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acc-j茨城 山岳会日記

acc-j茨城
山でのあれこれ、便りにのせて


ただいま、acc-jでは新しい山の仲間を募集中です。

HP&ブログ引越しのお知らせ

2025年06月13日 02時39分20秒 | 管理人日記

ACC-J茨城のHP&ブログは引越しいたします

引越し先のURLは以下の通りとなります
こちらブログは閉鎖まで閲覧は可能ですが、更新は終了となります
新たなブログへのブックマーク変更等お願いいたします

【新ACC-J茨城ウェブサイト】 https://accjibaraki.static.jp

【新・山岳会備忘録 (ブログ)】 https://accjibaraki.hatenablog.com/

また今後もACC-J茨城をご愛顧いただけますようお願い申し上げます


実川・赤安沢~トヤマ沢~赤安田代

2025年06月06日 23時25分32秒 | 山行速報(沢)

2025/5/27 実川・赤安沢~トヤマ沢~赤安田代、赤安小沢下降


七入から実川右岸の林道を歩く

入口で鍵かかけられていて車は入ることはできない
2年前に崩壊していた場所は車が通れるほどに修復されていた
おそらく、この先にあるアンテナ(無線中継所)のために工事したのだろう

それにしても、実川の水量が多い
笹濁りに白波が目立つ
同行のyukさんは少し不安顔

雪の多かった今シーズン
御池から沼山峠まで、バス開通も例年よりひと月ほど遅れたらしい
実川を渡れなかった場合のサブプランなどを考えながら歩を進める

1時間半ほど歩いて、実川に下る
やはり水量は多い
しかし、どうにもならないほどじゃない
川岸を歩いて、時に巻き下る
必要最低限の渡渉をして、赤安沢出合

こちらも水量多めではあるものの、本流ほどではない
最初の滝場を右岸の岩から取付いてやり過ごす

ゴーロ帯を行くと右岸から赤安小沢に出合う
そこからわずかで8mX滝

なかなかの迫力で、水量が多いためかXというよりはY滝になっている
ここから始まる滝場は左岸から巻く

次の滝場は右岸から巻く
過去の記録から懸垂下降も想定していたけど、斜面を拾ってロープを出さずに下ることができた

この先の滝場も概ね軽く巻くことができる
複合的な沢登を求めたならば、少し物足りなく感じるだろう

右岸に小さな流れを見ると崩壊地帯に入る
ふんわり硫黄臭も漂う

右岸からトヤマ沢が出合い進路とする
トヤマ沢は特に難所なく、淡々と高度を上げる
しかし、やはり雪は多い

小さなブリッジを行くにしろ、流れを行くにしろ足が非常に冷える
痺れて感覚がなくなるほどで、出来るだけ地面や岩を繋いでいく

倒木帯を過ぎると源流の雰囲気
目的地は近い


森に佇む湿原
一筋の流れ

鹿の群れが湿原を駆ける
遠くでこちらの様子を窺っている
しばらくすると甲高い鳴き声が響き、群れはまた駆ける

自然の営みは、何故こんなにも沁み入るのか


下降は赤安小沢
上流部は雪に埋もれているため、しばらく左岸尾根を下ってから沢床に復帰する

 

淡々と下ると赤安沢の出合う直前に一つだけ滝場がある
水量も多いのでクライムダウンは回避

右岸立ち木からの懸垂下降もできるが、流れが左に湾曲していることから左岸コルへ巻き上がってみることにする

そこからは懸垂下降30m(30mロープで2回懸垂下降)で沢床に復帰
するとわずかで赤安沢に合流

実川本流までも一投足
林道までは軽い藪漕ぎで上がることができる

心に残る一場面
山谷を巡り、湿原を訪ねる

七入への道中、余韻を楽しむ


sak


動画も

 


那珂川水系、箒川・赤川本谷

2025年06月02日 21時22分03秒 | 山行速報(沢)


【なぜ、沢を遡るのか】

いくつかの登山スタイルがある中で、沢の地形や水と自然の美しさを楽しむためです。
また、昔は登山道が整備されていなかったため、沢を遡って山頂を目指すことで、ヤブ漕ぎを避け楽に山頂に到達できたという歴史もあります。

と、とあるAIは答える

なるほど、沢の地形や水と自然の美しさを楽しむ、か
確かに「わぁー綺麗!!!」とか、「この造形いいね!」とか、「コントラストが素晴らしい」とか言っちゃうよね
そして、「来てよかった!」って思うよね

そう、そうなんだけどさ
なんかこう、何かちょっと足りないような気もするんだよね
「何が」といわれると、うまくは言えないんだけどさ

例えば、沢での一場面
話せば長ーくなるけど、いい?


2025/5/18 那珂川水系、箒川・赤川本谷


塩原の温泉街を抜けて日塩もみじラインに入る
ほのかに漂う硫黄臭を感じながら車を走らせる
日光と塩原の境界近く、路側帯に数台駐車可能な場所があるのでそこを起点とする

