acc-j茨城 山岳会日記

acc-j茨城
山でのあれこれ、便りにのせて


ただいま、acc-jでは新しい山の仲間を募集中です。

谷川岳・一ノ倉沢烏帽子沢奥壁南稜

2020年10月26日 16時48分29秒 | 山行速報(アルパイン)

2020/10/19 谷川岳・一ノ倉沢烏帽子沢奥壁南稜

 

一ノ倉沢を望む(一の沢出合から)


新入会のkumさんと、アルパインクライミング。
数日前に山頂付近では降雪もあったようだけど、紅葉は今が見頃らしい。

kumさんとは日和田山で登攀システムなどの息合わせを行って、今日はツルベで行く予定。
目指すのは、谷川岳、一ノ倉沢烏帽子沢奥壁南稜。
kumさん、初の一ノ倉ということで人気のクラッシックル-トをチョイスしました。


♪~

闇を切り裂いていく

道を見失うこともあるけどさ
弱さや過ちは必要なことだった
そう思えればいいことなんだよね

見上げるあの壁を目指そうぜ
そうして体が目を覚ましていく
目指す理由なんか、無いはずなのに

一ノ沢を下る


日が短いことを意識して早出にしたものの、闇中で一ノ沢に入り込んでしまい、時間ロス。

2020年9月の豪雨被害でロ-プウェイが運休中。
一ノ倉出合も河原が随分抉られている様子から、「なんか、ずいぶん渓相が変わったなぁ」などと思っていたんだけど、薄明るくなってから景色が明らかに違うことに気付いてル-ト修正。
大変失礼しました。

テ-ルリッジと紅葉

 

ヒョングリの滝から右岸リッジに乗って、沢床への下降は残置のフィックスロ-プ頼りに下る。
先般ガイドによる本谷通し~中央稜取付きまでの整備が行われたという情報通り、随所に真新しいフィックスが張ってあり、快適。
紅葉はテ-ルリッジ辺りが見頃で岩と彩葉が何とも言い難い美しさだ。

衝立岩を望む

 

衝立岩中央稜の取付きで靴を履き替え、烏帽子スラブのトラバ-ス。
kumさんに、各ルートの取付などを示しながら、慎重に南稜テラスへ。


♪~

陽で山が染まる

彩りと岩に囲まれたド真ん中で
過去のすべては今この時のために
さあ、楽しい岩登りの時間が始まるよ

岩壁をただ攀じ登ろうぜ
そうして頭はカラッポになっていく
面倒くさいことなんか忘れてさ


ポイントになる最初のチムニ-と最終ピッチはkumさんにトライしてもらうオ-ダ-。
1ピッチ目はル-トが屈曲しやすいので、半分に分けてsakから。

チムニ-をリ-ドするkumさん

 

2ピッチ、チムニ-をkumさんリ-ド。
最初の一歩が迷うとこだけど、テンションなくクリア。
お見事です。

その後もツルベ登攀。

草付きピッチの手前

 

馬の背リッジ

 

高度感ある馬の背、最終ピッチ手前の凹角から左のリッジに回り込むあたりは乾いた岩を美味しくいただく。
乾いた岩は、イイですなぁ。

最終ピッチをリ-ドする

 

最終ピッチのフェイスはkumさん。
順調にザイルは伸びて、ビレイ解除のコ-ル。
トラブルもなく、無事終了点に到着。
kumさん、ナイスクライミングでした。

6ルンゼ下降

 

下山は6ルンゼ下降。
安全を期して、烏帽子スラブとテ-ルリッジの要所でロ-プを出す。

最後は闇に追い立てられながらの下山。
ヒョングリの滝あたりは、本谷通しの真新しいフィックスを利用。
最後の右岸薮を抜けて一ノ倉出合まで。

振り返れば、一ノ倉は靄に消えていた。

ヘッデンで下る


♪~

闇に急かされて行く

焦る気持ちもあるけどさ
今の僕らには小さな灯りがあるんだ
それだけあれば充分じゃんか

ヘッデンを灯して歩こうぜ
なぜか気持ちは高揚していく
自分が強くなったような気がして


sak

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日和田山・岩場トレ-ニング

2020年10月09日 13時02分50秒 | 会員日記

2020/10/6 日和田山


今日は、新入会メンバ-の岩場トレ-ニング。
道具の説明や使い方、支点構築、ザイルワ-ク、クライミングコ-ル、懸垂下降、自己脱出、人工登攀など。

山岳会に入会いただいた方から、「なんで、いろいろ教えてくれるんですか?」と聞かれる時があります。
たしかに、講習料金をいただく訳でもないし、交通費はワリカンだし。

「何かウラがあるんじゃない?」

そう思っても不思議ではありません。(笑)

でも、私たちの思いはシンプルです。
それは、、、

パ-トナ-が増えると、自分がいろんな山に行けるから、です。

自身憧れのル-ト踏破実現に向けてのパ-トナ-育成。
新たな登山スタイルとの出逢い、そして発見があるからなんです。

ですので、みなさん。
積極的にどんどん、いろんな山に行きましょう!

