7月27日と28日に広島県安芸高田市を旅行しました。東京都知事選挙で大量得票した石丸前市長の評判を出来れば現地で直に確かめたかったのと、安芸高田そのものの街の魅力も知りたかったので。そこでまず痛感したのが交通の不便さです。この点については早速、旅先から携帯で市役所の窓口に下記の問い合わせメールを送りました。
市内公共交通網の拡充を求めます
大阪から新幹線とバスを乗り継いで安芸高田市に旅行に来ました。まずバスで「道の駅三矢の里あきたかた」に立ち寄り、縄文アイスをいただいた後、吉田地区の「ゆめタウン」で「あきたかた焼き」を昼食に購入。歴史民俗博物館を観た後、郡山城跡を散策。吉田の旅館に一泊して翌日帰阪する予定です。
本当は美土里地区の神楽門前湯治村に泊まりたかったのですが満室で適わず。せめて日帰り入浴だけでもしたかったのですが、これもバスの便がないので諦めざるを得ませんでした。
実は私が安芸高田に着いた7月27日(土)の夜に向原地区では「きてみん祭土曜夜市」が催され、神楽の上演も行われるのですが、こちらも吉田に帰る便がなく参加を断念。
地元の方はマイカーがあるので別にバスの便がなくても困らないでしょうが、電車やバスでしか来れない旅行者はこれではどこも回る事が出来ません。
不便なのは鉄道も同じです。市内を走るJR芸備線は広島・三次間は約1時間毎に列車が走っていますが、それ以遠は1日3~5本しか走っていません。最近秘境駅でブームの備後落合やスイッチバックで有名な木次線奥出雲おろちループの区間も、もっと列車の本数が多ければ回れるのに。旅行機会の損失がJRの赤字を更に酷くしているのではないでしょうか。
マイカーが総中流社会の象徴であったのはもう数十年も前の話です。今や貧しい非正規雇用の若者にとって車は高嶺の花です。地方でも高齢者などは公共交通網に頼らざるを得ません。そんな方達も他の方と同様に健康で文化的な最低限度の生活を送る権利があるはずです。せめて一泊二日の国内旅行ぐらい自由に出来るようにして下さい。(以上メール終了)
その旅先の写真がこちら。まず「道の駅三矢の里あきたかた」でいただいた縄文アイスから。縄文時代に栽培された古代米のトッピングがアイスに乗っている。非常に美味しかったです。但し、今売り出し中の「あきたかた焼き」は道の駅では冷凍品しか販売しておらず。冷凍品ではランチとして直ぐに食べる事が出来ません。こちらは吉田地区のショッピングセンター「ゆめタウン」でようやく買う事が出来ました。
「あきたかた焼き」は広島のお好み焼きをアレンジした物です。広島のお好み焼きは、大阪のそれとは違い、キャベツや焼きそばの上に卵を乗せ薄くクレープ状に重ねた物ですが、「あきたかた焼き」は鶏肉を使用し、地元の伝統芸能である神楽に因んだ5色の食材を使用するのが特徴です。青(青のり)、赤(紅生姜)、黄(卵)、黒(ソース)、白(餅)の5色です。餅は当地の戦国大名、毛利元就の好物でもありました。非常にボリュームがあり美味しかったです。
昼からは市役所内の図書館で地元関係の本やパンフレットを観た後、歴史民俗博物館で当地を支配した戦国大名・毛利元就の足跡を学び、彼が本拠地にした郡山城の城跡を巡りました。
毛利一族の墓や、元就が築城の際に人柱の代わりに埋め、後に掘り出された百万一心の碑を巡りました。但し、兄弟3名の和を説いた三矢の訓の碑だけは、少年の家の敷地内にあり、門が閉まって入れなかったので外から撮るだけにしました。
山頂の本丸を中心に、そこから四方に伸びる尾根に釣井の壇、姫の丸、釜屋の壇、勢溜の壇などの出城を築き、谷に堀を割り、難攻不落の要塞にした元就の戦略家としての才能に驚かされました。最初は汗だくで登っていましたが、やがて森に入るにつれ、木陰の間に吹く風に徐々に癒されるようになりました。それでも最後は汗だくで、夏は熱中症対策が必須だと感じました。