ここからいったん車道を塩原方面へ戻って、ハンターマウンテン入口向かいの林道に入る
しばらくは舗装路でウィンターシーズンにスキー場の駐車場となっているみたい

さらに先へ進むと、林道らしくなってくる
途中からこの林道を離れて鎌研沢と赤川の出合に落ちる尾根へ進む
藪は少ないので苦労はない

歩きやすそうな場所を選んでいくと、赤川との出合からわずかに上流の鎌研沢へ出た
ここで装備を付けて、いよいよ2025年の沢登シーズンが始まる


【なぜ、沢登を推すのか】

等高線の狭間
山谷をどうやって繋いで巡るか
目の前にある滝や淵をどうやって越えるか

自分で考え、決断して遡る
それがいい

「体は濡らさないようにしましょう」
「沢には下らないようにしましょう」

一般登山で忌避すべきことを制限しないという爽快感
これもまた沢登の醍醐味だ


赤川に出合うと、流れはいくらか白濁している
上流に行けば行くほど沢床は赤茶に染まり、流れは青白濁となる

これらは上流で流出する温泉成分によるもの
赤茶は酸化鉄成分の沈殿
青白さは泉質と可視光線の融合によるもののようだ

ここにしかない自然のハーモニー
そしてこう口をつくのだ
コントラストが素晴らしい、と


しばらく河原が続く
そこら中に幕場適地があり、支流があれば飲料水も確保できる
新緑が美しい季節、野鳥の囀りに耳を傾けながら一泊するのも楽しいだろう

道中、沢登の留意点や山のあれこれを話しながら歩いていくと赤茶けた堰堤が門番のように現れる
ここは右岸の泥壁ルンゼをロープ&チェーンスパイクで行く

今日のメンバーはisiさん、skmさん、nksさん、そしてsakの4人
沢では初顔合わせのメンバーもいるので慎重さを以て巻きに入る

この先、時に腰上まで流れに浸かる
さすがに冷たくって、思わず「はぅぅー!!」と体が縮みあがって声が出る


【なぜ、股間が冷えると「はぅぅー!!」ってなるのか】

とあるAIによると答えはこうだ

股間が冷えると「はぅぅ」と思うのは、主に以下の理由が考えられます。

<生理的な反応>

股間は、体の中でも特に冷えやすい部位の一つです。
冷えると、身体がそれを感知し、防御反応として筋肉が緊張したり、血管が収縮したりします。
これが「はぅぅ」という感覚に繋がる可能性があります。


とはいえ、みんな楽しそう
その姿は、まるで子供のよう

しがらみも、不安も、悩みも忘れる一瞬がある
それが「股間が冷えた瞬間」の真実なのかもしれない


そして現れる板状節理の5m滝
赤茶の滝に白泡立つ流れ、そして青味がかった乳白の釜

滝前に鎮座するステージのような岩がフォトジェニックな佇まいで、この造形いいね!と皆はしゃぐ
滝自体は階段状なので特に問題ないが、滑るので注意は必要だ

ここから程よく滝が続く
次の5mは釜を左から回り込んで水流左を行く
少し細かく滑りもあるのでロープを出す

大滝20mはその景観といい、直瀑といい、なかなかの迫力
ビレイ中、瀑風に吹かれてとても寒くて震えがきた

ここは巻き気味に左岸の泥壁を直上し、落ち口目指してトラバース
所々にフィックスはあるが、高さもあるのでロープとチェーンスパイクを装着
ビレイしているときは、落石にも注意が必要

どうやら装備表に「バイル」を記し漏れ、一部メンバーには少し怖い思いをさせてしまったかもしれない
リーダーとして、今後の反省点だ

沢を楽しむには、体力や登攀力だけが素養ではない

山谷を歩き知見を得て研究し、対策を講じて次に活かす
それを繰り返して、素養を積み重ねる

もちろん、基礎学習の機会創出は先達としてなんとか都合をつけている
是非この経験を足掛かりに「主体的な学びの実現」をしてほしい
そして、次なるリーダーを目指していただきたい


【自らの意志で選んだ場所】

山行を計画し実行する
もちろん山仲間を育成することで、自らの山を広げることも理由の一つ
だけどそれは一番じゃありません

自立した山行は山谷を越えるごとに、素養の厚みが増す
厚みが増せば、自ずと「本当にやりたい山」が見えてくる

写真映えがいいとか
標高が高いとか
誰かが選んだ名山とか
そういうのじゃない、自分の山

自らの意志で選んだ場所
その山谷を目指す喜びを知ってほしい

なぜ、共に山へと向かうのか
ただただ、その想いだけなのです


大滝を越えれば、しばらく平和な沢歩きが続く

淵が続く廊下は左岸からスダレのように流れが落ち、緑が煌めく
ヤシオツツジの彩りもアクセントとなって、実に美しい光景だ
思わず、わぁー綺麗!!!と声が出る

10m滝を左岸から巻くと、右岸に温泉の湧き出る岩がある
水温は冷たく、特に色も匂いも感じない

これで温泉と言ってしまうのもどうかとは思うが、「温泉法」という法律では摂氏二十五度以上の温度、もしくは指定の物質が規定以上に含まれていれば「温泉」と謳えるのだそうだ
指定の物質かどうかはわからない
しかし、これより下流ではこの鮮やかな発色があるのだから成分は相当濃いのだろう

次第に沢も開けて明るい雰囲気
12m滝を左岸から巻くと、右岸になだらかな小尾根が見える
日塩もみじラインの横断する橋まで行こうと思ったが、ここで遡行を終えてこの小尾根に乗ることにする

藪のない広葉樹の林を気分よく詰め上げると、車道が見える
丁度、日光と塩原の境界線をなす尾根だ
車道に出れば駐車した場所まで五分と掛からなかった


今日という日を振り返る
来てよかった!
そう思える山行だった

次は何処に行こうかな♪
と、想い馳せながら後片付けをしているとskmさんから「sakさんのパンツ、年季が入ってますねぇ」と声をかけられた
あぁ、これね。これはさ・・・


【なぜ、年季の入ったパンツを履き続けるのか】

沢登りには多くの局面がある
水に浸かり、泳ぎ、岩を登り、泥壁を這いずり、藪を漕ぐ
一見、泥臭き不快な行いを、楽しく実践する魅力的なアクティビティだ

この行為を、とても高価かつ新しいウェアで行うことになったらどうだろう
きっと、こう思うに違いない
「ちょっと嫌だな」

そこで登場するのが、現役を引退しそうな山パンツ
控えの控え、普通の感覚なら棄てることを検討するレベルの代物だ

だけど、ちょっと待てよ
沢ならまだイケるんじゃない?