と、いうことで、今日のメンバ-はすでにクライミングやツリ-クライミングなど嗜まれていた方々でしたので、混乱もなく講習を終えることができました。


kumさんは、しなやかなクライミング。

マルチピッチクライミングに必要な知識と手順は得ていて、期待の新人です。

 


miyさんは、社会人まで野球を続けたスポ-ツマン。

ほかにツリ-クライミングやパラグライダ-はインストラクタ-もされているとのこと。

体躯・体力からしてACCJ茨城最強の山男になるかもしれません。

 

あとはとにかく、攀じるべし!

 

 

 

-小詩-


登れたら、楽しい。
登れなかったら、悔しい。

登れなかった壁に、登れた時感じるのが、喜び。

きっとあなたは雄たけびを上げたり、ガッツポ-ズで応えたり、泣けてしまったりするでしょう。

少し前の自分より上手くなれた。
それがなにより嬉しい。
容易に登れた「楽しい」を遥かに超えることでしょう。

ホンモノの喜びを手に入れられるのは、悔しさを乗り越えた人だけです。
諦めることはいつでもできます。

その繰り返しが、あなたを強くしていきます。


sak

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巻機山・米子沢

2020年10月02日 12時14分37秒 | 山行速報(沢)

2020/9/15 巻機山・米子沢


集合時間、小雨舞う桜坂。
4日前の小三本沢と同じ感覚で寝袋を出る。
さて、どうしたものか。
沢から登山への計画変更も頭に浮かぶ。

そうこうしているうち、matさんと合流。
二人とも面識のない新入会のkudさんご夫妻を探す。
駐車場には車もまばらで、すぐに合流することができた。

1時間ほど出発を遅らせ天候の様子を見たい旨伝え、身づくろいや朝食を摂っているうちに鉛空だけ残して雨は止む。
こうなると、登山への計画変更は言い出し難い。
少しだけ装備を見直してお助け紐と捨て縄、カムをザックに押し込めた。

林道を少し歩いて、案内板に沿って米子沢。
広い河原に水流が一筋。
ここで水流があるということは、水量多めの予感。
今年の記録ではおおむね水量多し、とあった。おそらくは長梅雨の影響だろう。
出発も遅れたので、タイムキ-プにも気を配らねばならない。
少し急いで河原を詰める。

米子沢は「癒しの王道」ともいうべき人気ル-ト。
その白眉は後半のナメと草原にある。
なんとか後半天候が回復してくれればいいのだが。

kudさん夫妻はクライミング経験はあるが、沢は先月始めたばかり。
沢特有のヌメに苦戦したようだが、滝登りはソツなくこなしている。
matさんも入会1年経ち、安定して滝を登る姿に頼もしさを感じる。

序盤の滝場は概ね水流脇を行く。
念のため二か所ほどお助け紐を出し、一か所5mの懸垂下降。

トイ状滝は左クラックを半ばまで。
そこから水流を渡って右に移る場面が、水量多くちょっと怖い。
一段上がったところにカムとスリングで手がかりを作って後続通過。
このあたりが「ファイト!一発!」ってな感じだ。

それでもまだ滝場は続く。
特段困難な滝場こそないが、濡れたスラブ、草付きには用心が必要。

後半戦、大ナメ帯へと入る頃には、ガスは幾分晴れ、時折青空も覗く。
一気に開放的な景観が広がる。
ここでガスが晴れるなんて、私も神がかっているではないか。

内心そんなことを考えていると、matさんが訥々と語りだす。
matさんのおばあ様の言い伝えによると、”梅干しに念ずると晴れる!”ということらしい。
記録をしたためながら今になって思うと、天日干しした梅干しはその過程といい、形といい「お日様」の象徴的存在なのかもしれないなと合点もいく。

「だから私、さっきおにぎりの梅干しに祈ったんです」

私ごときが、神がかったなどおこがましい。
すでに、神の使いがここにいらしたのだ。(祈)

大ナメで小休止し、景色を堪能しながらゆっくりと歩く。
そのあとは滝場も規模が小さくなるので緊張する場面はない。
源流を右に左に進み、避難小屋への道には気づかずに詰めあがる。

水流も極めて細くなる頃、右岸の草原に乗る。

草原に佇み、大の字になって寝転ぶ。
草葉の間からは青空。
乾いた風が頬を撫でる。

心安らぐ時。
風になびく笹葉のサラサラという音が今は祝福の拍手にしか聞こえない。

去りがたきを去り、頂へ。
そして日常へと径を下る。


sak

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南会津・小三本沢

2020年09月29日 11時21分11秒 | 山行速報(沢)

2020/9/11 南会津・小三本沢

 

集合時間。
小雨舞う、入叶津。
さて、どうしたものか。

すっきりしない天気予報に山行中止もよぎったが、前日に山行決行の決断をした。
そして当日。この天気に少し責任を感じつつ、茨城組と合流。

Kikさんは、「大丈夫だよぉ~。そのうち(雨が)あがっぺよぉ~」と言う。
根拠もなくそう言い切るのはいかがなものかと訝しながら、スマホで降雨レ-ダ-を見る。
どうやら、この小雨は1時間ほどで上がるらしい。
便利な時代だ。

いやしかし、だ。
kikさんの携帯は確かガラケ-のはず。
あなたの感覚は文明の利器をも超えているのか?
kikさん、あなたは最強なのか?