山麓の清神社(すがじんじゃ)で郡山城跡の散策は終了です。この神社は毛利家が代々戦勝祈願に訪れた所で、最近ではサッカーJリーグ・サンフレッチェ広島の選手達が試合前に戦勝祈願に訪れます。安芸高田はサンフレッチェの根拠地でもあります。
最後に、冒頭紹介のメールでも文章の大半を費やして説明した市内交通事情の悪さについて。この話をするには、安芸高田市の成り立ちから話さなくてはなりません。2004年に安芸高田市が誕生するまで、市域は旧高田郡の6町に分かれていました。JR芸備線沿いに南西から北東に向原町と甲田町。国道54号線沿いに南西から北東に八千代町と吉田町。中国・広島自動車道沿いに東から西へ高宮町と美土里町。この6町です。(記事冒頭のグーグルマップ図参照)
安芸高田市という名前から、広島市郊外のベッドタウンを連想しがちですが、実際は各町とも中国山地の中にある過疎の町です。八千代町と向原町の間に分水嶺が走っていて、川の水もこの分水嶺を境に、瀬戸内海に流れる大田川水系と、日本海側に流れる江の川水系に分かれます。平成の大合併で安芸高田市が誕生したのも、各町分立のままでは人口減少で自治体機能が維持出来なくなったからです。
八千代町と吉田町に住む人は、国道54号線を約1時間毎に走るバスで、約1時間半ほどで広島市中心部に出る事が出来ます。向原町と甲田町に住む人も、JR芸備線を同じぐらいの間隔で走る列車で、同じぐらいの時間で広島市中心部に出る事が出来ます。高宮町と美土里町に住む人も、中国・広島自動車道を同じぐらいの間隔で走るバスで、同じぐらいの時間(高速だともっと早いかも)で広島市中心部に出る事が出来ます。
神楽門前湯治村
問題はJR芸備線、国道54号線、中国・広島自動車道など県都に出る縦の公共交通網はあっても、それらを横につなぐ市内の公共交通網がほとんどない事です。まず市役所のある旧吉田町から旧美土里町にある神楽門前湯治村に行く民間のバス路線はありません。「お太助バス」という市が運営するワゴン車タイプの福祉バスはありますが、これは美土里町の住民が吉田の市役所や郵便局、病院に通い、買い物を済ませて帰る為に走っています。だからバスのダイヤも、朝に吉田に向かう1〜2便と、夕方に美土里方面に帰る1〜2便しかありません。もしこれで吉田から神楽門前湯治村に向かう事が出来ても、そこで一泊しなければ翌日朝に吉田に戻って来る事が出来ません。その福祉バスも日曜日は運休してしまいます。
高田南部線のバス時刻表。向原駅17時51分発が吉田方面に帰るバスの最終便となる。
それに対し、吉田から甲田、向原に向かう民間のバス路線はあります。備北交通バスの高田南部線です。このバス路線は往復しているので、その日のうちに吉田に戻って来る事も出来ます。でもバスの本数が1日7本(土曜日は更に減って5本に)しかありません。もし、このバスで「きてみん祭土曜夜市」に参加しようとしても、17時51分向原駅発の終バスに乗らなければ、吉田に戻って来る事が出来ません。神楽の上演まで観ていたら到底戻って来る事は出来ません。そして、この備北交通バスも日曜・祝日は全面運休なのです。これでは折角、土曜夜市で地域を盛り上げようと思っても限界があります。
実は、この市内の公共交通網の貧弱さについては、今までも市議会で取り上げられてました。今年3月6日も、山本数博議員が議会の定例会で、「来年には吉田・向原間に新トンネルが出来るので、それに合わせたバスの増便や駅の利便性向上について、JR・国・沿線自治体による任意協議会で何らかの提案や働きかけをする気はないか?」と市長に質問しています。(元ネタ動画はこちら)