穴が開いたら、補修する
汚れが落ちなければ、我慢する
他人からどう思われるかなんて気にしない
そうして沢専用パンツとして生まれ変わるのだ

そうこうしているうちにとても愛着がわいてきて、容易に捨てることはできなくなる
むしろ「こんなに使い込まれたパンツは、そこいらにチョットないよね」と誇らしく、カッコいいとさえ思えてくる

受け継がれるものへの愛
時代の流れに遡る反骨心
呪縛からの解放
へこたれることなき、ドM体質

それが「沢ヤ」の心意気
沢を遡るということなのだよ

※あくまで個人の感想です
効果・効能、体質には個人差があります
沢登は楽しく安全に遡りましょう


sak



動画も

 

 


奥利根・山谷徘徊

2025年05月06日 18時00分07秒 | 山行速報(雪山・アイス)

2025/4/26-28 奥利根・山谷徘徊

鳩待峠~スズケ峰~平ケ岳~水長沢山~利根川~十分沢~ブナ沢~幽の沢山~小沢岳~下津川山~ネコブ山~三国川ダム

山は嶺ばかりではない
嶺々の間に刻まれる谷
その双方を巡ることで、より真価に近づけるのではないか

山谷を巡る山旅
径を求めて

 

2025/4/26 鳩待峠~スズケ峰~平ケ岳~水長沢山

奥利根の縁に立って、そこへ身を投じることを躊躇ったあの日から半月

残雪の多い今期なら、まだあのラインを繋げるんじゃないか
そう考えて計画を洗い直した

無理してスケジュールを確保したのだが、3日が限界だった
本当はもう一日ほしい所だったが、生きていくための義理も立てねばなるまい
何とかこれで遣り繰りできないか

すでに戸倉から鳩待峠までバスが利用できる
加えて、今回はazmさんも参加表明してくれた
二人の車を使えば下山後、車回収の自由度が増す
こうして計画の目鼻が立ち、決行することとなった

前夜、戸倉で車中泊
6時過ぎには鳩待峠に入ることができた

良く締まった雪の上を山ノ鼻まで
天気は申し分ない

ここから平ケ岳を目指して、猫又川右岸を行く
踏み後はほどほどについていて、前日に平ケ岳へ向かった方もいるようだった
しかし次第に踏み後は散開していく

我々は陽に当たって緩み始めた雪を避け、針葉樹の続く尾根をチョイスする
木陰の雪は緩んでおらず歩きやすいが、主稜線まで急登なので息も切れる

岳ケ倉山の北に乗り上げれば、目の前に広がる奥利根の山々
今まで歩いた場所やこれから目指す場所を指呼しながらの歩きは楽しい

谷を挟んで見えるオミキスズ岩と赤倉岳
雪原広がるスズケ峰湿原
そして振り返れば至仏山
目指す国境稜線は霞んで見える

遥か遠くに見える平ケ岳を目指して登降を繰り返す
白沢山手前で初めて下山者とスライドする
短い挨拶だけだったが、その顔からは「充実感」が滲み出ていた

山行を計画し、準備、行動する
山を始めて、踏み後を目指すようになったころのあの胸の高鳴り
すべてを自分で決めて選択する
「いい山やってるね!」
自他問わず、そういう山に触れるのは実に楽しく嬉しい気持ちになる

平ケ岳までは虚無の心境で亀足行進
最後の登りをこなして、気象用観測塔に到達
ここでザックをデポして山頂標(三角点)のあるであろう場所まで往復する
雪面に頭だけ出した山頂標を見つける

たしかここへは中ノ岐川池ノ沢遡行を諸々あって断念し、
結局登山道を使ってたどり着いたんだったなと思い返す
そんなことを思い出しながら、またこの頂に立つ

さて、ここからが本題
奥利根の懐へと入り込む
初めて歩く径は、なぜこうも高揚するのだろう

その先の景を感じたい
巡り癒され、挑み、自分を省みる
そして線が継がれる

平ケ岳を剱ケ倉方面に下って少し登り返したあたりから水長沢尾根に向けて下降する
最初が急なので慎重に下ると、細いリッジが出てきて藪も出ている
よく観察してみると、尾根に踏み後がついていた

その昔、この尾根には道が開かれていたと聞く
その名残なのか、獣道なのか、はたまた沢ヤの所業か、篤志家か
そんな思考を巡らしていると物陰に潜んでいた大きなカモシカが急峻なこの場所をもろともせずに駆け下っていった
山に生きる彼らにはなんて事のない所作なのだろうが、思わず惚れ惚れする走駆だった

水長沢尾根は一部、藪を漕いだが概ね北斜面の雪を拾うことができた
沖の追落からはしっかりした雪堤も出てきて快適に歩く

進む先には水長沢山の平坦な台地が見える
本当は水長沢山の先、少し下った肩の台地を幕場候補としていた
しかしながら、この素晴らしいロケーションを目前に、ここに幕を張りたいと思ってしまった

少し風は強かったけど、シラビソを風よけに幕営
もちろん、夕日が見える方向に入口を向けた

水長沢山の夕景
陽が暮れれば、すべてが闇に沈む
街の灯りは一点もない
そういう爽快感がここにはあった


2025/4/27 水長沢山~利根川~十分沢~ブナ沢~小穂口沢~幽の沢山~高嵓

夜明け前の薄暮とともに行動開始
水長沢尾根から利根川、ヒトマタギへと下る

山頂の末端から北西方向の支尾根を下る
幕営予定していた平坦地を経由し、さらに雪を繋いで下っていく
懸垂下降も想定していたが、安定した雪面がつながっていてロープを出すことはなかった
下り着いた場所は雪が溜まって利根川は埋もれており、ヒトマタギまで回り込むことなく渡ることができた

しかし、対岸に渡ってからの急斜面トラバースは下が割れているので緊張する
落ちたら笹濁りの利根川に流されるという緊張感
川辺も雪壁が高くて、とても這い上がることはできないだろう
慎重に通過する