小三本沢は浅草岳の山頂近くにある天狗の庭という草原に突き上げる日帰りとしては少し長めの沢。
時間のロスは痛いが、初めから雨に濡れながら行くのも快くない。
ということで1時間遅れの出発。

メンバ-はkikさん、Kei2さん、endさん、sakの4人
sakにとっては久しぶりのパ-ティ-山行。
ゲ-トを過ぎてなお立派な国道を、近況など話しながらテクテク歩いて林道入り口。
その林道を終点まで詰め、小三本沢へ入渓。

下流部は崩壊が進み濁った沢とドロドロの泥壁に挟まれた流れを行く。
なんだか、温泉でも出ていそうだね、なんていいながら黙々と進む。

崩壊地を過ぎると途端に流れは澄み、魚影が走る。
ということで、それぞれに竿を出す。
そのころには青空が覗き、竿に止まる赤とんぼが秋の訪れを告げていた。

安沢出合で納竿し、大休止。
endさんが仕込んできたホットサンドを皆でいただく。
ホイルで包んだサンドウィッチを軽く焚火で炙るのだが、ほんのり温かくて美味。
さすがシェフ。(本業です)

ここからは遡行に専念。
途中の滝場は最初だけ軽く巻いて、あとは直登やへつりが可能。
なかなか、楽しめるところだ。

大滝は右岸の藪を巻く。
慣れていないとキツいかもしれない。

小三本沢は癒し系かなと思っていたけど、沢登のいろんなシチュエ-ションがコンパクトにまとまっている良渓。
kei2さんはいつか行きたい沢の一つだったらしい。
そういう山に同行できることは、なんだかとても嬉しいものだ。

大滝上からは源流の雰囲気漂う。
だけど、なかなか長い。

明らかに両岸が開けてくると天狗の庭はもうすぐ。
登山道には小さな木橋。
なんとか、天気も保ってくれた。
後続を迎えようと、振り返れば虹がかかっていた。

下山途中から雷雨。
雷鳴轟く中、キノコに余念のないkikさんがトンビマイタケを見つける。

なんだかんだ言って、やっぱりkikさんは最強なのかもしれない。


sak

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クライミングパンツ

2020年09月25日 11時55分59秒 | 会員日記

クライミングパンツ

沢の季節はもう終盤。
今更ですが、私的な沢用クライミングパンツのおススメ。

以前、登山や沢登で使える(そして、お手頃価格な)クライミングパンツとして
ワ-クマン(FieldCore)のエアロストレッチクライミングパンツを紹介しました。

難点をいうなれば、ウエストベルトがついていないのでウエスト用にバックル(600円くらい)を別購入していたこと。
しかし、それを解決したのが、今回紹介するクライミングパンツ。

販売はなんと、「しまむら」です。
見つけたときは、まぁ、試しに、、、くらいの気持ちでしたが、なかなかどうして使えます。

ポリエステルでとてもライトウエイト。
もちろんストレッチ&撥水素材。(帝人さんのSOLOTEXを使っているようです)
ウエストバックルも標準装備。
ポケットには防水ファスナ-と念の入れよう。
(お尻のポケットはマジックテ-プなんですけどね)
難点を言えば、ポケットの内布が綿素材ということくらい。

このスペックで税込1,969円。
沢で酷使して汚れたり破れたりしても気にならないお手頃価格がうれしい。

沢登りではジャ-ジを愛用してきましたが、濡れると重いのが難点。
この夏の沢登り用にシフトチェンジしましたが、水抜けもいいし乾きも早いし充分合格点。
ということで、リピ-ト買い。

多分、今シ-ズンはもう買えないと思います。

次シ-ズンではポケット内布をポリエステルにした新作を期待したいところです。

今後はワ-クマンだけじゃなくて、「しまパト」もしなくては。


sak

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洗戸川・洗淀沢~会津朝日岳

2020年09月13日 00時45分02秒 | 山行速報(沢)

2020/8/31-9/3 洗戸川・洗淀沢~会津朝日岳


会津駒・朝日岳山群は福島県の南西部と新潟県境に接し、深い森林と渓谷を抱く日本的情緒あふれる一大山地。
道路などの通行手段に乏しく、ダムにより隔離されたその不便さから本州の深部、最奥部ともいうべき隔絶感がある。
一般的な道路地図でもその広大さは測り知ることができよう。

それは、日本アルプスや近隣の会越・下田川内、奥利根に比べても見劣りしない。
際立つ観光地を有しない地味さから、その隔絶感は本州の中でも随一といえよう。

それらに魅了された南会津ファンも少なからずいて、もちろん私もその1人だ。

会津駒ケ岳~朝日岳の南北に連なる主脈や、ダム湖と藪に護られた村杉半島は残雪を利して歩いた。
山群の中心にある丸山岳は大幽西ノ沢を辿り、会津朝日岳は楢戸沢を遡り北壁スラブを経て山頂に至った。
高幽山と梵天岳の間にある瓢箪型の小さな草原に佇んだこともあった。