それに対して、当時の石丸伸二市長は「昨日、別の議員からも同じような質問がされたので、そこで答弁している。大体からしてあなたの質問は文章がよく分からない。何度も同じ言葉が出て来る。小論文の試験では減点対象だ」云々と、質問の趣旨とは何の関係もない、重箱の隅を突くような粗探しの答弁を繰り返しました。
その昨日の別の議員(金行哲昭氏)の質問要旨は「JR芸備線内ではまだ赤字額がそんなに大きくはない三次・深川間(注:下深川の間違いか?)でも経営数値が悪化している。このままでは早晩、庄原以遠の超閑散区間のように再構築協議会で廃線も視野に入れた協議を申し入れられるかも知れない。地元の足の存続に向けての市長の覚悟を問う」というものでした。同じJRの廃線問題を取り上げていても、質問趣旨が異なる事は明白です。
そうであるにもかかわらず、やる気のない答弁しかしない石丸市長は、最初からこの問題に真剣に取り組む気がないのです。それは安芸高田市の姿勢にも現れています。市の公式ホームページのJR芸備線任意協議会のページをクリックすると、いきなり隣の三次市のホームページに飛ぶ仕組みになっています。地元の重要な問題についても、ひたすら隣の市に丸投げしているのです。
一事が万事こんな調子なので、私はこの石丸伸二市長の言う事は全然信用していません。X(旧ツイッター)やユーチューブで、市議会の年寄り議員をやり込める動画を配信して人気を博し、市長を1期で退任して臨んだ7月7日の東京都知事選挙でも、政党の支援を全然受けない中で165万票もの大量得票を獲得し、一躍有名人に躍り出た人物ですが。
自分と対立する人物に「抵抗勢力」とレッテルを貼り、自分はそれと闘う救世主のように振る舞っていますが、やっている事は従来の保守政治と全然変わらず。それを誤魔化す為に屁理屈を捏ね回しているだけではないですか。
確かに石丸氏の発信力の凄さは認めます。ユーチューブ配信した動画のお陰で市の公式ホームページのアクセス数が急伸し、それに伴い「ふるさと納税額」も増えました。赤字財政の中で学校給食費を無料化し、用務員や給食調理師の増員も実現しました。
しかし、その他の施策はどうか?市の第三セクターとして観光・保養施設の神楽門前湯治村を作りながら、そこに向かう公共交通網を整備しなかった為に、折角需要がありながら、私みたいに来訪を諦めざるを得ない人を一杯出してしまっています。JR芸備線の廃線問題もまともに取り組もうとしない。
石丸氏はJRの廃線問題について、こんな発言をしています。「ダイヤを組むのはJRだから、それについて第三者の我々がどうこう言う事は出来ない」「民間企業である以上は儲からなければ廃線にする他ない」。確かにそれはその通りです。でも、鉄道会社には他の民間トラック企業以上に公共性も求められます。鉄道は人々の生活の足でもあるのだから。それを忘れて、民間企業だからと金儲け主義の経営に走り、安全対策を怠った結果が、あの未曾有の大惨事を引き起こしたJR福知山線事故でした。
石丸氏が給食費無料化などの子育て世代に手厚い施策を実施する一方で、交通弱者にはここまで冷淡な姿勢が取れるのは何故なのか?単に「市の財政が赤字だから」という理由だけでは説明が付きません。折角、税金を投入して神楽何ちゃら村まで作りながら、何故そこに向かう足の便を確保しなかったのか?みんながみんなマイカーで旅行するとは限らないのに。何故こうもやる事なす事全てが中途半端でチグハグなのか?まさか、「交通弱者よりも子育て世代の方が、年齢が若いし所得も高いので、票田や金づるとして期待出来るから」と考えているのではないだろうな?