一投足で越後沢出合
流れは出ているが、雪の左岸を軽く巻くとその上流は雪に埋もれている
越後沢を十分ほど遡り、十分沢へと進路をとる

このあたりは奥利根横断でよく利用されることが多い場所
雪面には足跡も見て取れ、直近歩かれた方がいるようだった
何処から来て、何処へと向かったのだろうかと想像は広がる

径は無数にある
生きるために進む道、自分を信じて藻掻く道
選ぶのは自分、それが幸福というものだろう

姿なき同志に心の中でエールを送る

十分沢をしばらく詰めて、小穂口尾根の鞍部へ続く沢筋を登る
鞍部から小穂口山まで往復しようと考えていたけど、時間が押しているのでこのままブナ沢へと下ることとした

ブナ沢は名前の通りブナが多いのだろうと想像はしていた
想像通りではあったものの、この冬の雪崩でその多くがなぎ倒されていた
自然とは私達が考えているほど情緒的なものではないことを思い知る

小穂口沢へ出るとここも雪に埋もれており容易に対岸へと渡れた
このブナ沢出合右岸は丁度いい台地となっていて、身を休めるに素晴らしい場所だった
古の切付が記されている
泊まりたい欲をグッとこらえて先へと進む

雪で埋まった小穂口沢を少し遡り、右岸から入る雪の繋がった沢筋へと取付く
ここはなかなかの急登で息も切れる
交代しながらステップを刻む

幽の沢山の尾根に乗った時には、ほとほと疲れ切ってしまった
前日の疲労とこの急登、加えて強い日差しに疲れもピークだった

幽の沢山への最後の登りを前に大休止
少しウトウトしながら微睡みタイム
予定時間は超えてしまっているんだけど、今の二人に必要な時間だと考えた

そして幽の沢山
周りに山と谷しかない素晴らしい場所だ

しかし時間はだいぶオーバーしていた
計画していたルートを行くか、エスケープするか
幾つかの選択肢を反芻しながら高嵓へと向かう
斜陽に伸びる雪庇の影が、自分の想いを黒く塗りつぶしていく

高嵓の肩
安定した雪面を見出し、幕を張ることとした


2025/4/28 高嵓~小沢岳~下津川山~ネコブ山~桑ノ木山~三国川ダム

4時発で小沢岳に向け歩く

本来、昨日の行程で小沢岳南尾根を下り、奈良沢に至る計画だった
しかし、そこまで至ることができなかった時点で今日の行動は決まった

ここから小沢岳、下津川山、ネコブ山を経て三国川ダムに抜けるエスケープルートへと進む
2年前に歩いた径を逆方向に辿る

一度歩いたことのある場所は想定がつく分、容易だ
小沢岳から北の鞍部へと下って下津川山へは細い尾根の藪漕ぎ
ネコブ山へは雪が落ちているところも多い
藪や雪壁を登る場面もあったが概ね安定した雪質なので心配はなかった
ネコブ山からは前日と思しきトレースもあってそれを追う

心残りはある
最後の最後で自分を追い込めなかった
土壇場で心が揺れた
選んだのは自分

なんのことはない
自分にはまだその資格がなかっただけのことだ

導水管脇の階段を下って三国川ダム右岸道、桜散る道を歩く

挑み、もがいて、苦悩の末に牽いた一筋のライン
計画通りとはならなかったとしても
納得のいくものではなかったとしても
すべて自分の描いたもの
だからこそ、それは美しい

今は清々しい気持ちで一杯だった

一緒に歩いた仲間がいる
時は巡り、道は変わったとしてもこの径は継がれる
そして、私にはまだ残された場所がある

残された場所を歩く
そのための努力なんて楽しいに決まっている

一本、また一本
等高線の狭間にラインを牽いていく
そうして無二の画となる


sak


動画も↓

 

 


下田山塊・粟ケ岳

2025年04月12日 18時52分49秒 | 山行速報(雪山・アイス)

2025/4/10 下田山塊・粟ケ岳


粟ケ岳の山頂から望む景観は爽快だった

下田・川内の山波
越後平野と日本海、そして佐渡
南に大きく守門岳が横たわり、その先に上越・奥利根の山々が見える

前日、私は上越国境・奥利根の縁にいた

想いは過る
他に選択肢はあったのではないかと


北五百川から祓川の傍らを遡る
途中、支流を渡るのがアクセントとなり飽きることなく歩ける
粟薬師小屋への登り途中から雪が出てくる
キックステップを刻んで小気味よく高度を上げる

粟薬師小屋は屋根が落ち、屋内は雪だらけで到底使えそうもない
小屋前でひと休みしたら目の前の尾根に向けて急登をこなす
程なく視界は広がる

雪に塗られた粟ケ岳の山頂
そこに至るまでの雪稜が美しい曲線を描いている

来てよかった
つくづくそう思った


雪を利用して奥利根を徘徊する
2年前に辿った場所と交差するラインを計画していた

そして決行した山行は出鼻で挫かれた
序盤は雨に打たれて、上越国境では風雪に叩かれた

アウターは凍り付き、地図を取り出すにもジッパーの開閉が困難だった
それでも稜線を跨げばやり過ごせるという思いはあった

しかし、空と地面の境目もわからない世界で柄沢山からの下降点を見出せなかった
これから向かう柄沢山北東尾根直下には多数のクラックが走っていると直近の記録にあった
私は奥利根の縁に立って、そこへ身を投じることを躊躇った