そしてなお、憧れたのが洗戸川・洗淀沢からの会津朝日岳だった。
白戸川流域の豊饒な渓の恵みを享けながら、会津朝日岳南壁に切れ込む流れを遡る。
主脈が山巓を繋ぐ旅なら、沢を繋ぎ歩いて自由闊達な山旅をしてみたい。
そう思ったのは、自然なことだったのかもしれない。

この径には何があるのだろうか。
自然の中で生きるには、常に孤独がつき纏う。
どう過ごすかは自由。
反面、自由というのは実に非情なものだ。

現実を突きつけられると、社会生活での緩い束縛が恋しくなる。
山行前夜、そんな葛藤をしながら奥只見シルバ-ラインを行く。


8/31

奥只見ダムから大鳥ダムへの道をペタペタと歩く。
途中いくつかの工事個所があるが、通過に困難はない。
懸念していたメジロアブもほぼ消えており、快適なアプロ-チ。

水色の上大鳥橋先、ほどなく右から白滝沢が出合う。
白滝沢は地図上短く見えるが、なかなかどうして水勢もあり白泡立つ流れ。
このあたりが名の由来だろうか。


いくつか滝場を有するが、特筆した困難はなく、やがて流れは森に消える。

藪に入るが密度は中以下。
上へ上へと詰めていくと1395峰。
良好な視界があれば村杉まで約2時間、のはずだった。

しかし、このころから雨。視界もない。
1395峰から北へ延びる緩やかな尾根を見出すのがポイントとなるのだが、この辺りは藪も深い。
幾たび進路探しで行きつ戻りつを繰り返した。
ようやく尾根の径型へとたどり着いたときには1時間半ほども経過していた。

小雨降る藪を行くのはなかなか心折れるものがある。
しかしここで折れたら、山ヤを名乗る資格はなかろう。
この後も奮戦続き。
眼鏡のレンズが外れ紛失するアクシデントも、残された自分の視力だけを頼りに藪を漕ぐ。

村杉岳は頑強なツゲとシャクナゲに囲まれた頂。
残雪の頂とはまるで違う表情だ。

ここから東へ進路をとる。
幸い雨も上がり、ぽっかりと開けた草付きに出ると沢床はその先にある。
上五沢(上小沢)源頭についたと思った。
しかし、ここが滝のクサ沢(滝の沢)源頭だったことを知るのは、しばらく後のこと。
もはや登り返すに躊躇うほど下ってから気づいたが、装備に不安はないのでそのまま下る。

切れ込んだ窪を丹念に下っていくとやがていくつかの沢筋を合わせ、30mほどの草付きスラブにわずか水の流れ。
45mロ‐プでは少し長さが足りないようであったので、藪を頼りに少し巻き下り、最後は懸垂下降20m。
その後現れる10m未満の滝場も懸垂下降とクライムダウンでやり過ごす。

瀑流帯と河原を繰り返し、中流の2段40m。
上段は左岸を懸垂下降。下段は左岸を小さく巻き下ることができた。
その後も断続的に瀑流帯と河原を繰り返す。

17時を過ぎ、地形図上の783mの右岸に1mほどの高さの段丘。
この先には30m大滝も控えていることから、今日の行動をここで終了。

藪の彷徨と想定外の滝場下りで釣りをする気にもなれず、楽しみは明日に持ち越し。
反面、奥深い山中の大滝群を拝することができたのはこれもまた運命だろう。

薪はわざわざ集めるまでもなく、そこここに渦高く溜まっている。
夜な夜な一人で豪勢な焚火。
もう、近づけないほどに火柱があがり、時に爆ぜていくつもの火の粉が漆黒の空に消えていく。
その光景をただぼんやりと眺めていた。


9/1

朝方はさすがに冷える。
谷はぼんやり靄っていたが、空は晴天の兆し。
すっかり燃え尽きた焚火跡の処理をし、引き続き、滝のクサ沢(滝の沢)を下降する。

やはり、河原の後に瀑流帯があり、時に懸垂下降。
30m大滝は、上部がひょんぐっていて、なかなか立派だ。
幸い右岸から巻き下るとができた。
この滝を過ぎるとメルガ股沢まで一投足だった。

メルガ股は悠然と流れる。
深い森に滔々と流れる様に魅了される。
本当はメルガ股から丸山岳を目指すのが、南会津の沢旅における王道といえよう。
いつの日かの再来を誓い流れを下る。

洗戸川出合は明るく開ける。白戸川左岸の段丘はこれまで幾人の幕場として利用されてきただろうか。
一休みして洗戸川(洗戸沢)に入る。

最初のゴルジュ状は腰まで浸かるが通過は容易。
後は河原が続き遡行は捗る。
芦安沢まで遡行に専念するなら2時間あればたどり着く。

しかし、今日の行程は待望の癒し区間。
釣りを堪能し、焚火の準備にも余念なく一日を終える予定。
幕場は芦安沢出合と思っていたが、すぐ手前の小沢出合の段丘を利用した。