確かに安芸高田市は赤字財政なので出来る事は限られます。施策に軽重を付ける事も一定やむを得ないでしょう。でも、だからと言って、子育て世代以外の市民はみんな無視するのは、市長として如何なものかと思います。子育て世代もやがて年をとり高齢者になります。運転免許も返上しなければならなくなった時に、それまでの厚遇策が、単に自分達を「票田、金づる」としか看做していなかった事に気付いても遅いのです。
ここに来て早くも石丸氏の化けの皮が剥がれつつあります。東京都知事選挙であれだけ大量得票しながら、開票後の記者会見で、インタビュアーの揚げ足取るしか能がなく、まともにコミュニケーションも取れない醜態を曝け出してしまいました。「石丸構文」という造語まで生み出して。
自分と対立する人々をひたすら「抵抗勢力」と叩き、自分はそれと闘うヒーローであるかのように演じながら、実際にやった施策はいずれもそれまでの保守政治の延長でしかない。民間活力導入で規制緩和を叫びながら、実際に行われたのは派遣の自由化や格差の拡大、ブラック企業の甘やかしでしかありませんでした。
古くは中曽根行革による国鉄分割民営化。次いで小泉構造改革による郵政民営化。そしてアベノミクスによる規制緩和。橋下維新による大阪都構想。今まで何度も騙されたのに、また同じような手法で騙されるのか?それとも、その嘘を見破り、今度こそ騙されないようにするのか?私達は今まさに、その岐路に立たされています。
大阪府大阪市
〇〇 様
この度は、公共交通に関するご意見をお寄せいただきありがとうございました。
安芸高田市へお越しいただいたのこと、誠にありがとうございます。
ご不便をおかけし申し訳ございませんでした。
現在、安芸高田市では、限られた予算の中で持続可能な移動手段の確保と利便性の向上を目指し、交通再編を計画しているところです。
いただいたご意見は今後の施策の参考にさせていただきます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
〒731-0592 安芸高田市吉田町吉田791
安芸高田市企画部政策企画課
(電話・FAX番号省略)
でも、社交辞令だけの返事、ものすごく事務的な対応で、全然心がこもっていない…。
安芸高田市の観光パンフレットを見たら、市内の観光名所がこれでもかというぐらい載っていて、いかにも観光に力を入れているようなのに。
但し、相手にする観光客は、金持ちの外国人と日本人だけ。そういう金持ち連中はマイカーかタクシーで観光地巡りをするから、別にバスの便なぞ無くても良いのでしょう。人口3万弱の山間の過疎の街に、何故タクシー会社が5社もあるのか不思議でしたが、なるほどそういう訳だったのか…。
石丸氏が、道の駅から観光協会を追い出して、無印良品を誘致しようとした理由も、これで何となく分かりました。一見すると観光振興とは逆行する施策ですが、これも新自由主義者の石丸氏の立場で考えれば納得がいきます。
大都市に住んでいる私達にはごくありふれた無印良品やユニクロの店舗も、万屋しかない過疎地域の住民にとっては文明の象徴。「今まで広島や三次に行かなければ買えなかった衣料品も、市内で簡単に買えるようになった。さすがは石丸市長!」となるのを狙っての人気取りです。
それに観光協会には市としても補助金で支援しなければならないが、無印良品ならそんな補助金なぞ不要で、逆に法人税が入って来る。
市内の公共交通網を貧弱なまま放置して、観光パンフレットにばかり金をかけるのも、マイカーやタクシーで観光巡りをしてくれる金持ち連中の集客を狙っての事。青春18キッパーや私のような貧乏旅行者の事なぞ、ハナから念頭に無いのです。
新自由主義=拝金資本主義の観点に立てば、金を落としてくれる人だけが神様で、金のない奴なぞ最初から人間扱いされない。そう考えれば、石丸氏が市長在任中に行った一見チグハグな施策も、全て納得がいきます。
これこそが本物の「町おこし、産業創出、都市開発」ではないか。石丸氏も自身のサイトに同じような題目を掲げているが、総論ばかりで各論がない。そして市長として実際やった事は、点数稼ぎの給食費無料化や議会での派手なバトル、道の駅から観光協会を追い出して大資本の無印良品を誘致しようとする等、町おこしとは到底言えない弥縫策ばかり。だから彼のサイトを読んでいても全然心に響かない。
https://www.d-pam.com/niimi-u/2413608/index.html?tm=1#target/page_no=1
ぶた猫ぶーにゃんの社会的マイノリティ研究所です。
今回の記事(およびX投稿)を拝見しました。
思うに、安芸高田市に限らずニッポンの交通政策というのはずっと「クルマファースト」なんだろうと思います。
だから大阪や東京など大都市から外れると公共交通が貧弱になるんですよね。
そのことを思い知らされるのが「○○駅から『車で』★分」というやつです。(私も職探しをしていて求人票なんか見てもこの手の表現が多い)
実際にどれだけの距離が離れているのかイメージがつきません。
このことに関して、杉田聡(帯広畜産大学名誉教授)という方の著書「クルマを捨てて歩く」では、勤務地である北海道において「車で★分」というのは「時速100キロメートルで走らせて★分」だったというエピソードがございます。
ちなみに杉田氏は北海道において「クルマを捨てた」生活を続けてきた「ツワモノ」として知られています。興味があれば読んでみてください。
それでは、酷暑にお気をつけて。