想い入れのある山ほど、撤退は難しい
判断が難しいのではない
想いを断ち切るのが辛いのだ


そうして今、粟ケ岳に立っている
いつか行きたいと思った場所に期せずして佇む

想いの丈をぶつけた山
そればかりが喜びとは限らなかった

生末を自分で決める
その先に喜びが待っている

あの時、稜線を跨いでいたら

妥当な判断だったと言い聞かせながらも後悔はあった
周りは騙せても、自分は騙せない

稜線を越えた並行世界の私は今頃どこにいるのだろう
山は逃げずとも歳月は過ぎ行く
後悔というよりは願望だったのかもしれない


粟ケ岳から望む景観はそんな愁いを忘れさせてくれるものだった
山波は青里岳、矢筈岳へと続く
そしてその先へ

また一つ、標を立てる
この先、あまり永くないとわかっていても、だ
ひとの思惑はここに及ばない、それが心地いい

思い通りにならないからこそ尊い

下山後、八木ケ鼻を望みながら湯に浸かる
高曇りの空にボンヤりと透ける太陽が少し眩しかった


sak

 

 

↓動画も

 

 


2025アイスクライミング備忘録

2025年03月25日 19時42分32秒 | 山行速報(雪山・アイス)

2025アイスクライミング備忘録

今冬はアイスクライミングの修行に勤しんだ
バーチカルのリードが安定してこなせるために課題はいろいろあるんだと思うけど、課題解決の仮説と実践
「我武者羅に」というよりは知見を得て、自ら考え実践する
こういった営みがとても楽しい

それと同時に「道具」への投資も実に楽しい
反面、これには限りもある
あとはなるようになれ!と、こちらは「我武者羅に」なるほかないのです(笑)


【2025アイスクライミング備忘録】

2024/12/10 日光・五色山北ルンゼ

アイスの装備を身に着けるのも久しぶりで、少し戸惑いながらもこれはこれで課題か
アプローチもしやすくて程よい傾斜
アイゼン・アックスを叩き込む感覚を楽しみながら行く


2025/1/10 八ヶ岳南沢大滝

バーチカルで全然足に乗れてない
立ってくると、つい腕に頼ってしまう
体の感覚ではなく、自分なりにレストや支点づくりのポジションを固めていかないといけないなと痛感する


2025/1/25 西上州・相沢大滝

以前来た時に大変苦労したけど、なんとかノーテンで登れた
ちょっとうれしい
トップローブすけどね *´꒳`ฅ

下部の緩傾斜で支点構築の練習
バーチカルでなければ何とかこなせると実感した


2025/2/6 足尾・夏小屋沢

F3を繰り返し登り込む
傾斜が立ってくるとスクリューを打つ時の体制が力任せになってしまい、距離があればこれでは続かないだろう
とにかく垂直の氷で練習したい


2025/2/12・27 西上州・犬殺しの滝(滝裏で自主練)

独りで自主練
犬殺しの滝裏は足場が安定していて垂直、氷も固めなので3~4手をフリーで登下降
足の置き場とレスト、支点作りのポジション確認
アックスの打ち込みもコントロールを意識して反復練習


2025/2/22 荒船山・昇天の氷柱(3ピッチ敗退)

ルートを登りたい欲が出てきてisiさんに提案して実現
だったけど、3ピッチ目が細ツララとベルグラで敗退
折角なので1ピッチ目にトップロープを張って練習
次シーズンにはなんとか完登してみたい


2025/3/4 西上州・相沢奥壁エイプリルフール

傾斜の強い所も何とかこなせるようになった
疑似リードもテンションかけずに出来た
それもトップロープであるという安心感が心理的に作用してのことだろう

加えてアックス・アイゼンを新調し、道具効果・プラシーボ効果もあったかと思う
登っているときのポジションも定まってきて少し自信がついた


2025/3/7 八ヶ岳ジョーゴ沢・乙女の滝

ジョーゴ沢の滝を巡る
乙女の滝、本谷大滝、ナイアガラの滝

メインは乙女の滝で、アックステンション使いながらリード
他滝はシーズン終盤で埋もれてあまり高さはなく、弱点をフリーで登る

それにしても乙女の滝は造形がとても美しかった
おそらく今まで見た氷瀑の中で断トツだ

氷瀑は毎年発達造形が違う
この機会に触れることができて良かった


2025/3/8 八ヶ岳・大同心大滝(中段まで)

大同心大滝上段は取付きやすいとされる左側の滴りがひどく登らず
中段から懸垂で降りた後、中央をもう一度トライしても良かったのではと下山してからひどく後悔した

左側より中央は難易度も上がるんだろうけど、気持ちで負けてしまったような気がした


2025/3/15 八ヶ岳・赤岩の氷柱

前回の心残りが日に日に少しずつ大きくなる

大同心大滝にこだわりはないけど、今シーズン中もう一本登っておきたい
isiさんがこの誘いに乗ってくれて、赤岩の氷柱へ

赤岩の氷柱は左右パラレルに落ちる美しい氷柱
ラインによってその難易度はかわるんだけど概ね右より左の難易度が高い

まずは右氷柱の中央を登る
トップロープを張って一番立っている右氷柱右側を直上、その後右氷柱左凹角からすこし被った所を行く
この傾斜でレストをしながら慌てることなく登れたと思う

結局、この後降雪がひどくなってきたので左氷柱は次の機会にする


道すがら、この冬のことを思い返す
新しいことに打ち込む、目標にトライするのは楽しい
すべてがうまくはいかないけど、それもこれも仲間あってのことだ

これから起きることだって、いいことばかりではないけれど
それを乗り越えていくのが楽しいんだよね

決して楽ではないけれど、「楽しい」
それが正義です


sak

↓動画も 


平標山ヤカイ沢

2025年01月14日 21時34分08秒 | 山行速報(山スキ-)

2025/1/5

ACC-J茨城に待望の山スキー人材がやってきた!

