国家の格差に結びついている。色んな立場があるのは、それなりの正当性はあるのだが、基本的にすべての人々には、公平な扱いを受ける権利がある。どのような立場にいようと「正義」とか、「なんか変」と云う感性を失うことが、最も怖い。この世の中の権力に鎮座している人々は、どの国であれ、地域であれ、民族であれ、単に権力を消費しているだけで、フェアネスと云う原点を放棄している。

まあ、ゴタゴタ語っても退屈だろうから、この辺で止める。ただ、トッドの本を読んでいて、中国が重視されていないのには、幾分不安を感じる。長谷川のように、中国糞味噌も如何かと思うが、トッドに至っては無視に近い(笑)。日本のマスメディアで伝えられる話とは、かなりの開きがある。考えてみると、南シナ海でドンパチが始まっているわけでもない。しかし、ヨーロッパのお隣では、シリアだウクライナだパレスチナだと大きくはないが戦渦を交えているのだから、リアルだ。現時点では、中国覇権と云う脅威は、日本のエリートが都合良く作り上げているものの一つと云う見方も可能なのだろうか。以下はロシア人から見た中国のEEUと中国の「一帯一路(新シルクロード 経済圏)」についての論評だが、これも、案外言葉以上の意味がない場合もあるのだろう。


 ≪ ユーラシアの約束
2015年10月30日 セルゲイ・カラガノフ
 独立国家共同体(CIS)」首脳会議および「ユーラシア経済連合(EEU)」最高評議会会議が10月16、17日、カザフスタンの首都アスタナで開催された。これによって、EEUと中国の「一帯一路(新シルクロード 経済圏)」の連結や、EEUと中央アジアの軍事・政治分野を含めた協力拡大の一端が明らかになった。EEU・一帯一路連結問題でのEEU加盟国の協調に関する文書も採択された。
 これと並行して、EEUの執行機関である「ユーラシア経済委員会(EEC)」協議会議長は、「ヨーロッパ連合(EU)」の執行機関である「ヨーロッ パ委員会(EC)」に、極めて一般的な両連合の連結作業に関する提案を送った。同様の提案は相手側でも作成されていることが明らかになっている。
 ユーラシア・プロセスを分析しているロシアの専門家は、少しホッとした。というのも、これまで、歴史的となるであろうウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平主席の「連結」合意は、EEUの一部加盟国の官僚の混乱あるいは能力欠如に振り回されて、”疲弊する”という不安が増大していたからだ。

 ■逆宣伝も活発に
 代わりに、ロシア、中国、その他のユーラシア諸国の接近を阻止しようという動きが活発化している。アングロサクソン系のプロパガンダ的な報道など はそれを象徴している。ユーラシア・プロジェクトには将来性がない、参加国すべてにとって無益、または中国だけが得をする、ロシアだけが得をするといった内容の記事が登場した。
  外交ツールまで使われている。中央アジアの旧ソ連諸国は、互いの接近を阻止するような圧力、またこれらの国とロシアや中国との接近を阻止するような圧力を、アメリカから受けていると、ことあるごとに伝えている。
 この話は、中央アジア周辺の不安定化を目指す新たな活動が起こるという、専門家の予測と一致する。不安定化の目的とは、この地域を通じたロシアと中国の接近、また中国とヨーロッパのみならず、中国およびロシアとイラン、インドを中心とした南アジアを結ぶ、新たな経済・物流センターの中央アジアへの創設を困難にすること。カザフスタンおよび中央アジアの多くの国で不可避な最高指導者の交代に乗っかり、親アメリカ勢力の政権発足とまではいかなくとも、ウクライナ作戦のような不安定化を中央アジアにもたらすといった、現実的な専門家文学もある。

 ■“大ユーラシア連合”の潜在力
 挑発の問題は一旦脇に置き、可能性を見てみよう。それはロシアの経済的な東方転換と関係している。ロシア極東に「先行発展領域(TOR)」が創設され、活動を始めている。ウラジオストク自由港圏は、ロシアの東海岸の港の多くに広がる。天然ガス・パイプライン「シベリアの力」、宇宙基地「ボストチヌイ」と関連インフラの建設が行われている。投資の流入、その後の経済成長の加速化を期待すべきではないか。
 別の大きな期待があるのは中国の西方転換。これは客観的である。中国経済はこれまでの「世界のためのアジア」モデルではなく、「アジアのためのア ジア」モデルに沿っている。アジア域内市場と近隣市場は中国にとって、より可能性のある市場に映っている。加えて、中国はアメリカとの建設的な協力がうまくいかないことを理解した。貿易は別として、アメリカは太平洋にソフトパワー冷戦のような封じ込めシステムの構築を行っていることが明らかになってきている。この状況において、中国政府は、イラン、パキスタン、インド、ペルシャ湾の方向でヨーロッパ市場をめざす物流関係の発展を通じた、西および南西への経済的拡大に重きを置いた。中国は「16+1」コンセプト、すなわち中央ヨーロッパおよび東ヨーロッパの16ヶ国への自国の投資拡大を発表した。

 ■ロシアの立ち位置は
 さて、ヨーロッパ、中央アジアとの物流関係の構築などを通じた中国の西方転換は、ロシアにとって客観的に極めてプラスである。ロシアは経済的な東方転換を行っており、また太平洋および南アジアへの経済・政治的進出の拡大を必要としている。
 「連結」を宣言してから最初の5ヶ月は、ロシアが「勝利の手から敗北を奪い取る」のではないかという大きな不安が国内であった。だがアスタナで行 われた会議によって、この不安が全部とはいかなくとも一部払拭された。ぐずぐずしている時間などない。それでなくとも、客観的にはソ連崩壊によって、主観的にはエリートの精神的な怠惰、無教育、ヨーロッパ中心主義によって、アジア、特に中国の経済成長の第1波に乗らずに、20年を丸々無駄にしているのだから。
 ロシアの極東への転換は、官僚制度の弱点を筆頭とした原因により、最近までブレーキがかかっていた。大ユーラシア共同体の構築、その内部での重要かつ有利な地位の確保には、いまだに存在するような中途半端な活動ではなく、体系的な作業が必要である。
 「連結」は、何よりも経済戦略の問題であり、政治の最高レベルの指揮を要し、省庁のみならず、専門家社会、経済界が参加した首相、大統領府長官、 または特別副首相が率いるユーラシア協力作業部会の創設を求める。ロシアだけでなく、近隣諸国の参加も必要になる。このような委員会は、EEUと一帯一 路、EEUとEUの対話(始まった場合)を統合することができる。そして、建設中の大ユーラシアの主要な組織になり得る、非常に有望でありながら、いまだ に半睡眠状態にある上海協力機構を、活性化させるのである。  
*セルゲイ・カラガノフ、ロシア国立研究大学「高等経済学院」世界経済・世界政治学部長
*記事全文(露語)  ≫(ロシアNOW)

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)
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