幕場近くに沢わさびが群生していて味噌汁の具にしたり、炒めたり。
やっぱり沢登はこうでなきゃ。そんな一日を堪能した。


9/2

朝食を素早く済ませ、焚火跡を処理する。
今日が核心。
そういう緊張感がある。
幸い天気は保つようだが、午後の雷雨リスクは頭に入れておかねばなるまい。

 

芦安沢出合を過ぎると、廊下やゴルジュ状、ゴ-ロと河原が断続するが、ゴルジュ内の小滝に困難はない。
とはいえ春の雪崩や出水により渓相は激しく変わり、滝場通過の困難度は年々変わることだろう。

地形図では赤柴沢(前沢)出合に「岩幽」の表記があるが、それと思しき岩小屋などを見ることはできなかった。
赤柴沢(前沢)は穏やかに出合う。
いざという時のエスケ-プル-トとして、この先前進を拒まれたなら、ここに戻ってくることとなろう。

ここから本流は洗淀沢(荒淀沢)と名を変える。
加えて、今まで以上に両岸は立ってくる。
反面水量は減るため、平水なら胸まで浸かることはあっても泳ぐことはない。

釜を持った4m+1mの滝は右岸を巻く。
岩と草付きのミックスで、足場が外傾している。
空身で登り、荷揚げ。
その後は灌木を繋いで小さく巻き、最後は懸垂下降で沢に復帰した。

しばらく峡谷の河原が続くが、やがて蛇行し始め流れはさらに岩の中に食い込んでいく。
なかなか見ごたえのある景観だ。
そして前方には会津朝日岳の南壁。
しかも稜線の岩峰群は佇立し稜線に出てからも難儀させられそうに見える。

断続的に現われる小滝を丁寧にこなして行くと、右岸に大崩壊跡。
通過が躊躇われるが、素早く通過するため直前で休憩。

観察すると左岸に滝が見える。
どうやらここが「両門の滝」だった場所。
円形上のスラブ壁に左岸20m、右岸10mチョックストンであったらしいが、左岸10m滝は崩壊により埋もれているのだろう。
この滝が核心の一つだったので、残念ではあったが少しホッとした。

大崩壊地のゴ-ロ帯を落石に気を配りながら行く。
急登に息が切れる。

登り切ると二俣。
左が本流のようだが、8m滝の落ち口がナメとなっていて手が出そうもない。
草付きを小さく巻くにも結構な傾斜で、草もか細い。
ここは右の容易な滝を登って中間尾根に立つ杉木まで高巻いていくことにした。

ちなみにこの右の流れは、さらに辿っていくと次第に傾斜を増して壁に吸収される。
はたして、会津朝日岳南壁は登られているのだろうか?

高巻きは30分ほど。
最後は懸垂下降で沢床に復帰。6m滝上に出た。

流れは小さくなるものの、沢の切れ込みはさらに激しくなり、小滝が続く。
気持ちよく直登で超えていくが、ヌメりもあるので慎重に行く。

前方に明らかなハング滝。
20mくらいあるだろうか。あそこが三俣だ。
一見し容易ならざる雰囲気が見て取れる。

左俣にチョックストンの15m、右俣にスラブ状の多段30m。
全体俯瞰すると、正面の20mハング滝よりも右俣スラブ滝を登って草付きバンドを辿り、正面滝上を目指した方が容易に思えた。

とはいえ、先人の記録では正面ハングの弱点を縫い、突破している。
右俣滝からの草付きスラブはオプションとして、正面ハング滝の観察に入る。

滝直下まで来る。
意外と登攀部分は高くなく10mくらい。
ホ-ルドも豊富に見えたので、ファ-ストトライ。

しかし岩がグズグズで全く信用できない。
水流右のルンゼ状を行き、水流裏めがけて左上するのだが、ホ-ルドが甘くて、左上への一歩が出ない。
一旦クライムダウン(というか、泥壁をずるずる下って)して空身で再トライ。

手と足の置き場には最大限注意を払うが、それでも信用ならないほどのボロさ。
むしろ、岩をぼろぼろ落としたら、ガバでも出来やしないかと思い試してみたが、余計に甘々ホ-ルドになってしまった。

どれくらい格闘しただろうか?
なんとか右足に体重を乗せ、滝裏へ。
そこからは少し安定した足場があるので、荷揚げ。

滝上への草付きも草の根をホ-ルドに体重分散しつつ登る。
草付きが苦手な人は大層難儀することだろう。

滝上からは単調な流れとなり、枝沢の流れが2~3流入する。
本流と思しき流れを遡るが、一か所5mほどのナメ滝を力づくで登ると滝は終了。
急角度の窪を息を切らしながら行くと尾根に出る。

しかし、ここからの尾根にも気が抜けない。
シャクナゲとツゲと松・杉の混成植生で、まるで意思を持ったかのように前進を阻止してくる。

ヤブコギは全身運動。やたらに腹が減る。
明日下山の目途が立ったので、予備食で凌ぎつつ八本歯の峰を超えていく。
しかし、ものすごい角度、そしてヤブコギだ。
落ちたら、北壁か南壁を転がり落ちて命はないだろう。
腕力がモノを言う登りだった。