移動性高気圧に覆われて超絶スキー日和となったこの日は、お初のyukさんと平標山ヤカイ沢へ。

平標山は、谷川岳から仙ノ倉山を挟んで続く稜線上の山頂で、冬は山スキー愛好家達が沢山集うエリアである。

スキー向きの斜面も豊富で、様々なルートを取ることができる。

スノーシェッド脇の駐車スペースから林道を少し歩くと、綺麗な杉林が出迎えてくれる。

快晴のこの日はトレースもばっちりで、スキーにとってはもはや舗装路と化した道をグングン進んでいく。

しばらく進むと、本日の舞台ヤカイ沢が顔を見せた。

yukさんは平標山は何度か来ているとのことで、バッチリ見渡せる山塊をストックでなぞりながらコースを説明してくれた。

尾根への登りは少し急であるが、木はまばらで登りやすい。

空が青い。目に映る全てが美しい。なぜこんなにも自然が見せる風景に心が踊るのだろう。

すっかり感動に支配されながら、もう一切の苦を感じることもなく山頂へ登っていく。一年振りのシール歩行というのもあって、本当に楽しい。

平標山に到着。ピークに立つと風が出てきた。

滑走の準備を整えていざヤカイ沢へドロップ。

雪は滑り出しからパウダーで最高の一言。思わず叫びが漏れる。

帰り道もトレースハイウェイを辿りながらボブスレーのごとくスピード下山した。

今シーズンは雪も豊富で、春先まで色んな山を楽しむことができそうだ。

スキーを履いてどんな冒険ができるか。地図と天気予報を眺めるだけで時間はあっという間に過ぎていく。

 

azm


二子山・スーパーたこやん

2025年01月02日 19時47分08秒 | 山行速報(アルパイン)

2024/12/19 二子山・スーパーたこやん

2021年拓かれた二子山のマルチピッチ「スーパーたこやん」
今は亡き国際山岳ガイド篠原達郎さんが橋尾歌子さんとともに拓いたルート
関東近郊という気軽さもあって「いつかは」と考えていた

yukさんとは碧岩西稜に息合わせに行ったけど、クライミングというにはちょっと物足りない側面もあった
また、お互いに取付いたことのないこのルートなら、互いに楽しめるというものだ

関東平野部でも雪の予報に躊躇はしたものの、南向きの岩場なら何とかなるだろうと望みを繋いで二子山に向かう
途中、雪のちらつく場面もあったが山行をためらうほどの降りではなかった
それでもさすがに二子山の駐車場は数センチの積雪があり、まずは取付きまで様子を見に行く

幸い、岩場自体を覆うほどの積雪とはなっておらず何とかなりそう
1ピッチ登れば、陽光を想うがままに浴びられそうだった
足場の悪い斜面で装備を付けて、sakから取付く

1P:リード
手がかり足掛かりは多く、凹凸の多い岩はフリクションが申し分ない
むしろ凍えた指が、エッジの効いた手がかりに食い込み痛いので軍手をはめていく
フェイスの後、バンドから目前の岩を左右どちらからでも回り込める

おそらくは右のクラックを手掛かりにスラブを上がるのだろうと思ったのだが、手指の感覚が怪しくなっていたこともあって左から岩壁を一段上がり、右に立派な支点を見出す



2P:フォロー
正面の凹状をクラック伝いに登っていく
下部に支点はないので、キャメの2~4番があるといい
上部で岩を乗越すあたりがオモシロい
立ち木でビレイ

3P:リード
歩きピッチ
念のため、ビレイをしてもらいロープを延ばす
岩場手前の立ち木でビレイ

4P:フォロー
容易だが、岩は脆く浮きも多いので要注意
正面に立派な岩塔が見える
立ち木でビレイ

5P:リード
岩塔の肩に乗るところが核心といわれるピッチ
左右どちらからも登られているらしい

左は左頭上の岩が突き出ていて少し被っているように感じる
溝に指2~3本入るホールドで体を上げられそうだったが、次の一手に確信が持てず、右へと転進
右は少し傾斜は寝ていて細かいホールドを繋げば抜けられる
しかし、岩の剥がれた跡が真新しく不確定要素も強い

支点のボルトは幾分左よりに設置されているので、この登路は左を指し示しているのかもしれない
ルート開拓者の意志はどのようなものであったかと思慮する


開拓者の一人、篠原達郎さんとは2度お会いしたことがあった
はじめは、吉田海岸、魔王
二度目は越後・金山沢鉱山道

いずれも偶然お会いしたのだが、大変気さくな方だった
ルートの情報交換を同じ山屋目線で応じてくれ、親近感を抱いたものだ
それだけに事故の報せは大変ショックだった

この目の前にあるボルトも、篠原さんの手によって打たれたものかもしれない
だとするならば、その高さや位置には意味がある
それを感じ、読み取りながらボルトにヌンチャクをかける

結局、sakは右から、yukさんは左から抜けた
このあたりは体躯によっても感じ方は違うのだろう
手にかけた手がかりが意図するものかどうかは別としても、先人への敬意をもってとりつきたい

そして最後の岩塔は正面の手がかりを見出せず、左側壁を行く
岩塔上から少し下ったところの立ち木でビレイ
実質の登攀はここで終わり

6P:フォロー
簡単な岩場から歩き
山頂手前にボルトの終了点もあるが、その先の山頂まで歩いてボディビレイで終了



東岳からは全方向的な景観と、西岳のトンガリが特異
二子山東岳はだいぶ前に一度来ているのだが、山頂の景色に全くの覚えがない
後になって紐解いてみれば、「ガスで全く展望が得られなかった」とあった

おそらくまた来ることになるだろう
そんな予感を感じながら、装備を片付ける

今への道程
一つの出会いで未来は変わる
新たな選択は何処に向かうのか
そうして今は創られていく

下山は股峠へ
径に雪が残っていて「下山核心」となったのはこの後の出来事だ


sak



 


西上州・碧岩西稜

2024年12月07日 22時25分05秒 | 山行速報(アルパイン)

2024/12/3 西上州・碧岩西稜


あしひきの山のまにまに


晩秋から初冬にかけての山といえば、西上州
紅葉もさることながら、藪岩の小径を辿る楽しさがある

碧岩は西上州の奥深くに位置する尖塔
山裾に三段の滝を有し、ハイキングはもとよりクライミングも楽しめることから藪岩マニアから愛されている
初顔合わせのyukさんと息合わせに丁度いいかと、西稜へ行くことにした

碧岩西稜は12年前に一度辿ったことがある
この時も、登攀トレーニングとしての山行だった

朝集合で車を走らす
南牧村に入ると道に霜が降りていて路面が白い

勧能を過ぎて熊倉の登山口
さすがに平日、他の車はない
と思っていたら、歩き始める直前に一台駐車場に入ってきた

居合沢を縫うようにつけられた登山道を行く
丸太橋は今にも崩落しそうなものもあって、かなり怖い

三段の滝を眺めながら左岸を回り込んで滝上
ここから見える第一コルを見送って、ケルンと赤布あるルンゼを行く
ルンゼは所によってグズグズなので慎重に

岩壁に突き当たったところでロープを出して、コルへと向けて登り始める
フリクションも効くし、登山靴のままでも不安はない
コルに残置もあるけど、50mロープは半分も出ていないのでこれを見送り岩稜を右上
テラスとなった場所に残置があり、ここでピッチを切る

2ピッチ目はyukさんリード
一か所、高低差のある所を乗越すところが少し面白い

3ピッチ目をリードして岩リッジ手前で切る
この先は藪の斜面となるので一旦ロープを仕舞う

グイグイ登って、北西壁がよく見える場所を過ぎると再び岩場が現れる
ここが西稜の中でも一番すっきりとした岩場で、面白い所
ロープを出しながら「リードします?」と、yukさんに水を向けると「行きます!」とのこと

色々ルートはとれる所だけど、yukさんは右にトラバースしてから直上
いくつか残置もあるのだが、ぐらつく岩もあるので要注意

立ち木でピッチを切って、続く藪岩をひと登りで碧岩の頂
西上州の山々が一望できる

山頂からは南稜を下るのだが、急な岩場もあるので慎重に
不安があれば、懸垂下降したほうが良いだろう

径を大岩へと向かう
大岩からは、碧岩の尖塔が美しい
登っているときにはあまり感じられなかったトンガリがここで実感できる

神が御宿りし碧岩
そして、西上州の山波


あしひきの
山のまにまに
彷徨へば

巡り辿りて
ゆくへを思ふ


ありのままに歩く
自分と向き合う
そして、明日を想う

やはり、山は好い

sak

 


 


南会津・鬼が面山東面、角ノ沢

2024年11月10日 23時37分16秒 | 山行速報(沢)

2024/11/5 南会津 鬼が面山東面・只見沢~角ノ沢


「ちょっと、怖いこと言っていいですか?」
帰途の車中、私はパートナーにこう切り出した

残置のないルートに、日暮れギリギリの登攀終了
充実感に満たされながらも、下山は闇をついての行動となってしまった

パートナーのヘッデンの灯りはだいぶ先に見える
視界が効くうちに少し無理をして登山道に合流したその反動もあってか、足は重い
申し訳ないな、と思いながら疲れ果てないようにマイペースで歩く

径を照らすヘッデンの灯りは、その先で闇に消える
視界の端に白いものが舞う
雪か
どうりで寒いわけだ

あれは、その直後の事だった


※2023/11/1の鬼が面山東面

鬼が面山は南会津・浅草岳の南に位置し、東面に岩壁が峻立する
田子倉から浅草岳を目指す只見尾根でその全容を望むことができる
そこには突き出た尖塔や尾根があり、切れ込んだ谷からは幾筋にも沢が流れ下る

11月、錦秋の谷を詰めて岩を攀じる
それが今回の計画だ

昨年のハイクで大まかな地形は把握していた
とはいえ、どちらかというとマイナーな部類の岩場でもあって明瞭な痕跡や残置は期待できないだろう
もっとも、そういう山を欲しての山行だ


行先は、只見沢から乗越沢、角ルンゼ、角ノ沢のいずれかを遡ることとし、あとは現地での判断とした

前夜、只見駅まで
生憎の雨、それも本降りだ

5時に起床し、天気予報の確認
幸い雨は上がっている
田子倉登山口まで移動して身支度を整える
さすがにこの季節の朝は寒くて、明るくなるまで少し二度寝
7時出発

登山道を歩いて只見沢と幽ノ倉沢の出合に向けて藪下降
昨夜の雨で只見沢は水量が多い

最初のゴルジュ帯は少し手前から左岸を巻く
巻きの途中で支沢が横切り、そこから只見沢を見下ろすが、この先は傾斜も強くて悪そうなので、支沢の手前、立ち木を支点に懸垂下降で只見沢へ降りる

ゴルジュの只中の岩バンドへ降り立つ
今日の水量では、ゴルジュを抜けるのに泳ぎとなりそうだった

夏ならともかく、この季節に序盤でずぶ濡れになるのを嫌って懸垂下降したロープを頼りに登り返す
ところが手をかけた電子レンジ大の岩が剥がれて1mほど落ちる
ケガもなく淵に落ちることもなかったが、岩の直撃を受けたロープが損傷する
末端から1mほどの個所で山行に支障がなかったのは幸いだ

気を取り直して今度はロープを結んでトップロープ状態で登り返す
パートナーのazmさんは末端を結んでフォロー
改めて巻きを続け、横切る支沢を少し登ってから只見沢の上流に向けて藪を漕ぐ
開けた沢が望めるあたりから懸垂下降15mで只見沢に復帰

ゴーロを行くと幽ノ倉沢を分け、カワウソ返し
ここは右岸を巻く
すぐ手前のルンゼを上がるが小尾根に出るまでが少し悪い
もっと手前の支沢を上がったほうがよかったのかもしれない