やがて楢戸沢源頭の北壁スラブが見えてくると会津朝日岳の山頂はあとわずか。
山頂に出た時には、疲れ切った腕を力なく片方だけ挙げて記念撮影とした。


9/3

朝日岳避難小屋で快適な一夜を過ごし、あとは下るだけ。

下山後の車回収や着替えのタイミングなど考えながら、ボトボトと下ってゆく。
途中、会津朝日岳を目指す方々とすれ違いながら久しぶりの会話。

三吉ミチギの水場で大休止。
東シナ海を通過した台風の影響もあって、今日は日差しが一層強い。

水場からの樹幹越しに見る南会津の空は青く、そして深い。
いわなの里でタクシ-を呼ぼうか悩んだ末に、萬歳橋まで歩くことにした。

なぜ?と問われても困ってしまうが、半世紀を生きた男の酔狂とでも言っておく。

 


エピロ-グ

「虹が見えますよ」

只見線の車中、見知らぬ女性が声を掛けてくれた。
汚いザックを抱えた無頼者に声をかけるのは勇気が要っただろう。

でも、彼女は教えてくれたのだ。
このすばらしい、景観を。
このすばらしい、瞬間を。
そして人が喜びを分かち合う、素晴らしい世界を。

車窓後方にきれいな虹が見えた。


sak

 

8/31
奥只見ダム(4:49)-上大鳥橋(5:37)-白滝沢入渓(6:03)-1395峰(9:08)-村杉岳(12:57)-滝のクサ沢沢床(13:06)-幕場(17:32)

9/1
幕場(6:46)-メルガ股沢出合(7:51)-洗戸川出合(8:47)-<釣行>-芦安沢出合・幕場(12:43)

9/2
幕場(6:26)-赤柴沢出合(8:12)-両門の滝跡(11:03)-三俣(13:00)-稜線<八本歯>(15:05)-会津朝日岳(16:54)-朝日岳避難小屋(17:37)

9/3
避難小屋(6:28)-三吉ミチギ(8:15)-いわなの里(9:24)-白沢集落(10:22)-萬歳橋(11:24)

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これから

2020年08月06日 11時02分26秒 | 会員日記

これから


変化は進化を生む。
決して望んだ変化でなくとも、だ。
それが生きるものの宿命だろう。

繰り返す水音。
頬打つ風。
木漏れ日。

このありふれた素晴らしき山景が変わらないことが救いだ。
見えない闇に蝕まれぬよう、これからも行く。


sak

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山を想いて

2020年04月30日 16時34分14秒 | 会員日記

家で過ごす日々。
皆様、いかがお過ごしでしょうか?

山を想いて、おうちでできるインドア登山の様々。
映画、読書、漫画・・・。
もちろん、ネット動画の視聴も良いですね。

オススメは・・・、と紹介しようかとも思いましたが、あくまで個人的嗜好が色濃くなってしまいます。ましてや色々なサイトで紹介されてもいますから、検索すれば数多ある作品から好みのものを探索するのも楽しいはずです。

登りついた先で非日常的な景観を楽しむのが登山の楽しみの一つです。

もちろん、決められた嗜好や物語などの形はありませんので、視点や角度を変えれば、自由度が高く読書や映画にはない楽しみといえます。

その方法としてGoogleのストリ-トビュ-が面白いです。
穂高、槍、尾瀬や白峰三山などメジャ-な山はトレ-スされています。

登山をしていて、球体の着いた全方向カメラを背負ったスタッフとすれ違った経験がおありなら、「あの時の自分」が見られるかもしれません。
これもチョットしたお楽しみ。

そこで「バ-チャル」登山をしながら、出逢った風景をピックアップしてみました。

撮影者の意図に関わらず、角度やズ-ムを駆使し「思わぬ絶景」に出逢えることも。
部屋の窓を全開にあければ、心地良い風と共に山の雰囲気を少しですが感じられます。

さあ、おうちにいながら、山景と出会いの旅に出かけましょう。

※各画像とも角度を変えたり、移動したりできますので、自分好みの景色を探してみましょう♪

 

尾瀬沼

 

富士山頂からのお釜

 

北岳への縦走路

 

奥穂からのジャン。

 

鹿島槍への稜線

 

槍ヶ岳

 

美しい景色の数々、そしてその先に望むもの。
登山はそれらとの出逢いから目標を成し遂げるまでのプロセスすべてが楽しいですよね。

一方、事象的障害のことを「ヤマ」という言い方をします。
刑事ドラマで「事件」のことを「ヤマ」という、アレです。
今、この難局も人類にとって大きな「ヤマ」。

この「ヤマ」にどう立ち向かうか。
そしてひとりでも多くの人々が生還するために何ができるか。

今は、山にまつわるあれこれを糧として、来たる歓喜に備えたいものです。

sak

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奥多摩・日の出山~三頭山

2020年03月20日 23時24分53秒 | 山行速報(ハイキング)

2020/3/3 日の出山~三頭山


年度末。
年間休日を消化すべく、三連休を取得することになった。
北岳を計画してみたが、二日目以降の天候が思わしくない。
これでは眺めも何もなく「北岳に来ただけ」となりかねない。

山は好天が吉。
頭に浮かんだのは、奥多摩の山景を繋ぐプラン。
日帰りとしては「長め」のトレイルだけど、好天の「眺め」に期待を込めて。


午前四時、青梅市柚木町の無料駐車場を出発。
ほど近いセブンイレブンの明かりが眩しい。
近くには記念館やドラックストアなどもある、ありふれた市街地。

こういう場所は意外と登山道の入り口が判りにくい。
初見でヘッデン頼りだったなら右往左往しただろう。
闇夜に住宅地を徘徊し、そのうえ近所の飼い犬などに吼えられたなら、不審者扱いも免れまい。

通報。職質の上、連行。そして山行中止。

そんなスト-リ-が思い浮かぶ。
だが、ここでお巡りさんの世話になるわけにはいかない。
その事態だけは忌避すべく、事前偵察の甲斐もあり無事山道に入る。

しばらく行くと三室山。
開けた山頂から闇に沈んだ街に灯景が瞬く。
遠くで始発列車が線路を鳴らす。

そして、日の出山。
地平線が焼け、空は水面のよう。
遠く筑波山。爪楊枝ほどに見える東京スカイツリ-。
その傍らからの朝暉。
闇が次第に光で癒されていく。

日の出山から見る、日の出。
これがこの山旅の始まりだ。

しかし、ここで大きなミスを犯していたことを知るのは翌日のこと。
緊急時に光って知らせる黄色いアンテナを持つ”彼”がここにいたならば、あのような事態にはならなかったのだが。
すべては、あとの祭りだ。

そんなことは露ほども思わず先を急ぐ。
向かう御岳山にはいくつもの宿房が見える。
参道では様々な信仰の石碑が連なり、さながら「講」の総本山。

早朝故、誰ひとりいない境内でおいぬ様(狼)にご挨拶。
本坪鈴に隠れハ-トを見つけたり、序盤は「ゆるり山旅」の様相。

ここからは奥多摩らしい山々を繋いでいく。
奥ノ院、鍋割山を経て、大岳山。
道中、陽光に輝く東京湾を見る。
同じ東京とはいえ、奥多摩から東京湾が望めるとは思わなかった。

大岳山からは富士山が大きい。
この眺めは人々を魅了する。
木々の枝葉の膨らみに春を予感する。

鋸山を越え御前山への道中。
「山火事注意」の看板が落ち葉に埋もれていた。
見やすく設置し直そうと拾い上げるが、何となく違和感。

それは、「山火事注意」の看板にもかかわらず、彼が「懸垂下降」している事。
よく見ると、「下山時は滑落事故に注意しましょう」ともある。
なるほど。
しかしながら、懸垂下降とは少し脅かし過ぎなのではないか?

ちなみに、彼は東京消防庁のキャラクタ-「キュ-タくん」。
緊急時には黄色のアンテナが光り危険を察知する能力を持っているらしい。
もう少し前に出会えたならと、山行記録をしたためている今思う。

御前山は意外と遠い。
目前の峰を越えると、その先にまたも峰。
眺望も少ないので淡々と行く。
むしろトレ-ニングには丁度いい。

惣岳山から小河内峠へ向かう途中はヤセ尾根の様相。
反面、小河内峠をすぎると穏やかな尾根が続く。
車やバイクの走行音が聞こえてくると奥多摩周遊道路は近い。

月夜見山は微かに期待していた場所のひとつだった。
月見するに良い穏やかかつ眺望の利く頂を想像していたが、むしろ正反対。
杉が林立し、眺望はない。
その名の由来は知る由もないが、植樹事業によって姿を変えてしまったのかもしれない。
しかし少し目線を変えてみれば、俊立する杉の樹幹から溢れる陽光は美しかった。

山道が車道を縫うように進み、風張峠。
車道と離れ、行き交うエンジン音から解放されると、鞘口峠。
ここから三頭山への登りは、山行のクライマックスでもある。

三頭山は東峰、中央峰、西峰の3つの頂から成る山梨県との国境。
東峰には展望デッキがあり、今日歩いてきた山並みを一望できる。
そしてその先に霞む街並み。

下山はエメラルドグリ-ン色の奥多摩湖面を目指して三頭橋へ。
バス停で1時間半ほど気長に待ち、乗客のない奥多摩駅行きに乗る。
結局、最後まで貸し切り運行となった。

奥多摩駅からは電車で二俣尾駅まで。
公共交通機関を使う山登りはいつ以来だっただろうか。
電車に揺られ、ウトウトしながら線路の継目を通過するジョイント音が心地いい。
今朝、遠くに聞いたあの音だ。
もうすでに車窓は暗闇に包まれていた。

後日談。

どうやら日の出山山頂で「捜索ヘリサ-ビスココヘリ」受信機の入ったポ-チを置き去りにしてしまったらしい。
翌日、運営会社からのメ-ルで事態が発覚した。

事の次第は、こうだ。

私の後に登頂した方が拾得し警察に届出。

ココヘリ捜索専用の電話番号をポ-チに記しておいたことで、警察から運営会社へと連絡が入る。

受信機に記されたIDから私にメ-ルで告知。

ともかく、警察へ届けていただいた方には感謝感謝だ。
もしポ-チに遭難時の連絡先を記していなかったら、何処で失くしたのかさえ分からず迷宮入りするところだった。
山行始めに、お巡りさんの世話になるわけにはいかないと誓ったものの、ここは素直にお世話になるほかあるまい。