ここを過ぎると穏やかな川原となり広川原
鬼が面山東面の岩場がワイドに展開する
曇天模様が残念ではあるが、それはそれで幻想的な光景だった

ここからしばらくは平和的な沢登となるが、時に腰上まで没する場面もある

三俣に着いて、この先のルートを協議する
スタートも遅めだったことや小雨のぱらつく天候懸念も踏まえて、角ノ沢へ入ることとした

三俣を中俣へ進んで程なく角ノ沢に出合う
角ノ沢序盤はゴーロの急登
気温も上がらぬまま、腰下を冷やしたことで大腿部が時に攣る
ゆっくり登って体を温めながら行く

2段7m程の滝場で少し苦労するが、ショルダーで抜ける
程なく行くと景観は広がり、鬼ノ角や針峰群に挟まれたスラブと草付に滝場が見える

最初にトイ状があるのだが、なんだか滑りそう
ここでロープを出そうとも思ったがそれを見送って左のゴーロを進むと、ここにもトイ状
さらに左には緩傾斜の沢筋が続く

見る限りこの上部は岩壁となっているので、いずれの流れを行っても最後は岩壁を登ることになるのだろう
ならば、緩傾斜(左)の流れを詰めて右小尾根に乗って岩壁を目指せば容易かと進路を定める

しかし、これが奮戦の始まりだった
まず小尾根の乗越、草付トラバースに非常に苦労した
夏でこそ使える草も晩秋となっては、ただの「藁」
とてもホールドに使えるものではない
面倒がってチェーンスパイクを装着しなかったことを後悔するとともにパートナーにはチェーンスパイクの装着を指示した

バイルと藁を騙し騙し使って小尾根に乗る
さすがにロープの必要性を感じ、パートナーにロープを投げる
小尾根からは草付きのクライムダウン
お尻を少しづつ滑らせながら行くが、念のためバイルを草付きに打って支点としてロワーダウンの要領で少しずつロープを繰り出してもらう

何とかスラブに到達すれば、あとはフリクションが効く
スラブをトラバースして少し登り返す
集塊岩の凸岩を足場にボディビレイでコールを送る

パートナーは草付きが苦手のようだったがなんとか小尾根に上がって、支点としていたバイルを回収
ダブルバイルで草付きを下るが、途中からは尻セードで滑り降りる
こちらはこちらで着地の衝撃がかからぬよう素早くロープを手繰る

ここは、明らかにルーファイミス
なんとかリカバリーできたものの、最初のトイ状を行くべきだった

そこからもう一つ右の尾根を乗越て沢筋を詰めると被った岩場の基部
基部のバンドを左にトラバースして草付尾根に乗って小さく巻くと垂直の岩場

垂直とはいえホールドスタンスが豊富なので慎重に行けば困難はない
10m程上がって右へトラバースする
岩場を回り込むとルンゼ状が鬼ノ角の右、ムジナのコルへと続いているのが見えた

このルンゼは悪いので、右の岩稜に乗って詰めていく
テラスに出ていったん区切る
ここから上部は傾斜も落ち着くので、ロープを出さずに行く

この時点で16時半
なんとか、闇に沈む前に稜線の登山道へと出たい
時に痙攣する大腿筋を酷使して脆い岩場、そして最後の藪を力任せにひと登り
なんとか登山道へ出ることができた

うっすらとパートナーの顔が見えた
安堵か、それとも楽しかったと心底思っているのか、緩んだ表情が見て取れた
それは、私とて同じだった

装備を整え、登山道を行く
あとは愚直に足を前に出すだけだ

残置のないルートに、日暮れギリギリの登攀終了
充実感に満たされながらも、下山は闇をついての行動となってしまった

パートナーのヘッデンの灯りはだいぶ先に見える
視界が効くうちに少し無理をして登山道に合流したその反動もあってか、足は重い
申し訳ないな、と思いながら疲れ果てないようにマイペースで歩く

径を照らすヘッデンの灯りは、その先で闇に消える
視界の端に白いものが舞う
雪か
どうりで寒いわけだ

そして、浅草岳
山頂直前、視線の先にパートナーのヘッデンが見える

1つ、いや2つ?

「こんな時間に、ほかにも誰かいるんだ」と少々驚いた
足元を見ながら山頂標に達し、顔を上げるとそこにいたのはパートナーただ一人

あれ?
あの灯りは自分のヘッドランプが何かに反射でもしたのかな?
その時はそう思った

言葉を失っていると、パートナーが言った

「只見尾根にヘッデンが2つ見えましたよ。結構近かったですね」

そう聞いて、私もその灯りを探した
確かに遠く灯りは見えるが、あれはおそらく田子倉の街路灯だろう

「稜線歩いているときから見えましたね。登っているのか下っているのかわかりませんが、なんか、こっちを見ているようでした」


不思議な出来事はそれを口にしてしまうことで「その世界」に迷い込んでしまう
そんな気がして私が見た灯りのことは、無事下山するまで黙っておくことにした


只見尾根はしっかりした踏み後で迷うことはない
昨年11月の水晶尾根での下山路とは大違い

雪は途中で雨となり、降りもひどくなってくる
メガネが曇って苦慮するも、パートナーの協力もあって何とか無事に歩を進める

浅草岳から見えた田子倉の街路灯が目の前に見える
駐車場に着いて、ほっと一息

「11月はヘッデンの季節ですね」
そんな軽口で互いの健闘を労いながらも、山頂での出来事が疑問として残っていた
もちろん、疲れていた私の幻視だったのかもしれない
それでも、いったいあれは何だったのだろうと考えてしまうのだ

山にまつわる逸話は多い
念の集う場所には歓喜もあれば、悲劇もある
不思議な話があったとしてもおかしくはない

互いに信じた仲間がいる
想いを分け合う人がいる

悪鬼、神鬼、怨鬼、才鬼
人と対峙する畏怖がその存在を作り出す
時空を超えて波長が共鳴することだってあるのかもしれない

そうして帰途の車中、私は山頂での出来事をパートナーに切り出すのだ


sak