数日後、所轄警察署の窓口に伺った時のこと。

遺失届を記入し無事手続きを終えたあと、お巡りさんから辛口コメント。
「これ(ココヘリ)を落としてしまっては、遭難もできないですねぇ」

もちろん、私は真顔でこう答えた。
「そうなんです」

 

sak

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南アルプス・農鳥岳

2020年02月14日 11時46分37秒 | 山行速報(冬季)

2020/2/3-5 南アルプス・農鳥岳


なんて穏やかな気分なんだろう。
山を下りて、温泉入って、美味しいものを食べて。
そして、さらに明日も休日なんて。
いろいろあるかもしれないけど、日常は概ね平穏だ。

初日は2100mで幕。
樹林帯の中なので、至って静か。

想定の2350mまでは至らなかったのは、ラッセルに苦難を強いられたからだ。
大門沢小屋まではまだいい。
そこから先はひざ上~腰深まで。
もちろんトレ-スはない。
タイムリミットは16:00。
小屋から300m高度を上げるのに4時間かかったことになる。

稜線まで約700mの高度差。
あとどれだけ掛かることか。

それでも農鳥岳から北岳までの計画に望みを繋いで、二日目。
全装を背負ってまずは2800mの稜線を目指す。

当然のごとくここから先もラッセル。
表層が薄くて堅いモナカ雪。
外はサクッと、中はエアリアル。
スナック菓子ならさぞかし絶妙な食感だろう。
時に胸ラッセルにつかまり、途中何度諦めかけたことか。

稜線に近づくにしたがって、斜面はアイスバ-ン。
脹脛には相当な負担であったが、前歯に乗って登行。
ラッセルよりはいいが、スリップしたら即アウトだ。

稜線には雪煙がつむじ風となって舞う。
輪舞に興ずる雪精がそこにいる。
もう少しで届く。
それだけを励みに苦しい登行。

稜線。
広河内岳が近い。
締雪を選んで登ってきたため夏道を大きく南に外していたようだった。
そしてノンビリと休憩もままならない強風。
途中、大門沢下降点の鐘塔を見ながら、ボチボチと歩いて農鳥岳を目指すが意外と遠い。

農鳥岳からは、北岳と間ノ岳が望める。
今日は北岳小屋までの計画だったが、今からでは農鳥小屋までたどり着くのが精いっぱいだろう。

高気圧に覆われた状況で、この風。
明日の昼には前線の通過とともに今季最強クラスの寒気が入り込むと昨夜ラジオで報じていた。
間違いなく、寒気とともに風が強まる。

暴風、寒気、3000m。

この組み合わせに一考。
時間と装備は何とかなりそうだと思ったが、風と寒気は計画ばかりか、人をも狂わす。

過去の経験と見聞が脳裏に蘇る。

もう、いいのではないか。
全装背負ってここまで来た自分を敬ってもいい。
そう思った。

もしかしたら、私は日常の平穏な魅力に負けたのかもしれない。
今もって、その先の選択をしたのならどうなっただろうかと考える。
一番恐れたのは守るべきものの未来。

往路を戻って、大門沢下降点の鐘を鳴らす。
鎮魂の鐘は彼らに届いただろうか。

大門沢への下降はこれが登山道かと思うほどに急だ。
道しるべの標柱が一本見いだせただけであとは雪の下らしく判然としない。
尾根や疎林を繋ぎ、胸まで埋まることもしばしば。
幸い雪崩の予兆もないので沢筋を行くがそれでも腰まで埋まる。
下りだからいいものの、これを登るのは相当な覚悟だ。
これまた夏道度外視で強引に下る。

登りにつけたトレ-スに合流し、何とか目途が立つ。
あとは踏み後を忠実に戻るが、途中闇につかまりヘッデンを灯した。

大門沢小屋には先客が一名。
遅い到着とアテにならないトレ-スを刻んでしまったことを詫びる。
明日、2時4時で農鳥岳を目指すとのこと。
山に向かう姿勢に襟を正される気分であった。

夜は手早く食事のみ済ませ、20時過ぎには就寝。

「今、稜線にいたならどんな気分だったろう」

その先を選択した自分に、何処か憧れる自分。
疲労は他所に、なかなか寝付くことができなかった。

小屋の中が赤く染まる。
富士の脇から朝日が昇る。

ゴウゴウという風が小屋を揺らす。
時に舞う雪は、稜線から飛ばされてきたものか。
ここから望めぬ稜線方向は灰色の雲。

なんて穏やかな気分なんだろう。
これから山を下りたら、温泉入って、美味しいものを食べて。
そして、さらに明日も休日なんて。

そう強がってみる。

そして、これでよかったんだと自分に言い聞かせる。
今日の自分と未来の自分に言い聞かせる。

sak

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